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月の宮での準備

一方、月の宮でも大騒ぎだった。

参加する宮は続々と決まって来ているが、まだ北から具体的にどこの城が参加するのかの返事がない。

なので、組分けが進まないのだ。

来るだけで終われば良いのだが、終わった後すぐに帰るのは観覧したもの達だけで、他は泊まる。

その場所も準備が必要だった。

「空いている旧蛇の村の準備が整いました。」嘉韻が報告した。「軍神達の滞在する天幕も建て、とりあえずは何とか収まるのではないかと思われます。」

蒼は、恒と裕馬を含む重臣達と会合の間に詰めていたので、疲れきって頷いた。

「ご苦労だった。とりあえず、場所は整ったけど、北からまだ具体的な内容が返ってこないんだよな。いきなり参加は絶対無理な催しだし、早いとこ返事が欲しいよ。」

恒が、頷いた。

「クジも作れないからね。箱に名札を入れて交互に引いて行く方式で決めようって決めてるのに。」

手詰まりな状態に、あちらに催促の書状を送ろうか、と思っていると、そこへ明人が入って来た。

「王。ドラゴン城から、詳しい事を聞きたいのでと、ヴァルラム様が本日お越しになると先触れが参りました。」

蒼は、渡りに船と急いで頷いた。

「すぐに来いと伝えてくれ!こっちは準備が進まないから。」

明人は、頷いて頭を下げた。

「は!」

明人が出ていくのを見送って、恒が椅子にそっくり返った。

「じゃあ、ヴァルラム様待ちだね。ちょっと休憩していい?蒼。もうオレ、限界。」

それを聞いた裕馬も、頷いた。

「オレも!いつまでも若いお前とは違ってオレはおっさんの姿なんだぞ?いくら神格化したって言ったって、もう限界だ。休みたい。」

蒼は、頬を膨らませた。

「あのな、オレだって疲れたよ!でも仕方ないじゃないか、みんなやるって聞かないんだから!」

人世に居た頃から一緒の二人とは、蒼も気安くてつい、本音も出る。

嘉韻が、気を遣って言った。

「では、王もしばしお休みください。ヴァルラム様が来られたら、お呼び致しますので。」

蒼は、それには心惹かれたが、こうなっているのも自分が断れなかったせいなのだ。

なので、首を振った。

「いいよ、ここに居る。恒と裕馬は休んで来たらいい。」

そう言われると、出て行きにくい。

二人が困っていると、李心が入って来て膝をついた。

「王。匡儀様からこちらに具体的な事を聞きたいので参りたいと先触れが。」

そっちもか。

蒼は、もうまとめて説明しようと言った。

「すぐに来いと伝えてくれ。」

そうして、結局みんなそこに座ったまま、皆が到着するのを待つ事になったのだった。


待っているだけでは能がないので、蒼は嘉韻に、競技の器具を訓練場に準備しておいてくれるように頼んだ。

月の宮には運動会を知る軍神が多いので、それらを使って具体的にどうやるのかを、実際に見せて教えるつもりなのだ。

そんなことをしている間に、まずヴァルラムが到着した。

出迎えた蒼は、ヴァルラムに言った。

「よく来てくれたね、ヴァルラム殿。匡儀殿も来るから、まとめて説明しようと思っているんだ。コロシアムの方へ案内させるから、先に行っておいてくれないか。」

ヴァルラムは、少し驚いた顔をした。

「あちらも経験の無いことか?」

蒼は、頷いた。

「元はと言えば、こちらの人がやっている競技を、月の宮で試しにやってみたのが始まりで。島の神しか招待してなかったから、今回は北西の方も何も知らないんだよ。だから同じように問い合わせて来て、こっちへ来ると言うから、一緒に説明しようと思って。」

ヴァルラムは、頷いた。

「ならば、ゲラシムとアナトリーも連れて来たので、共に参って良いか。ここで習って帰って皆に教えねばならぬのよ。」

蒼は頷いたが、恒が横から蒼を突いた。蒼は、それでハッとして、言った。

「そうだ、組み分けしなきゃならないから、そっちの参加する城の名前を教えて欲しいんだ。クジで決めるから。」

ヴァルラムは、それには眉を寄せた。

「まだ決めておらぬのよ。我でも説明できない事を、参加せよとは言えぬでの。七日ほど待って欲しい。なるべく早く知らせるようにするゆえ。」

蒼は、ため息をついて、頷いた。

「分かった。だが、みんな組み分けに神経質になってるから、出来るだけ早くお願いする。ジャージの色もそれで決まるし、いろいろやることが多くて、来月に間に合わないから。」

