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次の日の朝、維心は夜明けを感じて目を覚ました。

あちこちに力を持っているので、精神的にも力にも余裕があって体はかなり楽だ。

東の空が白んで来るのを見ながら、それが自分が月の視点で見ているのだと気付いた。

まるで息をするように、月を使っている自分に驚きながら、これほどにいろいろと見通せていて、月ではない以前の状態に戻ると、目が塞がれたように感じてストレスなのではないか、とふと案じた。

なので、必要な事だけを使うようにしようと、維心はその視界を閉じて、自分の龍の目を使う事にした。

上半身を起こして横を見ると、やはり維月は眠っていた。

その寝顔に思わず頬を緩めて、その頬に口づけると、サラリと自分の長い髪が維月の頭に掛かった。

「…?」

維心は、驚いた。

その髪は、また金髪に戻っていたのだ。

維心が愕然と自分の髪を見ていると、維月がもぞもぞと動いて目を開いた。

「維心様…?朝ですの?」

そして、ハッとした顔をした。

維心が、またあの目が覚めるほどに豪華で美しい様に戻っていたからだった。

「まあ…。」

寝起きになんて美しいものを見ているのかしら私。

維月は、思わず涙ぐみそうになるほどに、高貴に美しい維心を見つめた。対して維心は、別の意味で泣きそうな顔になった。

「維月…また戻っておる。もしや、これは勝手に戻るのか?」

維月は、ハッと我に返って慌てて首を振った。

「大丈夫ですわ、きっと寝ておる時に月が強く出て、姿が月のそれに戻っただけですわ。ほら、また昨夜のように念じてみてくださいませ。きっと元に戻りますわ。」

維心は、維月に励まされて自分を落ち着かせようと頷いて、そうして、目を閉じて昨日と同じように念じてみた。

維月が言った通り、サーッと髪の色は黒く戻り、難なく元の姿へと戻った。

維心が、ホッとその黒髪を見つめると、維月もホッとしたように言った。

「ほら、大丈夫ですわ。きっと、寝ておる時は気が緩むので、月が強く出てしまうのかもしれませぬ。では、本日は髪も結わいたいし、もう起き出してお着替えをしましょうか。」

維心は、頷いて素直に起き出した。

昨日の事があったので、維月は侍女達に着物を持ってここへ入って来させない事にしていた。なので、急いで部屋から出ると、外で維心が起きたのを気取って着物を持って立っていた侍女から受け取り、また部屋の中へととって返して、維心の着替えを始めた。

維心は、機嫌良く鏡の前に立っており、なのに鏡を見ずに、忙しなく動く維月のことばかり見ている。まるで子供のようだが、そんな維心も愛らしいと思うので、維月はあちこち動き回って着付けながらも、維心を時々に見上げては目を合わせて微笑み、維心も嬉しそうにそれに応えて微笑み返す、という、母子のような心の交流をしていた。

