狂った世界の平和な日常
★どこぞの少年冒険者
早朝。木々に隠れていた朝日が顔をみせ、少し経った頃。
はや歩き慣れた道を踏みしめ重々しく歩を進める。
目先には朝露がきらきらと輝きをはなっている。
もう2週間過ぎたんだぞ…このままじゃ母さんを助けるなんてことできるわけがない。
他のダンジョンに行くか?無理だ。時間もお金もない。
もういっそ諦めるか?いやだ。母さんは絶対助ける。
でもどうやって…?もういっそ犯罪に手を染めれば…って何馬鹿なこと考えてんだ俺は!
…いつもの様にぐだぐだ思考を巡らせていると、すぐに冒険者ギルドについた。
オレンジを基調とした色合いの建物で他の建物より二回りほど大きい。
入口は両開きの扉が大きく開かれており、これは今現在活動しているということだそうだ。
中に入ると、まだ中に冒険者はおらずギルド職員の人も少し眠たげな表情をしている。
見慣れた受付嬢の人がいるカウンターまで歩を進める。
「おはようございます。今日もお早いですね」
にこやかな表情で挨拶してくれる。
ここに来た当初は美人な女性相手にしどろもどろになってしまった。そんな恥ずかしい思い出が脳裏よぎる。
「おはようございます。村から言伝がないか聞きに来ぃーました…」
「フフッ。無理して敬語を使おうとしなくても大丈夫ですよ。そして、クライムさんへの言伝は届いておりません。ですが_」
「わかります。来てないってことはまだ母さんが生きてるということ、ですね。いつも気を使ってもらってすいません。」
「わかっているのならその事については何も言いません。ですが、最近ご飯を食べていますか?日に日にやつれているように見えますよ?お母様の薬代に使いたい気持ちは分かりますが、それでクライムさんが倒れては元も子もありませんよ」
………
「食べていますよ。それじゃあ」
そう告げ早足で去る。
そんなことを言う時点でわかっていないじゃないか。心配してくれているのはわかるが、放おってくれ。
…はぁ、どうして俺はこういう……
やがて、御大層な扉の前まで来た。
だが、ダンジョンに入ろうと扉に手を伸ばすがためらってしまった。
今日は、どこまで行けるのだろうか。いくら稼げるのだろうか。また、死ななきゃならないのだろうか。本当はわかっているだろうに、母さんは救えない。もう諦めたらどうだろうか。村に戻って母さんの最期まで一緒にいてあげたほうがいいのではないだろうか。
不安が頭を覆う。この扉の前まで来ると、日に日に不安が大きくなっているのがわかる。
それでも、それでも感情を押し殺して進まなきゃならない。
目をつむり扉に触れ、ダンジョンへ挑むと思考する。すると、一瞬の浮遊感が俺をおそう。
今ではなれたこの動作だが、前は光にビックリしたり浮遊感に慌てたりしていた。
目を開ける。視界には鬱蒼と茂る森が広がっている。
「すぅぅぅ…ふぅぅぅ…」
深呼吸をして辺りを見回す。
いつもいつも違う森。だけれど何故かやらなければならない事はわかる。
できるだけ音をたてないように[マンドレイク]を探す。マンドレイク5つを集めればクリアらしい。ただ探すだけなら楽でいいのだが、いつもと同じようにゴブリンが襲いかかって来るだろう。
かさっ
「!!」
鼓動が速くなるのを感じながら、息を潜めそっと俺の全長ほどあろう草をかき分ける。
「……何もいない。ウサギかなんかだったのかな?……あっ、マンドレイク!」
今日はついている。まさかこんなに早く見つけることができるなんて。しかも5つ以上生えている。
根の部分が必要らしいから、引っこ抜くか。シャベルなんて持ってないしな。
採取するためしゃがみ、草を引っ張ろうとしたのだが。
「うーーっ!かたい!引っこ抜けないじゃんか!」
何度も試してみたがなかなか抜けず、仕方がないので地面を掘ることにした。
「はぁ…こんなことしてる間にゴブリンどもが来たらどうするんだよ…」
誰に言うでもなく、ただ悪態をつく。
ざく、ざく、ざく、ざく、
手で掘るにも地面が少しばかりかたいので、包丁をざくざくと地面に突き刺して柔らかくする。
……
「やっと抜けた…」
なんで草一つ掘り返すのにこんなに苦労するんだよ…はぁ…
けどまぁ、この調子ならいつもより早く第2の試練まで行けそうだな。
「ギャギャッ」
ゴブリンの声が聞こえ息を呑む。後ろを振り向くと2体のゴブリンがこっちに走ってきていた。
「!!!!」
走ってくる!どうする!?にげるか!?
いやいや落ち着け俺!このまま逃げたらせっかく見つけたマンドレイクを見失うかもしれない!2体くらい倒してしまおう!
向かってくるゴブリンに包丁をむけ集中する。ゴブリンの武器が木の棍棒だとしても油断はしちゃだめだ。
俺から見て左にいるゴブリンが右手の棍棒を振り下ろす。俺はそれを左に跳ぶようによける。
これで右にいるゴブリンは攻撃できない、このゴブリンから追撃が来ないうちに首を切る!
ぶしゅっっ
血しぶきが舞う。
「ギャァァァァ!!!」
「ギョギャッ」
動揺しているっ!これなら!
右足で踏み込み、右のゴブリンに包丁で刺突を繰り出す。
が、棍棒で防がれた。
「ちっ!」
舌打ちをうちつつ、すぐに包丁を引き抜く。
「ギャァァァアア!」
叫びながらゴブリンが右手に持った棍棒を振り下ろす。それをさっきと同じように避けて、さっきと同じように首に包丁をつきたてる。
「ギョアアアア!」
……勝った…!
ゴブリンとの戦闘も中ななれてきた。今の調子で行けばすぐに第2の試練に行ける!
