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人は死ぬ。例えそれが英雄だとしても。

★どこぞの少年冒険者


 ダンジョンを出る頃にはナニカに対して感じていた恐怖も無力感も絶望も和らぎ、色々気持ちの整理もでき気力も湧いてきたため、まともに歩けるようになっていた。


「っ…!」


久しぶりに見た本当の日の光に目を細める。


(とりあえず、ギルドに行こうかな)

そう考えたやさき


「君!少し止まってくれ」


 'ダンジョンから出てきた気絶した冒険者を介抱する役割をもつ'ギルド職員に静止するように呼び止められた。


「なんでしょう」


 呼びかけてきたギルド職員の方へ顔を向ける。

 正直、早く母さんに会いたいから足止めされたくないんだが…。


「どうして、気絶していないんだい?このダンジョンから気絶せずに出てきたものは今のところいない、良ければ思い当たる理由を聞かせてくれないかい?」


 あぁなるほど。でも、思い当たることと言えば…

 最後の試練でダンジョンマスターと戦ったことくらいか?顔とかは覚えてないけど、何となく話した内容は覚えてる。

 ……あれ?どうして今さっきの出来事がこんなにおぼろげなんだ?


「っと、悪い。疲れているもんな、こんなところで立ち話もなんだし、ギルド支部で落ち着いて話をしようか」


 はぁ…面倒くさそうだ。冒険者として良くない行為だってことは分かっているけど、テキトーにあしらってしまおう。


「その必要はありませんよ。思い当たる節なんてなんにもありませんから。それにほら、魔核を持っていないでしょう?僕、実は第一の試練で負けちゃって……多分、気絶しなかったのは運かなんかですよ」

「本当かい?ここ数日君のことは見てないけど、そんなに長い間第一の試練をしていたのかい?」

「えぇ、お恥ずかしながら。それより、これでも僕、急いでいるのでもう行っていいですか?」

「………そうか…わかった。呼び止めて悪かったな」

「いえいえ、それでは僕はこれで」


 ギルド職員が後ろでコソコソなんか話しているが、まぁどうでもいいか。

 それにしても、俺は数日もの間眠っていたのか。




「こんにちは、Fランク冒険者のクライムです。コルラナ村からなにか伝言は届いていませんか?」


 バターブロンドの髪を後ろに結んでいる受付嬢に声をかける。夢の中でよくお世話になった人だ。


 ……人を頼る、か。夢の中でこの人とかをもっと頼っていれば。もしかしたらもっと早くクリアできていたのかな?

 ま、過ぎたことを考えても仕方がないか。


「お久しぶりです、クライムさん。最近ギルドに来てないようだったので、心配しておりました。クライムさんの出身村からの伝言ですね?少々お待ち下さい」


 え…まさか俺みたいなFランク冒険者の顔と名前を覚えているとは思わなかった。やっぱ受付嬢さんはすごいなぁ。


「おまたせしました。伝言は届いていないようです」

「そうですか、ありがとうございます。それではこれ__」

「大変だ!!!大型の魔物がこっちに向かってきているぞ!早く逃げろ!あれが来たらここはもう終わりだ!!」


大柄な男が顔を真っ青にしてギルドに駆け込んできた。


 大型の魔物?慌て具合からして、竜種でも出たのか?もしそうだとしたら相当ヤバいが…母さんは大丈夫だろうか。


「落ち着いて下さい!魔物の種類何でしたか?」

「で、デケェ木だ!城よりデカかった!雲に届きそうだったぞ!そんで言葉を喋るんだ!『悪魔はどこだ』とか、『出てこないとこの女を殺すぞ』とか」


 雲に届きそうなくらい大きな喋る木って、迫真の演技で嘘をついているのか?…そうは見えないけど…。って、誇張してるだけか。なんにせよヤバそうだし、さっさと逃げるか。

 でも逃げるにしてもどの方向から魔物が向かってきてるのかわからないしなぁ。


「皆!ぼうっとしてないで、すぐに対応!急いで!」


 先程まで俺と会話していた受付嬢が手を叩いてテキパキと他の職員に指示出しをしている。


「クライムさんもすぐに逃げてください。できるだけ遠くに」

「は、はぁ。わかりました、頑張ってください」


 魔物がいる方向を知りたいんだが……受付嬢さんも割と慌ててるのか。仕方がない、盗み聞きをして情報をもらおう。




「ダンジョン近くの村があるだろ?そうそこだ、そっちの方から来てた」


 盗み聞きをしていたら、不穏な情報を手に入れた。

 まさか…俺の村を通ってきたんじゃないだろうな?