ヴァルラムは、それはまた大層だな、と思いながら、頷いた。

「そこまで大層だとは思わなかった。分かった、聞いて帰ったらすぐに参加させる城を選んで、通達するゆえ。こちらにも同時に知らせる。」

こっちの本気の慌てっぷりが伝わったなら良いけど。

蒼は思いながら、軍神達にコロシアムへと案内されて行くヴァルラムの背を見送った。とにかく、早く組み分けをしていろいろ送っておかないと、皆独自に訓練をするので、服がない靴がないと早く早くと急かされるのだ。

ジャージは良いが、靴の大きさなどは聞かなければ分からないし、そうなると早い所誰が来るのか教えて欲しい。

蒼は、本当にもう運動会なんか開きたくない、とまだ始まってもいないのに心底思っていた。


匡儀は、月の宮からの書状を受け取った後、思っていた以上にややこしい、というか聞いた事のない競技の数々に頭を抱えた。

リレーは理解出来る。何しろ順番に走るだけだからだ。玉入れも、まあ何となく分かったが、これが競技になるのか?と首を傾げた。

ビーチフラッグもちんぷんかんぷんで、とにかく具体的に、見て理解しないと練習すら無理そうだった。

同じ書状が行った彰炎や宇州、誓心からも問い合わせが来て、もうこれはどうあっても月の宮へ行くしかない、と判断した。

「…無理ぞ!」匡儀は、臣下に囲まれて叫んだ。「何の事か全く分からぬ!もう行って来るわ、彰炎にも帰ってから教えると申しておけ。月の宮に先触れを。堅貴、明羽、それから黎貴!主らもついて参れ!我一人で覚えられるとは思えぬ。」

突然のことに、臣下達も慌てた。

「王、そのような!せめて黎貴様は残してくださらねば、本日のご政務が…!」

匡儀は、面倒そうに言った。

「ああもう!分かったわ、ならば黎貴は我の代わりに政務をしておれ!三人で見てくるわ。」

黎貴は、頭を下げた。

「は。」

それにしてもまた、面倒そうな催しに。

黎貴は思ったが、あちらでは皆、楽しみにしているのだという。

想像もつかないが、本当に有意義な大会なら良いのだが、と、黎貴は願っていた。


そうして、月の宮へと降り立つと、蒼が疲れた顔で出迎えてくれていた。

匡儀は堅貴と明羽の三人でそこへ降り立つと、蒼は言った。

「ようこそいらっしゃった、匡儀殿。ちなみにヴァルラム殿も来ておって、コロシアムの方へ先に行ってもらっておる。運動会の競技のことであろう?」

匡儀は、頷いた。

「そうよ。思っておった以上に訳が分からぬから、実際に見せてもらおうと思うて。ヴァルラムもか?」

蒼は、頷いて歩き出した。

「こちらへ。」と、歩きながら言った。「こんなに切羽詰まってから準備を始めたので、こちらも早う主らに教えてしまわねばと。組分けが進まぬのよ。」

匡儀は、後ろに堅貴と明羽を引き連れながら、疲れた様子の蒼を気遣うように言った。

「大変そうであるな。あやつらは気軽に運動会を開けだの言うておったが、やる方はたまらぬわな。」

蒼は、苦笑した。

「まあ、受けたのはこちらなので。皆退屈しておったし、たまの催しなら仕方がないのよ。ここのところ、この宮では何もしておらなんだのでな。」

匡儀は、頷いた。

「面倒であるものなあ。半分宮を閉じておる状態にしておったのだろう?ここに来たがる神は多いだろうし、閉じておるのが正解よ。久しぶりに来ると、やはりここの清浄な気は癒される。」

蒼は、微笑んだ。

「外から来ると皆、そのように。」

コロシアムは、到着口から横へと歩けばすぐたった。

その中へと匡儀と共に入って行くと、広いコロシアムの土の上には、何やら石灰で白い線が書かれてあり、それは楕円形の大きな何重にもなる円だった。

そして、ずらりと並べられていたのは、匡儀も見たこともないような物だった。

何やら高い支柱の先に細長い籠が取り付けられてあるもの、匡儀の身長を越えるほどに大きな玉、ただの棒。

ヴァルラムが、既にそこに居て嘉韻に何やら真剣な顔で話し掛けていた。

「ヴァルラム殿。」

蒼が声を掛けると、ヴァルラムはこちらを向いた。嘉韻がホッとしたような顔をしたところを見ると、恐らく怒涛の質問責めにあっていたのだろう。

「蒼。今聞いておったが、簡単な事よな。それを競技にすると?」

蒼は、神ならそういう反応だろうと笑った。

「それが気を使えぬと簡単ではないのよ。月が気を取り上げてしまうので、全く気を使う事は出来ぬようになる。」と、嘉韻に頷き掛けた。嘉韻は、待たせていたジャージ姿の軍神達に合図する。「玉入れから、実際にやって見せるので、よく見ていて欲しい。」

軍神達は、地上に散らばった玉を手に取って、構えた。

「では、位置について。よーい!」恒が叫ぶ。「始め!」

一斉に、玉が宙を舞った。

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