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誰も知らない

炎嘉は、小さな見慣れない子供と、維明、それに蒼が維心の居間で座っていて、そうしてそこの主である維心が居ない事実に眉を上げていた。

維明が、そんな炎嘉に言った。

「こちらへ。蒼の隣りに座ってもらえば良い。」

炎嘉は、怪訝な顔をしながらも、言われた通りに蒼の隣りの席へと座り、そうしてむっつりと黙って座っている、三人を交互に見た。

「…維心に会いに参ったのだがの。何かあったのか。どこかへ出掛けるなどあれらしくもない。」

蒼が、言った。

「あの、いろいろありまして。」と、維黎を見た。「あの、これは維黎なんです。」

炎嘉は、両眉を上げた。まだ生まれたてから毛が生えたぐらいの大きさのはずなのに?!

維黎は、じっとその愛らしい顔でそんな炎嘉を見ていたが、口を開いた。

「…久しいの、炎嘉。いろいろややこしいゆえ先に申すが、我は将維ぞ。」

炎嘉は、それこそ仰天して椅子の中でのけ反った。

「なにっ?!将維っ?!」

維明が、慌てて言った。

「そうなのだ。実は、その、隠してるがそちらに亀裂があって。」

維明が指さす先には、衝立があった。それを鵬が黙って避けると、そこには大きく真っ黒い亀裂が、空間に開いていた。

「よ、黄泉か?!維心は、誰かを連れ戻しにでも行っておると?」

蒼は、頷いた。

「そうなんです。実は、面倒な事になっておって。」

維黎が、言った。

「順を追って話す。本当は全て収まるまで神世には黙っておるつもりであったのだ。なのに、主が参ったから。よう考えたら、炎月の祝いを維明が書いて送れば不審に思うわな。それで参ったのではないか?」

炎嘉は、見るからに愛らしい幼い子からそんな言葉が出るので、混乱したが、これは将維だと己に言い聞かせて頷いた。

「聞こう。話すが良い。」

そうして、維黎は炎嘉に、蒼から聞いた事の成り行きを、炎嘉に話して聞かせた。

炎嘉は、聞くにつれて維黎が幼い子の姿というのも忘れて、じっと内容に聞き入って、真顔になって、眉が寄って来た。

そうして、終わる頃には険しい顔になって、言った。

「…という事は、今は十六夜が月で寝ておる状態で、碧黎と維心は維月を連れ戻しに黄泉へと行ったきりということであるな?」

維黎は、頷いた。

「その通りよ。ただ、どこかの誰かがやった事であるから、いくらあの二人でも手間取っておるのやもしれぬ。いくらあちらの方が時の流れが遅いからと、ただ連れ戻すだけで時が掛かり過ぎておる。場所は分かるはずなのだ。父上に分からずとも、碧黎には絶対に維月の場所が分かるし、もし迷っておっても番人の炎託が気取って父上を案内しておるはずであるからな。」

炎嘉は、ふうと息をついた。そして、維黎を軽く睨んだ。

「で、主は前世を明かすよりなかったと。」

維黎は、それにも頷いた。

「放って置くことも出来まいが。維明はあちらの事を知らぬし、黄泉に詳しいのは番人をしておった我だけであるからの。だが、我自身はまだ月にも地にも宿らされたわけでもないので、力が無い。龍であった前世とは違うゆえ、身動き取れずで待つしかなかった次第ぞ。」

炎嘉は、ため息をついて額に手を置いた。

「困ったの…維心が黄泉へと言ったままなど、知ってしもうたら気になって帰れぬではないか。」

維黎は、首を振った。

「別に、主は居ってもどうにもならぬから帰って良い。我でもどうにも出来ぬのに。炎月が婚姻とか申しておるのだろう?そちらを世話せねばならぬのだから、主は気にすることは無い。」

そんなことを言うても、聞いてしもうたのに。

炎嘉は思って、維黎を見た。

「あのな将維、維心は友なのだ。婚姻の準備など臣下がしよるから、少しぐらい我が居らぬでも進めよるわ。それより、あれが維月と一緒にまた黄泉へとかなったら困るから残りたいのよ。我にも何か出来ぬのか。」

維黎は、息をついた。

「出来たらとっくに頼んでおるし、我らがやっておる。待つしかないから困っておるのだ。」

炎嘉は、不自然に開いている、黒い亀裂を見た。この中に、維心と維月が…。

「…我では、黄泉の道へ行けぬかの。」

蒼は、驚いたように言った。

「無理ですよ!黄泉の道は無限とも言われておって、迷ったらもう、出て来れません。案内人が居るんですよ。中を少しでも見通せるのは、龍族の王の血筋しか居ないと言われておるのです。」