 いやまて、ダンジョンマスターは今しがた治したって言っていた。その言葉を信じるのなら、母さんは今の今まで生きていたことになる。その魔物の移動速度とかはわからないが、母さんが生きている可能性は高そうだ。そうなると、ただ方向が被っただけか?


 …考えていても仕方がない、迂回して村に戻ろう。



そう考え、ウィール平原をあとにした。



…………



「おいおいまじかよ…」


 魔剣の魔力で身体強化を施し村へむかい一時間ほどが経った頃、およそこの世のものとは思えないものを見た。


 それなりに離れているここからでは目測で測るのも難しいが、大体100~200㍍くらいか?それくらいの確かにバカみたいな大きさの木が、憤怒の声色で叫びながらノソノソと動いている。


 ノソノソとは言っても、動いているものが動いているものなので多分馬車と同じくらいの速度で動いているだろう。


 あの木だけで相当脅威なのだが、あの木から逃げようと波のように押し寄せる魔物や獣もまた村や町から見れば脅威になりえるだろう。


 まぁ、俺に目もくれず逃げているから俺的には脅威ではないんだが………


『どこにいるぅぅぅぅぅ!!悪魔あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!お前が接触した女は私が持っているぞぉぉぉぉ!!出てこなければこの女を殺すぅぅぅぅぅ!!はやくででこいいぃぃぃぃぃ!!!』


 化け物は今叫んだ事と同じような事を、さっきからずっと喚き散らしている。


 夢の中で何度か悪魔と戦ったが、それほど強くはなかった。現実でもあの程度の強さなのなら正直あの木の怪物の前に姿を表すとは思えない。


 第一、どこの誰だよ悪魔と接触した奴………悪魔?接触?

 …いやいやまさか。悪魔城のダンジョンマスターが母さんを治したのは……あれは接触と言うのか?いや、仮に接触というにしても何故あんなに怒っている?それに…


「やっぱり、捕まっているのが誰か確認しとくか…一応」


 捕まっているのが万が一にも母さんだったら最悪だ。

 宗教には入ってないけど…主よ、願わくば我が母をお守りください。


柄にもなく神に祈りを捧げ化け物の下に急いだ。





「怪物の周りにある植物が全部、ものすごい速度で枯れていっている…。っと、そんなことより捕まっている人を確認しないと」


 魔剣を大きな筒状にして中を特殊な魔力で満たし、筒を通して捕まっている人物を確認する……


「……ハハハ…最悪だ…」


 なんで母さんがこんな目に……せっかく病気が治ったのに…いや、そもそもダンジョンマスターは本当に病気を治してくれたのか?……はぁ…本当に最悪だ。何が本当で何が嘘で、これからどうすればいいのか全然わからない…。


 母さんを助ける?あの化け物にどう立ち向かえばいいんだよ…。

 もしかしてこれも夢なのか?…いや、そんなことはないと本能でわかる。これは現実だ。

 でもだとしたらなおさら……


 あぁもうっ!頭がこんがらがってどうも思考がまとまらない。


 すぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ…

 そう弱気になるな俺!ここまで来たんだ、やれることをやってみよう!


 やれることをやる。そうと決まれば行動だ。目があるのかはわからないが、一応進行方向の逆から奇襲の様に技を叩き込む。



「我流魔剣術両断法:無造」


 俺の技の中で最大の殺傷力を持つ技。

 周りを気にせず兎に角魔剣を伸ばし、強化して振り下ろす荒技だ。


 これならばあの化け物でさえ切れる。そう、どこか楽観的に考えていた。


「っ!!かってぇ…!」


 無数に広がる枝や葉は切ることができたが幹にはほとんど刃が通らなかった。


 まずい!迂闊だった!これで怒って母さんを殺されでもしたら最悪だ!


『ついに来たかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!悪魔あぁぁぁぁぁぁ!!!どこだぁぁぁぁぁ!隠れてないで出てこいィィィィィィィィ!!!!』


 悪魔、というより俺を探している素振りをするだけで、今のところ幸いにも母さんを殺そうとはしていない。


『んんんんんんんん???ニンゲンしかいないぃぃぃぃぃ!?おいぃ!お前か今攻撃したのはぁぁぁぁ!!期待させるなぁぁぁ!!』


 っ!危なかった!

