備えあれば憂いなし。色々とね
☆どこぞの悪魔
「これより!持ち物確認を初めるわ!」
「おー」
「まず最初に洋服!を確認するからキサラギはあっち向いてて」
「はーい」
精霊化騒動より約1ヶ月、明日はいよいよ出発の日だ。
そして出発前夜の今、旅に持っていく道具が全て揃っているか確認をし始めた。
にしてもなぜ最初に洋服なんだろうか、もっと他にあるだろぅ。地図とか、コンパスとか。まぁ何でもいいけど。
「もういいわよ。次にトランクケース!」
「俺の2つとマスターの3つ、んでお土産詰め込む用のが4つで計9つ全てあります」
「よろしい!次に観光ガイドの本!」
「3冊しっかりあります」
「よろしい!次に__」
魔力による感知でもう全ての荷物が揃っていることは分かっているんだが……マスターが楽しそうにしているのに水をさすのも良くないか。
でも、張り切るのはいいけど張り切りすぎて熱出すなよな、マスター。
……………
「最後に_」
あれ?もう他に荷物なくないか?
「意外と不便な私の下僕!」
「えっ、俺のこと?ひどいなー」
「返事は?」
「はーい」
「よろしい。安心しなさい、そんなキサラギも私は見捨てないから!」
「へぇーへぇーそりゃーありがたいこって」
確かに、戦闘以外で対人相手に役に立つことが少ないかもしれない、俺。まぁ…神とか悪魔を相手にとれるし、プラマイゼロってことで。
「持ち物確認が終わったから次に注意事項!キサラギ、注意事項その1を言いなさい」
注意事項、俺らが旅をするにあたってのルールの様なものだ。昨日決めることになったんだが、マスターが途中で寝たから殆ど何も決まってない。
「えーっと、俺はむやみに人の脳を弄ってはいけない」
「良くできました。っで、分かってるの?」
「えぇ、むやみに、でしょう?必要最低限の魔力影響は与えますが、誰彼構わず影響を与えることはしませんよ」
「分かってるならいいけど、キサラギは屁理屈言って結局暴走するからなぁ」
「しませんよ、多分」
「……はぁ、まぁあんまり期待してないから良いんだけどね」
おぉ、信用ねぇー。まぁそりゃそうか、今まで何度か約束破ったような気がしなくもないし。
ま、いつかは俺を御し得る事ができるようになりますよ。頑張れマスター。
「次。旅ができる時間は有限、一つの村や街に滞在するのはできるだけ短くするわ。これについては、ヘルプさん結局どのくらいの期間ダンジョンを休止できそうなの?」
『はい。現在保有しているポイントが約46万ポイント、休止中はダンジョン維持費を除いて月に3万ポイントが徴収されますので、緊急事態等も考えて最長で一年程が妥当かと思われます』
なぜ徴収されるのかとか、徴収されたDPはどこに行くのかとか、色々気になる部分はあるが……3万ってやっぱ高くね?
「と、言うことなので一年でできるだけ多くの村や町を回りたいと考えているわ。キサラギ、異論は?」
「ガッツリ一年休止すると、ここのダンジョン維持費ほとんどかからないから残り10万ポイントになりますよね?こんな調子でどんどん使ってたら、何時になってもダンジョンの改築できませんよ?」
確か、城を作るんじゃ無かったっけ?最初の冒険者パーティに見せたような芸術的評価しかもらえなさそうなお城を。
「キサラギはまだまだね、普通に考えればわかるでしょう?ダンジョン登録をして数ヶ月で50万ポイントを稼げたの、これからもっとこのダンジョンは栄えるだろうし、これくらいすぐに取り返せるわ」
マスターにしては考えが甘いような気もするが…まぁ、どうでもいっか。
「マスターがいいならいいんですけどね」
「じゃぁ一年くらい休止するということで次の注意事項。キサラギはどうやら名前が知られているようだから、今後は一応偽名を名乗ること」
「俺がユートでマスターが普通にクレアでいいんですよね?」
「えぇ。にしても、キサラギはいつも私のこと『マスター』って呼ぶからなんか新鮮ね」
「そーですね。俺もユートって言われると何だかすごい違和感ありますわ」
それに少し後ろめたい。アイツの名前の由来を考えると、どう考えても俺が名乗っていいものじゃぁないしな。
元は俺もそうあれとアイツから…はぁ、バカみたいだ。
「別に他の名前でもいいけど、どうする?」
「いんや、これでいいですよ。所詮呼び名です。呼びやすけりゃ何でもいいでしょう」
「キサラギはまたそんな…まぁいいけどね」
そう言うとマスターはおもむろに手帳を取り出し何かを記述し始めた。
最近、たまに見るあの手帳には何を書いているのだろう。俺の悪口か何かか…?それくらいなら良いけど、想像もつかないような変なこと書いてたらどうしよう。
「何書いているんですか?」
「んー…秘密」
「さいですか」
乙女の秘密というやつだろうか。
「次の注意事項はぁ、、えっと…と、とにかく旅を楽しむこと!」
「よっ。いいこと言った。流石マスター」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう」
何故かドヤ顔のマスターがうんうんと頷いている。
因みにだが、4つ目を決めている途中でマスターが寝たのでそれ以降は決まっていない。
マスター、記憶がないのはそういうことだぞ。
「それで次は__」
「マスター。楽しみな気持ちは分かりますがそろそろ寝てはいかがですか?夜ふかししては明日起きた時に体調が良くないかもしれません」
「そ、それもそうね……(どうせこの先何決めたか覚えてないし…)うん、もう寝る!おやすみ!」
「おやすみなさい。あぁそうそう、多分明日は晴れますよ」
「ほんとに?…あ、でもキサラギの言ってることはしょっちゅう外れるからなぁ」
「今回のは安心してくださいな。晴れますよ、快晴です」
「そっ、なら良かった。おやすみ」
「今度こそおやすみなさーい」
マスターの姿が消えた。私室に戻ったか…。
さて、俺は一郎二郎四郎の最終調整でも行うか。
休止中はダンジョンコアとダンジョンマスターの命の繋がりは無くなるが、それでもダンジョン内に何者かが忍び込む可能性は限りなくゼロにしておきた__ん?おいおい珍しいなヘルプさん。何のつもりだ?
