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疾風怒濤。そんな一日

以前、この話の下書きの途中を予約投稿で放置していて、それが投稿される事がありました。

もし読んでしまった方がいれば忘れてください。


投稿遅くて申し訳ないです。




「おはようキサラギ!さっ!行くわよ!」


 特にやることも無くなり仮眠を取ろうとした瞬間、無駄に元気な声が聞こえてきた。


 声の方を向くといつもの白のワンピースではなく、白のブラウスに膝丈ほどのサロペットスカートに見を包んで、髪型も後頭部と頭頂部の境目辺りで結んだポニーテールにしているマスターが、ワクワクに満ちた顔で仁王立ちしていた。

 ちなみに俺も必要以上目立たないように地味なズボンに地味な上着に着替えた。


 それにしてもオシャレというやつか。マスターがオシャレをしたんだ、ここはかわいいだ何だと褒めるべきか否か。うーむ…。まぁ、別にいいか。


「おはようございます。そして落ち着きましょう、まずは朝ごはんを食べましょう」

「移動中に食べれば良いじゃん!」

「急がば回れという言葉を_」

「知らない!ヘルプさん!」

『はい。馬車と馬の生成、及び荷物の積み込みすでに完了しています。すぐにでも出発できます』

「良し!ヘルプさんは馬車で食べれるものを用意して。キサラギはさっさと馬車に乗って」

『用意できました』

「ありがとう。ちょっと!キサラギ早く!」

「ええぇ……」


 有無を言わせぬ感じのマスターに反論できず、渋々御者台に乗る。ちなみに、雨風しのげて乗り心地も良いらしい屋根つきの馬車だ。


「準備完了!ヘルプさん!事前に決めておいた位置に転移させて!」

『かしこまりました。それでは、行ってらっしゃいませ。よい旅を』

「うん!行ってきます!」


マスターが笑顔で返事をすると馬車は高濃度の魔力に包まれ、強い光を感じた瞬間、ダンジョン近くの森林に転移をした。


 随分と慌ただしい出発になったなぁ…


 にしても、久しぶりに外に出た。太陽を見るにまだ6時くらいだろう。それに少し肌寒い。今の季節は…春の終わり頃、だったっけ?これから暑くなっていくのか。マスター大丈夫かな?


「キサラギ何してるの?早く出発しようよ」


 マスターがバスケットを持って俺の隣に座る。

 いい匂いだ。この匂いは…極上サンドセットかな?


「はいはい。んじゃ行きましょうか」

「ええ!最初はクライム君が住んでるコルラナ村よね?」

「そーっすね。町に行くのに遠回りになるから俺的には行きたくないんですけどねぇ」

「良いじゃない。まだまだ時間はあるんだし」

「すぐに無くなると思うけどなぁ。てか、マジで一年も休むんですか?最初に提案したのはたしかに俺ですけど、やっぱり人の基準で考えると一年休むのはどうかと思いますよ?」

「ん〜でも、もう決めた事だし」

「さいですか」


 日の光が心地よく、鳥のさえずりに癒されて…そしてマスターの朝ごはんの匂いで腹が減る。

 ……まぁ、魔素を栄養に変換すれば腹の虫も収まるんだけどね。でもやっぱうまいもん食いてぇ。


「これ凄い美味しいよ!」

「そりゃ良かった」

「キサラギも食べる?」


 なっ…!ここに聖人がいる…!神や悪魔も見習うべきだな。


「一口だけいただきます」

「ん。あぁでも両手ふさがってるよね。はい、あーん」


 マスターが極上サンドを俺の口元まで運んだため、食欲を誘う香辛料の匂いが強く感じられるようになった。


 確かなんかの肉を甘辛く味付けして野菜と一緒にパンで挟んだやつだっけ?朝から割と重いもんくってんな…。


「あーむ」


 もぐもぐ…美味いなこれ…もぐもぐ…ごくん。


「確かに美味いですね」

「でしょ?もっといる?」

「いんや、一度感じたら何度も感覚を想起させられるんで大丈夫ですよ。マスターが食べてくださいな」

「そんなこともできるんだ。でも食べた気になってるだけってなんだか虚しいね。」

「…まぁ、大抵何でもできますよ、それこそ虚しさを感じないようにすることくらい簡単に」

「何でもって、よくいうよ。ま、良いならいいんだけどね。それより、道に迷ったりしないでよね」

「それについてはご安心を。感知魔力で村に至るまでの道でさえしっかり把握していますから」

「そっ」


 マスターはそれだけ言ってまた、もっぎゅもっぎゅと朝食を食べ始めた。




あれから二時間ほど経った、

穏やかな日差しの中。ごと、ごと、ごと、と馬車は揺れる。


普通ならゆったりした空間に身を預けたくなる穏やかな一時。普通なら。


ふと、さざ波のような葉擦れ(はずれ)の音が耳についた。

「ねぇーー。まだ着かないのぉー?」


まただ。風が吹くと木々がざわめき。つられるようにマスターが駄々をこねる。


ごと、ごと、ざーざー、村はまだ?