 まるで小蝿を叩き潰すかの様に枝で攻撃してきた。枝と言ってもあの巨木の枝だから一本一本俺の体より太く、枝があたった地面は10㌢ほどえぐれている。


『んんんんんん??貴様ぁぁぁぁ!この女と似た魔力を持ってるなぁぁぁぁぁ!??もしやぁぁぁあ!??』


 親子だということがバレたのか!?最悪だ、面白半分で母さんを殺されたらたまらない。それに、なんでそんな図体してんのに俺と母さんの小さな魔力を識別できるんだよ。


『ふふふ…ふはははははははははははぁぁ!!そうかぁ!そうかそうかぁぁ!これは面白__いぃぃ?』


 奴が言い終える前に母さんを掴んでいた枝を[無刃]を使って切る。そして、魔剣を鞭状にして母さんに巻き付けそのまま引っ張った。

 化け物が枝を使って取り返そうとしてくるが幸い動きはそんなに早くないため、母さんを救出することができた。


「母さん大丈夫!?」

「クライム!?母さんは大丈夫よ!それより_」

「わかってる、俺も大丈夫だし、絶対にあの化け物から逃げのびてみせるよ。舌噛むから母さんは口閉じてて!」


 現実で母さんと再開できた喜びで胸が高鳴っているが、今はとにかく落ち着いて化け物から逃げないと。

 でもどこに逃げればいいんだ?


『ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!ニンゲン風情が調子に乗りやがってぇぇぇぇぇ!!!!それはワタシのものだぁぁぁぁぁ!!返せぇぇぇぇぇぇぇ!!殺してやるぅぅぅぅぅ!!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!逃げるなぁぁぁぁぁ!!!』


 よし!化け物の本体もあまり早く移動できないようだ。

 これなら逃げ切れる!


『まてぇぇぇぇぇぇぇえ!!!逃げるなぁぁぁぁぁぁ!!!!追いつけなぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!




なぁんてなぁぁぁ?』


 『なんてなぁ?』そんな、無性に腹の立つ声が聞こえた瞬間。


「___!!グバッ…!」


 母さんが声にならない叫び声を上げ、口から大量の血を吐き出した。


 そして、母さんの胴体からは真っ赤な若木が生えていた。


「は…?何が…?」

『ニンゲンを奪われる事を考えてないとでも思ったかあぁぁぁ??くははははははは!!!バカだなぁぁ!ニンゲンはぁぁ!!本当はあの悪魔をおびき寄せる餌だったけどぉぉぉぉ!!これはこれで面白いからまぁいっかぁぁぁぁ!!!』


母さんの体から大量の血が流れ落ちる。確実に致命傷だ。


 どうすれば!どうすれば助けられる!?

 と、とりあえず止血か!?この木は切ったほうがいいのか!?根っこは……


「立ち止まっちゃ…ダメよ……貴方だけでも…逃げて…」


今にも消えてしまいそうな声だった。


「そんなこと言うなよ!今治すから!!魔剣!おい魔剣!なんとかしてくれよ!なぁ!」


 このままだと…母さんが死んでしまう……!!クソっ!なんで殺すための技しか知らないんだよ!なんで俺は!誰も救えないんだよ…!


「ごめん…ねぇ…もう…ダメみたい……でも、よかったぁ…最期にもう一度……貴方に……あえ………」


言葉を言い切ることすらできず、母さんの手は俺の頬を離れた。


苦痛を悟らせない、優しい微笑んだような顔で眠りについた。


「嘘だろ!?せっかく会えたのに!やっと救えたと思ったのに!!こんなの…こんなのありかよ……!」


視界が滲んでいく。


 まただ、また俺の側で……また俺は…何もできずに…。


『ふははははははははははぁぁ!!!!愉快ぃぃ!!愉快だぞニンゲンンン!!!その絶望した顔ぉぉぉ!!実に愉快だぁぁぁぁぁ!!!どうだぁぁ?目の前で親を殺された気分はぁぁぁ!!!』


 化け物が何かを叫んでいるが何も耳に入ってこなかった。


 結局救えないのか?どれだけ頑張っても、意味なんてないのか?



