話し合いへ
維心は、維月と共に、いつもなら月の宮ぐらいなら、腕に抱いて飛ぶのだが、今日は輿に乗って、義心と明蓮に運ばせて飛んでいた。
いつもなら、月の宮へ行くのにベールなど被らない維月が、全身を覆うベールを被ってじっと黙って維心に身を寄せている。
その様子に、維月がどれほどにあの二人を心の中で突き放しているのか、分かる気がした。
《…維月。》維心は、誰にも聞かれないように、念で話した。《どうするつもりよ。まさか二人とも、切り捨てようと思っておるのか。》
維月は、維心を見上げた。
《維心様…私はもう、維心様以外を信じることが出来ませぬ。信じておった父でさえ、己の感情のためなら私にあのような扱いを。咄嗟の瞬間に、ああいう判断をするという事は、父は私を愛して大切にしておるのではなく、自分のために私を愛しているという感情を大切にしておるのですわ。きっと、その事に父自身も気付いておらぬのではないでしょうか。》
維心は、息を付いた。
《だが、主らのように特殊な同じ眷属である以上、数も少ないし未来永劫離れておるのは難しかろうぞ。》
維月は、維心を見上げて涙ぐんだ。
《本当に愛されるとはどういう事か、知っておる私には無理なのですわ。そういう愛し方なのだと言われたら、私には無理でしたとしか申せませぬ。私は、維心様の愛し方しか無理だったのだと説明致します。どうか、もう私に他の殿方をと申されるのはおやめくださいませ。私は、己が我慢して、皆を受け入れて幸福にと、陰の月の考えから行動しておりました。それがそう苦痛でも無かったからでした。ですが、今はもう苦痛ですわ。私が大事にしようとしておるのに、粗末に思われてまで、相手をする謂れなどありませぬ。》
最後の言葉には、どこか怒りを感じ取れた。
維月は、陰の月の慈悲の想いで相手の心を汲み取って、体を合わせたり、命を合わせたりするほどではない好意でも、相手を受け入れて癒そうとして来た。それは、相手の想いが真剣で、深いものだと思っていたからだ。だが、そうではなかったと知った今、自分の献身が踏みにじられたと感じて、怒り、悲しんでいるのだ。
そうして、もうそんなことはしないと、維月の心に同じように献身で応えて来た維心だけを傍にと、そう思っているのだ。
…これは、根が深いかもしれぬ。
維心は、また泣きだしそうな維月を抱きしめて、癒そうと努めた。今の自分が月なので、それが簡単にできてしまう事に驚きながらも、これから起きることが想像できなくて、不安でしかなかった。
《…維心様。》維月が、維心の胸に寄り添いながら、言った。《実は…お話がございます。》
維心は、何事かと維月を見つめた。
《…改めて何か?》
維月は、頷いて維心に念でそっとある事を言った。
維心は驚いて、そうしてこれは、早く解決してしまわねばと心底思ったのだった。
蒼には知らせていたので、到着口には蒼が立って待っていた。
維心が維月を連れて輿から降り立つと、蒼は硬い表情で言った。
「維心様。ようこそいらっしゃいましたと申し上げたい所なんですが、今回は例のお話合いに来られたとか。」
維心は、頷いた。
「その通りよ。」と、蒼と同じように硬い表情でベールの中でじっと黙っている、維月を見た。「維月を連れて来るのは、まだいろいろ複雑であるから本当は嫌だったのだがの。これが来ぬことには、話も進まぬと思うて連れて参った。して、碧黎と十六夜は?」
蒼は、頷いて奥へと足を向けた。
「こちらへ。オレに先触れが来た途端に、碧黎様はここへ出現したので知っておられるということでしょう。十六夜は、オレの居間のテーブルの上に、小さな宝石箱に入れて置いてあるんです。維心様が月になった話をしたら、それから出て来なくて話にならなくて。でも、維心様がお話をしに来たなら出て来ない訳には行かないでしょう。」
