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報い

維月は、最初に言った。

「お話した通りですわ。十六夜が、月であった意味を見つけたと思うておりまする。」

碧黎は、険しい顔のまま頷いた。

「言われてみれば、そうかもしれぬ。何しろ十六夜は、我とも陽蘭とも全く違うし、大氣とも瀬利とも違う。似ておるところはある。同族であるしな。だが、我らに比べて浅い。まあ、我らよりかなり遅く生まれておるから、生きている時が違おうしの。そうなるかもしれぬが。」

維心は、言った。

「我では見ての通り完全に霧を消してしまうので欲という欲は無くなる。それでも良いならこのままで良いが、しかし碧黎よ、見ている誰かは、それを望んでおるのか?それでは地上が誰も居らぬようになり、命の修行の場として設えられたであろう地上が、存在意味がなくなると、我らは思い至ったのだが。」

碧黎は、淡々と言った。

「ならば主を下ろして十六夜を上げようぞ。それで良いか。」

それには、十六夜が答えた。

《どういう事でぇ。オレは月として不適格なんだろうがよ。だから降ろしたんだろ?オレの月としてのそれまでの仕事が、あの維月にストーカーした事件で帳消しになったんじゃねぇのかよ。別に、オレはこの方が気楽だから良い。死ねって言うなら黄泉へ行くからそうしてくれ。オレはそっちのが楽なんだよ。そっちの都合でポンポン出したり入れたりすんなっての。》

碧黎は、十六夜の玉を睨んだ。

「主が悪いのだろうが。月という浄化の象徴が、あんな気を降らしおって。皆が迷惑しておった。維月だけではなくの。」

十六夜は、言った。

《へえへえ、オレが悪いんだな。だったら別にオレでなくていいだろうがよ。他にアテがあるならそっちを上げな。維心は見ての通り何度言っても全部消しちまって加減が分かってねぇ。こいつは何でも出来るが月は無理だ。親父が兼任したらどうだ?オレより出来るんだろうが。どうせオレは、軽い思考の役に立たない月だったんだからよ。何でも自分の思う通りにしかしねぇくせに、間違った事を帳消しに出来ると思ったら大間違いだぞ。》

碧黎は、ムッとした顔をした。

「我は間違っておらぬ!主らが出した結論を、飲んでやろうと申しておるのだ!」

十六夜も、負けじと言い返した。

《だからオレは知らねぇし!間違ってねぇならこのまま行きな。維心が親父の意思で上がったわけじゃねぇのは知ってるし、さっさと降ろして親父がやろうと思ってた通りにしたらいいだろうが。それで地上が問題なく回るんだろ?そうしろよ。オレは月には戻らねぇ!親父が間違ってないならオレはこの玉で居るべきなんだろうしな!》

碧黎は、その玉をぐっと睨んだ。

蒼も維月も気が気でなかったが、何も口を出せなかった。

維心が、仕方なく言った。

「碧黎、月は十六夜が一番の適任ぞ。他に居らぬであろうが。居るなら連れて参ってさっさと月へ上げてくれぬか。我は地上を守りたいのであって、地上を滅ぼしたいのではない。このままでは生き物が数を減らして消えてしまい、植物の楽園になって月の眷族だけになるだろう。それを、どこかの誰かが許すとも思えぬ。何も無くなる未来しか見えぬではないか。間違ったのなら、そう言えば良いではないか。十六夜も謝るだろうし、主も間違った事を謝れば良い。そうして、地上を元の状態へ戻すのだ。」