そう、思っていた。
「なんで狼がいるんだよ!」
「ガウッ!!」
「ひいっ!あ、あっちいっっっでぇぇぇっっ!!」
やばい!足を噛まれt_
「あ………」
気がついたら草原に寝っ転がっていた。
試練に破れたあとはいつもこうだ。
「はぁぁ…まだ時間あるしもう一回行くか…」
……………
冷たい夜風が頬をなでる。
…結局、また500オルしか稼げなかった。
はぁ…どうせ死なないんならもう一度行こうかな…いや、前に徹夜して結局1オルも稼げずに終わったんだった。それに、他の冒険者も夜は試練が難しくなるっていってたし、やめたほうがいいか。
今日は、もう寝よう。
………
チュンチュンチュン
……朝、か。
ベッドから起き上がり服を着替える。
母さんは、まだ生きているだろうか…
……いや、生きているさ。何後ろ向きに考えてんだ俺。
宿の食堂に降りると、赤い髪でふくよかな体型をした女将が俺に気づき挨拶をしてくれた。
「あら、おはよう。今日も早いわね」
「おはようございます。いつものパンをください」
「んーいや。今日はサービスしてあげるからこれを食べていきなさい。ちゃんと食べて体力つけないと稼げるものも稼げなくなるわよ」
「いやいや!(なんて言うんだっけ…あ、そう)悪いですよ、タダでもらっちゃ」
「いーのいーの。アンタくらいのはまだまだ子供の域よ、遠慮なんてしないで、食べなさい。それとも、私の料理は食べたくない?」
「そんなことないですけど…」
「じゃー食べなさい。ほら!」
テーブルの上にスープと具沢山のサンドイッチが置かれた。
湯気があがっている半透明のスープの中には、野菜と肉が入っていた。スープとサンドイッチもそれなりに量がある。
これ、いくらするんだろう…
「やっぱりその…」
「早く食べないとさめちゃうよ。観念して食べなさい」
「……いただきます」
スープをスプーンですくい口の中に入れる。
うまい…久しぶりに味のあるものを食べた気がする。
「うん!それ食べたらお金出さずにさっさとダンジョンいってきな!あ、でも、無理はしちゃだめよ」
女将が満足げな顔で宿の外に出ていく。
ありがとうとも、美味しいとも伝えられなかったな。
食べ終わって外に出ても女将の姿はなく、探そうとも思ったがそのままギルドへと来た。
「おはようございます。今日はなんだかいつもより元気そうで安心しました」
「そう、ですか。それで、言伝はありますか?」
受付嬢は目をつむりバターブロンドの髪を左右に揺らす。
「まだ、来ていません」
「そうですか、それじゃぁ」
ギルドから出るとき、赤い髪で顔の整った俺くらいの歳の少年がギルドに入ってきた。
レザーアーマーをきており、剣を背負っている。
アイツも、一人で挑んでいるのだろうか…誘ったら、もっと稼げるかな…?
…いや、見ただけで雑魚だってわかる俺となんかじゃ組まないか。ただ稼ぎが悪くなるだけだろうしな。
パーティ…パーティかぁー。
そういえば、最近Fランクパーティが第三の試練クリアしてCランクの魔核を手に入れたのだとか。前はクリア者の持ち物が大半なくなっていたらしいけど、最近は高価なものはほとんどなくならないらしいし。
やっぱパーティだといっぱい稼げんのかなぁー。
……っと、そうこうしてるちに着いちゃったか。
はぁ、せめて第二の試練をクリアできれば一万オルなんだけどなぁー。ていうか、第一の試練の報酬だけ安すぎるだろ…
そして一瞬の浮遊感、そしていつもと同じように目を開けた先には森が広がっている。そう、考えた。
だが目を開けた先に広がっているのは全く別のものだった。
地面は落ち葉で覆われてはいなく、木々も存在せずましては屋外と言えるかも定かでない。一度だけ見たことが、訪れたことがある。このドーム状の建物は正しく_
闘技場か…?一度見たことあるソレにそっくりだけど、まさか闘技場で戦う試練があるとは…
っと、早速ゴブリン一体が出てきた。まぁこれが試練だというのなら、よし!さっさと片付けよう。
ゴブリン一体を倒した次はゴブリン二体、次に三体、とどんどん増えてきた。
てことは次は4体か…流石にキツイな。
だが次に出てきたのはゴブリンと言うには少々大きかった、魔物の登場口から出てきたのは全長1,8㍍程もあるゴブリンだった。
そしてその右手には、ボロボロのロングソードが握られていた。
「ギョゴアァァァ!!」
ゴブリンじゃない!これは…ホブゴブリン!?
嘘だろ!?ホブゴブリンって言ったらEランクの魔物。安定して倒すにはEランク冒険者パーティが必要なんだぞ!?
俺に倒せるわけがない!
起きた時には死んだときの記憶が殆ど無いっつっても、殆ど無いからこそ毎度毎度死ぬのが怖くなんだよ!
なんでこんな…逃げられもしない、絶対死ななきゃいけない状況になんなきゃならねぇんだよ。
絶望が脳を埋め尽くす。
やはり、俺には無理だったんだ。こんな無理難題押し付けられるんなら、薬なんて買えるわけがない…
あぁ、ホブゴブリンが振り下ろす剣がやけに遅く感じられる…。また、死ぬのか…もう…やめようかな…どうせ薬は買えない。母さんは救えない。母さんは…死ぬ__
「ハッ!」
ホブゴブリンの攻撃を右に転がるようによける。
何諦めてんだよ…!
母さんを助けると決めた日の決意はそんなもんだったのかよ!
母さんを守れるようになれって父さんに言われたんだろうが!
あの日答えることはできなかったけど、絶対に守ってみせると、誓ったんだろうが!
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
包丁を右下から切り上げるように振るう。ホブゴブリンとの距離は1㍍以上ある。刃渡り20センチそこらじゃ確実に当たらない間合い。
だが…
「ギョアァァァァァァァ!!!」
その刃は確かにホブゴブリンの腕をを切り裂いた。
「これは、父さんが使ってた…」
手に握られているのはボロボロの包丁などでは無く、白銀色に輝く剣。いや、刀。
いつか父さんが使っていた剣。包丁を伸ばしたような奇妙な形の剣。これは、魔剣だったんだ!
勝てる!何かよくわからないけど力も湧いてくる!これならアイツだって倒せる!
「いくぞ!はぁぁぁぁあ!」
剣を上段に構え、動揺し距離を取ろうとしているホブゴブリンに向かってそれを振り下ろす。
振り下ろされた剣は地面をえぐり、直後視界が暗転した。
………………
朝、味のないパンを一つ咥えてギルドへと赴く。女将の心配そうな呆れたような顔から逃げるように。
「おはようございます…」
?受付嬢のお姉さんの声がいつもより暗くおもえる。
「おはようございます。村から言伝は来ていますか?」
「…はい。クライムさん向けに一つ、言伝を授かっております」
っ!!!