 ………はぁ…本当に、馬鹿だったな…忠告されたのに、俺はどこかダンジョンの夢の中と同じ気持ちでいた。何とかなる、上手くいく、駄目でもやり直せる……そんな訳、ないのにな。


「ははっ。バカみたいだ。今考えてみれば、これよりうまいやり様はあっただろう。それを感情のままに…」


膝を落とす。

後悔の念が頭を覆う。もっとこうしていれば、ああしていれば。そんな意味のない妄想がひたすら頭に浮かぶ。


 夢の中じゃもっと冷静だったのに…ってなにまた馬鹿なこと考えてんだよ…。


「はぁーあ。これで終わりか」



 父さんとの思い出、母さんとの思い出、マロンとの、村のみんなとの思い出……色んな思い出が、脳を駆け巡る。


そんな思考に水を差すように、化け物の枝が鞭の様にしなり俺を叩き潰そうと迫る。


 あぁ神様…どうか、生まれ変わっても父さんと母さんの子供にしてください。


 目をつむり、最期の願いを神に捧げる。




Paaaaaaaaaaaannnn!!!!





 轟音とともに俺の体はぺしゃんこになり死んだ。


 そう、思ったのだが……痛みもなければ、思考もできる。


 魂にでもなったのか?


 そんなことを考えて目を開ける。


「は……?魔剣…お前、なんで…?」


 魔剣がドーム型の壁になり俺を庇っていた。

 どうして…?魔剣が勝手に…?


『あ”あ”あ”あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!???まだ足掻くのかぁぁぁぁ!??はやく死ねよぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


 これ以上足掻くつもりはない。これ以上、何をすればいいのかもわからない。


「魔剣…もう、いいよ…」

『儂が良くないのじゃよ』


老人の声が耳に届いた。


え…?

「だ、誰だ!」

『お主らが神と呼び崇めるものじゃよ。お主、2度も神に願っただろう?普通なら聞き届ける必要もないのじゃが…その素晴らしい色気と胸を持つ人間が死ぬのは惜しぃのでなぁ。少し助言をしてやりに来たのじゃよ』


 神…?助言……?は?本当にいっているのか?


『そう呆けてないでしっかりきくが良い。よいか?この近くにダンジョンがあるじゃろう?お主が先程までいたダンジョンじゃよ。あそこの悪魔を頼れ。本当は儂がその人間を治してやりたいのだがな、それをしてしまうと少々面倒なことになるからのぉ』


 悪魔を…頼る?そんなことできるのか?悪魔だぞ…?

 いや、悪魔は対価を払えばなんでも願いを叶えてくれるって言うし、俺の命を使えばあるいは…


『…おい!呆けてないでさっさと走らぬか!』

「っ!はい!」


 そうだ、呆けている暇はない!何でもいい!母さんを救えるかもしれない希望を貰ったんだから、今は走るしかない!


魔剣の魔力を貰い身体強化を施し一直線にダンジョンに戻る。


『んあ”あ”あぁぁぁぁぁぁ!!!ニンゲンンンンンン!!お前の役目はもう終わりなんだよぉぉぉぉ!!!さっさと死ねぇぇぇぇぇ!!!!!』


 化け物が枝を使って攻撃してくるのがわかる。背を向けて走っている俺は格好の的だろう。だが構わず進む!


Paaaaann!!Paaaaaaaaaaaannnn!!!


 化け物が何度も攻撃をしてくるが俺に攻撃が当たることはない!

 頼れる相棒が化け物の攻撃に対応してくれるから俺はただ全力で走ればいい!


 魔力が持つかわからないし、魔剣が全ての攻撃に対応できるかもわからないし、神様の言ってることとかわけわかんないことも多いけど!


「ああああ”あ”あ”ぁ”ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


内に残った不安をかき消すように叫んだ。


 きっとこれが最後のチャンスだ!絶対に!絶対に母さんを救ってみせる!



『________________!!』





 何も警戒せず一直線でダンジョンに向かったから、来たときより断然早く着いた。平原に着くと控えていた冒険者やギルド職員に呼び止められるが構わずダンジョンに向かう。


 ようやく扉まで来た。


すぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ…

「母さんを助けてください!!」


 大声をあげ、俺はダンジョンの扉に触れた。




「おい!大丈夫か?これから戦争なんだ、しっかりしろよ」


 その声を聞いてはっとする。

 声がした方を向くと、スキンヘッドのおっさんと目があった。

 どうやら、今回の試練は戦争に勝利するというものらしい。


いや、そんなこと考えている暇はない!