観光本を読むくらいしか暇つぶしがないマスターは、少し前から退屈に負けてわーわー騒いでいらっしゃる。


「マスター、少し我慢しましょうよ」

「またそれぇー?いつになったらつくのよぉー」

「いくら休まず走れるように馬を魔力でサポートしているとはいえ、そんなに早く付きませんよ。だからまぁ、ぼけぇーってしながら物語でも創造しといてください」

「えぇー。ならキサラギが何か話ししてよ」

「やー俺、日向ぼっこで忙しいんですけど」

「はぁ、ぶん殴られたいの?」


 いきなり暴力かよ…!

 にしても物語かぁ。いくつか記憶にある本の内容でも朗読してやるか。


「おー怖い怖い。そーですねぇ、それでは少年少女の恋の物語でもお話しましょうかね」

「えっ!キサラギが恋の物語なんか知ってるの?」

「知ってますよ、俺をなんだと思っているんですか」

「いや、べつに。ただキサラギらしくないと思っただけ」


 俺らしくないって…割と好きなんだけどなぁ…。


「ん”ん”ん。では話しましょう。とある村にアインという少年とアインの幼馴染のフランという少女がいました___」






…………






「そしてアインは愛するフランを助けて命を落としました。生き残ったフランも、アインの後を追うようにアインが愛用していた剣で自分を貫きました。めでたしめでたし」

「はあっ!?ぜんっぜん、めでたくないんだけど!?」

「なに怒ってるんですかマスター」

「いやいや、なんで二人共死んじゃうのさ!そこは二人とも助かって結婚して、幸せに暮らしたとかでいいじゃん!」

「ならマスターはそう思っておけばいいと思いますよ?物語は千差万別ですからね」

「いやいや、一回暗い結末知っちゃったらどう考えても、いい結末だったなんて思えないよ!」

「はぁ…そういうもんなんですか」

「そういうものなの。もっと楽しくて、いい感じの最後のお話ないの?」


 ようはハッピーエンドのお話という事だろう…。いい感じの"最期"のお話か……あるね、いっぱいあるね。


「よし、お口直しならぬお耳なおしに一つ愉快なハッピーエンドのお話をしましょう。とある街に愛国心の強いアインという若い兵士がいました___」




……………





「こうしてアインは、愛する母国のため身の危険に臆さず影ながら戦争を勝利へと導きました。そして国に帰ったアインは、勝利に導くとはいえ犯してきたいくつかの違反が露呈して、スパイの容疑で公開処刑されることとなりました。断頭台に着いたとき、民衆から『売国奴め!』や『とっとと死にやがれクソ野郎が!』など様々な罵詈雑言を浴びせられましたが、アイン自身は気にもとめず、国が存続したことを喜びながら死にました。めでたしめでたし」


「……一応聞くけど、それの何処がハッピーエンドなの?」


「どこがって…主人公が成し遂げたかった事を成し遂げ、尚且満足して、喜びながら死んだんですよ?国の人々も死なずにすんだ。ハッピーエンド以外のなにものでもないでしょう」


「馬鹿じゃないの!?あんなに頑張ったのに国の人達には誤解されて、暴言かけられて、挙げ句に死んじゃったんだよ!?しかも!さっきの話と主人公の名前が同じだからなんか生まれ変わっても不幸な人生おくったみたいじゃん!」



 顔を真っ赤にして怒っていらっしゃる。まぁ、不服な理由は分かる。正直からかう気持ちでこの話したし。


 それにあれだ、どこまでも甘ったるい話が聞きたいんだろう?