歯を食いしばる…わかっていた。ここでだらだらと冒険者をやるのはただの現実逃避なのだと。このままでは確実に母さんは死ぬのだと、わかっていたのに…
「…聞かせて…ください」
「…クライムさんのお母様が、お亡くなりになりました」
「そう……ですか…」
もしかしたら、どこかの優しい人が母さんを治してくれたかもしれないと思ったけど…現実は甘くないらしい…。いや、もしかしたら、死んでもここのダンジョンみたいに生き返るのかも。もしかしたら………
はぁぁ…村に帰ろう…
……………
ごと…ごと…ごと…ごと…
「どうしたんだい?さっきあった時から、随分暗い顔をしているけど」
ふと、声をかけられた。顔を上げると俺を馬車に乗せれくれた、俺や母さんと同じ髪色で優しい顔をした若い商人の男性が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「……母さんが、死んだそうです」
「それは…そうか…。ごめんね、僕も配慮が足りなかったかな」
何も言えずに俯いた。
なぜ、この人に話したんだろうか。暗い雰囲気になることくらいわかってたのに。
はぁぁ…まぁいいや…今は何も考えたくない。
「これ、食べるかい?朝に買ったサンドイッチなんだけど、買いすぎちゃってね。食べずに悪くするのもあれだし、食べてくれるとありがたいな」
「もらい、ます。ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそありがとう」
美味しい。ただ…美味しい。
「[コルラナ村]の近くまでって言う話だったけど。村まで送ろうか?」
「…いえ、大丈夫です」
「そっか。ごめんね、余計なこと言っちゃって。その…こんな時どうすればいいか分からなくてさ。僕もまだまだだね」
そういって、男性は困ったようにハハッと笑う。
どうしてそんな、泣きそうな顔をしているのだろうか。
…
ごとっごとっごとっごとっ…
もうすぐ、だろうか。まだ十分日が高い。思ったより随分早くついたな…
「ついたよ、確かこの分かれ道までだったよね」
「はい。ありがとうございました」
「いやいや、いいんだよ。お金ももらったしね」
「…さようなら」
頭を下げてそう口にし、自分の村の方へあるきだす。
「その!もし困ったことがあったら、フィーリアの町のライカン商店を訪ねてくれ!まだ小さな店だけど、できる限り君に手を貸すよ!それじゃぁ!」
返事をする間もなく馬車を動かし行ってしまった。
ライカン。たしかこの男性の名前だったかな。まぁ、多分行くことはないと思うけど。
とこ、とこ、とこ、
歩を進める度に胸がえも言われぬ感覚に襲われる。喪失感か、哀傷か、絶望か、、、
親の死は2度目だというのに、どうしてまたこんな…
どうして母さんだけが…
俺はまた何もできずに…
そもそも…
何かをなそうとしていたのか…?
とっくに…諦めていたんじゃないか…?
どうせ、薬代も稼げないと…
とっくに…
はぁ…馬鹿みたいだ…
とこ…とこ…とこ…
あと少し、あと少しで村につく。
あと少しで……いや、何も考えるな。
気がついたら、家のドアの前にたっていた。
「すぅぅぅ…ふぅぅぅ…」
深呼吸をして心を落ち着かせる。
まぁ、こんなことで落ち着くわけがないのだが…
横開きのドアを開ける。
音で、婆ちゃんが気づいて駆けつけてくれた。
涙を流しながら
「おかえり」
と、言ってくれた。
「ただいま」
そう言って母さんが寝ている部屋に行く。
部屋に入ると、爺ちゃんが母さんの横に座って厳しい顔をしていた。
「帰ったか」
重々しく、爺ちゃんが口を開く
「うん…」
「…母さんはな、最期までお前のことを心配していたぞ。お前に、会いたがっていたぞ」
「……そっか…ごめん、なさい」
ああ、本当に。馬鹿みたいだ。
思えば、俺が冒険者になるといった時から、母さんはすごく心配そうにしていた。
それからずっと俺のことを心配して…俺に会いたいって…こんな…悲しそうな顔して…馬鹿だ…おれ…
目が熱くなる。
「ごめん…ごめんよ。母さん…俺、何もできなかった。冒険者になって薬買うっていって…母さん心配させて…ずっと帰ってこなくて…母さん看取ることもできなくて……俺…………うぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
…………………………………………
夢を見た。
在りし日の、父さんの英雄譚。そのさいごをみた。
「おはよう。クライム」
「んんー。おはよぉ…母さん」
「フフ。もう、寝坊助さんったら。___さんも待ってるわよ。支度したらはやくいらっしゃい」
「はぁーい」
幼い頃の夢だった。
「それじゃぁ。いってくる」
「行ってらっしゃい___さん」
「いってらっしゃ~い」
父は狩りをしていた。
「父さん、今日はイノシシかれるかな?」
「あら、どうして?」
「だって、母さんのイノシシのお肉のスープ最近食べてないんだもん!もう2しゅうかんもたべてないよ?」
「あらあら、他の料理じゃ不満なのかしら?」
「えっ!そうじゃないよ!違うけど!あれ食べたいなって!」
「フフフ。分かっているわ、少し意地悪しちゃった」
「うぅぅ」
元冒険者の父さんは、村で一番強かった。
「それでそれで!?その後はどうなったの!?」
「その後はなぁ。こうザンッとオーガを一刀両断して母さんを助けたんだ!」
「すごーーい!」
「そうだろうそうだろう。それから母さんとな__」
俺は、父の冒険譚が好きだった。
「_ってわけだ。だからなぁ、冒険者になって見つけた一番の宝は母さんなんだよ」
「えーーっ!おれは!?」
「お前は冒険者を辞めてからの最初で最後の最高の宝ものだよ」
今思えば、少しキザだったけど。
そんなところも含めて、俺は父さんが大好きだった。
「おはよぉー。ってあれ?父さんと母さんがいない…」
…この続きは………
「どこ行っちゃったんだろう…」
見なくても………
「お外…かな…?人の声がいっぱい聞こえる…」
…………はぁ…
外には、全身に傷をおった血だらけの父さんが皆に囲まれていた。
「うそ…でしょ…何で…」
「ごめんなぁ…父さんちっとしくじっちまった」
「すぐ良くなるよね、うぐ…父さんは凄いぼうけんしゃなんだもん…ぐず……すぐ、傷も治るよね」
「泣くな、クライム。いいか、強い男になれ。母さんを守れるくらい、強くなりなさい」
「なんでぇ…なんでそんなこと…うっぐ」
「ハハッ。泣くな、父さんまで悲しくなっちまうじゃないか…」
「うぁぁぁぁぁあああああ!!!」
わんわんと泣き叫ぶ俺を、血だらけの手で撫でながら父さんは
「愛してる。俺の子に生まれてきてくれてありがとう_」
そう伝えて、手をおろした。
ぼやけた視界から見えた父さんの顔は
慈しみに満ちた笑みをうかべていた。
落ち着いた頃、母さんから事情を聞いた。
あの夜父さんは、盗賊に連れ去られた村の子を助けに行った。
