俺をいじめないでぇ!(椅子壊さないでー!)
2話同日投稿、明日は槍が降る可能性あり。
☆これが噂の三人称視点
床にうつ伏せで寝そべっている少年の意識が覚醒した。
「お目覚めのようだな」
聞き覚えのない男の声がして、少年は咄嗟に飛び起きる。
手に握られている魔剣を見て安堵し、声の主の方を向く。
目に映るのは豪華な椅子に腰掛けて足を組み、ふてぶてしく頬杖をついている黒髪の青年の姿だった。
(あのふてぶてしさ、魔王…に似てるけど多分違うな。殺気も敵意も威圧感も感じない…。魔王?
あ、そうだ。俺心臓潰れたんだった。治ってるってことはダンジョンの外に出たのか…?いや違う。は……!?何だコレ本当に全部夢だったのか? 嘘だろ…?結局何も_)
悪魔が植え付けた"事実"を確認し少年は慌てふためく。
されども悪魔は気にしないように言葉を続ける。
「お前の知らないであろう知識を植え付けておいた、お前が今考えていることは事実だ。混乱しているようだが、話を進ませてもらうぞ?」
(これが、事実?現実に戻ったのか?もう、繰り返さないのか?)
確かにそうだ。もう繰り返すことはない。もう、何度も何度も母親の死を実感することはない。
がだそれと同時に、もうこれから起きることは全て取り返しのつかないことに戻ったのだ。
「お前は見事5つの試練をクリアしてみせた。そして、次が最後の試練だ。名を、[終わりを告げる万魔の音色]という。内容は簡単、俺を倒すだけだ」
「終わりを告げる…万魔の音色…?」
言動はおぼつかないものになっているが、それでも覚醒直後で回らない頭を必死にまわす。
「ああ。名前のある試練をこのダンジョンではネームドと呼んでいるんだが(今考えた)、基本はCランク冒険者以上にしか出さないからな。お前はこれが初めてか」
(ネームド?そんなのがあったのか。じゃあもしかして、俺が受けていた試練なんて簡単なものだったのか?いやでも、あの男からはなんの力も感じない…。
魔剣の力は使えそうだし、いける、か?)
だが少年の無邪気な希望も、次の瞬間にはあっさりと打ち砕かれた。
「まぁもっとも、そう易易と乗り越えさせてやる気はないがな」
「ひっ…!?」
頬杖をやめ足を組み直し、少年を脅す。いや、脅してすらいない。
だが一瞬で少年は悪魔との実力の差を理解してしまった。
悪魔からすればほんの少し"自分"を少年に見せただけ。それでも、人からすればそれは、耐え難い畏怖を感じさせるものだった。
(なんだよ…これ…。何だってこんなのが存在しているんだよ…!嘘だろう!?これを倒すなんてできるはずがない!
終わりなのか?俺は結局、何もできずに終わるのか…!?俺は…ここで…死ぬのか?)
「恐ろしいか?逃げ出したいか?ならば後ろを向いて扉の方へかけるが良い。何にせよ第五の試練は乗り越えたのだ。褒美として多少の魔核くらいはくれてやる。
まぁ、俺から逃げてその扉を出たのなら。このダンジョンの記憶を殆ど消させてもらうがな。もっとも、お前からすればそっちのほうが都合がいいのではないか?無事に帰ることができて、褒美までもらえて。母親は死ぬが、別に何度も乗り越えてきたことだ、今更どうだっていいだろう?
されども俺に立ち向かうというのなら、まぁ、多少は違った結果になるだろうよ。試練の結果は分かりきっているがなぁ」
(逃げれば…助かるのか…?もう苦しまなくていいのか?
そうだよ、俺も随分頑張った。この辺で終わりにしよう。母さんのことは残念だけど…アレが言ってるように今まで何度も経験したことだ。きっと乗り越えられる)
記憶を消すと悪魔は言った。ものの考え方までリセットするかどうかはわからないが、少なくとも少年は、次の母親の死が初めてのものになるだろう。
それを少年は理解できていない。
自分に都合のいいことしか考えられていない。
自分の都合のいいように、考えを捻じ曲げている。
「ああそうだ。お前ももう疲れただろう?幾度も幾度も同じ時を過ごしてきたんだ、気が狂いそうだっただろう?お前はそれを乗り越えたんだ。ここで死んだら元も子もない。生きる意思があるのなら(母親の生を諦めるのなら)、ここを立ち去るがいい」
「俺は……俺は………」
(立ち向かっても殺されるだけだ。それなら、俺も母さんも死ぬんじゃなくて、俺くらいは生きたほうが母さんも喜ぶよな…?
