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人世のこと2

蒼に呼ばれた嘉韻は、すぐに蒼の居間へとやって来た。

将維と維斗が居るのを見て、来ているのは知っていただろうが、表情を引き締めて蒼の前に膝をついた。

「王。お呼びにより参上致しました。」

蒼は、頷いた。

「嘉韻。聞きたい事があるから呼んだ。人世の事なんだが…よく、恒や裕馬が人世に買い出しに行く時、警護に行ってくれるよな?」

嘉韻は、頷いた。

「は。我ばかりではありませぬが、軍神達をつけております。」

蒼はまた頷いた。

「それで、人世には亡者も居るよな。それらは避けてるって聞いてるけど、数は多いか?」

嘉韻は、亡者のことか?と少し怪訝な顔をしたが、答えた。

「は。ほとんどは神気が触れると痛みを感じるようで、恐れて逃げて参りますが、中には軽い穢れでそのまま黄泉へ昇る命もございますな。多いかと言われたら、そこらじゅうにとお答えするよりありませぬ。穢れが重くて昇れない人はそこそこ多いので。」

将維が言う。

「それぐらいの亡者なら問題ないが、凝り固まった面倒なやつはどうよ?見掛けるか。」

嘉韻は、また幼い姿の将維に慣れないと思いながらも、神妙に答えた。

「は。時々に見掛けまする。ですが我らの気を見たら寄って参る事はありませぬ。物欲しそうにする事はしょっちゅうでありますが、我らに敵うはずなど無いので。ただおとなしく離れて行く次第です。」

蒼は、言った。

「屋久を取り込もうとしたみたいなんだよね。」嘉韻は驚いた顔をする。蒼は続けた。「まあ王と言ってもあちらはそこまでの気を持っている神ではないけど、そこまで力をつけた亡者も居るってことだろ?」

嘉韻は、さも嫌そうに頷いた。

「は…。確かにそういう亡者も居りますな。そこまで面倒なものになると、さすがに我らも見過ごせぬので、取り込む前に消す事を選んでおります。」

蒼は驚いた顔をした。ということは、嘉韻は少なからずそういう事をしているということだ。

「え、じゃあ嘉韻は神を取り込もうとしてる亡者を見てるのか?」

嘉韻は、また頷いた。

「は。見掛けた時だけなので多くはありませぬが、さすがに神を見捨てる事は出来ませぬので。取り込まれた人諸ともであるので心苦しいのですが、出来たら気で分散させて核を破壊する形で。出来ぬ時はやむを得ず諸とも消し去っておりまする。」

つまりそこそこ遭遇しているのだ。

維斗が、頷いた。

「それで良い。主は間違っておらぬ。放置しては更に力をつけてどうなるか分からぬからの。最悪犠牲が増えて面倒なことになるゆえ、少ない犠牲で済むならそうするのが当然ぞ。我でもそうする。」

だが、中にはそこまで悪くないのに取り込まれた者も居たかも知れないのに。

蒼は思ったが、確かにどうにもならない事なのだ。力をつけた亡者が更に他を取り込んでとなると、犠牲は増える一方だ。

将維は、息をついた。

「ということは、少なからずそういう命が存在して下位の神達を脅かしているということぞ。我らには関わりもないと安穏としておったが、あれらもたかが人に煩わされているなど陳情も出来ずにいたのだろう。やはり父上には、厄介な事であろうが、何とかして頂くよりない。父上ならば破邪の舞い一発で綺麗さっぱりであろうし。今の世に龍に仇成す神など居らぬし、面倒な事にはなるまい。ご進言してみるか。」

蒼が、慌てたように言った。

「それはそうだけど、維心様の舞いの破壊力は絶大なんだぞ?それこそ大陸にも知らせておかないとまずい事になると思うけど。確か碧黎様も、あれは非常手段だとかなんだとか…確か反則とか。」

そう、維月の記憶を持った後には、チート技だとか表現していたっけ。

維斗が言った。

「確かにそうだが、父上は五代龍王の時からあれを舞って来ぬであられて、ここ数千年は地上があの力に晒されたことがない。なので、黄泉のおかしな命を籠めておる場所が満員になるのも分かるのだ。どちらにしろそろそろ、舞っておいた方が良いのではないかと思うのだが。」

蒼は、言われてみたらそうだと思った。

黄泉が昔どうだったのかまでは分からないが、ここ最近の命がそうなって満員だとしたら、歴代龍王が舞っていたその破邪の舞いを、維心の代になって一切舞わず、そして将維も舞うことなく今の維心も舞っていないからだと考えたら合点がいく。

あの舞いは、龍王に仇成すものを排除するだけでなく、恐らくそんな黄泉へと行かずに地上で迷っていた命の事も、浄化して送っていたのかもしれない。

浄化しきれぬ命は、消えて行った可能性もあるし、黄泉が回収していた可能性もあった。

それぐらいなら何とかなる数だったのだろう。

「…だとしたら、破邪の舞いは必要ってことか。」蒼は、渋々言った。「張維様までの龍王は、みんな一度は舞ってたわけだものね。でも、黄泉の道で一度、張維様が舞ったって碧黎様が言っていたけど。あれはどうなったんだ?」

将維は、苦笑して言った。

「黄泉の道の命は、あれで一層された。だが、区分けされた場所の者達は、膜があってこの限りでは無かった。なので、普通の命で迷っていた者が黄泉へと無事に門を入った後も、そこの場所だけ残されたのだ。父上も一度黄泉で舞っておられたが、そういうわけであのどうしようもない命の場所だけ別ものなのよ。」

