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皆同じ

碧黎は、自分がどこかへ運ばれるのを感じたが、それでも気をしっかりと張って、失神することはなく淡い色の何もない空間へと移動していた。

何も無いとは言っても、遠く木の影のような物は見えるし、目を凝らすと何かが見えそうな感じなのだが、それが想像の産物なのか、それとも本当に何かが存在するのかも、ここでは判断が付かない。

碧黎は、そんな空間に浮いて、維心と維月が傍に居ないかと、気を探りながら見回って、ゆっくりと飛んでいた。

すると、目の前に、真っ白い光が降りて来た。

その光は、見る見る人型を取り、その姿は、ヒトのような、神のような、しかし、どこか光のような、向こうが透けて見える実体の無いものだった。顔も、はっきりとは見えない。

…この、気配は。

碧黎は、懐かしいと思う気持ちがしたが、それでもそれは、今は失望の気持ちも伴っていて、複雑な心地だった。

相手は、そのおぼろげな姿のまま、言った。

《我は、主らに話さねばならぬ。》その存在は、いつもよりハッキリとした声で言った。《少しでも主に理解してもらうため、似た姿をとってみた。》

そうはいっても、それは型というには幻のようで、心もとない様子だった。

碧黎は、横を向いた。

「我など…これまで、数万年を地上を守って来たが、主にとり、不適格であったのであろう。我は、何より、我自身より大切な命を失うぐらいなら、何もかも捨ててしもうて良いと思うておる。代わりの命もあるのだろう。もう、放って置いてくれぬか。維月はどこぞ?」

相手は、ため息を付いたようだった。

すると、その隣りに、また同じようなおぼろげな人型が浮いた。それは、もう一つよりも幾分小さいようだった。

一人きりだと思っていた碧黎が驚いていると、その人型は言った。

《我から申します。申し訳なく思う。》その声は、もう一つの命より、高く澄んだ声だった。《主は大変に励んでおる命であって、我らも主を大切に、神や人のように申すと、可愛く思うて見守っておりました。ですが、主は我らの知らぬ感情を覚えて、理解できぬ動きをするようになった。我ら、分からぬ事ばかりで案じておりました。そうしたら、せっかくに上手く回っておった地上を、乱すような事をし始めた。どう理解したら良いのか分からぬものの、我は主を信じて見守ってみようと申しましたが、こちらは…。》

もう片方の、大きな方の型が言った。

《…ならぬと思うた。主は間違っておるのに、己の生み出した命を信じておらず、間違った事実を悟っておっても謝りもせず、認めようとしなかった。そんな善しない命に、成り下がってしもうたのかと、これまでの年月、育てて参ったのは間違いであったのかと憤ってしもうた。それで…ならばその元凶となったものを、黄泉へと送って引き離せば、主は元へ戻ると思うた。》

もう片方の小さい方の型が言った。

《我は反対し申した。主があれと共に居たら、それは幸福そうにしておって、これまでにない良い気を放っておるのを感じておったから。我が愛ぐし子を、ただ責務をこなすだけの命にはしたくなかった。幸福であるのが一番であると、我は思うておったから。それでもこちらは、我の申すことは聞いてはくれずで。あれを、黄泉へと送ろうとした。》

碧黎は、険しい顔をした。維月を我から取り上げて、黄泉へと送ろうとしたのは事実なのだ。それを今さらなんだと申すのだ。

「何を申しても、維月を我から取り上げるほどの罪を、我が犯したと思うたのだろう。我のこれまでの功績など、なかったという事だと思うておる。このような場所で居る時が惜しい。維月を探さねば。」

大きい方の型が、言った。

《…間違っておった。》その型は、本当に後悔しているような声で言った。《黄泉の道で、一人の神の叫びが響いた時、我は我に返った。己が決めた事を違えて、嫌がる命を無理やり門へと引き込もうとしておった。己が決めた規則を、我自身が破ろうとしておる事実に、主も維心という命も、維月という命も気付いておった。そしてそれは、これまで上に立つ者が守って来た平穏の大原則を、我自身が破ることで、皆を絶望の淵へと放り込む事になるのだと、やっと気づいたのだ。我は主に謝りたいのだ…すまなかった。》

