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「ならば我も共に。」維心は、言った。「我が戻らねば混乱するなど申しておったが、維明なら何とかしよる。維斗も居るし、まだ明維も恒維も亮維も居るのだ。何とかしよるわ。主が参るなら、己で己の命をこの身から切り離して黄泉へと参る。我らは常共に来たのだ。そう約したのだからの。」

いつもなら反対するだろう碧黎も、反対せずに頷いた。

「我もそのように。このまま黄泉へ入ってしばらくすれば、我のこの型の気が尽きて地との繋がりが切れる。維月と共に黄泉へ入る。」

維心は、驚いたように碧黎を見た。

「主も?地はどうするのよ。維黎はまだ幼すぎて代わりは出来ぬぞ。」

碧黎は、首を振った。

「どうせ維月を失えば、我は責務など果たせる余裕がなくなる。生ける屍ぞ。主だって分かろうが。」

炎託が、焦って言った。

「月の命の絶対数が足りぬようになるではないか。大氣では代わりは出来ぬし、主を失った地上がどれほどに乱れるか…。考えただけでも恐ろしいわ。」

碧黎は、それでも首を振った。

「十六夜の心地が分かる。我がこれまでの長い年月やって来た事が、たったひとつの過ちで、最愛の者を取り上げられるという罰を受けるほど大した事では無かったと、言われておるようなものなのだ。十六夜は、確かに月として適任であって、あれはこれまで上手くやっていた。我は、己のやったことが返って参っただけ。ならば、もっと出来る命が居るのなら、そちらへ譲って我は黄泉へ去る。」

維月も維心も、何も言えなかった。

同じ事を碧黎は十六夜にしたのだ。だから、碧黎も同じ事になっていると言うのだ。

だが、碧黎を生み出した程の命なら、碧黎を無理矢理に地に戻してしまうことも出来るはずだった。

まだ黄泉へ入っていないし、黄泉へ入っても、碧黎なら気が尽きる前に引き戻せば生きて戻る事が出来るからだ。

「…難しい事かも知れぬぞ。」炎託が言った。「主は親の能力を知っておろう。恐らく主は死ぬことを許されぬ。己が維心の前世にしたことを思い出すが良い。己を切りつける維心を、一瞬で治して決して黄泉へは行かせなかった。同じ事になるのではないのか。」

碧黎は、首を振った。

「また同じ事だと申そうぞ。我はそうなれば地に籠って何も出来ぬようになろう。心が死ぬからぞ。ただ存在するだけの命に成り下がる。維月を愛した今となっては、失ってまで同じ責務を負う事など我には出来ぬ。」

維心と同じ。

皆が、そう思った。前世の維心も、いくら留められていても責務など果たせる状態ではなかった。

刻々と時は容赦なく過ぎて行く。

地上の時はここの三倍ぐらいの速さのはずだった。

今頃、あちらはどうなっているのか…。

炎託は、黄泉の暗い空を見上げてため息をついた。


その頃、蒼は龍の宮に残り、表向きは何もないように、維明に政務をしてくれるように頼み、自分はひたすらとにかく十六夜だけでも目覚めさせようと必死に話し掛けていた。

大氣と瀬利とはずっと話していて、地上の様子は二人に聞いて何とか平穏になるように、見守っていた。

碧黎すら不在なので地上はどこか不安定だったが、それは蒼と大氣、瀬利が何とか整えている。

それでも、長引けばまずい事になりそうだった。

地は、ただ存在しているだけで平穏に回っているわけではなかったからだ。

碧黎自身が考えて動かしている部分も多く、気の流れや地の中のマグマの動きまで、それは多岐に渡る項目がその意思によって、地上の生き物達になるべく影響を及ぼさないようにと考えられて動かされていたのが、碧黎が居なくなって分かった。

噴火や地震など、どうしても地が生きている以上起こってしまう災害は、出来るだけ人や神に被害が及ばない場所で力を逃し、どうにも出来ない事でも、出来るだけ抑えようと努力していたらしかった。