ああそうだ!何をしたって母さんが死ぬ未来は変えられない。
何度も何度も繰り返してわかったことだ。
……………
ああでも……それでも…なんでかな?
後ろを向こうと思えないんだ。
あぁ、怖いなぁ…死にたくないなぁ…けど、後ろを向くこともできないなぁ……はぁぁ…
すぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ…
大丈夫。安心しろ俺。剣を伸ばして一瞬で細切れにすればいいだけだ、きっと今度も上手くいく。)
少年はふらっと立ち上がり体制を整えた。
死の恐怖を前にしてもなお何故戦うのか。少年自身も分かっていない様であるが答えはくだらなく単純なもの。
ただ、狂ってしまっているのだ。
いくら恐怖に打ちひしがれても、前へ前へと勝手に足が動いてしまう。たとえその先が崖であろうと変わらない。
はじめに抱いた母親を救うという決意は、少し歪んで少年の生きる動力になってしまっているのだ。
(使う技は無刃。それを一瞬で何度も繰り出す。
落ち着けぇ…おれぇ…今まで通り、何とかなるさ。
すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…
ああでもやっぱ、これが最後かもしれないなぁ。
………我流魔剣術抜刀法裏:無尽…!!)
少年が魔剣を振るう。曲げていた肘を伸ばして手首を曲げ、最初に狙うは悪魔の首。
神速とも言えよう速度で振るわれた魔剣は、悪魔の首筋に届き……
「ッガア”ッッ…!!!」
(はっ……?なん…で、腕が弾かれて…?)
腕の痛みに思わずそらした目線を、少年は今一度悪魔の方へと向ける。
そこには、左手で伸ばされた魔剣をつまんでいる悪魔がいた。
あと1ミリ程でとどいたであろう、それくらい少年の刃は悪魔に迫っていた。
だが、その1ミリがあまりにも遠かった。
「俺が、お前の手の内を把握していないとでも思ったのか?まぁもっとも、知らなくてもこの程度の攻撃じゃ傷一つ負うことはないけどな」
(は…はは…。結局駄目だった。まぁ、そんなもんか。ごめんね、母さん。俺じゃぁ母さんを救えなかったよ。
結局何もできずにここで死ぬのかぁ。
怖いけど、なんか。肩の荷が下りたような気がする。
もしかしたら全部ウソで、またあの日に戻るのかもしれないけど……願わくばどうか…あの世でいいから、本当の母さんにもう一度会いたいな)
「(これで終わりか…。まぁ、どんな理由であろうと、理由がなかろうと、最後まで挑み続けたんだ。人にしてはたいしたものか。そんなこと本人には言わないけどな。)
……はぁぁ…くっだらない。今ので終わりか。期待外れ、でもないか。どうせ元からたかが知れていたのだ。少年の抜け殻よ、お前は殺す価値すら感じん。策がないならとっとと失せろ」
そう言い悪魔は魔剣を包丁の形に戻して、少年の方へと投げる。
悪魔の心底失望したような顔をみて、少年は何も言えずに魔剣を拾った。心は無力感に満たされ、何も考えられない様子だ。
魔剣を拾った少年はトボトボと出口に向かって歩きだす。
ふらつく足取りに、目は焦点すらあっていなかった。
悪魔はふと、忘れていたことを思い出したかのように、その弱々しい背中に声をかけた。
「そういえば、報酬を伝え忘れていたな」
(報酬…?あぁ…魔核、かな…うれば…医者もやとえるかな…?ああでも…医者を探す時間なんて……母さんにはないか…)
少年は立ち止まり、かすれるような思考をする。
「魔核?アホかお前、俺の話を聞いてなかったのか?」
(……?でも…)
「確かに報酬で魔核をくれてやると言ったが、その後に立ち向かってきたら多少結果はかわるだろうと言っただろう?なんだ?眠り過ぎてまだ頭が働いてないのか?」
少年はこれ以上何も言えず、何も考えられなかった。ただその場に身を任せるのみでいた。