 俺的にはそんな話が嫌いだが、仕方がない。そんな話を聞きたいとマスターが言うのなら、話すのが俺の責務なんだろう。仕方がない。次は意に沿う話をしよう。



「分かりました。そこまで言うのなら次はマスターに満足してもらえるような話をしますよ」

「もう正直期待できないんだけど」

「大丈夫ですよ、次のツヴァイ君の話はマスターにも満足してもらえますよ、多分」

「アイン君じゃないんだ」

「ええ。アイン君は死にましたからね」

「死んだって…まぁいいや、じゃあ話して」

「いや、お話は村を出てからですかね」

「えっ、てことは」

「はい。畑が見えてきたでしょう?そこを越えれば村の居住地ですよ」

「そっか…やっと…」

「(まだ日も高いし、やっとって程時間立ってないだろ)んじゃ、村も近くなったことだし速度上げますよ」

「わかった!」


 普通、この手綱を使って馬に命令をするんだろうが、やり方知らないから普通に魔力を使って命令する。

 すると馬はぐんぐん速度を上げていく。ついでに魔力による補助と強化を入れて更に速くする。


「ちょっ!すごい速い!」

「振り落とされないでくださいね!」


 馬は更に速度を上げる。時速100kmくらい出ているのではないだろうか。



 さて、居住地も近くなってきたし減速するか。



「す、すごかった…」

「なに呆けてるんですか、魔素で身体強化して戦う時は瞬間的にあんくらい速く移動してるじゃないですか」

「自分で動くのとは全然違うでしょ!」

「そんなもんですかねぇ…そんな事より村、見えてきましたよ」

「あんたの視力を基準にしないでもらいたいんだけど」

「すんませんした」


 もう少し魔素の扱いに慣れたら視力強化の方法でも教えてあげよう。






「おや?冒険者さんですかな?」


 髭をもさもさと生やした60代くらいの人が落ち着いた声で話しかけてきた。


「いいえ。私達は兄妹で旅をしている者でして、冒険者ギルドとは関わりがありません」

「ほぉ、旅の方でしたか。どこから来たのです?」


 コイツずけずけとうざったいな。仕事はどうした、とっととどっか行きやがれ。


「フルントンの方から来ました。海の近くですね」

「はー、そんなところから。目的地は決まっているのですか?」

「まずは王都にと考えていますよ」

「おお!それはいい!夏の終り頃には建国祭がありますからね。やはり祭りに参加するおつもりで?」

「ええ。やはり一度は経験しておきたいものですからね」

「そうですか。おっと、足をとめさせて申し訳ない。なにもない村ですが、どうぞゆっくりしていってくだされ」

「ええ、それでは」


 おっさんから解放され、再びゆっくりと馬車を動かす。

 この村で一泊するつもりならまずは宿屋だが…。


「マ…クレア、どうする?この村で一泊していくかい?」

「え、ええ。そうね。とりあえず一泊しましょう…兄さん」

「えっ…」


 なっ…その手があったか。兄さん。確かに兄妹設定でいくのなら名前で呼ばずともいい。

 髪色は真逆だし、悪魔と人だし、兄妹って感じが全くしないから失念していた。




「二人部屋で一泊させてください。あぁ、あと馬車で来たので馬を休ませる場所も」

「2500オルよ。食事はつかないけど、よかったらうちの食堂で食べていってね。それと馬は少し離れた場所に馬小屋があるからそっちで休ませて。馬用の食事はどうする?お金を払ってくれればこっちであげとくけど」

「いえ、馬の食事は自分達でやりますので大丈夫です。馬小屋はどのあたりですか?」

「どうせ暇だし案内してあげるよ、荷物を置いたらまた声かけて。はいこれ鍵」

「分かりました、ありがとうございます」


 よく考えたら二人旅しているんだから、魔力感知くらい使える設定でも良かったか。

 まぁ、別に案内してもらうのに不都合があるわけじゃないからいいか。




 それから荷物を部屋の中に運び、馬車を移動させ一息ついた。

 おっさんが言っていた通り何もない村だから本当はまわるところもないんだが。


「クライム少年の様子でも見に行くかい?」

「うん…」


 ?村に来てから随分大人しくなったな。さっきので酔ったか?