だが、碧黎の中身が居なくなっているので、地の中も外もやりたい放題だった。

つまり、何の意思も働かないままに、マグマは動き、気は流れているので、気象も少しおかしくなり始めていたし、地震はこれまで揺れなかった所まで、微動し始めている始末だった。

気の流れぐらいなら蒼と大氣、瀬利で何とか出来るのだが、地の中まではどうにもならない。

なので、早急に戻ってもらわなければ、もし大地震など起こってしまったら誰も手を出せないのだ。

《まだ、あちらから帰る様子はない。》大氣の声が、言った。《我らでは、長くあの空間で存在出来ぬのだ。ゆえ、碧黎を追って参ることも出来ぬ。何しろ、我らは身を持たぬし、あの空間には大気はない。なので、誰よりも長く存在出来ぬのよ。》

蒼は、焦りながら言った。

「十六夜も目が覚めないんだ。どうしたらいいんだろう。維明は維心様の代わりをしなきゃだし、維斗に一緒に行ってもらって、オレも見に行くべきかな。もし、何か不都合があって維月を連れて帰れないとかだったら、あの二人なら向こうに残るとか言ってごねてそうだし…。」

蒼は、自分で言って、ハッとした。思えば、一緒に黄泉にとかいつも言っていたのだ。もし、維月が黄泉へ行くしかない状況なら、二人共こっちに構わず一緒に行ってしまうだろう。

大氣もそう思ったのか、不安そうな声で言った。

《縁起でもない事を申すな、蒼。どちらにしろ、主まであちらへ行って戻って来ぬような事があっては、こちらは大変な事になるのだ。あちらの方が時の流れが遅いし、しばし待ってみようぞ。こちらはこちらで、何とか地上を守っておるしかないのだ。》

蒼は、息をついた。このままでは、維心も維月も戻らずで、維明が王座に就き、維黎と葉月は親を知らずに育つ事になる。

あの二人を何とかして地や月にしなければならないので、蒼も十六夜も、必死に月の眷族の事を教えねばならないだろう。だが、そこまで育つには、まだまだ時が掛かりそうだった。

「…頑張るしかないね。」蒼は、息をついた。「もう少し、待ってみよう。みんな黄泉へなんてなったら、さすがにこっちが大変だしどこかの誰かも何とかしてくれると思うんだけどな。」

そこへ、乳母が戸惑った顔をしながら入って来て、頭を下げた。腕には、維黎を抱いている。

維黎の乳母かと、蒼は言った。

「すまないな、維心様も維月も、今手が離せなくてここを出ているのだ。」

乳母は、顔を上げた。

「はい…あの、蒼様。維黎様が、どうしてもこちらへ連れて参れとおっしゃって。」

維黎が?…というか、まだたったの三ヶ月の赤子なのに?!

「え、維黎が?!」

とても三ヶ月とは思えない顔つきの維黎が、蒼を見据えて言った。

「赤子のふりはもう出来ぬ。蒼よ、我にはまだ依り代がこの型でしかないゆえ、力がないのだ。我に力を分けよ。せめて自分で動けるだけの型になりたいのだ。」

仰天した蒼は、まじまじと維黎を見つめた。まだ三ヶ月なのに、こんな事が言えるということは、誰かの生まれ代わりか?!

「え…ちょっと待て、維黎は誰の生まれ代わりなんだよ?!」

大氣の声が割り込んだ。

《そうか主か!》蒼が驚いていると、大氣は続けた。《蒼、維心と維月の間に生まれたのだぞ?そういえば、碧黎が生まれた瞬間、我らも見ておったがこやつの頭を撫でて、そうか主が来たか、と言っていた!こやつは約した通り、維心と維月の間に転生して参ったのだ!》

蒼は、訳が分からず小さな維黎を見つめた。

そして、ハッとした。

そういえば、覚えのある月の混じった気。長く側にあって、でも同族だから懐かしいのかと思っていたが、そうではなかったのだ。

「え…もしかして?!」

蒼は、思わず維黎に駆け寄った。

もしかして、そうなのか。

「将維…?」

蒼は、溢れて来る涙を拭いもせず、その赤子を見つめたのだった。

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