維心は、頷く。
維月は全く口を開かなくて、ただじっと維心にくっついて歩いているだけだった。
いくら維心でも、碧黎と十六夜から維月を守り切れるかと言われたら、今の十六夜なら大丈夫かもしれないが、碧黎に対しては難しかった。だが維月が心ならずも何かを飲まねばならないようなことがないように、維心は心を砕こうと決意していた。
そのまま真っ直ぐに蒼の居間へと入って行くと、そこには碧黎も、蒼が言った通り桜色の玉も、箱に入って置いてあった。
碧黎は、険しい顔をして座っている。維心は、その碧黎を睨むように見てその正面の椅子を選び、そこへ維月と並んで座った。
それを待っていたように、桜色の玉からは、あの薄っすら桜色の髪に、桜色の瞳の十六夜の人型が、スーッと現れてその場に立った。
蒼が、自分の定位置に座った。
「ええっと、オレは直接聞いてたわけではないので、立ち合い人ってことで。どうぞ、始めてください。」
維心は頷いて、碧黎を見た。
「…何か言いたい事があるなら聞こうぞ。」
維心が言うと、碧黎は答えた。
「維月の話を聞こう。主ら、そもそもが念で話すと聴こえづらいのに、月同士になって更に遮蔽率が上がって全く読めぬ。維月は何を思うておるのだ。」
維月は、じっと口を閉じていたが、言った。
「…私は、もう誰かを信じてどの程度か定かでない好意を受け入れることを、やめたいと思いましてございます。私は、誠に愛されるとはどういう事か知っております。愛の形がいくらいろいろあるとは言え、自分に合わない形は受け入れぬと決めました。真に愛されていると感じる命にしか、もう寄り添えませぬ。」
碧黎は、無表情で言った。
「それは、我と十六夜の事か?形が違うとはどういう事か。」
維月は、それにも答えた。
「十六夜は元よりもう、男女ではなく兄妹として、そしてたまに寂しさを埋める相手としてだけ、私を見ておりますわ。そんな軽い気持ちに体や命で応える事など出来ませぬ。お父様も、私を愛することを大切にしておるのではなく、私を愛しているというご自分の心を大切にしておるのですわ。だから、妥協も出来ぬし、自分の心のためなら私の心など二の次になってしまう。ああいう緊迫した時に、そういった心は透けて見えるのです。」
碧黎は、グッと眉を寄せた。
「我は、主を真に愛しておるからこそ、主が他の誰かと命を繋ぐという行為を許せぬと考えておるのだ。あの時ああ言ったのは、元の状態ならこれまで長く一緒に居ったのだから、主も抵抗がないと思うたからぞ。あんなこと一つで、我の心を疑うとはどういう事か。」
維月は、じっと碧黎を見つめた。
「あの前に、一度話し合って私と十六夜の仲がどのようだったかお話したはずですわ。あんなことがなくても、いつかは言うつもりであった不満があったということも。お父様も、あの時そんな扱いをと、十六夜に怒っていらしたのではありませんか。それなのに、一昨日の話し合いでは、私に一言の相談もなく、元の状態に戻そうとなさったという事ですわね。それは私を愛しているからだと。」と、フッと口元を弛めた。「…でしたら私には受け入れられない愛の形でありますので、愛し合うのは無理でございます。私は愛したかたには己の全てをかけて尽くしますゆえ、同じように献身で返してくださる形の愛でなければ無理なのですわ。私のために私を愛してくださるかたに、お応えして愛して参りたいと決めました。もう、この考えは覆ることはありませぬ。十六夜がもはや私の兄でしかないように、あなた様は私の父でしかありませぬ。兄と父として穏やかに愛しておりたいと思いますわ。」
維月が話している間も、十六夜はもう分かっているのか特に口を挟むことも無く、ただ落ち着いた様子で黙って他人事のように聞いていた。