炎嘉は、それでも言った。

「炎託が番人なら、ここから呼んだら来るだろう。それに案内をさせたら良いではないか。主だって番人をしておったなら分かろうが。」

維黎は、また首を振った。

「無理ぞ。炎託だって転生せねばならぬのだ。我がここに居るのだから分かろうが。あれは今、準備をせねばならぬから、恐らく引継ぎをしておるはずぞ。その相手が誰かまでは我は知らぬが、終わらねばあれは出て来れぬ。転生が遅れてはあれが不憫ではないか。」

炎嘉は、首を振り返した。

「転生する場がなくなる危機なのだぞ?地上が碧黎と維心を一度に失ってまともに回ると思うのか。十六夜だって、目を覚ませば後を追うとか言い出すかもしれぬのに!引継ぎしながらでも良いから、とにかく来てもらう!」

維黎が、返す言葉が見つからずにいると、炎嘉はズカズカと亀裂に歩み寄って、亀裂の中へ向かって叫んだ。

「炎託ーー!我を維心の所へ連れて参れ!地上の危機なのだ、転生する場所も無くなるぞ!」


その時、ハッと維心が顔を上げた。

「…今、炎嘉の声が聞こえたような。」

維月は、首を傾げた。

「私には聞こえませんでしたわ。」

維心は、声が聞こえたらしい方向を、じっと目を凝らして見て、言った。

「遠いが…我が入って来た亀裂の方向であるから、恐らく来てみて我が居らぬから呼んでおるのだろう。間違いなく、炎嘉の気配がする。」

碧黎は、感心したように言った。

「よう分かるの。この距離であるのに。その通りよ、炎嘉が炎託を呼んでおる。主の所へ連れて行けと無理を申しておるわ。」

維心は、困ったように見えない亀裂の方向を見つめた。

「あれにはここはきつかろう。我でも上手く亀裂から気を補充せねば、見失ったら気が尽きる。来ぬ方が良いのに。」

維月は、顔をしかめて言った。

「どちらにしろ、炎託は引継ぎをしておって参れぬでしょうし問題ありませぬでしょう。炎嘉様がここへ来るなど、お体に障りますゆえ。」

しかし、碧黎は目を細めて言った。

「…どうであろうか。炎嘉が呼んでおるのだぞ?炎託が無視できると思うか。」

維月は、立ち上がろうとして、ぐい、と足の輪に引っ掛かってまた座り込んだ。

「転生が掛かっておりまするし、炎託もそうそう聞いてはおられぬのでは。」と、言ってから、足の輪を見た。「…先ほどまでは、難なく立ち上がることが出来ましたのに。」

碧黎と維心は、そう言われて輪を凝視した。

言われてみたら、門との距離が近くなっているような気がする。

「もしかして、その枷の長さがジリジリと縮んでおるのでは。」

維月は、困ったように頷いた。

「はい。同じ場所で座っておる間に、枷の長さの余裕がなくなって来ておるようですわ。」

いよいよか。

維心は、覚悟した。維月が、門から離れられずに、足からじわじわと黄泉の中へと引きずり込まれて行くというのなら、自分も亀裂との繋がりを絶って気の補充を止め、後を追うしかない。

「やはり…そうなるか。」碧黎は、険しい顔で維心へと視線を向けた。「覚悟するよりないの。地上は気になるが、将維が戻っておるし、あれを大氣が地へと放り込めば何とかなろう。陰は瑞姫が居るし、月の方は維織を上げるしかない。後は、残ったものが何とかしよる。我らは維月と共に。」

だが、維月が首を振った。

「お父様、維心様、黄泉へはいつでも来られますわ。いくら将維でも、記憶が戻らねば無理ではありませぬか。まだ赤子なのでございます、どうか落ち着いてから、黄泉へ参ってくださいませ。私は、黄泉で待っておりますから。地上が大混乱に陥ってしまいまする。」

維心も碧黎も、同時に首を振った。

「主が居らぬで、どうして地上など。代わりが居るのだから、もう大丈夫ぞ。」

維心が言うと、碧黎も言った。

「その通りぞ。我など、どうせ罰を受けるような地であったのだ。もう黄泉へ行っても良いという事だと思うておる。我だって、何の労いもない役目をこれからも未来永劫続ける事など出来ぬ。いや、一瞬たりとも出来ぬ。」

維月は、困って二人を代わる代わる見た。いくら何でも、一気に龍王と地が居なくなるなんて、しかも自分は地と月の陰であったのに、それも消え去る事になるのだ。

そのうちに落ち着くのは確かだろうが、それまで地上は大混乱になる。そもそもが、災害などは碧黎が必死に押えてあれなのに、抑える者が居なくなったら大変な事になるのではないのか。

神の力だけでは、皆を救うなど無理なのだ。

頑固な二人に加え、恐らくは維心を案じている炎嘉も来ようと必死になっている現状に、維月は困ってどうしたら良いのか本当に分からなかった。

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