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月である意味

維心は、ため息をついた。

「ならば瀬利はどうせよと?主らは話して参ったのだろう?」

蒼は、困ったように答えた。

「瀬利は、ならば話すしかないと言うんです。碧黎様が何を思って十六夜を降ろしたのかしっかり問い詰めて、それが間違いだったと認めさせ、十六夜と和解して月へ戻る方向でやらねば地上が乱れると。維心様のことは、何の不足もないと言っていましたが、ただ完璧過ぎて月としては間違っていないのだろうが、地上が綺麗過ぎて生き物が繁栄するのが阻害されてしまうと。オレ達みたいな命にとっては良いんですけど、人や神には寿命があって、今ある命が平和でも、皆死んで行くので新しい命が生まれない今の状況では、全て消えてしまうだろうと。霧を生み出す者が居なくなるので、地にとっても月にとっても、大気にとっても良い事なのですが、オレ達だけになってしまう未来に、他の命を育んで成長させる場である地上の意味がなくなってしまって、果たして自分達が存在する意味が残るのかと。つまりは、何も無くなって、無に戻る未来しかないような気がすると言っていました。」

壮大なことだったが、今の維心には理解出来た。

元々は、恐らくこの地上は、命を育んで成長させる場所として生まれたのではないかと思われたからだ。

そこで発生する様々な事を、いくらか成長した優秀な命が守り、問題無く命達が成長するのを助けて、全てが高い意識の命になるように努めるのが、そもそもの意味だったのではないかと。

今のままでは欲が無く、成長しようという欲も、楽をしたいから努めようという欲も、子孫を繁栄させたいという欲も全てが無くなり、地上から命が消える。

修行の場である場所が綺麗さっぱりしていても、誰も居なければ意味はない。

そういう事なのだ。

「…十六夜は、なるべくして月になっておったのだ。」維心は、言った。「設計されたように、碧黎と比べてそこまで完璧主義ではなく、しかし無責任でもなく、楽に地上を収める事が出来る性質。我には見て見ぬふりは出来ぬが、十六夜には出来る。そういう性質でなければ務まらぬから、十六夜がそういう風に作られて月に居たと考えたら合点がいく。何しろ、いろいろ碧黎に比べて融通の利く性質だったし、碧黎が疎い感情に関しても早くから理解出来ていた。人と接していたからぞ。碧黎と似ていながら真反対の感じかたが出来る命。恐らくどこかに居る誰かは、バランスを考えて十六夜を生み出させたのだ。考えてもみよ、碧黎に真っ向から反論するのは十六夜以外に居らぬだろうが。十六夜は、そうなるべくしてそうなって、そこに居たのだ。」

蒼は、目を開かれる気がした。

維心の言う通りだと思ったからだ。

維心が月になったら上手く行くと思っていたが、そうではなかった。

こうなってみて初めて、十六夜が月としてかなり適任だったのだと、つまりはそういう風に作られていたのだと思うと全てが理解出来たのだ。

もちろん、生き物なのだから間違いもする。

維月との間に起こった事は、恐らく間違いだったのだろう。

そしてその十六夜を、簡単に月から降ろした碧黎も、また間違っていたのだ。

《…つまり、オレは月として最初からこんな風に作られたってことか?》十六夜の声が、戸惑いがちに言った。《そうでなきゃ務まらないから。》

維心は、頷いた。

「恐らくそうよ。元々そんな命でそれに白羽の矢が立ったのか、それともそれ用に作られたのかは分からぬが、分かっていて月になっておったのは間違いないと思う。月が完璧過ぎては、地上が役割を果たせぬから。そう考えるのが一番しっくり来るのだ。」