蒼は、顔をしかめた。満員で困ってるんならどうしてその時だけ膜を消さないんだよ。

だが、黄泉からしたら心根が悪い命を力で浄化させて黄泉へと送ってもと考えているのかもしれない。

だったら砕こうということだろう。

「まあ…維心様の下知に従うけど。」蒼は言った。「また神世が大騒ぎになるかもしれないけどね。数千年舞ってなかったし、前に一度、フラグで舞うって告示した時には、神世に戦慄が走ったって聞いてるし。」

将維が言った。

「あの時は父上に叛意がある神が居ったからそうなった。だが、今は違う。父上に仇成すような気概のある神など今の世には居らぬよ。何しろ、大陸との戦の時、父上に守ってもらわねば何も出来なんだのだからの。あの時とは、状況が違う。」と、維斗を見た。「兄上、帰りましょう。父上にご進言せねば。何なら兄上か維明兄上が舞われても良いのですから。その線で参りましょう。」

維斗は、将維を複雑な顔で見た。

「将維、主は兄上と申すが、将維おじい様なのであろうが。どう対して良いのか戸惑うわ。その姿であるから、まだこうして気軽に話もするが…。なんなら、主が舞うとか。」

将維は、息を付くと言った。

「我だってどう対したら良いのかと思うわ。だが、今生は兄なのであるからそう振る舞うのが回りも混乱せずで済むのだ。少しは臨機応変にやらぬか。それから、我が舞うことは出来ぬ。舞いを知ってはおるが、我はもう龍ではないからの。」

将維は、そう不機嫌に言うと、ぴょんと椅子から飛んで降りた。

蒼は、それを聞いてまだ、維斗も将維が弟として振る舞うのに慣れないのを知った。

「…複雑なんだって、将維。オレだって前世のまま接するなって言われたら困るぐらいだ。弟として接して欲しいなら、そんな感じに話さない方が良いんじゃないか?そんなだから相手だって困るんだし、維黎って名前をもらってたのに、みんな将維将維呼ぶから、維心様ももうそれでいいわっておっしゃってさ。もうこの際、前世と同じように扱ってもらったらいいんじゃないか?あの時だって月の宮に住んでたんだし、今生はそのうちこっちへ引っ越すことになるんだし。」

将維は、息をついて蒼を見上げた。

「…そうであるな。何も打ち明けておらぬのならこの限りではないが、我は皆に前世の記憶を持っておることを申してしまっておるしの。願わくば、早う体が中身に追いついて欲しいわ。このままでは我だって、子供なのに維斗や維明にへりくだった態度をさせてしもうておるような気がして。」

蒼が、困ったように顔をしかめると、そこへパッと碧黎が現れた。

びっくりして維斗も将維も固まると、その後ろから天黎も出現して宙に浮いた。

蒼からしたら、しょっちゅう起こることなので、特に驚くこともなく、言った。

「碧黎様。来客中はパッと出て来ないで欲しいんですよ。相手が驚くんで。」

碧黎は、宙で腕を組んで言った。

「客というて将維と維斗ではないか。身内ぞ。」と、将維を見た。「将維、主、体が小さいと困るか。」

将維は、眉を寄せて碧黎を見上げた。

「それは…中身がこれなのに、いつまでも子供であるからな。皆が我の扱いに困るのを見ておって良い気はせぬのだ。出来たら相応の身になればと思うておるが、まだ力が満ちておらぬしそこまで大きくもなれぬ。」

碧黎は、頷いた。

「ならばの、どうせ主の事は我の手助けをさせようと思うておったことだし、陽の地の場所を少し分けてやろうぞ。そこで学んでから、我の手助けが出来るようになったら徐々に広げて参ろう。我の力の一部であるから、つまりは…前世の主の力ぐらいの大きさは気が使えるようになる。それでどうよ?」

将維は、目を見開いて碧黎に一歩近づいた。

「え、ならば我を地に?」

碧黎は、頷いた。

「そう。我では、地の陽にするしか出来ぬのだが、今の話を聞いておった天黎が、ならば一部だけ地の陽にしたらどうか?と申して。簡単に出来るらしい。」

碧黎に出来ないことなのか。

維斗と蒼がそう思って見ていると、天黎が頷いた。

「出来る。そもそも別に、地に二人、月に二人と決まっておるわけでもないしの。だが、これは一人で何でも出来るゆえ、一人で問題なかっただけなのだ。力が大き過ぎるゆえ、それを抑える命も共に送り出しただけで、別に主も地であっておかしくはない。主には、碧黎が担っている一部だけを与えようの。」と、天黎は指を立てて振った。「これで。」

そこに居た、蒼、恒、裕馬、嘉韻、維斗が茫然としている前で、将維はガクッと膝をついた。

「…将維?!」

蒼と維斗が、慌てて小さな将維を支えようとする。

だが、将維は首を振った。

「良い…!寄るな!」と、体が光り輝いた。「力が…戻って来る…!」

戻って来るという感覚は、恐らく前世の力を覚えているからの感覚だろう。

実際には、今生持っていなかった力を、与えられただけなのだ。

「ほう。主がやると光になって地に潜る必要がないのか。」碧黎が、興味深げに言った。「勉強になるの。これであっさり地になるとはの。」

天黎は、気軽に答えた。

「コツがあっての。波長の問題であって…」

何やら、二人であーだこーだと話しているが、蒼はそれどころではなかった。

将維は、そのまま体を抱くようにしてブルブルと震えながら真っ白い光に包まれて行く。

天黎と碧黎以外が固唾を飲んでそれを見守っている中、将維は光の中に消えて、姿が見えなくなった。

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