「見ているんでしょう!?お願いです!母さんを助けてください!」


 周りの目などきにせずひたすらに叫ぶ。


「悪魔さん!お願いです!母さんを助けてください!」


 何十年分の夢を見たかだろうから、ここが現実ではなく夢なんだと、なんとなくで理解できる。


 そもそも、悪魔が死者を蘇らせる事が出来るのか、蘇らせる事が出来たとして、それをしてくれるのかは分からないが。今はただ、悪魔に助けを乞うしかない。


「お願いです!何でもします!俺にできることなら何でもしますから!!母さんを!母さんを助けてください!」



 ただ叫んだ。

 周りの静止など聞かず周りが俺を止めようしとてくるのを押し退けひたすらに叫んだ。




そうして喉も枯れる頃、俺の視界は暗転した。






「はっ…!」


 目が覚め、辺を見回す。

 魔剣はあるが母さんは見あたらず、辺りは見慣れない光景が広がっていた。

 明らかに土ではない硬い地面が広がっており、塔のように縦に伸びた形の建物が無数に存在している。そしてその全てが緑に覆われていて、建物の殆どは無惨にも破壊されていた。

 破壊された残骸が地面に多数転がっているところを見るに、そういうデザインと言う訳でもなく、多分、放棄された廃都市かなにかなのだろう。


 あの化け物よりかは小さいが、それでも相当でかい建物に囲まれると、なんというか圧巻だ。


 そんなことを考えていると。


「目が覚めたか、少年」


 ふと、若い男の声が聞こえた。神様が言っていた悪魔かと思い、急いで振り返る。


「あぁそうだ。多分俺が、神が言ってたっていう悪魔だろうな。それにしても、『敵に頼るのもいいかもな』とは言ったが、まさかその日のうちに本当に頼ってくるとは思わなかったぞ」


 黒髪で黒い服を着た、目つきの悪い男が立っていた。

 人にしか見えないがこの人が悪魔なのか?なんにせよ俺はこの人に頼るしかない。


「お願いです!母さんを_」

「態々言わなくてもいい。要件はわかっている。母親の復元だろう?良かったな、うちのダンジョンマスターが助けるそうだぞ('マスターがな')」


 へ…?そんなあっさり…。

 いや、助けてくれるって言うんだから今は喜べばいいのか?


「だがなぁガキンチョ。なんの対価もなしに施しを受けられると思ったら大間違いだ」

「対価……俺にできることなら何でもします!命も差し出します!だからどうか!母さんを助けてください!」

「そう早まるな、お前さんが用意できる対価なんざたかが知れているだろう?だからなぁ。試練を一つくれてやる。それもこのダンジョンでの試練じゃぁない。いいか?あの馬鹿デカい木の魔物をこのダンジョンに転移させろ。それが試練だ」


 あの化け物をここに転移させる…?


「ああそうだ。ダンジョンの入り口である扉に奴を触れさせるだけでいい。わかったらとっとと行ってこい」


冷たい風が頬を撫でる。


 少し落ち着き、あの化け物のことを考える。

 それくらいなら…いけるか?


「分かりました。行ってきます。………えっと、どうやって外に出ればいいんでしょうか?」


 あたりを見回しても扉も何も見つからない。


「あぁ…そこの扉からでろ」


 男がそう言い指を指した方を向くと、ダンジョンの入り口と同じ扉がポツンと存在していた。

 おかしい、さっきまでは確かになかったはずなのに…。

 いや、今はそんなことを考えている暇はない。一刻でも早く試練をクリアしないと。


「……なぁ、お前の母親もお前も、お前が愛した者も憎んだ者もいつかは死ぬんだぞ?母親ってんだから結局多分お前より早く死ぬ。それに、人は幸福より苦痛に敏感だ。生きてたって、辛いことばっかだろう。お前の母親は、お前の心配こそしていたものの概ね満足して死んだんだ。このまま寝かせてやってもいいんじゃないか?」