「どうしたんだ?さっきから借りてきた猫みたいに大人しいけど。具合でも悪いの?」


 そう問うとマスターは首を振った。

 では一体どうしたのだろう。


「なんかさ、私がいた村と全然違うなって思って。村の雰囲気も、村の人達の表情も。全然、違うなって思って」


 なるほどね。

 まぁ確かに、片や定期的に生贄を捧げている村、片やただ平和なだけの村。比べれば村の雰囲気もだいぶ変わるのだろう。


 あ、そういえば。


「ふむ。マスターは人が嫌がることを避けますが、それは人が好きだからですか?それとも、自分がそういう事を嫌っているからですか?」

「……後者、かな」

「そうですか」


なんとなく、マスターの頭の上にポンと手をのせる。


 いい事を知った。

 人に対する憎悪は少なからずあるはず。それを増大させればマスターといえどきっといい性格になるだろう。

 でもまぁ、俺が手を加えたらつまらないし、しばらくは大人しくしておこう。


「ま、人も神も悪魔もそれ以外も、いろんなのがいますからねえ。これから色んな奴らを見て、少しずつ世界に慣れていけばいいと思いますよ……行きましょうか」

「…うん」


魔力感知で見つけていたクライム少年の方へ歩きだす。


少し歩くと、カンッカンッといった音が聞こえてきた。


 クライム少年が村のガキ共とチャンバラごっこをしている音だ。いやまぁ、鍛錬なんだろうが。


「まだまだ力任せに振ってるね、それに軸もブレブレだよ。他にもあるけど、とりあえずこれを直さないと…ほら」


10才にも届いていないだろう少年がクライム少年めがけて木剣を上から下に振り下ろすが、クライム少年が木剣を使って後方に受け流しつつ足をかけて転ばせた。


 大人気ないな。

 確かに体の動かし方は重要だろうけど、そもそもガキンチョは体作りすらできてないじゃないか、クライム少年もだけど。

 つか実戦しかしてこなかったクライム少年が教えられんのか?

 …まぁ、どうでもいいか。


「話しかけづらいけど、どうしようか」

「様子見に来ただけだから、態々話しかけなくてもいいよ」

「そっか、まぁクレアが良いならいいんだけどね。……飽きたら帰ろっか」

「飽きたらって…」


 それ以外になんて言えば…あぁ、満足したらって言えば良かったか。


 少しの間、ぼーっとクライム少年とその教え子だろう7~12歳前後ほどのガキンチョ集6人のお稽古を眺めていると、ガキのうちの一人に声をかけられた。


「兄ちゃんたち見ない顔だけど、冒険者か?」


 ガキ特有の声変わり前の声が耳をつんざく。こういう声は正直好きじゃない。


「いや、僕達はただの旅人だよ。冒険者ギルドには属していないかな」

「なんだ〜じゃあ戦えないのかー」


 戦えるわ。つか、なんでそんなことを聞く…?いやまて、体を動かせばマスターの‘緊張?’も和らぐか?