「ヘルプさん。覗きは良くないなぁ」
『申し訳ございません。少々、キサラギ様の技術に興味がありましたので』
「見てわかるのかい?」
『大まかにですが』
へぇ、そりゃ凄い。流石は[天使システム]の一種といったところか……だがそれ以上に、[天使]なんてもんは神が悪魔の真似事をして創り出した体のいい駒、駒故に無駄な感情を持たないはず。
けれどもヘルプさんは『興味がある』と言った。いや面白い、最近の天使は知識欲もあるのかね?
「一応はお世話になっているしね、見せてあげたい気持ちはあるんだが…防衛システムは見せてあげられないかなぁ。どうせそっちもダメ元の様なものなんだろう?悪けど、諦めてマスターに子守唄でも聞かせてきな」
『そうですね、そこは潔く引き下がります。ですが一つ答えて頂きたい質問がごさいます』
「なんだ?」
『貴方は、クレア様の敵ですか?味方ですか?』
敵か味方か…か。ヘルプさんが珍しく自発的に行動していると思っていれば…やっぱり随分と‘らしく無い’。
「質問で質問を返して悪いとは思うが、何故そんなことを聞くんだ?」
『ダンジョンを休止するにあたって、貴方方はこのダンジョンを離れます。そうすると私はクレア様をお守りすることができません。外敵からも、貴方からも。ですから聞いておきたいのです。貴方は、クレア様の敵ですか?」
どこか機械めいた声がどんどん肉声に変わっていく。
言葉を言い終える頃には、ドレスアーマーに身を包みブロンドの髪をうなじ辺りで2つに結んだ美形の女が、両刃の大剣を持ち俺の前に姿を現していた。
神性も少しだが感じられるようになった。恐らく、というか確実にヘルプさんの本体である天使システムが出てきたのだろう。
話を聞くに、本体が活動できるのはダンジョン内のみらしいが…面白そうだし、少しからかってやろうかな。
相手を馬鹿にするような表情を作り、できるだけ頭に来るようなハッ、と嘲笑するような声で目の前の天使に質問を返す。
「どうしてお前がそんなことを聞くんだ?お前はいち天使システムだ。マスターが死のうが悪魔になろうが、関係無いんじゃないのか?」
「いいえ、大いに関係ありますよ」
「ヘェ~。理由は?」
「今の貴方にはお教えできません」
「そっか、まぁいいけどね。…最初の質問に戻ろう。俺はマスターの敵か味方か。答えは簡単……味方、だよ。少なくとも今はね」
「………そうですか」
おー怖い怖い。剣を構えて殺気をこれでもかと飛ばしてくる。
それどころか、神性の気配も強くなり、周囲の魔素がどんどん天使に吸収されていく。
ヤりあう気かね?
「怖いなぁ。味方だって言ったじゃないか。何が不服なんだい?」
「あなたの史実はできる限り調べさせていただきました」
へぇ…たかが天使がそこまでするのか。
「今より620年程前までのものしか閲覧出来ませんでしたが、それでも貴方が危険であることは十分に理解できました」
「えぇー俺、契約者には割と柔順だったと思うけどなぁ。いや確かに、多少意に沿わないことはしたかと思うけどね」
ほら、今のマスターにも柔順だろう?
