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宴にて

「へ、碧黎!」維心が、まさか天黎も来るのではと維月をがっちりと抱きしめて言った。「主、来たら維月がまた面倒なことに!」

すると、碧黎は首を振った。

「ならぬ。というかあれから天黎は我の側にも現れておらぬ。見てはおると思うぞ。常がそうであったようにの。」

ということは、あれから天黎は出て来ていない。何を考えているのか分からないが、碧黎は天黎に、維月はやめるように説得も出来ていないという事だ。

「…まずいのではないのか。いきなりに、維月を連れて行かれるのではと、こちらでは気が気でないのだ。」

碧黎は、胡坐をかいて杯を引っ掴み、酒をそこへと自分で注いで、ため息をついた。

「そうは言うても我だって、ああやって現れる前は居るのは分かっておったが話したことも無かったのだ。ゆえ、呼びかけてもあちらが話す気にならねば無理なのよ。何万年我があれと話したいと思うて呼びかけたと思うのだ。それだけの間出て来なかったのに、最近は傍に居たからと今さら呼んで、出て来るとは思えぬわ。」

そう言って、常は飲んでいるのを見た事も無い酒を、ぐいっと煽った。

維月は、それを見て不安になって言った。

「お父様…お酒をお召しになっているのを見た事もありませぬわ。十六夜が底なしであったから、案じてはおりませぬが…。」

碧黎は、維月を見て言った。

「ああ、酒の影響など我にはない。だが、皆がやけになった時飲んでおるので試してみただけぞ。」

焔が、恐る恐る聞いた。

「それで、どうであった?」

碧黎は、顔をしかめて答えた。

「別に何も。味もよう分からぬ。」

志心が言う。

「それで、主がやけになっておるのは分かったが、ならば維心はどうしたら良いと思うのだ。このままでは地上を綺麗にするための破邪の舞いも、維心がこの様子であるからまともに出来るとも思えぬ。だが、もうこの際維月に命を繋いでもろうたらどうぞ。繋いだからと維月の心が変わるとは思えぬし、天黎だって天媛のような心地になるとは限らぬだろう。むしろ、天黎の方がそんな事には冷めておるように思える。長い年月一緒に来た天媛を、天黎は特に何の感情も持っておらぬのだろう?大丈夫なのでは。」

碧黎が、眉を寄せる。

維心にとっては特に大した事ではない命を繋ぐ行為も、碧黎には神の婚姻と同義に感じることなので、とても許せる事ではないのだろう。

維心としたら、それで収まるのなら別に良いという考えではあった。ただ、その後に天黎が維月に執着した出したらと思うと、身の毛がよだった。

「…我としたら、別にその行為自体は良いのだが、その後を案じておるのだ。天媛だって特にこだわりもなくやって、その結果十六夜に想いを寄せるような事になってしまっておるのだからの。維月もこれ以上は面倒なく生きたいと申しておるし、我もやっと落ち着いたところなので今さら面倒を抱え込みたくないという思いがあるのだ。確信がないと、軽々しく許すわけにはいかぬのよ。」

志心は、ため息をついた。

「だが…碧黎ですら敵わぬ力であるのに。その気になったら簡単に連れて参ろう。ならばこちらが構えるだけ損ではないか?普通にしておった方が良い。思い詰めたら面倒ぞ。他の事が立ち行かぬようになるからの。」

志心が言う通り、毎日大変だった。

寝るのも風呂もいつも一緒なのでいいのだが、会合も謁見も、維心が政務に出るのに全部維月はついて行く事になるのだ。これまで、維心が仕事をしている間は部屋でおっとりと過ごしていた維月には、はっきり言って辛い状況だった。

それでも、維心の気持ちも分かるのでここまで一緒にやって来たが、これ以上長引くのは、さすがの維月もつらかった。

維心は、そんな維月の気持ちを感じ取ったのか、迷うように維月を見る。維月は、維心を見上げて訴えるような視線を送った。

「…そうであるな。維月も疲れておるのは分かっておった。我の責務に付き合わせておったからの。訳も分からずずっと一緒に臣下との会合にも出ておって、それは退屈よな。最近はまた細工物を作ったりしておったのに、それが止まってしまっておるものの。」

