寝ても覚めても悪夢は続く
☆???
『あぁ‘繝ェ繝シ繝ェ繧ィ’。私はお前が羨ましい。うら若い肌にまだ長い寿命。本当に、本当に妬ましいわ』
お母様が私の両頬に触れ恐怖と怯えを孕んだ声色で囁く。まだ若い筈なのに髪はボサボサで肌は色白く痩せこけ、歳の割に凄く老けて見えた。
『どうしてそんなに怯えた表情をするんだい?私の顔が、そんなに醜いかい?』
段々と怒気の混じった声になり、顎は憤怒のせいか小刻みに震えている。
『い、いいえお母様。そんなことは_』
『嘘を付くなぁ!!』
甲高い叫び声が頭に響き、私は後ろに突き飛ばされた。立ち上がったお母様はまだ幼い私から見たら凄く大きなものに見えた。
体格的にも精神的にも。見ている私の首が疲れてしまうくらいに、ただただ大きなものに見えた。
『私だってねぇ!昔はお前より綺麗な肌を持っていたわ!今だって、好きでこんな肌を持っているんじゃないの。けどねぇ、年々年老いて醜くなっていくの……あぁ…本当に、まだ若いお前が羨ましい…。……ねぇ‘繝ェ繝シ繝ェ繧ィ’、私のことは好き?』
唐突に、そんな質問を投げかけられた。正直、情緒の安定しないお母様は怖くてあまり好きではなかった。でもそんなことを言ってしまえば、私はきっと殴られてしまう。
『はい…私は、お母様を愛しています』
『そう…そうよねぇ。なら…その若い肌、私にちょうだい?』
『えっ…』
『私のこと好きなのよねぇ…!?そうなのよねぇ!』
私の髪を左手で掴み大声で怒鳴るお母様の目は、狂気と憎悪に満ちていてとてもとても怖かった。
そんな有無を言わせない表情に、私はコクコクと頷くことしかできなかった。
『あぁ…なら…その肌を私にちょうだい?そのキレイな肌を…!老いを知らない若い身体を私にちょうだいよ!』
お母様の右手にはいつの間にかにナイフが握られていた。
今にもそのナイフで私の肌を削ぎ落としそうなお母様を前に、私は恐怖で身がすくみ声が出せないでいた。
『怯えなくていいのよ‘繝ェ繝シ繝ェ繧ィ’。すぐに終わるから。痛いかもしれないけれど、私の為なら我慢できるわよねぇ?』
『ぃゃ_』
震える体で何とか口にした言葉は、魔素に溶けてしまう程小さくて、目の前の老人には届いていないようだった。
『どうしたの?繝ェ繝シ繝ェ繧ィ。まさか断ろうなんて思ってないよわね?私の為よ、動かないで?動いたら綺麗に削げないでしょう?』
お母様が持つナイフがゆっくりと私の額に近づく。
上手く力の入らない体で必死に抵抗しようとするが、無情にもナイフの冷たい感触が伝わってきた。
『はぁこれで…私はもう一度…』
『ぃや…いやぁぁーーーーーーーー!!!』
お母様がナイフに力を入れたのを感じた瞬間、私の意識は現実へと戻ってきた。
……………………
古い夢を見た。随分と酷い昔の夢を。
「……はぁ…」
「お嬢様、大丈夫ですか?少々うなされていた様ですが…」
お付きのメイドが心配そうに顔をのぞかせてくる。栗色の髪色の、ボブショートが似合う‘私’のメイド。
「ありがとう、でも大丈夫よ。馬車の揺れが心地よくて少しまどろんだだけ、体調に問題はないわ。それより、今回は綺麗な若い娘がたくさん手に入っているのでしょう?」
「はい。成人したばかりで、体型がお嬢様に近い者も多数手に入りました」
「そう。それは楽しみね」
「必ずやご期待に添えるかと」
メイドから目をそらしガラスの窓の向こうを見つめる。
普段なら護衛の騎士が馬に乗り、馬車を囲うように走っているのだけれど、今日は強い隠蔽魔力を持ったこの馬車と少数のお付きの者しかいない。
少し心もとないけれど仕方がないわ。だって、今から行くところを大勢に知られたくないもの。だからお付きは本当に信頼できる者のみ。
あぁ、それにしても楽しみだわ。きっともうすぐ、私は永遠の若さを手に入れるの。
うっふふ。あぁ、私はようやく、醜いお母様を忘れられる。老いを感じる焦燥からも、死が迫る恐怖からも、ようやく逃れることができる。
お母様、あの世から見ているかしら?見ていたらきっと悔しがるでしょうね。
あっはは!精々妬むといいわ、あの日々と同じように、永遠に。あっははは!
「お嬢っ!襲撃です!」
必ず来る未来に胸踊らせていた私は、その言葉で一気に現実に戻された。