「金や魔核、その他の物的報酬を今のお前に渡したところで他のやつに奪われるだけだろうよ。だから俺は考えた。考えるまでもない事だったが……最初からお前は母親の病を治すすべが欲しくてここにやってきたのだろう?だから今しがた、母親の病を直してやった」
「え……」
「不満か?だが褒美を変えてやる気はないぞ」
「どう…して?なんで…そこまで…」
「何だ満足しているのか…。決まっていよう。お前が俺の心を突き動かしたからだ。愛する者の死を起点とした時の牢獄で、お前は確かに歩みを止めなかった。それが、前へ進んでいようと後ろへ進んでいようとな。
最後は横やりがあったし、お前の心も狂ってしまっているのかもしれんが、それでも、何十年もの間足掻き続けたお前の旅路を無駄にしようとは思えない。
誇っていいんだぞ少年。そのまま失意に溺れるのもいいが、まだ進み足りないというのなら胸を張って扉に向かって行け」
「っ…!!」
何かを思い出したかのようにハッとした少年は、魔剣を杖の形にして体を支え、なにかに駆り立てられるかのように扉へ急いだ。
未だ遅い歩みだが、たしかにまえに進んでいた。
「最後に忠告だ。ここはもう現実、お前がいくら遅い歩みで家に帰ろうが、繰り返される日々に恐怖し明日を拒もうが、お前の母親は生きてお前の帰りを待っているし、時間は戻らず明日は来る。それと同時に、お前に二度目のチャンスはない。夢の中と同じ思考でいたら、すぐに取り返しのつかない事態になるぞ。
……だからお前は、人を頼れ。母親でもいい、友人でもいい、ギルドの関係者でもいい、最悪敵でもいいかもな。兎に角、自分一人で抱え込まないことだ」
聞いていなかった訳ではないが返答はしない。
ひたすらに前に進んだ。
未だに不安は残っているが。
確かな希望を胸にいだき。
少年はただ、前に進んだ。
少年がダンジョンを出てすぐ。
「うわあ”ぎもぢ悪いぃぃぃぃぃ!!!」
誰もいない部屋の中、奇声を発しながら玉座頭を打ち付ける悪魔がいた。
『な、何やってんの!?それ高いんだから壊さないでよ!』
「今となっちゃーはしたポイントでしょうがこんなもの!そんなことより聞いていやがりましたねマスター!!」
『な、何のことよ』
「俺の気持ち悪い言動の数々に決まっているじゃないですがぁ”ーーーーー!!!!」
『えぇ、良かったと思うけどなぁ。『誇れよ少年。お前はそれだけのことをしたんだ』って。私は好きよ?そういうの』
「グア”ァ”ーーーー!!!やめてーいっときの迷いで吐いたセリフ繋げないでぇ!!」
『誇ってもいいのよ、キサラギ!恥ずかしがってのたうち回るのもいいけど、胸を張って生きなさい!』
「がぁーー!!!マスターがいじめるーー」
悪魔は更に強く頭を打ち付ける。
『ちょっ!!いま変な音なった!ごめんって謝るから椅子壊さないで!!』
「あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」
『ちょっとホントにやめて!駄目だってそれ以上やったら!』
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二人そろってどんちゃん騒ぎ
楽しい時間 終わりも早く
脅威は迫る 憤怒を糧に
かたや幼子脅威に敗れ
人の子たどる 愛しき影を
されども希望 潰えるなかれ
人の子抱え幼子走る
悪より試練 善より剣を
試練乗り越え 奇跡を起こせ
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久しぶりの次回予告
「ごめんねぇ…もう…ダメみたい……でも、よかったぁ…最期にもう一度……貴方に……あえ………」
「嘘だろ!?せっかく会えたのに!やっと救えたと思ったのに!!こんなの…こんなのありかよ……!」