だが、碧黎はギリリと歯を食いしばって返事をしない。

もちろんのこと、十六夜も玉の中に籠って人型すら取ってはいなかった。

蒼も維心も、顔を見合わせてどうしたものかと思っていると、ふと、パリンと音がした。

何事かと見ると、十六夜が入っているはずの玉が、真っ二つに割れていた。

「…!!十六夜!」

蒼が声を上げた。その瞬間、維心もフラッとふら付いて、座っている椅子の座面に手をついた。蒼は、そっちも気になって、維心を見た。

「維心様?!」

維心は、めまいと戦いながら、額に手を当てて蒼を見ずに手を振った。

「…大事ない…、何か、何かが抜けたような心地がしただけぞ。」と、目の前の、碧黎を長い指の間から睨んだ。「主、強制的に我を下ろして十六夜を上げたのか。」

碧黎は、首を振った。

「我ではない。」と、宙を見回して、何かを気取ろうとするように必死で目を凝らした。「我の親が…恐らくは勝手に…。」

維心は、まだフラフラする頭を抑えながら、脇に座っているはずの維月を見た。

すると、維月は何やら、人型が不安定で消えたり出たりと波打っている状態だった。

「維月?!」

維心は、自分も具合が悪いのを忘れて維月の肩を抱いた。

碧黎が、慌てて維月に手を翳した。

「そのような!いったい、維月に何を?!」

何かの波動を、必死に掴もうとしている。

維心は、碧黎の気の動きを読んでそれを気取ったが、いったい何を掴もうとしているのか、全く分からなかった。

「…ああ」維月が、波打つ姿の合間に、何かを悟ったような目で維心を見上げた。「維心様…どうか、どうか子達をよろしくお願い申します…!」

「何を申す?!」維心は、維月の腕を掴んだ。「どうしたのだ!」

維月の姿は、フッとその場から消えた。

いつもなら、光に戻って月か地のどちらかへ、戻って行くはずだった。

それが、何も気取れないまま、維月はスッと立ち消えるように消えてしまったのだ。

「維月!!」

維心は、必死になってその姿を、気配を探した。月の目は、もう使えなくなっていて、龍として使って来た気を使っての検索にも、維月は全く掛かって来ない。

今の今までここに居た、維月の気配が全く気取れなくなったのだ。

「おお!」碧黎は、絶望的な顔をした。「おお我のせいか…!我がこのようであるから…!!」

維心には、訳が分からなかった。

ただ、維月がまるで、始めからそこに居なかったように、消えてしまった事実だけが残ったのだった。


蒼は、月を見上げた。

どうやら気を失っているようだったが、十六夜の気配は今、間違いなく月にあって、維心の気配はなかった。

十六夜が月に帰る時の光の動きも全く気取れなかったし、一瞬の事でいつもとは違った。

碧黎は、あの後何も言わずに何かを探って飛んで行き、維月の行方はようとして知れなかった。

維心は悲壮な顔をして、どこに行ったと必死に探るものの、結界内には全くその気配は無かった。

…今、月の目が欲しいのに!

維心は、上手く行かない事にイライラとしていた。

蒼は、維心に代わって必死に地上をあちこち見て回ったのだが、全く気取れなかった。

なので、月から大氣と瀬利に話し掛けた。

「大氣、瀬利、維月が急に居なくなったんだよ!十六夜はまた月に戻ったけど、碧黎様がやったんじゃないんだ。どうなったのか分かるか?」

すると、大氣の声が答えた。

《我ら、十六夜の気配が月に上ったので話し合いが上手く行ったのだろうと思うておったのだ。だが、途端に維月の気配が月からも地からも消えての。碧黎の気配が物凄い勢いで黄泉へ行ったゆえ、維月の命があっちへ引き込まれでもしたのかと案じておったところよ。》

黄泉へ?!

それなら、地上に気配はないはずだ。

維心が、悲痛な声で行った。

「そのような…ただ、ここで座っておっただけなのに!碧黎と十六夜が言い争っておったと思うたら、突然に玉が割れて我は月から追い出され、十六夜が戻されたのだ。そうしたら、維月が消えたり現れたりし始めて…子達を頼む、と言うて、消えてしもうて…。」

維月は、気取ったのだろう。

自分が、黄泉へと送られようとしていることを。

それで、生まれたばかりの子達の事を維心に言い置いて、消えたのだ。

すぐに維心が後を追ったりしたら、子達がどうなるのかあの瞬間に案じたのだ。

維心が絶望していると、蒼が言った。

「まだ、碧黎様が追って行ったということは、維月は門に入っていないと思います!」蒼は、維心を奮い立たせようと言った。「大丈夫です、きっと間に合う!あちらの方が時が遅いし、きっとまだいけます!維心様、迎えに行きましょう!オレも行きますから!」

維心は、蒼に励まされて頷いた。そうだ、前世でも同じような事があって、十六夜と一緒に維月を探して黄泉の道へと向かった。まだ門を入っていない…維月なら、自分達を、あの時のように待っていてくれるはずだ。

維心が、黄泉の道への入り口を開こうとすると、大氣の声が言った。

《待たぬか!蒼、主まで行ってしもうたら、誰が地上を見るのよ!十六夜は月で気を失っておるようだし、碧黎は地とはまだ繋がっておるが黄泉の道へ入ったまま戻って来ておらぬ。我と瀬利だけでは地上を保つことは出来ぬのだぞ?我らは、大気でしかないのだ!》

蒼は、言った。

「それでも、維心様をお一人で行かせるわけにはいかないよ!もし何かあったら、オレなら月を頼りに戻って来れるし、皆に知らせることが出来るし。」と、維心を見た。「維心様、時の流れが違うんです。維明に話してから行った方がいいでしょう。碧黎様が居るし、きっと維月は大丈夫です。そうだ、将維も居る。番人なんでしょう。」

維心は、そうだ将維が居たと、顔を明るくした。

「そうだ、将維が。あれが留めてくれようし、維月は大丈夫であるな。しかし、急がねば。」と、声を上げた。「維明!参れ!」

大氣の声が、慌てたように言った。

《だから待てと申すに!蒼は残れ、我らだけではどうにもならぬ!我が眷属で、残るのは気を失った十六夜と、我と瀬利と、鷲の宮の維織だけなのだぞ!他は生まれたての赤子の二人ぞ。今霧でも大発生されたら、地上は大混乱だぞ!戻る地上が無くなっても良いのか!》

言われて、蒼は躊躇った。言われてみたらそうなのだ…今、維心が見ないようになった地上で、霧が押さえられていた反動で大発生でもしたら、大氣達にはどうしようもない。

何しろ、十六夜はまだ、月に戻ったことすら気付いていないかもしれないのだ。

「…主は残れ。」維心が言った。「我は慣れておるゆえ案じるでない。主はここで維明が来たら状況を説明してくれぬか。我は、行って参る。」

そうして、そこへ黄泉への道の空間へと亀裂を開くと、躊躇いもなくそこへと飛び込んで行った。

その時、いきなり呼ばれて慌てた維明が飛び込んで来たが、維心はもう、亀裂へ入ってそこには居なかった。

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