碧黎は、驚いた。

自分の親ほどの存在でも、間違うのか。

「…主も間違うのだと?これは、わざとしたことでは無いのか。」

相手は、首を振った。

小さいほうの型が、答えた。

《我らとて、主らと同じなのですよ。命は、皆同じ。ただ、何を学んで、何を知っておるかの違いに他なりませぬ。我らは、その知識と経験に伴って大きな力を持っておる。ですが、まだまだ知らぬこともあるのです。太古の昔から、我ら、ただ対で存在し、ここに居て地上を作り、それを見降ろして皆を見守って作って参っただけなので、我らの間の価値観は、主らと違うことがある。正義の種類も違うかもしれぬ。でも、どうしても、どんな価値観で居ても守らねばならない物もある。我ら、主らを見ておるだけで共に生きているわけではないので、感情などもよく知らぬし、こちらが促しても思いもかけぬ反応を返す時もあるのですが、それでも決して譲れない場所があるものを、こちらはそれを、破ろうとしておりました。それに気付いて、我に返って己がしようとしている事の大きさを、これまで育んで来た全てを失う事になる事を、やっと悟ったのですわ。それで、主らに謝ろうと、こうして出て参ったのです。主が、不適格だと思うたのではありませぬ。ただ、これまでよう出来ておったので、これまで通りにさせようと、こちらはその原因を取り除こうとしただけなのです。我らも、また学んでおる途中の命。知らぬでやった事なのです。どうか、これを許してやってはくれませぬか。》

碧黎は、自分の事を省みた。

普通、自分より遥かに劣る力の命に、頭を下げるなどしないだろう。だが、この命達は、そんなおかしなプライドなど持ってはいない。自分が悪かったのだと悟ったら、こうして謝ろうと出て来るのだ。

慣れない、人型をとってまで…。

「…我だって、昔はそのようで。」碧黎は、言った。「神や人の感情など理解出来ず、皆ただ、神、人、という括りでしか見ておらず、個々人の感情など見ておらなんだ。だが、一度我も維月を同じように黄泉の門の前へと飛ばした事があった。維心と十六夜が、維月を巡って争って、地上がおざなりになっていると思うたからぞ。だが、あの二人は維月が居らぬでは全く何も出来なくなった。呆けて後を追おうとし、何度も自殺未遂を繰り返し、我は己が間違っているのだと悟った。維月の事は、その頃愛しておらなんだ。というか、個々人で見ておらずでただの命の一つだと思うておった。その維月に、碧黎という名をもらい、そこから、我はあれらを学ぼうと共に生きる事にした。そうして過ごすうちに、我は愛情というものを知り、それがどれほどに幸福な事なのか知った。知らぬで居た時より、数段に苦しくもあり、幸福でもある。喜びが多く、苦悩もあるが、我が生に彩りが出来た。我は、主らが今、我らの事を理解出来ない事もまた、理解出来る。己がかつてそうであったからだ。主らも、我らと生活してみても良いのかもしれぬの。そうしたら、こんなことは起こす事はあるまいに。」

それには、二つの型は顔を見合わせたようだった。

小さいほうの型が言った。

《…我ら、主ら以外にも命を司っておるから。》小さい型は答えた。《主らの中で、それを学んでおる時が無い。ここで、全ての命を見守って、その成長を促さねばならぬのよ。だが、興味はあり申す。また、時が出来たら、こちらと見に参ろうと思う。主は、こちらを許してくれるのか?》

碧黎は、頷いた。

「実際には、維月は死んでおらぬのだろう?」大きい型の方が、頷く。碧黎は続けた。「ならば、我はこれ以上言う事は無い。我だって、同じ轍を踏んで来た。主らを責める事など出来ぬ。我も…確かに、意地になっておった。間違っておったと思うてる。我も、十六夜に謝ろう。おかしな意地など、不要よな。主らがそれを教えてくれた。」

大きい方の型が、ホッとしたように揺れた。

《我が実際には法を犯さなんだと皆に話して欲しい。あれらの努力を、我は全て否定するところであった。我が謝っておったと。》

碧黎は、頷いた。

「分かった。そのように伝えようぞ。それで、維心と維月はもう帰ったか?我はここから、どうやって戻れば良いのか。」

大きな型が答えた。

《あれらは今、同じ空間の中で眠らせておる。このまま、気を探ってあちら側へ参れば、そこに二人は居る。もう、目覚めさせておこう。そうして、帰りたいと念じれば、主らは戻る。》

碧黎は、維月はあちらかと、大きい型が腕らしい場所で示した方向を見た。

「分かった。では、またの。まさか親が二人居て、我らと同じような命であったとは初めて知った。両方と会えて、良かった事よ。」

それを聞いた、小さいほうの型が嬉し気な声で言った。

《我こそ直接に話せて良かったと思う。これまでは、こちらが我は黙っておれと申すから、口出し出来ぬで。だが、もうそんな事もない。やはり我らは、お互いに話し合って事を進めた方が良いのだと、此度の事で考え直してくれたようなので。》

人世ではそれをモラハラと申すと、維月が言うておったな。

碧黎は思ったが、苦笑して答えた。

「では、またの。もっと頻繁に話せても、此度のような間違いが起こらぬから良いかと思うておる。」

大きな型は、神妙に答えた。

《考えておく。》

そうして、碧黎は維心と維月の気配を探って、その淡い色のどこか安心する空間の中を飛んで行ったのだった。

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