「そういうわけじゃないよ。二人旅をしているんだ、戦えないと魔物や盗賊に殺されちゃうからね。僕等も結構戦えるよ」

「ほんとか!?ならクライム兄ちゃんと戦ってみてよ!」

「クライム兄ちゃん?は、皆に剣を教えてる子かい?」

「そうだよ!魔剣も使えてスゲー強いんだぜ!」

「へぇ……うん、折角だ。クレア、模擬戦でもしてみるかい?」

「えっ!?」


 急に話を振られて少し戸惑っている。


「馬車に乗り続けて体もなまっているだろう?少し体を動かしてくるといいよ。あぁ、服は僕がどうにかするから気にしなくていいよ」

「えぇ…でも…」

「兄ちゃんは戦わないのか?そっちの子、あんま強そうに見えないし。まだ子供じゃん!」


 ウケる。マスター舐められてますよ。

 まぁーでもそうか、このガキよりマスターは身長が低いもんなー。見かけくらいでしか判断できない奴からすればそういう結論にもなるか。


「はは、そう思うかい?でもビックリ。戦えば多分、クレアの圧勝かな。スキルの相性的にね」

「えぇーうっそだー」

「でも、スキル無しだと魔剣を使ったクライム君が勝つかなぁ。そして、魔剣を使わないとなると五分五分になると思う」

「ほんとにぃー?なら戦ってみてよ!」

「って言ってるけど、マ…クレアはどうする?」

「服の心配はしなくていいの?」

「ああ」

「そっか、ならちょっとだけ」

「やんのか!?おーい!皆ー!この子がクライム兄ちゃんと戦うんだってーー!!」


 ガキが大声で皆に伝える。

 ガキ共の反応は大体、興味はあるがどうせクライム少年の勝ちだろうと、たかをくくっている感じだな。

 そんでもって当のクライム少年は驚きつつマスターを凝視している。魔力の動きを見るに腰に携えた魔剣と相談してるっぽいな。


「と、いうことなんだが。どうかな?クライム君」

「えぇっと僕はいいんですけど…」

「お、それは良かった。…でも多少なりともクレアだけが相手の実力を知っているのは不公平だよね。ってことで、ほい!」


 魔力を使ったことがわかりやすいように手を叩く。

 するとマスターの洋服が簡素なTシャツと半ズボンになった。カラクリ?簡単な置換魔法だとも。


「さっクレア。僕に一撃放ちな。ただし魔力強化は全力の2割程でだ」

「………分かったわ」


 そう言うとマスターが俺と大体3㍍くらいのところまで距離をとり軽く構える。型なんて知らないからこちらも我流だ。

 それから5秒ほどだった後。何の予備動作もなく一瞬で距離をつめ、俺の右手の平に拳をつき出した。


 果たして、ガキ共は今の動作をしっかり見ることができたのだろうか。それどころか、クライム少年も怪しいのではないだろうか。


「スゲー!どうやったの!?」

「はえぇ!」

「お、俺は見えた!」

「俺も!俺も!ふつーに見えた!」

「クライム兄ちゃんもできるよ!これくらい!」


 元気がいい奴らだ。クライム少年は…ゆうほど驚いてなさそうだな。何か考え込んでいるように見える。


「じゃあやろうか。ルールはスキル無し魔剣無し身体強化無し、子どもたちに見えなきゃあんまり意味ないしね。そして、その他殺傷性の高い技等は無しでやろう。クライム君はそれで大丈夫かい?」

「…あ、はい!」

「クレアは?」

「大丈夫」

「じゃあやろうか」


 10㍍程距離をあけお互いが向かい合う。クライム少年は木剣を両手で持ち前に構え、マスターは先程と同様あまり体に力を入れず楽に構えている。


「よろしくおねがいします」

「お願いします…」


 両者準備は整ったようだ。


「えぇーでは…はじめ!」


 俺の合図を聞いた瞬間、マスターが駆ける。さっきとは違いガキ共にもしっかり見えるくらいの速度だ。


 一方クライム少年は動かず迎え撃つことを選んだようだ。

 そしてクライム少年の剣の間合いまで後一歩程になった瞬間、クライム少年は左足を一歩前に出し木剣を振り下ろす。


 が、クライム少年が木剣を振り下ろした瞬間マスターは姿勢を低くし加速して左斜め前に前進、木剣が空を切る中、掌底打ちをクライム少年の右脇腹に打ち込む。


 殴られた瞬間、クライム少年の体が一瞬不自然に揺れた。 


 衝撃を逃したか。魔力使った殺し合いなら半身吹っ飛んでるだろうが、あくまでこれは模擬戦。ガキ共に見せる茶番の様なもの。ならばそれ相応の闘い方があるだろうから、つまんない考えを抱くのは良くないだろう。


 少年は半歩さがりつつ木剣を斜め右に振り上げマスターを斬りつける。


 手応えが無いことに、そしてクライムが動じないことに驚きつつ、マスターは跳ねるように後ろに下がり木剣をかわす。その表情には少し焦りが見える。


 攻守が完全に入れ替わったことに気がついているのだろう。


 クライム少年は流れるような動作で距離を詰めつつ地面と垂直に木剣を振り下ろす。

 その目は何の揺らぎもなく。まっすぐ人を殺す目をしていた。

 対するマスターは持ち前の敏捷性を活かして更に距離をとろうとする。


 が、少年は振り下ろすと同時に踏み込み、次の瞬間木剣が跳ねるようにマスターの鳩尾辺りの高さまで振り上げられ静止した。

 ぎりぎり避けることができたが体制は良くない、とどめとばかりに突き出された木剣を避けることはできないだろう。


 少し残念だがクライム少年の勝だ。やはりマスターには人を傷つける覚悟が欠如している。先手を取った時、手を抜かず本気で打ち込んでいれば、その後もどうとでも勝つ方向に展開できただろうに。


 木剣がマスターに迫る。助けは…要らなさそうだな。


Paann!