「ええ確かに、最初は今現在クレア様に従っているように友好的に接していたようですね」
「だろう?」
「ですが…!最終的にはその一切で貴方は契約者を殺してきました」
「あれぇ?そうだったっけ?」
ヘラヘラした表情でしらばっくれる。
「ええ。まぁ、貴方にとっては忘れてしまう程どうでも良い事なのでしょうが」
険しい表情を見るに、やっぱり感情があるっぽいな。
あーどうしよう。魔力を使って全て暴いてやりたいけど、それをしちゃうと楽しみが一瞬で無くなっちゃうんだよなぁ…。
あ”あ”ぁ…ここは我慢だ!きっと魔力を使わない方が面白い。
「はぁ…ヘルプさんさ、俺が旅の途中でマスターを殺すかもしれない事を危惧してるのは分かったけど、結局どうしてほしいんだ?何を言ってもイチャモンつけるつもりだろう?」
「ええ、貴方は信用なりませんからね。ですから、神性を用いた契約を交わしてください……と、言いたいのですが」
神性による契約をする。それ即ち神属に完全服従するも同義だ。何せ神性に弱い悪魔に対して神属は好きなように契約を変更できる。まぁ、それ専用の神性を行使できればだが。
「承諾するわけないな」
「えぇ、ですから。……魔力による契約を結んでください」
「……何を考えている?」
魔力による契約は神性による契約とは立場が逆になる。つまり、悪魔が一方的に有利になる。
結んでも意味ないと思うが…。
「その代わり、使う魔力は[指結び]に限ります」
「指結びの魔力か。一方が契約を破棄すれば即座にもう一方に伝わり、契約に手を加えようとしても伝わる。それどころか、ただひたすらに敏感で少し意からそれただけで五月蝿くもう片方に伝わる。随分とマイナーなのだしてきたな」
指結びはいささか敏感すぎる。こんなものより使い勝手の良い魔力なんざいくらでもあるが、確かにこの場合は都合がいいかもな。
「貴方なら使えますよね?」
「んあぁ使えるとも。でも俺は腐っても悪魔だ、魔力のスペシャリストなんだよ。如何に指結びの魔力を用いたものといえど、天使であるお前が悪魔である俺に魔力契約とは、不用心がすぎるんじゃないか?それとも何か考えがあるのか?」
「…ありません。一ヶ月考えましたが、これより有効な策が見つからなかっただけです」
………はぁ。まぁ、企みがあるにせよ無いにせよ、これを拒んだら落とし所がなくなるか。
「……んじゃぁさっさとやろうか。ほれ」
小指に魔力を宿してヘルプさんの方へ伸ばす…のだが、当のヘルプさんが動かない。
「どうした?やらんのか?」
「いえ、その…貴方の方こそ、警戒しなさすぎでは?」
「まぁね。どうせ指結びの魔力は殆ど強制力もないから、態々警戒する必要もないだろ。それよりさっさとしてくれない?そろそろ飽きてきた」
ヘルプさんは頷き俺の小指に小指で触れる。
良かった良かった。ヘルプさんとは‘まだ’有効的な関係を築いておきたいからね。これもやっぱ辞めるとか言われてたら困ってたところだよ、いや本当に。
「そういえば、私の要求はクレア様に一切危害を加えないことですが、貴方は私に何を要求するのですか?」
「んー………あー、俺を如月様と呼ぶようにしてくれ。人であるマスターに様付けをしているのに悪魔の俺が様付けされないのは納得いかない。」
まぁ本当は、面倒な契約結んで旅の途中に指結びの魔力がうるさく反応する事がないように適当に考えただけで、特に理由なんかないんだが。
「はぁ…まぁそれくらいならば」
「んじゃそういうことで。【我、第Ⅱ類悪魔たる如月は。この契約のもとに対象者:クレアに一切危害を加えないことを誓う】」
「【我、天使システム識別番号ラ嶷ーヨシラィラ便シラ� kト瓶テサ盧�は。この契約のもとに契約者:如月の名前を呼ぶ際、様と敬称を付けることを誓います】」
両者の指が光る。これで契約は完了した。
にしても…やっぱりヘルプさんの識別番号を聞き取ることができなかったか…。
以前、いろんな天使に魔力を使って個体名等を探った事があったができなかった。契約を結ぶ時なら知ることができるかもと思っていたが………まぁ、べつにいっか。
「これで満足してくれたか?」
「えぇ、憂いは確かにありますけどね」
「そぅかい。んじゃおやすみ。覗こうとしないでね」
「はい。如月様もシステム構築頑張ってください」
そう言ってヘルプさんが微笑む。
うわぁ。天使から様呼びされたんだけど。なんか変な感じだなぁ…。
光る粒子のようになって霧散していくヘルプさんをぼーっと眺めながら、そんなことを思う。
「さて、最終確認頑張りますか」
近い将来触れるだろう人の醜さに、果たしてマスターは何を思うのだろうか。
そんな事を考えていたらあっという間に空がしらんだ。




