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地へ

「これ…!」蒼が、焦って言った。「放って置いて大丈夫なんですか?!天黎様、碧黎様!」

二人は、蒼を見た。

「問題ない。力を手にしただけぞ。すぐに慣れるわ。ほんの一部であるぞ?」

碧黎が言う。

天黎も頷いた。

「前の生で使っておったぐらいの力しか与えておらぬし、問題ないわ。後は、力の性質が違うゆえ、使い方に慣れねばならぬだけぞ。」

だが、大丈夫な感じの光ではない。

「でも…!」

蒼が反論しようとしていると、背後から維斗が言った。

「蒼!収まるぞ。」

言われて、蒼が急いで振り返ると、光がスーッと収まって、そこには依然から見慣れた姿の、将維が立っていた。

だが、その目は前世より明るい青色で、髪は碧黎と同じ、青っぽいような黒のような色だった。

「…型は好きに出来たわ。」将維が、ゼエゼエと息を整えようと喘ぎながら、言った。「龍とは違って地からいくらでも力が上がって来るゆえ、気の調節が必要ない。戸惑ったわ。」

着物が、小さ過ぎて前がはだけてしまっていて、維斗が慌てて自分の袿を抜いて将維に掛けた。

「おじい様。これを。」

将維は、それに腕を通しながら頷いた。

「ああ。だが、おじい様はおかしいゆえ、名で呼ぶが良い。」と、蒼を見た。「おお、目線が合う。主とは前世の赤子の時から一緒であったから、どの目線でも同じだが、やはりこの方が慣れておる。」

蒼は、将維と同じ顔だが違う色合いに、もうあの将維とは別神なのだと寂しくなった。だが、今度の将維は同族で、死ぬことは無い。これから、また長い年月共に生きるのだ。

「将維…でも、顔は維心様にそっくりだけど、色が違うからやっぱり違う神なんだなって思う。でも、もう死に別れる事は無いから。これが将維の、新しい姿なんだな。」

将維は、頷いた。

「そうであるな。とはいえ、父上の子であることは確か。あちらへ戻って参るわ。此度の事を、何とかせねばの。碧黎も、そう思うて我に力を与えたのだろう?」

碧黎は、将維を見て頷いた。

「その通りよ。主らが気付いたこと、維心に申せ。あれが舞う事に対してトラウマを持っておることは知っておるが、やはり無しではあちこちに支障が出て参るのだ。一度考えてみよとの。」

やはり、破邪の舞いを舞うべきだと碧黎も思っているのか。

蒼も将維も維斗もそう思ったが、そこでは何も言わなかった。

そうして維心の対から急いで、残しておいた生前の将維の着物を持って来させると、それを身に付けさせて、二人は月の宮を飛び立って、龍の宮へと帰って行ったのだった。


一方、十六夜はおとなしくなった天媛に助かったと思いながら、粛々と毎日の見回りをこなしていた。

月から見下ろしていると、天媛が言っていたように、自分は見落としてしまっているものが多い。

いくらいい加減な方がいいとはいっても、あまりにも細かいところを見ていなかった十六夜だったので、やはりそういうところが少し甘くて闇が発生する原因にもなっていたのかも知れない、と反省した。

こうして見ると、なるほど天媛は的確に指示してくれていたのだ。

霧の消し方にしても、力任せではなく、上手くやる方向というのがあって、今まで自己流で適当だった十六夜には、力の無駄遣いをせずに済むやり方を知れて、それなりに手際が良くなって時を取らなくなって助かった。