碧黎は、それを聞いて不貞腐れたような顔をしていたが、また酒をゴボゴボと入れると、ガッと煽った。

そして、言った。

「…もう、しようがないわ。あれが本気ならさっさと維月は連れて行かれておって、今頃こんなことをしておられなんだ。何しろ、我にも阻止できぬ力であって、維心が我に抵抗できぬように、我だってあれには抵抗できぬ。あれが来ぬのは、恐らく我らがこうして否と強硬に思うておるからであろう。我も同じで、維心や十六夜がどうしても否ならばと、昔から約したことを違えたことは無い。恐らく、あれも同じ。力があるからと、嫌がっておることを強要などしないのだ。我ら、曲がりなりにも皆を世話する命であるからの。それでも来るならそれまでぞ。だが、我は来ぬと思うし、来るならきちんと我らに話をして、納得させてからにするだろう。我がそうだったようにな。」

確かに碧黎は、維月を愛するようになって、その頃十六夜と維心でお互い譲り合って付き合っていたのを、割り込む形になると分かっているのできちんと話し合いに来て、そして決めた通りにした。絶対に、約束した事を破ったりはしなかった。

それと天黎が同じだとしたら、確かに勝手に命を繋いだりはしないと思えた。

だが、まだ接し始めたばかりで確証がない。

何を信じたらいいのか分からなかった。

維月が、言った。

「ならば、もし来られたら私がお話しますわ。」碧黎と維心が、心配そうに維月を見る。維月は、続けた。「話して分からないようなかたではありませぬ。長く見守ってくださっておった存在なのです。お父様を見ておっても分かりますわ。お父様をお育てになったかたなのですから、きっと寛大で誠実なかたのはずですわ。ご信頼しなければ。」

言われて、維心と碧黎は顔を見合わせた。

信頼するには、知らない相手。だが、碧黎にとっては自分をその初めから長年見守って来た存在なのだ。

ならば、信じるしかないのかもしれない。

二人が同じ結論に達したのは、維月には気の変動で分かった。二人は、天黎を信じてみようと思ったようだ。

炎嘉が、酒瓶を差し出した。

「そら、飲め。」維心は、炎嘉を見た。「信じると決めたのだろう?いつものように我らと語り合おうぞ。と言うて話題も無いがな。どうせ亡者に煩わされて、翠明の社で我が主の気の中に隠れた事を笑うぐらいしか無いだろうが。」

翠明が、それを聞いて向こうで手を叩いた。

「おお、そうだったの!主は穢れに殊の外弱いのだなとあの時思うた。今にも死にそうな顔をしておったではないか。」

炎嘉は、渋い顔をした。

「ここに居る誰もがあれでは我と同じ状態になるわ。あんな穢れを身近に感じた事は無い。しかも、あの醜い塊よ…あんなもの、見たくもないというに。」

焔が、炎嘉が空気を変えようとしているのを悟って脇から言った。

「何ぞ主は。維心の気の中に隠れたのか?なんと情けないヤツよ。」

炎嘉は、わざと頬を膨らませながら杯を手にした。

「うるさいわ。一度主もあのおぞましい型を見てみたら良いのよ。あのままでは吐いておった。維心が入れと言うてくれたから入っただけぞ。翠明がしょっちゅうあんなものを相手にしておるとしたらよう我慢しておるなと思うわ。」

翠明は、それを聞いて苦笑した。

「我らは慣れておるからの。幼い頃から父がそういう処理をするのを見て育ったゆえ。確かにおぞましいが、主らのように温室育ちではないからそこまでではないのよ。少しはああいうのも相手にしておった方が良いぞ?対峙した時、吐いておったら戦えぬのだからの。」

炎嘉は、フンと答えた。

「別に気を発して消してしまうから良いのだ。あの時は、翠明が何かやっておったから勝手な事が出来ぬで耐えるしかなかったし、そんな事があった例がないのでつらくての。」

志心が、笑った。

「我も吐くかもしれぬから、誠笑い事ではないのは分かっておるが、想像すると我慢出来ぬな。維心の影に隠れる主の姿を見たかったわ。」

それから、上位の王達はそうやって和やかにたわいもない話に花を咲かせて、碧黎はそれをただ酒を飲みながら聞いて、場は穏やかに流れて行った。

維月は、本当にこのまま何事もなく過ぎて欲しい、と心から思っていた。

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