最初は良かったが、子供を人質に取られて滅多刺しにされた。
それでもその時のすきをついて子供を人質に取った者を斬り、その後も大立ち回りをしたらしい。
この夢は、父さんの最期の英雄譚だ。
「おはようクライム」
「…おはよう、婆ちゃん」
「ご飯はできているよ。着替えたら居間にきなさい」
「うん…」
母さんは婆ちゃんから料理を教わったらしい。だからかとても、どこか懐かしく、温かい味がした。
「クライム。これからどうするんだ?」
「じいさん。それはもう少しあとでも」
「いいや、男だったらめそめそしないで直ぐに立ち直れ。そう遠くないうちに俺もばあさんも逝くんだ。クライム、お前のためにも。できることは早いうちにやっておきたい」
………これから、か。
正直、今日一日は何も考えたくない。
「明日じゃ、だめかな?」
「…じいさん。少なくとも、あと数日はいいんじゃないかい?」
「……できるだけ早く、気持ちの整理をつけておきなさい」
「うん…わかった」
「ごちそうさま。俺は少し、でかけてくるよ」
「あんまり遠くまで行かないようにね。それから、今日はお母さんを埋葬するから、その前にちゃんと帰ってきなさい」
婆ちゃんの声は心配そうで、こっちまで変な気持ちになる。
「ちょっとした散歩だから。気にしないで」
さっさっさっ…
思い出の中にある森を、二人とともに歩いた森を、望郷の念に沈みながら歩く。
『クライム!ここに野いちごが生えてるぞ!ほれ、食ってみろ』
『クライム。あまり走ってはだめよ。森は転びやすいんだから』
『クライム!瓜坊がいるぞ!その内また母さんのイノシシスープが食えるな!』
『クライム。一緒にここの山菜をつんでくれない?今夜はこれを使ってお料理しようと思うの』
『クライム!_』
『クライム_』
どさりっ…
遠い春の日に二人とピクニックをしに来た丘。あの日と同じで、空は雲一つなく広がっていた。
たしか、このあたりでサンドイッチを食べたんだよな。
「……これから、どうするか…」
冒険者を続ける?
爺ちゃんと婆ちゃんと一緒に土いじりでもするか?
もしくは町で働くのもいいかもしれない
「どれも、違うな」
あの頃の俺だったら、冒険者になるって息巻いていただろうに。
少し…少しだけ、眠ろう。
…… …… …… ……
夢を見た。
父さんが死んで落ち込んでいた俺を、必死に慰めてくれる女の子の夢を。
俺の初恋の相手との、美しい思い出を。
…… …… …… ……
頬に、冷たい感触が伝う。
「雨か…」
どれくらい寝ていたのだろうか。
空に光はなく、それどころか鈍色の雲に覆われすでに辺りは暗くなっていた。
「帰らないと…埋葬、終わっちゃったかな…?」
「ただいま…」
家に入りそう一言、すると慌てたように婆ちゃんが迎えに来てくれた。
「おかえり。これで体を拭きなさいな。ご飯はもう少し待っていてね」
「わかった。ありがとう」
それから少し、部屋でぼーっとしているとご飯ができたらしく婆ちゃんに呼ばれた。
「今日、埋葬に行けなくてごめん」
「…それについては何も言わん、そう婆さんときめた。俺としてはげんこつの一つでも落としてやりたいがな」
「そっか……それとさ。俺、爺ちゃんのあとを継ぐことにするよ」
「……本当にいいのか?」
「うん。もう、馬鹿なことはやめようと思う」
「そうか……」
全てを諦める決心は…もう、ついた。
………
チュンチュンチュン
「朝、か。昨日は結構な雨になっていたけど、晴れたんだな」
あれ、俺この部屋で寝たんだっけ?まぁ、いいか。
今日は爺ちゃんの畑仕事でも手伝おう。
「おはよう…」
居間に行くと、爺ちゃんと婆ちゃんがテーブルに座っていた。俺を待っていたらしく、テーブルの上には手つかずのご飯が並べられていた。
「待つくらいなら起してくれてよかったのに」
「…クライム。とりあえず座りなさい」
爺ちゃんが険しい声でいう。
なにか起きたのだろうか。
「どうしたの?」
「母さんな、お医者さんが言うにはもう一ヶ月も生きれないらしい」
………は?
何いってんだ?母さんはもう死んじまったろう?爺ちゃんおかしくなっちまったのか?
「何言ってんだよ爺ちゃん。しっかりしてくれよ。爺ちゃんまで_」
「クライム!これは事実だ…!」
「いや、意味わからないよ…婆ちゃん?」
「クライム。寝室でお母さんが寝てるから、ご飯を食べ終わったら会いに行ってあげなさい」
婆ちゃんまで何言って…なんで、昨日はあんな…母さん埋葬しておかしくなっちまったのか!?俺は受け入れたんだから、二人も頑張ってくれよ…!二人までおかしくなったら俺…
「クライム。信じたくないのはわかる、だけど事実なんだ。受け入れなさい」
「受け入れなきゃならないのはそっちだろう!?母さんは…死んだんだ!もういないんだよ!昨日二人で埋葬したんだろ!?どうしちまったんだ_」
「「クライム!!」」
「滅多なこと言うんじゃありません!母さんは薬があれば治る!もう死んだことにするなんて_」
「たから!、、あぁもう!なら寝室来てよ!それで夢も覚めるでしょ!?」
勢いよく立上がり寝室に早足でいく。そして二人の到着を待たずに勢いよく扉を開けた。
「ほら二人とも!母さんは_母さん…?」
何故か、死んだはずの母さんが驚いたようにこっちを見つめている…
「あらあら。おはようクライム。どうしちゃったの?」
え…なんで…母さんは…死んだはずじゃ…いやでも、目の前の母さんは本物で…それで…
「気が済んだかクライム。寝ぼけるのもいい加減にして、顔でも洗ってきなさい」
「そう…するよ…」
おかしくなったのは、俺のほうかもしれない。
………………………………
夢を見ていたのか、これが夢なのか。それとも、神様が時間を巻き戻してくれたのか。
わけがわからないが、この際なんでもいい。もう一度チャンスがあるのなら、今度は母さんが笑顔で逝けるように、最後の日、最後の時まで一緒にいようと思う。
……………
「それじゃぁ、行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい。最近冷えてきたから、体に気をつけてね」
朝早くから爺ちゃんの畑仕事を手伝う。終わったら村に来た冒険者や商人がいないか聞いて周り、いたのなら話を聞きに行く。できれば楽しい話がいい。母さんに話すための、母さんを喜ばせるための。
時には話を考える。あのダンジョンはあるらしいため、俺が知っている限りのダンジョンの話を。
誰も死なないダンジョン、海を見ることのできるダンジョン、そんな話を母さんにした。
「それでね、旅人はと魔女は結婚して最後に幸せを掴むことができたんだって」
「まあ!素敵な話ね」
良かった。この話も喜んでもらえなみたいだ。
母さんの笑顔をみてホッと胸をなでおろす。
「でもね。そう言うお話より、やっぱりクライムとマロンちゃんの話が聞きたいなぁ。最近あっているの?」
マロン。幼馴染で俺が密かに想いを抱いている女の子。