維心は、碧黎がどんな反応をするのかと構えていたが、碧黎は、じっと維月を見つめたまま黙っていた。
維月は、それを静かに見返して、碧黎が何も返さないので、十六夜を見た。
「十六夜、前にも話した通り、私は兄としてのあなたが好きよ。これまで通りで良いの。ただ、夫婦らしいことはしないわ。何があっても、例え前世を思い出しても。体の関係を強制しようと思うのならもう会えないけれど、今度こそそんな事はしないと言うのなら、元通りの関係で全く構わないわ。だって、小さい頃から大好きな十六夜なんだもの。違う?」
十六夜は、肩を竦めた。
「もう寝首を掻こうとか思わねぇよ。本気でお前が嫌がってるのが分かったからな。ま、オレだってお前の事は、妹って感じになってたし、アレがしたいのだって結局は、他に目ぼしい相手が居ねぇし寂しい時はって軽い気持ちだったから、お前も嫌だわな。意地になるのはやめる。また遊ぼうや。オレはもう月じゃねぇけど。」
維月は、笑った。
「一緒に生まれた命なのは変わらないわ。別に玉だろうが月だろうか。例え玉のままだったとしても、あなたは何かやることを見つけるでしょ?だって、蒼が居るし。蒼に面倒ばかりをかけてるなんて、いつも頼られてたあなたらしくないもんね。」
言われて、十六夜は少し、ハッとしたように蒼を見た。蒼は、首を傾げて困った顔をしたが、そのまま何も言わなかった。
維心は、何も言わない碧黎に、念を押すように言った。
「主も。黙っておるということは、それで良いのだな?主はこれから、維月の父として婚姻関係でも命を繋ぐ関係でもない、本当に以前の状態へと戻る事になるのだ。維月は、もう主をそのように受け入れられぬと申しておる。だが、父として慕う事はするだろう。全く失う訳ではない。だが、それを守れぬと申すなら、二度と顔を見ることは無くなるであろうがの。」
碧黎は、まだ黙っていた。
全く反応がないと思って見ていた維心だったが、碧黎の握った手が小刻みに震えているのが見えた。
…我が同じ事を宣告されたら、このようには居られなんだであろうな。
維心は、そう思って碧黎を見ていた。恐らくは、無様に追い縋り、何としても傍にと、涙ながらに訴えたかもしれない。
だが結果的に、維月は維心の愛し方を選び、維心は自分が愛して堪えて来た日々は、間違いではなかったのだと思っていた。
正に、維心一人の粘り勝ちという感じだった。
「我の、この心が偽りと申すか。」碧黎の声は、小さく震えていた。「長の年月してこなかった、命を繋ぐほどの想いだというのに?」
維月は、下を向いた。
「…私を愛してくださるお気持ちは、きっと誠の事でありましょう。ですが、お考えになってくださいませ。維心様が私を愛してくださるほどには、お父様は私を愛しておられませぬ。維心様の価値観では、お父様が絶対に否だと言われる命を繋ぐ行為と同じ事になる体を繋ぐ行為を、陰の月の私と共に居るために堪えてお側に居てくださいました。いくらでも他に娶れるお立場でありながら、そんな状態でも私一人をお守りくださり、私の気持ちを汲んで妥協して私を選び続けてくださった。それがどれほどに尊く献身的な事か、私は身に染みましてございます。面倒の多い私を…私は、それこそが己の身を命を捧げて愛してお応えするに足る、愛情であると思います。これからは私は、維心様だけを夫として愛してお仕えしたいと思うておりまする。私の身も命も、このかたのものでございます。」
維心は、そこまで思っていたのかと、初めて知って目を丸くした。
もちろん、世の王の妃は皆、それが当然なのだが、維月は月で、特殊過ぎてそれは望めないと、ずっと思って来たからだ。
