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掃除

将維は、口を開いた。

「やはり蒼は亡者の事は何も知らぬので、我と維斗兄上があちらの恒と裕馬、嘉韻から聞き、帰ろうとしておると天黎と碧黎が参りました。我が力を持たぬので、やりづらいと話しておったのを聞いて参ったようでした。そして、碧黎には地というと地そのものにしか出来ぬのに比べ、天黎にはその一部を担わせる事が出来るのだと申して。あっさりと光の玉にすることもなく、指一本で我をこのように。前世持っておった気の量と、同じぐらいだけ与えておるのだと申しておりました。こうなってみて、碧黎の力は膨大で、我など本当にほんの一部なのだと知りました。」

将維は維心の子であって前世は後を継いで龍王だった。

維心には劣るものの、それなりの気を持って君臨していたのだ。

つまりは、碧黎は維心でも遠く及ばない力の持ち主なのだとそれでよくわかった。

「薄々分かってはいたが、誠に全く敵わぬのだな。十六夜なら我でも対等に戦えそうであるが、碧黎はとても無理だと思うておったもの。間違いではなかったの。」

将維は、渋々頷いた。

「は…誠にそのように。」

十六夜は言った。

「それで?亡者の件は何て言ってた。オレもあれはどうにも出来ねぇし、人の能力者や神頼みだったんだけどよ、確かに面倒なのは最近多いよな。というか増えてる気がする。ちょっと前まではいいところで消えてた気がするんだけどよ。」

将維は、そうか十六夜には見える、と頷いた。

「そうか、主に聞いた方が早かったのかもしれぬな。そうなのだ、月の結界の中までは来ぬので、あれらもあまり接する事がないらしいが、買い物に行く時には軍神達が警護について、ほとんどは近寄らぬし逃げていくようだが、面倒なのも中には居るらしい。とはいえ気の大きさが全く違うので、寄ってくる事はないが、物欲しげにみておるのだとか。嘉韻が申すには、下位の神が襲われておるのも何度か見掛けておって、無視も出来ぬしそういうものは祓って来たようだ。厄介な大きさのものは、心ならずも取り込まれた命ごと消し去るのだとか。つまりは、結構面倒な亡者は増えておるということぞ。」

維心が、心底鬱陶しそうに眉を寄せた。

「誠か。また厄介な…黄泉は満員なのであろう?どうするのだ、面倒であるの。翠明だってそれほどの数を世話してられぬのではないのか。」

十六夜も、言った。

「おいおい、あの広い黄泉が満員だって?みんな安心して死ねねぇじゃねぇか。」

将維は、首を振った。

「そうではないのだ、穢れ過ぎた命は他の命と一緒に出来ぬから、それ専用の場所があるのよ。そこが満員なのだ。」

十六夜は、あからさまに嫌な顔をした。

「なんでぇ、そういうことか。だから地上はあんなのが闊歩してるんだな。なんか最近やたらと目につくからよー、何してんだと思ってたんだよな。」

やたらと目につくほど居るということだな。

そこに居る皆がそう思った。

維心は、額に手を置いて息をついた。

「仕方のない…ならば翠明ばかりに任せてもおれぬということぞ。我らも手を貸して処理して行かねば、人が大変なことになる。善良なものがそんなものに煩わされて学びが進まぬのも哀れ。次の会合で話し合うか。」

将維が、身を乗り出した。

「それなのですが父上、碧黎も申しておりましたが、父上は五代龍王であられた時でも、破邪の舞いを舞われておりませぬな。」

維心は、舞いと聞いて嫌そうな顔をした。

「我には必要なかったからの。我が舞わぬから、主も知らぬで舞わなかった。」と答えてから、ハッとした。「…あれを舞えと申すか。」

将維は、頷いた。

「そも、あれは世を乱す神を一層するだけのものではなかったのです。張維おじい様が、黄泉の道を綺麗にするのに舞われた話は前に碧黎もしておりましたな。そういうことなのでございます。」

すると、十六夜が遠慮なく言った。

「なんだよ、ってぇことは結局お前が舞わねぇから地上がそんなことになっちまってるんじゃねぇのか。長いこと掃除してねぇわけだろ?だったらお前が舞ったら一発だ。この際トラウマとか言ってられねぇぞ。さっさと舞ってなんとかしろや。ほら、見ててやるから今やれ。」

維月が、慌てて言った。

「ちょっと十六夜、維心様の力が半端ないのは知ってるでしょ?じゃあ今からってわけにはいかないのよ。大陸にだって連絡しておかなきゃ。あちこち大変なことになったら、全部龍のせいになるんだからね。後始末が大変なのよ。」

しかし、将維が言った。

「確かに今すぐとなると何かがあった時面倒でありますし、無理だと我も思いますが、告示してからなら。何しろ、大陸との戦の後から、結局は父上のお力に頼るより他、平和に暮らすことが出来ぬと皆、悟ったのですよ。今の神世では、父上に何某か思うておる神など居りませぬ。前に懸念して居ったような事は、今は起こらぬと思うのです。なので、父上には破邪の舞いを、ここで一度舞っておいて欲しいと思っております。」