蒼は、言った。

「十六夜が生まれた時の事を、昔碧黎様から聞きましたよね。確か、地上におかしな霧が発生するようになり、それの管理をさせるため、月に命をと思って陽蘭様と一緒に作ったと。ということは、どこかに居る誰かは、碧黎様がやろうとしている事を知って、それに合わせた命を二人に与えたとしたら合点がいきますよね。どこかの誰かは、長い年月、十六夜がそのままでも口出しもしませんでした。碧黎様や陽蘭様が力を失って眠っていても、十六夜は大概の事が出来て全く眠るような事はなかった。そんな命だと知っていたから、して来なかったんじゃないかって考えるとしっくり来る。最近になって眠ったりするようになったのは、十六夜が成長して来て分かるだろうと思ったからじゃ。神や人の生き方や、そこで起こる事に過剰に干渉させずに、それらの成長を静観して見ているように、促していたからなんじゃないでしょうか。これまでだって、結構オレ達を助けてくれて、上から見て教えてくれたし、月から全員を安全な場所に運んでくれたり干渉しまくっていたのに眠ったりしなかったし、それが今になって眠ったりしてたのは、そういう意味なんじゃとか…。」

維月も、それを聞いて全てが見えて来たような気がして、壮大な事に茫然としていた。十六夜も、碧黎と同じように意図して生まれた命だった。他の命がここまで適当な感じではないのに、十六夜だけがこんな風なのも、意味があったのだ。

思えば十六夜は、碧黎に言われて維心について、神世を学んだりしていた。結構な事が分かるようになって来た十六夜は、的確な情報を維心に渡せるようになっていた。そうなると、判断がつくだろうと思われて、どこかの誰かは十六夜も、碧黎と同じように過剰な手助けをさせぬため、眠らせるようになったとしたら分かりやすいのだ。

維心は、納得したように頷いた。

「…恐らくはそう。どこかの誰かとは、かなり気の長い存在なのだろうの。数千年を育てて、さらに育てようと十六夜の成長を見守りつつ大丈夫だと分かった時に縛りを強くする。まあ、あの碧黎を育てておるのだろうから、それぐらい簡単なのであろうがな。」と、息をついた。「…ならば、碧黎と話をせねばならぬの。だが、こちらの話を聞くのか。誰しも己が間違っていると指摘されたらなかなか素直にはなれぬもの。ましてあれは己が正しいと信じておるからな。我らを下に見ておるのだろうし、そんな我らの話など聞かぬのではないのか。」

それには、維月が首を振った。

「いいえ。お父様は確かに、以前までは神や他の命と接することがありませんでしたので、誰に正しいだの間違っているなど聞くことも出来ぬ環境で己を信じて生きるしかなかったのですが、ここ数百年は回りと接して、とても柔軟な思考を持っていらっしゃいますわ。」

蒼が、頷いた。

「そうなんだよ。でも、オレ達には今、会いに来ないから、出来たら維月が呼んで、話せそうなら話して欲しいって思うんだ。何しろ、瀬利の所へ話に行ったのも、碧黎様は知っててね。その後で、何を話して来たってちょっと言い合いになっちゃって。オレがって言うか、十六夜とだけど。」

それには、維心が脇から言った。

「ならばこうして結界を張って話しておったら碧黎はますます話を聞かぬのではないのか。張った本人が維月なのだから、維月の話を聞くと思うか。何かを策して、説得に掛かると思っておるのではないか。」

維月は、大きくため息をついて、言った。

「実は先ほどから、父が結界を突いておりまして。」維心が驚いた顔をすると、維月は続けた。「何を話しておるのだと聞いて来るので、十六夜が月に居った意味を今、悟ったばかりでありますと答えましたの。内容も、こうして話しておるのを念を使って説明致しました。なので、ザッとですけれど父は今の話の内容を理解しておりまする。」

維心は、眉を上げた。

今この瞬間に、維月に念で話しかけていたのか。

確かに維月が張った結界なので、それを通して維月に話をすることは可能なのだ。碧黎は、維月の結界が不自然にここに張られているのを気取って、それで話を聞きに来たのだろう。

「ならばもう、隠す必要はあるまい。」維心が言った。「結界を解くのだ、維月。」

維月は、頷いた。

そうして、維月の小さな地の陰の結界はすぐに消えた。

そして、それと同時に碧黎が、パッと維心の居間の中へと現れた。

その顔は、険しい色をしていたが、しかし話を聞かないほど怒っている様子でもない。

だが、一筋縄では行きそうにない、と維心は思っていた。

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