 身体を魔力で強化して肘と膝で木剣を挟む。木剣はその衝撃でデカい音を立てながら砕け散ってしまった。


 弁償代はいくらだろうか。


「そこまで!勝者クライム君!」

「えぇーなんで!クライム兄ちゃんの木剣壊れたのに!?」

「魔力で身体強化したからね、反則負けだよ。それに、二人共とも子供達に見せる気無かっただろう。この子達ほとんど理解できてないよ、まったく」

「り、理解できてるし」

「俺も」「俺も」

「ははは!強がりだなぁ。凄い子供って感じがしていいね!」


 そんな俺の言葉に、ガキ共は俺の反応に不満そうにしながら強がりを続けた。




★どこぞのダンジョンマスター



 負けた。それも反則負け。少し恥ずかしい。それに木剣も壊しちゃったし…。


「ありがとうございました」


 クライム君が声をかけてきた。

 挨拶してから、謝罪しないとだよね。


「…ありがとうございました。その、ごめんなさい。木剣壊してしまって」

「いえ、木剣はいつでも作れるので大丈夫ですよ。それより、俺の方こそ何も考えずに攻撃しちゃってごめんなさい。もし当たってたら怪我をしていたかもしれません」

「怪我って…模擬戦ってそういうものでしょう?」

「それは……そうかもしれませんが…」


 どうしよう。会話が続かない。お母さん元気って聞きたいけど、初めてあった人にそんなこと聞かれたら困るよね。

 キサラギのところに行こうかな……でも子供達と遊んでるみたいだし行きづらい。


「その…お強いですね」


クライム君からふと声をかけられる。


「別に、私はそんなに強くないよ」

「それは、あのお兄さんと比べたらってことですか?」

「うぅうん。アレと比べはしないよ。普通に、私はあんまり強くないの。まだね」

「そうですか」


 クライム君はキサラギを探るように見ている。

 回りに影響が出ない程度に存在や実力を隠しとくって言ってたけど、完全に隠蔽はしてないんだっけ?多分クライム君はキサラギの強さに気づいてるんだろうな。


「…兄さんのこと、気になる?」

「わかります?」

「まぁね」

「…俺自身は何も感じないんですけど、俺が持ってる魔剣がすごい警戒しているもので。魔剣がこんなに警戒する人はどのくらい強いのかな、と」


 あぁ、クライム君じゃなくて魔剣が気づいたんだ。精霊化したんだっけ?なんか、便利だね。


 そうだ、私だけいいように遊ばれるのもなんか癪だし、キサラギにもなにかさせようか。


「兄さーん!クライム君が兄さんの魔法みたいってー!」

「え”っ」

「兄ちゃん魔法使えんのか!?俺もみたい!」

「「「俺も!」」」

「偉そーなことばっか言ってんだから何かやってみろよなー」

「「そーだそーだ!」」


 ははっ。キサラギ、このガキども~!って顔してる。

 まぁ、ムカつきながらも何やるか考えてるところを見るに何かやってくれるんだろうけど、何やるのかな?


「わかった!わかったよ!見せてあげるからそう騒がないで」

「何やんの!?」

「火魔法?」「風魔法?」「地魔法?」「水魔法?」

「凄いのが見たい!」

「強そうなのがいい!」

「傾聴!!」


 その声で皆が黙る。 


 不自然に静かになるあたり、魔力を使ったんだろうな。まぁ、このくらいなら許してあげるけど。


「君たち、空を飛びたいと思ったことはあるかい?鳥のように大空を自由自在に駆け回る事を夢見たことはあるかい?あぁ、言わなくとも分かるよ誰だって一度はあるだろうからね」


