会合
維心は、維黎と葉月の二人を、第三皇子と第三皇女として告示した。
龍王に双子が生まれるのは珍しい事だったが、北西の龍王である匡儀も双子の父なので、そんな事もあるのかもしれない、と世間は祝いを慌てて贈って来ていた。
何しろ、龍王妃が妊娠していたなど、誰も知らなかったのだ。
もちろん、上位の宮の王達は知っていたのだが、いちいち誰が子を作ったとかそんな話を下位の者達に話して聞かせたりしないので、あくまでも友との会話で知っているだけだった。
だが、あの二人は龍ではない。
なので、今は良いがこれから先、皆の前に出る事があったなら、維心の子ではないと噂される危険性があった。
何しろ、龍の子は龍と昔から決まっていて、龍王である維心の子が、龍でないはずはないのだ。
維心は、本当は黙ったまま十六夜が月に戻ってくれて、自分が月から降りられていたなら、その時にこそどんな状況で自分が月であったのかと話して、神世に事情を話したかったが、あの様子では十六夜は、いつになったら戻るのか、そもそも戻らないのかも分からずでいた。
なので、今回の会合は龍の宮で行われるのだが、維心はそこで、気が進まないながらも月のままで出席し、皆に現状を話そうと思っていた。
つまり月は今、維心なのだと神世に告示するのだ。
龍王が月も兼任しているなど、神世に要らぬ圧力を掛けそうで言いたくなかったのだが、子達のためには仕方がない。
維心は、仕方なく金髪の派手な華やかな様子で、会合の間へと入って行った。
その姿を見た上位の王達は、何度見ても全く見慣れないので途端に堅い表情になった。
何しろその、月のオーラが半端ない。
思わず知らず頭が下がりそうなるのを、必死に堪えて座っている感じだった。
その中の蒼はといえば、確かに驚いたものの、元々月なのでその気の圧力の影響など全く受けない。
なので、綺麗だなあと鑑賞する心地でそれを見ていた。
蒼の目の前の蓋を開いたままの宝石箱の中には、十六夜の玉が鎮座していたが、十六夜は見ているのかいないのか、出て来る事はなかった。
維心が正面の椅子に座ると、炎嘉が言った。
「では、本日の会合を始める。」
頭を下げて維心の入場を待っていた下位の神の王達が、一斉に頭を上げた。
その瞬間、また一斉にバタバタとあちこちで音がし始め、結構な数の神達が床へと転がった。
維心が眉を寄せると、炎嘉が面倒そうに言った。
「ああ、まあこうなるわな。」と、まだ無事でなんとか踏み留まっている入り口近くの王に言った。「崎、治癒の者を呼べ。」
崎と呼ばれたその王は、慌てて立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのか椅子から立ち上がれない。
なので仕方なく、蒼が立ち上がった。
「オレが行きます。」
炎嘉は、全く平気そうな蒼を羨ましげに見て、頷いた。
「頼む。すまぬな蒼よ。」
蒼は、頷いて治癒の龍達を呼びに扉へと歩いた。
炎嘉は、むっつりと座っている維心に言った。
「こうなるのは分かっておるのに、治癒の龍を連れて来ぬか。話が進まぬではないか。」
維心は、チラと炎嘉を見て、答えた。
「…連れて来ておるわ。扉のすぐ外に居る。」
言葉の通り、蒼が扉を開くと、そこに大勢の治癒の龍達が居た。
皆が皆、必死に踏ん張っている様子で、恐らく龍達もこの姿の維心にはまだ慣れていないのだと思った。
「中へ。倒れた神達の治療を頼む。」
蒼が言うと、龍達は緊張気味に頷く。
その後ろでは、扉の外で王を待つ、他の宮の臣下達が倒れていて、それを既にそれを介抱する龍達も居るのが見えた。
恐らく、ここへ来た維心を見て気を失ったのだと思われた。
治療の龍達が入って来て、倒れた王達を診る中、維心は苦々しげに言った。
「…何なのだ全く。髪の色が変わっただけではないか。」
焔が、落ち着かぬ様子でそれに答えた。
「だから髪の色ばかりではないのだ。雰囲気自体が変わってしもうて、確かに主なのに別の高位の存在のように感じるのよ。美しいから倒れておるのではないのだぞ。龍王としての気の圧力と、月の気の圧力が合わさって我らでも長くはキツい。そのままでは話が進まぬから、もうみんな見たし元に戻さぬか。」