明るい茶色の髪を肩のあたりで切りそろえていて、いつもにこやかで、他の子より小柄だけど、それが可愛くて…
顔が熱くなるのを感じる。
「もう!放ったらかしにしてたら、マロンちゃんに愛想つかされちゃうわよ!」
「そ、そうはいっても…」
「今後クライムが独り身で寂しく暮らすと考えると、母さん死ぬに死ねないわ」
「えぇ…それはむしろ良いのでは…?」
「だめに決まっているでしょう!私はもう沢山貴方から幸せをもらったわ。でも、最後にクライムの男らしい姿を見せて安心させてちょうだい。
あ、でも。私に言われたから動くってゆうのはだめよ。ちゃんと考えて、マロンちゃんと幸せになりたいと思ったなら、母さんの事なんて忘れて二人で二人だけの時間を楽しみなさい。
どうせ、病気が悪化したら話すこともできなくなるの。私はもう十分。だから、自分の道を生きなさい。」
「自分の道……わかった!覚悟をきめるよ!母さんが生きてる内には無理かもだけど、絶対にマロンと結婚して見せる!!」
顔が熱い、血が沸騰しているかのようだ。
「そのいきよ!っ_ゴホッゴホッ!…」
「大丈夫!?」
「ええ…母さんは少し寝るから。また明日ねクライム」
「うん…おやすみ」
あれから何日経っているのだろう。あと何日残っているのだろう……
次の日から、俺は久しぶりにマロンと話すことにした。
母さんの事でマロンも最初は気分を落としていたようだけど、次第に本当の笑顔を見せてくれるようになった。
それから…
…
マロンとご飯を食べた。
精一杯見栄を張ってみたのだけれど。似合わないと、くすりと笑われてしまった。
…
マロンと森を散歩した。
一緒に山菜を積んだり、リスが好きだと前に言っていたから、頑張って探してみたり。
…
マロンと湖に行った。
俺は小さいときに行ったきりだったけど、マロンの提案で夕暮れに行こうって。落ちる夕日が湖面に映ゆり、確かにきれいだった。俺はその時のマロンに見惚れてしまっていたのだが。
…
マロンと買い物をした。
最近包丁の切れ味があんまり良くないらしい。せっかくだから、村を散策してみた。
…
マロンとあの丘に行った。
共に思い出を語り合った。温かな日差しの元、マロンの手作りサンドイッチを食べながら。
…
「クライム、おはよう」
「おはよう、婆ちゃん。母さん、どうだった?」
「もう、起きているのも辛いみたいだよ…」
「そっか…」
時間はない。もうすぐ母さんは…でも最後にせめて、俺の幸せを見せてあげたいな。
少し、動機が不純かもしれない。だけれど、前からマロンの事は好きだった。いつか告白しようとも思っていた…
…覚悟を、決めよう。
ホゥゥ…ホゥゥ…ホゥゥ…
夜も更けた頃、マロンとあの湖にいった。
湖面に揺れる月はきれいだったけれど、俺の内心はそれどころではなかった。
「きれい、だね…私、こんな夜中に外に出たの初めて。連れてきてくれてありがとう」
そう言ってにこやかに笑う。その笑顔に何時までも見惚れていたかったが、今日は覚悟を決めてここにきた。
言わなければならない。どのような結果になろうと、俺が俺の道をゆくと決めたからには。
「マロン。俺達さ、小さい時からずっと一緒にいて、楽しい時も親に怒られて落ちこんでいた時も一緒にいて。
喧嘩したこともあったけどずっと一緒にいてさ……それで、その…」
やばい!いざ言うとなったときに頭が真っ白になって、何かもうめちゃくちゃになってるような気がする……
「ゆっくりでいいよ。だから、ちゃんと伝えてほしいな」
「…父さんが死んだ時さ、俺のことをずっと励ましてくれたよな。その時からかな?ただの友達じゃなくて、女の子として意識し始めたの……」
父さんが死んでご飯も喉を通らなかった時、ずっと一緒にいてくれて、ずっと話を聞いてくれて、ずっと慰めてくれた。
あの時俺は、確かにマロンに救われた。
「それからずっとマロンの笑った顔が愛おしく思えて、声を聞いただけで心臓がはねて、一緒にいるだけで幸せで…
それでさ、その…もし良かったら…」
言え!言うんだ!この言葉を何年も言えずにいたのだろう!?ここまで来たんだ!臆すな!どのような結果になっても、それが俺の道なのだろう!?
「これからも俺を支えてほしい。
俺と一緒に幸せになって欲しい。
俺と…結婚してくれ」
返事がないこの間がすごく辛い。胸が張り裂けそうだ。
何かもう色々ふっとばしたような気がするけどこの際気にしない。
「私さ、クライムはお母さんが亡くなりそうだからとりあえず私と付き合って、安心させようと思ってるんじゃないかと思ってたんだ。
お母さんが亡くなりそうなのに急に私によく会いに来てくれるようになったから、なんかおかしいなって思っちゃって。」
実際、告白するきっかけになったのは母さんの言葉かもしれない。
「でもね、すぐそんなこと気にならなくなった。クライムが私と真剣に向き合ってくれたからだよ。
久しぶりにあった日は何か急いでる感じがバレバレだったけど、次にあった時にはそんな様子がなくなって、私のこと真剣に考えてくれて、喜ばせようと、楽しませようと頑張ってくれて。
色んなとこに行って色んなとこを話したよね。それで、前より濃密な時間を過ごしているうちにね、私もクライムともっと一緒にいたいって言う気持ちが強くなって」
………………。
「私も…クライムのことをこれからも支えてみせるから。
クライムも、私のことを幸せにしてね」
そ…
「それって…」
いや、もう一度聞くのは野暮だろう。彼女を見ればわかる。目は潤み、嬉しいさを必死に抑えている笑顔を見ればわかることだ。
「きっと…きっと幸せにするよ」
その後交わした口づけは…正直あまり覚えていない。
…………………
後日。母さんに報告しようとしたのだが、母さんが寝ていてできなかった。
「お義母さん、どうだった?」
「寝ていたよ…すごく、辛そうに」
「……そっか…明日は、私も部屋に行くよ。一緒に報告しよう?」
「病気がマロンにうつってしまうかもしれないよ」
「クライムがうつったら私もうつるんだから関係ないでしょう?」
「たしかに、そうだけど…」
「それに、お医者様もうつる可能性は殆ど無いって言ってたんでしょう?なら大丈夫だよ」
「そっか、わかった。明日は一緒に行こう」
「わかれば良し。フフッ」
また、起きている母さんに会えるだろうか。
…………
カァーーカァーーカァーー…
空が暗くなり始めた頃、仕事が終わった俺はマロンと母さんに婚約の報告しに一緒に家にきた。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい。クライム。それと、マロンちゃんも久しぶり」
「お、お久しぶりです」
「起きて大丈夫なのか!?」
「ええ!なんだがおめでたい感じがして、寝ていられなくなったのよ」
「おめでたい感じって…」
「ま、それはそうと。もうすぐでご飯できるから、居間で待っていてね」
「わ、わかったよ…」
「お邪魔します」
まさか…病気が治ったのか?