これはいつもの事で、維心が何かに不安な時などは、よく維月を目で追うので、安心させようと維月が自然とするようになった、儀式のようなものだった。

着付け終わった後は、維心に椅子へと座ってもらい、ついぞやっていなかった、髪を結うという行為を始めた。

しかし神世には、輪ゴムなどない。

新しい水引が毎朝準備され、それでまとめた髪をまとめて結うので、慣れないと難しい技だった。

維月は、自分の髪すら侍女に結ってもらってはいたが、維心の髪は、前世長かった時から時々結う手伝いをしていた。

なので、何とか後ろにひとまとめなら、出来るようになっているのだ。

綺麗な黒檀のような黒髪を、櫛で丁寧にとかして、後頭部の上の方へと持って行く。

「これぐらいの高さでよろしいでしょうか?」

ポニーテールみたいな高さだ。

維心は、頷いた。

「主が良いと思う所で良いぞ。結わえてしまえば我は髪になど構わぬしの。」

維月は頷いて、片方の先を口に咥えて、もう片方の先を、しっかりと固定したその、髪の根元にぐるぐると巻き付けた。

これが結構な力が要るので、少し気を使って無事に終えると、決められた通りに上で結んで、そうして切った。

小さな角が二本あるように立った水引の先に、維心は言った。

「上手く切ったの、維月。では、主も着替えるが良い。我は先に居間に出ておるからの。」

維月は、ホッと息をついて、頭を下げた。

「はい。すぐに参ります。」

維心は機嫌良く立ち上がり、そうして先に奥の間を出て行った。

さあ、私の準備をしないと。

維月は、急いで奥の間の奥の扉から、自分の部屋へと駆け込んで、そこで既に待ち構えていた自分の侍女達に手伝われ、凄いスピードで着替えにかかったのだった。


そうやって急いで支度を整えて居間へと出てくると、維心は朝の茶を飲みながら、鵬達臣下の訪問を受けていた。

これは朝の決まったルーティンなので、維月も落ち着いて維心に頭を下げた。

維心は、維月に気付いて手を差し出した。

「これへ。鵬と話しておったのだが、これなら謁見も大丈夫だろうと。これらが言うには、まだ少し雰囲気が違うようだが、問題はあるまい。」

維月は、維心の手を取ってその隣りへと座った。

「はい。やはり月におなりになったので、自然雰囲気はどこか変わっておられるかと思いますが、問題ないと私も思いますわ。ただ、大事を取って本日は様子を見られた方がよろしいかと。月の気の調整が、どうなるのか分かりませぬので。」

いきなり金髪になるかもしれないし。

維月は思ってそう言った。

維心も、それに頷いた。

「鵬もそのように。昨日臣下がバタバタ倒れたし、またいつ何時ああなるか、我もどれぐらい気を抜いたらああなるのか分からぬからの。本日は、それを見ようと思うのだ。」

鵬が、言った。

「王は常からお美しいので、我ら慣れておると思うておりましたが、昨日は祥加までも気を失うほど凄みのある様であられて。他の臣下は踏ん張っているかと思いきや、あの後目を開いたまま気を失っておるものも多数おり、どうなることかと案じました。王におかれましては、まさに我らがその昔、月を知らぬ時に、月に持っておった幻想そのままのお姿で。荘厳で、敬わずにおられぬような。誠に我が王は、類いまれな神であられまするので。」

維月は、苦笑した。十六夜は、月というにはあまりに人と接し過ぎていたものね。

維心は、息をついた。

「とはいえ、我はこのままとは思うておらぬから。いろいろ抱えると、宮の事に支障が出て参る。ゆえ、本日は月の宮へ、これからの事を話に参ろうかと思うのだ。維月、主も参れ。こういう事は、早く取り決めて解決しておいた方が良いのよ。我も…明るくなると霧がよう見えて気になって仕方がなくてな。つい消してしもうて気を遣うのだ。」

こうして話している間にも、維心が月からあちこちに気を降ろしては霧を片っ端から消しているのは維月にも分かった。そうせずにいられない性分なのだろう。

そういえば、龍の宮の結界内も、まるで月の宮の中のような清浄な空気を感じた。思えば維心の結界なので、自然にそうなっているのだろう。

「結界内もそれは清浄で、我らも過ごしやすい事この上ないのですが、王のご負担が増えるのではと案じられまする。」

鵬が言う。

維月はまだ、あの時からあまり経っていないので、本当は顔も見たくない心地なのだが、そうも言っていられなかった。

これ以上、愛する維心の負担を増やしたくはないのだ。

なので、頷いた。

「…では、月の宮へ。これ以上、維心様にばかりご迷惑をお掛けできませぬ。しっかりと話し合って、終わらせて参りましょう。」

終わらせて来るのか。

維心は、その維月の言葉の選択が気になった。維心自身は解決するという言葉を使ったが、維月は終わらせると言った。つまりは、維月はあの二人を切り捨てようとしているのだ。

だが、今は鵬も居るし、公沙も、他の臣下も居る。

ここで、それを口にするのはまずいと思った。

なので、頷いた。

「…ならば月の宮へ。」と、鵬を見た。「本日は、恐らく終日あちらへ参る。だが、帰って来られるのは何時になるか分からぬぞ。何しろ、相手は碧黎と十六夜よ。世のためには避けて通れぬ道であるから、主らも覚悟してな。」

鵬と公沙は、臣下の最前列で頭を下げた。

「は。こちらは予定を調整してお待ち申し上げております。」

維心は、何やら覚悟を感じる維月を連れて、そして義心と明蓮だけを連れて、不安を感じる中月の宮へと飛び立ったのだった。

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