遠い昔、十六夜の妃であった維月を愛したその時から、維心はいつも誰かと維月を共有することを飲まねばならなかった。
それはつらかったが、しかしそれ以上に維月を愛していたので、いつしか維月を望むなら仕方がないと、あきらめて妥協して来たのだ。
維月は、それを側で見て来て、今維心を選んだのだ。
黄泉へと向かって再び転生し、また共に来た数百年の歳月が思い出されて、維心は胸がいっぱいになった。
そしてまた、碧黎が気になった。
碧黎は、まだ維心が葛藤していた、最初の頃の維心なのだ。
あの頃と同じ気持ちの碧黎が、維月に切り捨てられる現状を、維心は己に照らし合わせて苦しく見た。
同じ事があの頃にあったなら、恐らく切り捨てられたのは、維心の方だった。
そう思うと、維心は自然、口を開いていた。
「…維月。」維月は、維心を見上げた。「主の心地は嬉しく思う。だが、今の碧黎は、我なのだ。」
維月は、驚いた顔をした。十六夜が言った。
「お前もそう思うか?」
維心は、十六夜も思い出していたのかと、苦笑した。
「我はかつて、十六夜の妃であった維月を愛した。あの頃の我は、まだ今のようには出来ぬでおった。十六夜は寛大で、あの頃は男女の仲で愛し合っておった維月を我に許してくれていたのに、我は何かと十六夜と争った。我らがあまりに諍いを起こすゆえ、主は姿を隠した事すらあったよの。その度に我は後悔し、十六夜と話し合って和解した。そうして我も己の中で悟った。主を愛して側に置きたいと望むなら、十六夜が許したように、我も他を許さねば叶わぬのだと。あの頃の十六夜は、何より主の心を大切にし、己の事は二の次だった。だからこそ主は十六夜を愛して信頼し、共に居るのを知ったゆえ。なので、そうあらねばと思い、我は努めた。そのうちに、十六夜は今生それがおざなりになって参り、主の心が離れてかつての十六夜を倣っていた我だけに向いた。主は変わらぬのに、回りに居る我らが変わったばかりにこうなった。主は、昔から、愛する対象として選ぶ基準は、変わっておらぬのだ。」
維月は、自分自身の事なのに、そうだった、と目を開かれる思いだった。己の事は二の次にと愛してくれる存在に、自分も応えなければと愛して尽くす。それが今は、維心だけなのだ。
「オレも思ったのだが、昔は維月の気持ちばっか考えてたのに、最近は自分の気持ちばっかだった。維月が離れるのも、だから道理なんだよな。でも、知ってて変わった訳じゃねぇから、今さら昔にゃ戻れねぇ。だから、別に今はお互い兄妹でいいんじゃねぇかって思う。」
維心は、頷く。
「それが主の選択よの。」と、維心は碧黎を見た。「碧黎は、最初の頃の我と同じなのだ。まだ、愛しているがどうして良いのか分からない。他に触れさせたくない、側に居たいが他を認めるのはつらい、と葛藤していた我そのものなのだ。あの頃、主が我を切り捨てて十六夜だけを愛して参ると決めておれば、我の今はなかった。だから我は、碧黎の気持ちが嫌になるほど分かるのだ。」
維月は、口を押さえた。あの時は、十六夜が励まして維月も維心とのことを悩む事はあったが、それでもお互い妥協して何とかやって来た。
維心は今、あの頃の十六夜と同じ事をしているのだ。
維心は続けた。
「…なので、十六夜とのことは主らの間で兄妹と決めたのだから何も言うまいが、碧黎の心まで疑うのは早いと我は思う。あの頃の我と同じだと思うと、我は黙っておれぬのだ。愛しておるからこそつらいのだ。我にはそれが分かるゆえ、我だって主が我だけだと思うた方が良いのだが、あえて申す。」
維月は、袖で口を押えて下を向いた。確かにそうなのかもしれない…ただ、自分が経験を積んで、気取るのが早くなり、さっさと切り離してしまおうとしているだけで。
碧黎は、維心を見つめた。