そう思えるほど、元気な様子だった。が、顔色はあまり良くなかったな…
「…お祖父さんかお祖母さんから私達のこときいて、無理しているのかな?」
「そう、かもしれないけど。いつもすごく辛そうだから、あんなに元気なのはそれだけじゃ納得行かないかな…」
「「「いただきます」」」
久しぶりに母さんの手料理を食べる。なんか、来るものがあるな…
「そういえば、婆ちゃんと爺ちゃんは?」
「今日は実家に帰るそうよ」
「えぇ…母さんの病状が悪化したらどうする気なんだ…」
「まぁまぁ、あんまり気にしないほうがいいわよ。それより、何か母さんに言いたいことあるんじゃない?母さん聞きたいなぁ。」
「…………。」
もう顔が熱くなっている…お、落ち着け俺。
すぅぅぅぅ…はぁぁぁぁ……よし!いける!
「俺、マロンと結婚する。もう相手方の親御さんには許可をもらっているんだ。だから_母さん?」
母さんが、泣いている。嬉し涙ならいいのだが、病気のせいかもしれないと思うと胸が苦しくなる。
「あぁ…ごめんね…私、嬉しくて…。クライムは昔からヘタレなところあったし、マロンちゃんはすごくいい子で可愛くて、高嶺の花なのかもしれないと思ったから…」
「そんな……私!クライムの事、初めてあったときから好きだったんです!」
……ええぇぇぇぇ!?!?!?
「小さい時から私あんまり要領が良くなくて、失敗ばかりする自分が好きじゃなかったんです。でも、クライムと初めてあった時、何となくそのことを話したら『おれはすぐ諦めちゃうんだ…でもマロンちゃんは諦めない。おれはそれが凄いと思うな』っていって、すごい眩しい笑顔で笑ったんです」
そんなことも…あったかなぁぁ…。あんまり覚えてないや。
「ほんの些細なことなんですけど、私はその言葉のおかげで前を向けるようになっていって、クライムともっと一緒にいたいって思えるようになって。それからもクライムに沢山勇気をもらって。
私、絶対クライムと幸せになります!だから…だから_」
「ええ。ありがとう。何かとダメダメなクライムですけれども、どうか…どうかクライムを支えてあげてください」
「はい…必ず…!」
それから、色々なことを話した。思い出話に花を咲かせては俺が赤面することになって、未来の話もした。父さんも母さんもいないけど、温かく穏やかな、幸せな未来の話を。
笑ったり、しんみりしたり。本当に楽しい最後を過ごした。
……
次の日、母さんは冷たくなっていた。
「クライム…」
「ああ、大丈夫だよ。今度はちゃんと、色々な話をすることができたから。思い残すことの無いよう…たくさん…たくさん話したから…」
大丈夫、大丈夫のハズなんだけどな…なぜだか、涙が流れてきた。
「大丈夫。私がいるからクライムは一人じゃないよ。それでも今日は、今日くらいは自分に正直になっていいんじゃないかな?」
そう言って、そっと抱きしめてくれた。
俺はただ、感情のままに泣いた。
………
それからは大忙しだった。挨拶に来た村の人の対応をしたり、葬儀をしたり、遺産をどうするか決めたり、俺のこれからをどうするのか話し合ったり。
この数日、本当に忙しかった。
けれど、マロンや爺ちゃん婆ちゃんに支えてもらって何とかどうにかなった。
「マロン、本当にありがとな」
「急にどうしたの?」
「いやさ。俺、一人じゃダメダメなんだって再認識させられてさ」
「フフ。確かに今はダメダメかもしれないけど、いつか子供もできるんだしさ、せっかくだからカッコイイお父さんになってね?」
「あ、ああ。善処します」
「フフッ」
その日、俺はこれからに希望を抱いて眠りについた。
……………
チュンチュンチュン
「朝…か…」
さて、今日は_
「おいおい、まじかよ。俺、この部屋で寝てないよな…?これってもしかして…」
恐る恐るといった感じで居間に向かう。
居間には爺ちゃんと婆ちゃんがいた、昨日もいたからこれはいい…たが。
「おはよう、どうしたの?二人とも」
二人はあの日と同じ、難しい顔をしていた。
「母さんな、お医者さんが言うにはもう一ヶ月も生きれないらしい」
うそ……だろ……?また、なのか?どうして……
もしかして、俺は本格的に狂っちまっているのか?
それとも、悪魔にでも世界を狂わされたのか…?
どちらにせよ今の俺にとっては、この繰り返す世界が悪夢としか思えない。
クソが…いいぜ。狂った世界が満足するまで付き合ってやるよ…!