うるさいと文句ばかりを言って、悪かったかもと思い始めていた。

天媛は、月の宮の十六夜の部屋に滞在して、特に天黎と会う事もなく諍いもなく、穏やかにしている。

元々維月と二人で使っていた場所なので、天媛が居るからと邪魔になるわけではない。

ただ、月の宮で寝る時は寝台が一つなので、十六夜はさすがにやめておいた方がいいと月に帰った。

十六夜の価値観では、そっちの関係の方が敷居が高い。天媛とは命を繋いだが、十六夜はまだ、天媛をそこまでの扱いにするほど心の中で重要視していなかった。

そんなわけで、十六夜は時々月の宮へ降りるが、夜には帰る生活をしていた。

そんなある日、将維が来ていたと思ったら、いきなりに気が大きくなり、成人した型になったのを気取った。

十六夜は気になったが、それなら龍の宮まで話を聞きに行けばいいか、と、その時は話し掛けもしなかった。


蒼は、将維と維斗が帰った後、嘉韻と裕馬、恒を帰して、残された碧黎と天黎を見た。

「さて、もう夕方も近くなりましたよ。お二人は部屋へ帰られないんですか?」

自分も寝る準備を始めたい蒼が、いつまで居るのだろうとそう言うと、碧黎が答えた。

「別に我らは寝ずでも良いしの。それより蒼、主にも話があるのだ。」

蒼は、何事かと構えた。

「え、何か問題がありましたか?」

それならさっさと対処しないと。

だが、碧黎は首を振った。

「別に主に問題があるわけではない。天媛ぞ。十六夜の部屋に居るのではないか?」

蒼は、そのことか、と頷いた。来ているのは当然知っていると思ってはいたが、天黎も碧黎も何も言わないので、話していなかったのだ。

「はい。特に問題なく滞在しておりますね。オレともそんなに話す事もないので、もっぱら相手は十六夜がしているはずです。来た時には挨拶してくれましたけど、それからはこちらから訪ねる事もないし、あちらも来ないので話していませんが。」

天黎に比べて天媛は居るのか居ないのか分からないぐらい静かなのだ。

天黎は常に碧黎にくっついて来るので、碧黎が蒼に話に来ると会うし、宮の会合にも現れたりするので常に気を遣うが、天媛には基本、ノータッチだった。

碧黎は、頷いた。

「あれの話を聞きたいと思うておってな。というのも、天黎が知らぬ気を発しておると申すからなのだ。」

蒼は、驚いて天黎を見た。気?

「え…天黎様も知らぬ気って、面倒なものですか?」

天黎は、息をついて見せた。そもそもそんな動きはしなかった天黎だったが、恐らくここ数週間で皆と接して動きを真似る事を覚えたようだ。

「感情の波のようなものぞ。我らは、知っての通り感情を知らぬ。なので、それを制御する術を知らぬ。前に我がしでかした時、恐らく我は憤っていたのだと今になって分かったのだが、あれも初めてのもので抑える術を知らなかったし、そもそもそれが感情なのだとも分からなかった。後から知っただけぞ。天媛も、恐らく知らぬ感情に囚われておるのだと思われる。問題のない感情なら我も放って置くが、我らのように力のあるものが何かあっては主らに迷惑が掛かろう?ゆえ、一度話して来ようと思うてな。いったい何に囚われておるのか、見極めておきたいのよ。だが、我もそうだが碧黎だとて、まだ感情を知って間もない。主なら分かるやもと思うて、同席して欲しいと思うのだ。」

感情の問題なら、この三人の中なら恐らく自分が一番分かるだろう。

蒼は、思って頷いた。

「それはよろしいですけど、そんなに継続する感情って何でしょう。怒りも喜びも、その時は強く出ますけど大体時が経てば収まるものなんです。悲しみは長く続く事もありますけど、天媛様が悲しむような事は何もありませんしね。何より穏やかに庭を散歩していたり、ほんとに面倒のない方なのだと侍女からは聞いておりますけど。」

碧黎が、横から言った。

「我が思うに…面倒なことになっておるような気がする。」

蒼は、眉を寄せた。

「え、面倒な?」

碧黎は、顔をしかめて頷いた。

「そう。何しろ…十六夜と命を繋いだであろう?あれは夜は月に帰って褥を共にすることもないゆえ、そんな感情は無さそうであるが、天媛は違う。天黎はあり得ぬだろうと申すが、我にはそうとしか思えぬのだ。なので確かめたいのよ。」

蒼は、褥を共に、と聞いてハッとした。もしかして…。

「え…まさか、十六夜を好きになったとか?」

だとしたら本当に面倒だ。

碧黎は、また頷く。

「そうではないと我も思いたい。ゆえ、確かめたいのよ。」

蒼は、それは大変だと急いで頷いて、そうして碧黎と天黎と共に、十六夜の部屋に居る、天媛のもとへと向かったのだった。

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