「主は、我が鬱陶しいのではないのか。これまで、散々主の価値観を下に見て堪えよと言うて来た。だが、己となると出来ぬと申す我が。」
維心は、碧黎を見て真顔で答えた。
「それは鬱陶しいわ。我より力がある主が、維月維月と言うたら我だって奪われるのではないかと案じられるしの。だが、主の今の心境が、あまりにも昔の我と重なったゆえ、黙っておれなんだ。我だって、十六夜が寛大でなければどうなっておったか分からぬ。我はそこから段々に変わった。主のこれからは、主次第ではないか?」
碧黎は、また黙った。長い時間共に来た維心と十六夜と維月の間には、いろいろな事があったのだろう。自分がまだ、愛するという事が分からなかった間にも、これらは愛し合い、お互いを尊重し合って生きて来た。
自分は、まだその入り口なのだ。
「…我に時をくれぬか。」碧黎は、維月を見つめて言った。「維心が変わったからと、我もそうなるとは限らぬ。だが、我だって主を愛している心の誠はある。主が否と申すなら、我は主に手出しはせぬ。それでも、我は主を愛していたいのだ。他の命を愛するという心地を、知った我が主を忘れるなどもう出来ぬ。我も、己を見つめ直すゆえ。主も、我が再び主の信頼を得られるかどうか、見ておって欲しいのだ。見限るのは、それからにしてはもらえぬか。」
維月は、迷うような顔をした。きっともう、心から遮断してしまおうと考えていたのにこんな話になって、簡単に切り捨てる事も出来ずに、揺れているのだろう。
すると、じっと黙って成り行きを見ていた蒼が、控えめに言った。
「…別に、そんなに肩ひじ張らなくてもいいんじゃないか?」皆が、蒼を見る。蒼は続けた。「いつもと同じようにさ、お父様って話して行けば。十六夜にだってそんな感じで。そんでまた、命を繋いでも良いなってお互いに思うようになったら、そうすればいいんじゃない?取り決めとか、面倒な事言わないで。維月が維心様の妃で、龍の宮に居るのは同じなんだし。それで、維月が里帰りしたくなったら戻って来て、もうこっちから碧黎様とか十六夜がせっつかない感じにしたら?厳格に決めるんじゃなくて…心って、そんなに型に嵌められるものじゃないんだもの。」
言われてみたら、そうかもしれない。
維月は、蒼の話を聞いて、そう思った。三人が三人ともにいろいろと言い分があり、何かを決めておかねば諍いになると維月は構えてしっかり決めなければと思っていたが、蒼が言うように、心を型に嵌めるなんて無理だ。
だったら、このまま兄と父としてまた始めて、命を繋ごうと思ったら、繋いだら良いのではないだろうか。
何しろ、自分は維心の妃であって、二人の価値観は一致している。
婚姻という関係で、愛情を確かめ合うのに何の支障もないのだ。
「…分かりましたわ。」維月は、言った。「蒼の言う通り、ここで無理して型に嵌めてしまわずに、自然に任せて参ります。夫は維心様、そして兄と父。そうやって過ごしておったら、お父様ともまた、命を繋いでも良いという時が来るかもしれませぬ。もちろん、婚姻関係はもっと無理でございますし…ゆっくりと、壊れた何かがもしかしたらまた復活するかもしれないし、そのまま別の形になるのかもしれないし…。それで、よろしいでしょうか。」
碧黎は、ホッとしたように頷いた。
「それで良い。時はある…我は焦らぬゆえ。父ではないが、父で良い。そうやって、接して参ろう。」
失うぐらいなら。
碧黎は、心の中で思った。時など無限にある。ここまで幾万年も待ったのだ。やっと見つけた心の拠り所を、焦って失う事などしたくない。
そうして維月も頷き返して、維心を見上げた。維心は、それを見つめ返して微笑むと、維月の肩を抱いたまま、とにかくは解決かと、息をついた。
だが、まだ月の問題が残っていたのだ。