…………………………
もう一度、母さんに寄り添い平和な世界を過ごした。
けれどまた戻った。
…………………………
母さんが死んだあと、遠くに逃げてみた。
意味はなかった。
…………………………
神に祈りながら過ごした。
祈って解決するほど、人生は甘くないらしい。
…………………………
それでもめげずに、幸せを掴んだ。
それでもやっぱり、母さんが死んだ数日後に未来も死んだ。
…………………………
それでも何度も…何度も。何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も_
世界を繰り返した。
世界はやっぱり、壊れてしまったらしい。
…………………………
「クライム、なにか悩み事があるんじゃない?母さんに解決できるかわからないけどさ、一度話してみない?」
母さんに突然、そう言われた。
どうやら顔に出ていたらしい。昔からよく顔に出るタイプだったからなぁ。
「……もしも、もしもさ、俺が同じ日常を繰り返してるって言ったら、どうする?」
「………詳しく、聞かせてちょうだい」
話した。話してもどうにもならないかもしれない。けれどとりあえず、違いが欲しかった。
………
「そっか、それは難しい問題ね…」
まさか、ここまで真剣に聞いてもらえるとは思わなかった。
「ぱっと思いついたやつだけど、抜け出すための方法を試してみない?」
「どんなやつ?」
「一つ目、クライムが心の底から満足する」
「二回目のループはすごく満足してた筈なんだけどね」
「二つ目、私の病気を治してみる。」
「多分、無理」
「そこは頑張りましょうよ。そして三つ目、母さん…私を殺してみる」
「………できれば、やりたくないな」
「四つ目、これはできればやってほしくないけど、クライムが自殺をしてみる」
「………。」
「最後、とりあえずめげずに色々と試す」
「……ま、今回は母さんにこの事話したって言う変化があるし、このまま頑張るよ」
「そう。わかったわ。でもね、クライム」
「なんだい?母さん」
「自分を、見失っては駄目よ」
…………。
「うん。勿論わかってるよ、そこは安心してほしい」
「そう。ならいいの。じゃあ私はもう寝るわ、おやすみなさい」
「おやすみ、母さん」
……どうも、嘘をつくのがうまくなってしまったらしい。
…………………………
「また、か…」
結局。いろんな変化を試しても、自殺をしても、もとに戻ってしまう。
後は、母さんを救うか殺すか。殺すのはいつでもできる、この心が完全に折れるまでは、頑張ってみようか…
…………………………
ダンジョンに行ってみた。
やはり向かないらしい。
…………………………
町に出てみた。
一度ではなく何度も何度も。
…………………………
犯罪に手を染めようとした。
けれど、それじゃぁ母さんを救えてもだめじゃないか。
…………………………
悪魔城以外のダンジョンにも行ってみた。
いつもより早く戻ることも増えた。
…………………………
旅に出た。
時間の無駄だった。
…………………………
また悪魔城に挑戦してみた。
前より腕が上がっているような気がする。
…………………………
世界が巻き戻っても記憶がある。
この記憶をいかして強くなろうと思う。
…………………………
……………………
………………
…………
…
今日は、第二の試練を突破できた。
第三の試練は、突破できそうにない。
もう、疲れてしまったよ…
★どこぞの悪魔
少年がループに気づき幾度も幸せに幕を下ろそうとあがいている頃。
「おはようございます。マスター」
流石にずっと夢を見ていたら、体はなまるし栄養は取れないしで悪い事だらけなので、休憩を取ってもらおうと思う。
「なんで起こしたの?」
「ご飯の時間です。あと、少し鍛錬をしましょう。あの少年もコア部屋でまってますよ?」
「クライム君が?でもさっきまで…あれ?あんまり思い出せない」
「あー、流石に脳への負担が酷いんで。これくらいは勘弁してください」
「………まぁ、いいか。見てないわけじゃないんだよね?」
「ええ、ちゃんとマスターは彼の試練を見ていますよ。それに、少しくらいなら思い出せるでしょう?特に、印象に残っている情景とかは」
「うん。確かに、全部思い出せないわけじゃない」
ふむ。怒ってないようで何より。
しっかしまぁー、案外あの少年の心は強いなぁ。もう何年たっただろうか。早々に壊れると思ったんだけれど。ガキだ人だと舐めすぎていたかなぁ。
「あっそういえば、少年には想い人がいるらしいですね。って事であの少年は諦めてください」
「ぶん殴るわよ?」
マスターが『わよ』を使っただと!?
少年マザーに影響でも受けたか?
食事が終わり、再び夢の世界へと沈みゆく二人を見つめる。
もしかしたら、この試練をクリアしてしまうかもしれないな。
さて、俺は俺の仕事を_しようと思ったんだがなぁ…
「出てこいよ。じゃなきゃ殺しちまうぞ?」
「おやおや、これはこれは。申し訳ありませぬ。けっして、悪意があって覗き見していたのではありませぬよ?」
俺の前に出てきたのは、身長180cm程度で頭に4本角が生え背中に翼が生えた、いかにも悪魔って感じのやつだった。
右目にはぶっ壊れた眼鏡みたいな物をつけている。あれ、壊れてるんじゃなくて片目だけしかないやつなんだよな、たしか。
脳を覗いて得た情報だと、コイツ等は神魔戦争において俺を手駒にするためにどこぞの悪魔に遣わされた悪魔らしい。感知した感じ、こいつ以外にもあと4体いる。
それにしても、ニヤケ顔が気持ちの悪いやつだな。
「悪魔が俺になんのようだ?」
「ええ、ええ。この度はお目にかかれました事を光栄に思って_」
PANN!!
突如、悪魔の全身が破裂する。
まぁ、俺がやったんだが。でも、癇に障る思考をしやがったこいつが悪いと思う。
「さて、聞いているのだろう?こいつのお仲間のクソ悪魔共。そのチンケな計画が成功することはないから、とっとと失せろ。それと、俺は[神魔戦争]に参加する気がない。そう、奴らに伝えておけ」
「わ、我らは正式な手続きを踏んでここに来ている!あなたと言えど許されることではありませぬぞ!」
おー。今度は丸坊主で鼻が尖った…そう!ゴブリンみたいな奴がきたな。
俺の言葉に返答せずにイチャモンつけてくるとか、コイツめんどくさいタイプだな。はぁ、まぁ少しくらい付き合ってやるか。
「何が?」
「しらばっくれないでいただきたい!彼を殺したことです!」
「?駄目なの?」
「当たり前でしょう!正式な手続きを踏んだ悪魔同士は、目的がぶつからぬ限り不干渉がルールでしょう!?」
「へーー。あんま興味ないから知らなかった。いや多分、それ知ってたら不都合だから消したんだわ。しってたか?知らずにルールをやぶったら、厳重注意で終わるんだぜ?そして、その判定は始祖の神によってきめられる」
「な、一度知ったのに消したのであったら、故意と変わらぬではありませぬか!」
確かにそうだな。でも、俺が未だにこの知識を基に記憶を消してるってことは、結果厳重注意で終わってるってことだろ?
いいじゃんか、細かいことは。
って思うけど、面倒だから論点ずらそうか。
「はぁー…お前の汚い顔とキーキー声を聞いてると目と耳が痛くなる。とっとと他のお仲間ともども消えてくんねぇ?」
「なっ私をそこまで愚弄しますか…!