 ………。


「それでも、俺は母さんに幸せを返したいんです」


 そう言って、俺は扉に触れ外に出た。





平原から少し離れたところで、冒険者達が魔法を化け物に放っている。その中には見慣れた受付嬢の姿もあった。


 あの受付嬢さん戦えたんだ…。みんな一斉に攻撃してるけど

全く効いている様子がないな…それどころか化け物は羽虫を払いのけるかのごとく枝を振るい反撃をしている。

 一撃一撃は大した事なさそうだが数が多すぎるみたいで一人、また一人と人が死んでいく。これじゃぁジリ貧だな。


「お、おい!火魔法も効かねぇぞ!」

「こんなの無理だぁぁ!」

「逃げろおぉ!!」

「いやだぁぁ!死にたくないぃぃ!!」

「落ち着いて下さい!慌てていたら被害が拡大します!」

「くっ…時間稼ぎもできそうにありません!退却しましょう!」

「みな、バラバラに逃げろ!少しでも生き残る人数を増やすぞぉ!」


 どうやら、バラバラに逃げるようだ。

 うーん、バラバラに逃げたのを追って化け物がダンジョンから離れるのは避けたいなぁ。


「皆さん!ダンジョンの中なら安全です!ダンジョンに逃げてください!」


 うそ、でも多分ないだろう。

 ダンジョンで会ったあの男の様子を見るに、多分この化け物を何とかするすべを持っているだろうからな。


「うああぁぁぁ!!にげろぉぉぉ!」

「ちょっと!こっち来ないでよ!あっちに逃げて!」

「ふざけんなよ!あの化け物はあっちに行こうとしてんだぞ!?」

「死にたくないぃぃぃぃ!!」


 残念ながら誰も聞いていないようだ。というか、なんで練度の低い低ランク冒険者がここにいるんだよ…。


『悪魔ぁぁぁぁぁぁ!まだ出てこないつもりかぁぁぁ!!」


 化け物は未だ悪魔にご執心。…挑発に乗っかってくれるかな?


すぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ…

「[我流魔剣術両断法:無造]!」


 魔剣を斜めに振り下ろす。


「はは、流石に硬いな」

『ウぅぅぅんんんんんんん?戻っテきたのかニンゲンンンンンン!!!殺してやるぅぅ!今度こそぉぉぉぉぉお!!!』


 口で挑発するまでもなく標的が俺に移ってくれたようで、大小様々な枝を無数に俺に放ってきた。

 枝は魔力で強化されているようだが、問題なく切り刻むことができる。


 必要最低限とは言わずにできるだけ多くの枝を切り落としながら、距離を離しすぎないように適度な距離を保って化け物をおびき寄せる。


 よし!このままダンジョンまで連れて行こう。




『シねぇぇぇぇぇぇ!!!!ニンゲン風情がぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

「がぁ”……ぐはぁぁ”!……う”ぐっ…!」


 クッソが!急に攻撃が激しくなってきた!

 数が多すぎるし、切ってもすぐに伸びるから対応しきれない!


 今の所、打撃でのダメージばかりだがこれ以上続くとやばいぞ!


『ほラほラどうしタぁぁぁぁ!!ニンゲンンンンンン!!!もう終わりカあぁぁぁぁぁぁ!!???ギャハハハハハハハ!!!!』

「ばーか!!お前こそこの程度なのか?人間一人殺すのにここまで苦労して恥ずかしくないのか!これじゃあゴブリン以下だなあ”っ!!」


 やばい…!左太腿と右足を貫かれた!

 貫いてきた枝はすぐに切ったけど、この足じゃダンジョンまで持たないかもしれない…!


『余裕モないのニしゃべるカらコウなるンダヨぉぉぉぉぉぉぉ!!!ソのままシねぇぇぇぇぇぇ!!!』

「っ!!」


 咄嗟に地面に刺した魔剣を伸ばして俺ごと柄をその場から移動させ攻撃を避けたけが、今のはあいつが俺を確実に殺せるとふんで枝一本で攻撃してきてくれたから避けられたもの。

 またあの猛攻が来たらヤバい…!


『マだあガクのカァァニンゲンンンンンン!!!!サっさトシネぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』


空は枝でほとんど見なくなり、ありとあらゆる方向から枝が俺を殺さんと伸びてくる。



 今はなんとか対処しているが、このままだとジリ貧だぞ!

 考えろ!どうする?どうすれば生き残れる!?


「グッ…!!……いっ!」


 もう少しなのに…!!