 空、かぁ。たしかに私も、生まれ変わる前は鳥になってどこか遠い場所に行きたいってよく考えてたなぁ。


「けれど、ここにいる誰一人として本当に空を飛んだことはないだろう?そんな君たちのために今日は僕が空を飛ばせてあげよう!」

「本当にそんなことできんのかよ〜」

「飛びたい!俺空飛びたい!」

「マジマジ!?俺も飛びたい!」


 疑っている子はいるけど概ね好評みたいだ。これもキサラギが『空を飛びたい』って思わせているのかもしれないけど。


「よし!じゃあとぼっか!そ〜れ!」


 そんな抜けた掛け声とともに、子供達は空へと舞い上がった。


「ほら!慌ててないでどんな風に飛びたいか頭で思い浮かべて!」

「こ、こうか!」

「とべた!」

「俺も飛べた!たっのしぃー」

「俺も!俺も飛べたぜ!」


男の子たちが空を自由に飛んではしゃいでいるところへ、夢の中で何度か見た顔の女の子が数人の女の子を連れてやってきた。


その子を見た時、私は少し胸のドキドキが早くなった。


「あーみんなお空飛んでるー!」

「すごーい!いいなー」


「クライム、これは?」

「あぁマロン。あっちの旅人の方が皆に魔法をかけてくれてるみたいなんだ。それで、この子があっちの方の妹さん」

「はじめまして、あっちの兄がキサラギで私はクレアって言うわ」

「はじめましてクレアさん、私はマロンって言います。空を飛ぶ魔法を使えるなんて凄いお兄さんですね」

「まぁね、……二人は…恋人?」


 聞かなくていいことを聞いてしまった。

 …2人の顔へ目を向ける。クライム君は顔を真っ赤にして、マロンさんはくすりと笑っていた。


「えぇ。少し前から」

「そう。ごめんね、いきなりこんなこと聞いて」


 照れてるクライム君に対してマロンさんが『いい加減なれてよねー』なんて言って、それから甘い空気が漂う会話が展開された。


 キサラギはクライム君の精神状況についてグチグチ言っていたけど、これを見るに大丈夫そうかな。

 そんな事を考え惚気た会話を聞いていると、妙に気力の籠もった声が聞こえてきた。


「クライムゥーー!!!仕事の手伝い終わったから鍛錬しに来たよぉー!!」


少し大人びた、(可愛い)というよりかはどちらかと言うと(綺麗な女性の声)といった感じの声だ。

声の方を向くと、黒髪のボブショートで少し褐色の肌を持つ目鼻立ちの整った女の人がかけてきていた。


「って皆浮いてるぅー!!」

「ははは、今日も元気だね。クレアさん、こちらはよく僕達と一緒に鍛錬しているマリエっていう新人冒険者のお姉さんです」

「ヤッホー、マリエって言います!お嬢さんは冒険者の人?」

「はじめまして、クレアって言うわ。あっちは兄のキサラギ、冒険者じゃなくて旅人よ」

「そっかぁー。でも、みんなが浮いてるのってあっちのお兄さんの魔法なんでしょう?」

「ええそうよ」

「ならさ!私が魔法使えるようにできたりする?」


 魔力がない私でも魔素を使用するスキルと呼ばれる技能を使えるようになったのだ、きっとできるだろう。けれど、彼女に稽古をつける時間は恐らくない。


「兄さんに聞かないとわからないかなぁ」

「わかった!じゃあ聞いてくるー」


そう言って走っていってしまった。


 何というか、嵐のような人だったな…。




☆どこぞの悪魔



 嵐だ。嵐が来た。


 いきなり飛んできて『魔法を使えるようになりたい!』なんて言ってきて、俺もガキどもにおだてられていい気になっていたもんだから『ちょっとした基礎だけなら』なんていって魔力の使い方をちょいと教えてやったらこれがびっくり、マスターじゃ比べ物にならない速度でトントンと魔法を使えるようになりやがって、ほえーって呆けてたら『お礼に村の案内をさせてくれ』なんて言って村を案内する過程で、マスターの遠慮気味の態度もどうにかしてくれやがって、やるやんって思ってたら『今日は記念日だー』なんて言って村に居た冒険者やら仕事終わった村人やらを引き連れて、今現在、宿屋が経営している飲食店にて騒ぎ立てている。