維心は、頷いてすぐに元へと姿を変化させた。
「これで良いか。我だってあんな姿のままでうろうろとして、存在するだけで皆を威圧するつもりはないわ。」
まだ月の気配はしたが、それでも放たれる気は幾分抑えられて落ち着いた。
隣りの炎嘉が、ホッとしたように力を抜いた。
「…誠に、慣れぬ。とっとと十六夜に戻ってもらわねば回りが持たぬではないか。あれは何をしておるのだ。」
すると、戻って来て席についた、蒼の前の宝石箱が喋った。
《別によお、オレでなくても良いじゃねぇか?維黎が生まれたし、あいつが育つまで待ったらどうだ?》
皆が、仰天して箱を見た。
蒼が、バツが悪そうに言った。
「あの、この玉が今、十六夜で。」と、皆に見えるように箱を傾けた。「連れて行けって言うから、連れて来たんです。維心様が月なんだって、証明できるからって。」
その玉からは、スーッと光が流れ出て来て、桜色の髪に、桜色の瞳の十六夜が、型を取ってそこに立った。初めて見た王達が目を丸くする中で、十六夜は言った。
「回りくどい事しねぇで、さっさと月の力で気付かせて話をしろよ、維心。治療してたら時間が掛かるぞ。オレならそうする。」
維心は、ムッとした顔をしたが、手を上げた。
すると、治癒のもの達が介抱して回っていた王達は、軒並み気がついた。
とはいえ、強制的に気付かせたのでまだふらふらで、治癒のもの達が引き続き治癒を施しているのが見える。
炎嘉は、さっさと済ませたいと、声を上げた。
「では、そのままで聞け。」皆が、視線だけをこちらに向けて、何とか炎嘉の話を聞こうと、治療されながら努めた。「今見た通り、数ヶ月前から地の碧黎が、陽の月の十六夜を月から降ろし、やむなく維心が陽の月を兼任しておるのだ。つまりは、維心は月でもあり龍王でもある。本当なら、一時的なものなので、全て終わった後に告示するつもりであったが、しばらくは戻れそうにないゆえ、本日告示しようとこうして皆の前に月の姿で出て参った。普段は龍としての姿で居るので、皆に迷惑を掛ける事はないゆえ、安堵せよ。」
迷惑とはなんぞ、と維心は思ったが、続けた。
「言うておかねばならぬのだ。我にはこの度我の正妃である陰の月の維月との間に、双子の子が生まれたが、あれらは月の子であり龍ではない。我の子ではあるが、月の我の子であって龍の我の子ではないのだ。それを周知させようと、皆に姿を晒して事実を伝えたのだ。左様心得て、あれらの出自を違えぬようにの。」
変な噂を流すな、あれは間違いなく自分の子だ、と維心は言っているのだ。
十六夜は言った。
「オレは今、ただの玉だ。親父が怒っててこの先どうなるか分からねぇしな。ただ、オレは立ち会ったから知ってるが、今の陽の月の維心と、維月の間の子達は間違いなくオレ達の同族だ。これから、月にも地にもなれるように育てるつもりだ。親父が自分の代わりになれるように育てると言っていた。だから変なことは言わねぇ方が良いとオレも思うぞ。親父を怒らせたら、オレですらこうなるんだからな。」
地を怒らせたら、何が起こるか分からない。
王達は、上位のもの達でさえ、堅い顔になった。
維心は、息をついた。
「だが、我は長く月でいるつもりはないし、十六夜には戻ってもらわねばと思っておる。また状況が変われば報告する。ゆえ、主らはいつも通り生活しておれば良い。」
回復し始めた、王達が何とか椅子へと戻り始める。まだフラフラしていたが、意識はハッキリしているようだ。
炎嘉は、言った。
「では、遅れたが会合を始める。最初の議題からぞ。」
そうして、波乱の開幕だったが、その月の会合は始まった。
維心は、とりあえず皆に現状を話し終えて、ホッとしていた。これで文句があるヤツが居るのなら、言って来ればよいと開き直っていた。
自分だって、好きで月のままではないのだ。
チラと十六夜を見たが、十六夜はサッサと人型を崩して玉へと戻って行ってしまっていた。
あれではまだまだ月に戻れぬなと、維心はまた深いため息をついたのだった。