考えても考えても策は浮かばず傷ばかりが増えていく。


 後、もう少しだったのに…!


『てこずっておるようじゃのぉ。どれ、加護でもくれてやろう』

「はっ…!」


 次の瞬間、魔剣から莫大な魔力が漏れ出てきた。

 それだけではない。急に痛みが和らぎ力が湧いてきた。体力も回復している気がする。

 聞こえた声から察するに神様が加護をくれたのだろう。


 (ありがとうございます神様!これでまだ戦えます!!)


 すぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ…

 _我流魔剣術抜刀法裏:無尽_


一にして幾千もの刃が一瞬で周囲の枝を切り刻んだ。空からはまた日の光がさしこむ。


「どうした化け物ぉぉ!そんなんじゃ俺は殺せないぞぉ!!」


 挑発は短めにダンジョンに急ぐ!


『ニンゲンンンンンン!!!ナにをシタァァァァァ!!!ソの'力'はナンダァァァァァァァ!!!』


 一層攻撃が激しくなったが今の俺なら問題ない。

 いける!このままダンジョンにコイツを連れて行く!


『シネェェェェェェェェェェェエ!!!!シネェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!』


化け物が一心不乱に攻撃してくる。


左右から、前後から、上下から、360度ありとあらゆる角度からの猛攻。

それをもはや限界に近い体を酷使してなんとか防ぐ。


もはや扉は目と鼻の先。


あと少し…ほんの少しなのだが……


『ニンゲンンンンンンンンンン!!!テンイ ヲ ツカッテ ナニヲスルキダァァァァァァ!!!!バレテンダヨォォォォォ!!!!!!』


 ああ、こいつそう言えば、コイツ魔力に敏感だったっけ…。


化け物は後数十メートルのところから近づこうとしない。


「怖気づいたのか化け物ぉぉ!!!お前みたいな腰抜けに俺は殺せねぇぞぉぉぉ!!!」

『ニンゲンホド バカジャナイカラナァァァァァ!!!ソノトビラニ フレサセヨウト シタンダロウガァァァァァァ!ムダダッタナアァァァァァァァァ!!!!!』


 ちっ…!ここまで来てこれかよ!


「グッッ!」


 やべぇ、油断して地面から伸びた根に両足を刺されてしまった。


『クハハハハハハハハァァァァ!!マヌケガァァァァァァ!!!シネェェェェェェェェェェ!!!!!』



グサッ………



今度こそ、止めの一撃が俺の腹に突き刺さった。


「がぁ”っ…あ”っ!」


 幸いまだ上半身と下半身は繋がっている。


 ハハッマヌケはお前だ。


 扉への距離は10㍍もない。


「魔剣!全ての魔力出し切るぞ!!」


 魔剣を変形させ鎧のように身に纏わせる。

 足しからは幾本もの鞭を根のように地面へ潜りこませ化け物にふっ飛ばされないようにする。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ!!!!!!!!」


今ある全ての力で化け物の枝を引っ張る


『シニゾコナイガァァァァァァァァァァァ!!!!』


 化け物も俺を殺そうと枝を突き刺してくる。


 ああ良かった。無数にあるあの枝全を使って俺を持ち上げられてたら流石になすすべ無かったんだが、どうやら化け物は冷静じゃ無いようだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


一歩、また一歩と足を動かし根を移動させる。


あともう少し、後数歩……


『バカガァァァァァァァァ!!!エダヲキレバ スム ハナシナンダヨォォォォォォォ!!!!』

『ふん。少し大人しくしておれ(これくらいならいいじゃろう)』

『ダッ_』


「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


『ナッ!!クッソッガァァァァァァァァァ!!!!!』



 その絶叫を最後に、ヤツは姿を消した。



どさり……


その場に倒れる。


もう力なんて全く残ってない。

魔剣もボロボロで、魔力も残っていないようだ。


(ありがとう。お前のお陰でここまで来れたよ)


魔剣をなけなしの力でそっと触れる。




意識が朦朧としていく。



もはや痛みも感じない。



あるのはただ、やりきったという達成感だけだった。



(父さん…今そっちに行くね………あぁ…母さん……一人で大丈夫なぁ………)



目を閉じ、暖かな日の光を感じながら



暗闇へと身を委ねる





















「お疲れ様。ゆっくり休みなさい」




そんな声が、聞こえた気がした。


後ほんの少しだけ続きます。

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