維心は、心底嫌そうな顔をしたが、しかし確かにもう、数千年も破邪の舞いを待っていないのだ。

あれが、地上の亡者すら一層していたというのなら、それが無かったここ数千年は、黄泉へとどんどんそんな命が流れ込み、あちらも困ったことだろう。

そのせいで、地上がそんなことになっているとしたら、確かにトラウマだとか言っている場合ではなかった。

「…分かった。」維心は、嫌々ながらそう答えた。「翠明のところの亡者だとて、我が破邪の舞いを舞っておったらとっくに居なかったであろう。黄泉が飽和状態であるのは見過ごせぬし、一度は舞うと告示したことなのだ。準備は出来ておるし、臣下もいきなりだと困る事は無いだろう。日程は今度の会合で炎嘉達と話し合って決めて参る。どこの宮も我の力に晒されるわけであるから、ある程度は構えねばならぬもの。十六夜が言うように今言うて今舞うというわけには行かぬのだ。それで良いか。」

将維と維斗がホッとしたように頷くと、維明が言った。

「何との。父上の舞いが見られるとは久方ぶりに楽しみな事ぞ。我も覚えたいと思うておりましたし、臣下にもそのつもりでまた準備をと指示しておきまする。」

維心は、まだ渋い顔をしながらも頷いた。

「任せる。」

維月が不安そうな顔をしながらそれを見ていると、突然目の前に、天黎が現れた。

「…え?」

自分の真ん前だったので、維月が目を見開いて固まっていると、維心が反射的に維月をサッと抱いた。元々手を握っていたので、それをぐっと引き寄せて自分の胸に抱いたのだが、天黎の素早さは知っているので背筋に冷たいものが走る。

他の者達が呆気に取られている前で、天黎は他が目に入っていないような様子で維月に言った。

「主、我と命を繋ぐのだ。我も学ばねばならぬ。」

維心が、それこそ維月を飲み込まんばかりに両手で抱いて、言った。

「何を言うておる!特別な命など己の作った世界の中で作らぬのではなかったか。維月はならぬ!」

十六夜が、急いで天黎と維月の間に割り込んで天黎と向き合った。

「こら!お前はいきなり来てなんだよ!無理やりなんて今のオレでもしねぇぞ、維月が好きならきっちりこいつの気持ちを惹き付けてからやれ!」

維心は、とんでもないと叫んだ。

「主こそ何を言うておる!維月は満員ぞ、他を当たってくれ!」

やっと落ち着いたというのに。

維心は、突然にやって来た嵐のような出来事に、不安で心が張り裂けそうだった。

この世界を造ったような存在に、自分が敵うはずもない。これが作った碧黎にすら、全く敵わないのだと再認識したばかりなのだ。

そこへ、またパッと碧黎が現れた。

「やっぱりここか!天黎、維月はならぬ!瀬利か維織にせぬか!」

それもまた乱暴な。

維明、維斗、将維は思ったが、維心はそうは思わなかったようで、何度も頷いた。

「そうよ!同族ならあっちにせよ!維月だけはならぬというに!」

十六夜も盛大に頷いた。

「そうだそうだ、こいつはあっちこっち忙しいからややこしくなるんだ!瀬利にしろよ、あいつなら決まったヤツは居ねぇんだからよ!維織は燐と幸せにやってるからやめろ。めんどくさい事になる。」

碧黎が、何度も頷いた。

「そうだ、瀬利なら十六夜にも同情して繋いだぐらいだし頷こうぞ!あっちにせよ、維月だけはやめよ!」

天黎は、大騒ぎの回りに目もくれずに維月を見つめて歯を食いしばっていたが、グッと眉を寄せたかと思うと、言った。

「…良いわ。後にする。」

そう言って、スッと消えた。

皆が、茫然とその言葉の意味も分からぬままに固まっている中、困惑したような顔で将維が言う。

「…後にするとは…?また後で参るという事か…?」

それを聞いた十六夜、碧黎、維心がぎょっとした顔をした。

言われてみたら、そうだからだ。

「…なんだって突然にそんなことになるのよ!」維心が、今にも泣き叫ぶのではないかと言う様子で言った。「維月に興味も無さそうだったのではないのか!」

十六夜が言い返した。

「知らねぇよ!あいつが維月が好きだとか聞いたこともねぇ!そもそも命は皆同じだとか言ってて誰が特別とかねぇんだっていつも言ってたんだからな!」

碧黎が、焦った顔をしていたのを、フッと諦めたように肩の力を抜いて、言った。

「…主のせいぞ。」

十六夜は、グッと眉を寄せた。

「はあ?!オレ?!なんでだよ!天黎とは全っ然話してねぇし、そもそも最近ずっと月だったんだからな!言いがかりだ!」

碧黎は、じとっとした目で十六夜を見た。

「天媛ぞ。」十六夜は、え、と目を丸くした。碧黎は続けた。「主、知らぬだろうが。今天媛と話して参ったのだ。説明しようぞ。」

維心は、維月をしっかりと胸に抱きながら、またあっちこっち面倒な事になっておるのではないのか、と、ただただ不安でしかなかった。

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