もう怒りました!よく聞きなさい!私は[伯爵]の階級を持つ悪魔!名をアラハルウンド!そして、ここに集う他の悪魔たちも相応の階級を持つもの!いかに貴方でもこれ以上の狼藉は許容されませぬぞ!」
伯爵の階級?なーに言ってんだコイツ……俺がそんなの知るわけ無いだろう。俺を作った奴がくれた知識が古いから、ここ20億年最近の常識はほとんど持ち合わせてねぇーんだぞ?俺は。
俺と対峙するんなら事前知識くらいもっとけや。
「愚弄…愚弄ねぇ。さっきの顔面がキモい悪魔もお前等もさぁ。俺一人程度正直油断しなけりゃなんとかなるって思ってんのは、愚弄になんねぇーのか?」
「んなっ我々はそんなこと思っておりませぬ!こじつけは止めてもらいたい」
「いやいや、思考読まれてないって本気で思ってんの?馬鹿なの?アホなの?死んじゃうの?
いやさ、お前らの安易な考えを俺が見ちまってイラッてするのはいいんだよ。
だけどな?
俺を組み伏せたあと、俺の前で意識がある状態のマスターを喰ってやるっていうクソみたいな計画は、大きく出過ぎなんじゃねえの?」
本当に思考が読まれていることを理解したからか、悪魔がすごい勢いで魔力を練り上げはじめた。
おっぱじめる気かい?ここまで言って力の差も分からないのか?それとも頭湧いてんのか?
「はぁ…俺が調子に乗っていた時に説教たれて封印しやがったのは一応先輩の悪魔だ、この場合は俺が君たちに説教したほうがいいのかね?」
「説教するのはこっちだ!雑魚があ!!!」
その絶叫とともに、部屋は炎で包まれた。
「こっちが魔力を練っているのもわからぬ雑魚がぁ、粋がるのもいい加減にしろ!」
最近の悪魔和は全員、ここまで程度の低い奴らなのだろうか…
「これはこれは妙なことを言う」
「なっ!?」
「部屋の絨毯すら影響を受けていないのがわからないかい?
そんなことも分からないくせに、大声で粋がっているのかい?」
「こ…こいつぅ!!おい!一人はここのダンジョンマスターを連れてこい!残りの二人はこいつをなぶれ!」
その言葉を受けて他の有象無象どもが状況を開始する。
はぁ…茶番もここまでにしよう。こいつ等と戯れているうちに少年マザーの病状が悪化するやもしれん。試練終わる前に死なれたら困るからなぁ。
「[固有魔力侵食領域:見果てた夢の滅びた世界]うん、下級悪魔相手にはやっぱりこれだな。」
「グア”ッ…」
「何が起きてるかわかんねぇって顔だなぁ?今どきの悪魔は[侵食領域]もしらねぇのか?いや知らねぇか。お前らは"悪魔もどき"だもんなぁ。悪魔じゃねぇお前らは知るわけがねぇか」
一つ区別をつけないと、と思った。
こいつ等は悪魔ではない、俺のように悪魔に作られた模造悪魔の中でも最低品質のゴミなのだ。最近の悪魔界の情勢が少し心配になるくらい酷い贋作以下の不価値の産物。
だがそんな奴らに価値をつけるとするのであれば、最近粋がれていない俺に調子に乗ってペラペラ喋る事ができる機会を与えてくれたことか。
フッ。マスターもいないし好き放題できるな。
「さて、無知な君たちに授業をしてやろう。
元素が電子の数の違いなどによって様々な違いが出るように、魔力も扱う者によってその密度や性質が異なる。
固有魔力侵食領域はな、魔力を扱う者の中でも、この世のすべての頂点に位置する[始祖の神]レベルで魔力に対して理解を持ち、世界を塗り替えんとするほど高密度で高出力の魔力を持つものにしか扱う事ができない大技なんだ。
個々の魔力の性質によって差異はでるが、その実態は世界を侵食し理をちょっといじくれる。そんな技だ。ついでに景色も変わる。
まぁ大抵、神々の持つ神性で消されるが、悪魔相手には中々の効き目をすることがある。特にお前らみたいな雑魚相手にゃこれがいい。」
悪魔共は相変わらず間抜け顔だ。
いつの間に"荒廃した週末世界の様な土地に立っていて"それだけではなく、魔力が一切扱えず、身動きが取れず、言葉を発することも出来なかったらそうなるのかも知れない。
ちなみにこの景色は…いや、いいか。
「良かったな。表情筋が動かせたおかげで、俺の機嫌が少しは取れたぞ?だから殺すのは勘弁してやるよ。その間抜けな面と寛大な俺に感謝するだな!」
こいつ等は俺の手足とするために。部屋に押し込んでおこう。
いやでも、こんな品のない奴らが部屋にいたら、部屋が臭くなるかもしれないな。
まいった……まぁでもしょうがないか、我慢しよう。
我慢すれば4体の悪魔が手駒になる。あぁ、いや。やっぱりこの中の1体には伝言を伝えてもらうため、お家に帰らせてあげようか。
「おいハゲ頭。お前は魔界に帰って、より立場が上の悪魔に五つの伝言を伝えろ。
一つ目、俺は少なくとも100年経つまでは神魔戦争に参加する気がない。鬱陶しいまねはやめろ。
二つ目、この星にちょっかいかけるのをやめろ。
三つ目、神魔戦争をこの太陽系に影響が出る範囲で行うな。
四つ目、以上の事を違反した場合、敵対行為とみなす。
五つ目、以上の事をできるだけ広めろ。
だ、わかったな?」
侵食領域のせいで反応ができないのはいいとして、思考を読んだ感じ、こいつちゃんと伝える気がないなぁ。
やっぱり、思考の改竄をして送り出そうかな?でも、せっかく駒が増えたと思ったのに、早々に手放すのは惜しい気がする。
手駒、か……いやまて、こいつ等のことを不価値だなんだと罵ったが、本当は、こいつ等のご主人が俺に向けたプレゼントなのでは?
いや、そうだ。絶対そうだ!そういうことにしよう!
「ごめん。今のやっぱなし。そして今までの非礼も詫びよう。
俺は気づいたんだ。君等のご主人はダンジョンに縛られて安々と身動き取れない俺に、体のいい駒を用意してくれたのだと。
にもかかわらず送り返すのは些か礼儀がなっていないと思うんだ。だから全員の脳をしっかり改変してから、伝言を伝えに行ってもらおうと思う」
おぉ。生きて帰れないと悟った悪魔の顔は中々悪くないな。
これで、自我を持たない駒を入手できた。
んじゃぁ早速脳を改竄して、少年マザーの様態でも見に行ってもらおうか。
少年の話が終わったらそろそろ主人公主体の物語を書こうと思います。