 ふむ。悪魔の俺でさえ、ついていけないかもしれない。


「キサラギ先生!そんな隅で飲んでないでこっちに来て旅のお話聞かせてくださいよぉ!」


 ちっ、魔力感知を覚えさせちまったせいで静かにしててもすぐ見つかるな。


 まったく、嵐が酔っ払うとは手に終えなさそうだ。

 だがしかし、この女が村をハイテンションで案内してくれたおかげでマスターも村の雰囲気に慣れることができたと言っても過言ではないし…。

 今現在楽しそうにしているのもこいつの存在あってこそと言っても過言じゃないし…。


 楽しいムードに水を指すのもいただけないだろうし…。

 面倒だがここは適当な話でも披露してやるしかないか。


「ははは。それじゃぁ海の話でも一つ___」


 誰かの記憶にあった話を披露しながら店の様子をうかがう。村に宿泊していた冒険者や、仕事終わりの村人も混ざってどんちゃん騒ぎ、人数はなかなかな数になっている。


 マスターはというと、クライム少年にマロン少女、それに少年マザーと一緒に楽しくお話している。


 不穏な影はない。割とどこにでもあるような、楽しい時間そのものが流れていく。


 このまま旅の出だしは順調と言って差し支えないまま一日が終わるだろう。




「そんなこんなで!町の者共総出で海の怪物クラーケンの変異体をなんとか倒して!再び町に平和が訪れたのでしたぁ」

「ひぁー!私も早く強くなってそんな心躍る冒険がしたいよぉー!!」

「俺もあと少し、若かったらなぁ!」

「あんた人の話聞いた後はいつもそうじゃない。だいたい、40行ったばっかなんだからまだまだ現役でしょ!」

「ガハハハハ!そうだったか!?」

「兄ちゃん他の話はねぇのか!?」

「新しい酒持ってこぉーーい!!!」


 うるせぇし!酒くせぇし!めんどくせぇ!でもやんなきゃなぁ。

とっとと酔い潰れろってんだよこんちきしょうが。


「それじゃぁ___」




………………………




「っがああぁぁぁぁぁっが、ぷすぅーーー…っがああぁぁぁぁぁっが、ぷすぅーーー…」


 夜もふける頃、最後まで店に残っていたバカどもも酔いつぶれてようやく平穏が訪れた。

 マスターも疲れてお眠りになっている。


ゴクリ…

星々に覆われた夜空を眺めながら安酒を流し込む。


 シチュエーションに似合わず(この一日で精神的にすごく疲れた気がする。)なんてくっだらないことを考えていると、これまた大男共のイビキとセッションするには場違いな透き通る声が聞こえた。


「ごめんね、先生。こんな遅くまで話に付き合わせちゃって。先生、お話するの結構めんどくさがってたでしょ」


 随分と落ち着いた声。凄いな、お前そんな落ち着いた声出せたんだ。

 つかコイツ、アルコールに強いのか?結構飲んでたはずだが。


「まぁ、たしかに面倒だったよ。てか、お前さんなんかキャラ違くない?夜だから?」

「アハハ、まぁ、ね。…私って考えるより先に体が動くタイプだけどさ。人並みには、女の子らしい淑やかさとか、恋愛とかにも興味があるんだ」

「へぇーそうかい」


 夜の雰囲気にあてられてと行った感じか。良いじゃないか、折角だしノイズも消して風情よくしようか。


「!これも魔法?」

「まぁね、仕組みはなんとなくわかるかい?」

「なんとなくなら。でも、細かすぎて私には無理かも」

「わかる時点でスゴイよお前さん、今日魔方を扱えるようになったんだろう?」


 保有魔力量も悪くないし、慢心せずに努力し続ければきっとそれなりの人材になるだろうな。……いや、性格的に厄介事に突っ込んで死ぬタイプかコイツは。


「先生が教えるのうまかったからだよ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。そんな気遣いのできる生徒に一つ忠告だ。お前さんはまだ弱い、も少し強くなるまでは、どんな境遇に置かれようがどんなものを見ようが、耐え忍んだほうがいい」

「……それは…無理かなぁ。お酒飲んでるときにも言った通り、私の夢はみんなが笑って暮らせる世界を作ることだからさ。きっと困ってる人を見たら放っておけなくなるよ」

「そんな夢、実現できるわけがないとしてもか?」

「ええ。実現できないからこそ、私の手の届く範囲ではみんなに笑っていてほしいんだ」

「そーかい…」


 今日出会ったばかりの人に対して、随分と柄ではない会話だ。俺の頭もついに狂ったか。


「私さ、明日にここを出て王都に向かおうと思っているんだ。先生達も王都が目的地なんでしょ?ならさ、一緒に行けないかな?」


 マスターのことを考えると、長い間ずっと事情の知らない者が一緒にいて会話に制限がかかるとストレスになるだろうし、なによりいつボロが出るかわからない。

 魔力を使えばどうとでもなるが、、、関係のない人が悪魔と行動するのはなぁ……。


「無理、かなぁ」

「そっか。ごめんね事情も知らないのにいきなり付いていきたいとか言っちゃって」

「いんや、謝ることじゃないさ」

「……じゃあ、私もう寝るね。おやすみなさい」

「ん、おやすみ」


 脳の疲労から出る感情の揺らぎ。なに、お互い明日の朝には忘れているさ。


「くあぁぁぁあ。俺も寝るか」




もう出会うことのないであろう生徒の姿を見送って、机に突っ伏して寝ていたマスターを抱えて宿に戻った。







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