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入れ替わり

十六夜は、それを蒼から聞くことになった。

蒼が倒れて一時騒然となった月の宮だったが、蒼はすぐに持ち直し、治癒の対で数時間休んだ後、自分の足で部屋へと帰った。

そして、そこで李心の手に握られた玉と、その脇に立つ、桜色の髪の十六夜に会ったのだ。

十六夜は、淡々と蒼に何があったのか話して、もう維月は月の宮へ帰って来ないかもしれない、と結んだ。

蒼は、確かにそんな扱いをされたらいくら維月でも我慢も限界だろうし、これまでだってよく仲良くやっているなと思っていたほどだった。

何しろ、十六夜の気ままさは段々に酷くなっていて、昔は里帰りを促しに行ったら、自分が連れて帰って来たのだからとひと月の間地上に居て、維月と仲良く過ごしていたのだ。

それが、最近では帰って居てもお構い無しに月へと帰り、維月が居ても普段と変わらなかった。

その間、暇な維月の世話をしていたのは、碧黎や蒼、嘉韻、それにまだ生きていた頃の将維だった。

だが、碧黎も大概気ままなので、急に居なくなったりする。

なので、間を埋めるのは、もっぱら蒼や嘉韻の仕事だった。

そのうちに維心も来るし、十六夜もまた気が向いて降りて来るので、それで何とかしのいで里帰りは終わる。

兄妹なら分かるが、よくあれで夫婦だなあとは、思っていたのだ。それでも、二人の事は二人にしか分からないからと、たまに文句を言うぐらいで、放置していた。

だが、やはり維月から見ると我慢していたようで、十六夜は夫ではない、と認定されてしまったのだ。

そうなると維月は梃子でも動かないのだが、十六夜はこれまでと同じように考えていたようで、またいつでも出来る、ぐらいに気軽に思っていたらしい。

維月が怒るのも、道理なのだ。

「でもさ、兄としてなら好きだって言ってたんだから、十六夜がストーカーみたいにしなかったら大丈夫だと思うよ。」蒼は言った。「やっぱり今生を生きてるし、段々前世は遠くなるんだよ。今生の十六夜は、維月が嫁いでから結構気ままにやってたしね。里帰りだって、なんでオレがと思いながら、十六夜が降りて来ない間お守りしてたんだし。前世はガッツリ下に居たじゃないか。覚えてる?」

十六夜は、言われて下を向いた。

「…ああ、覚えてる。3ヶ月くらい帰って来ててもずっと下に居たもんな。分かってる、オレも維月も今生を生きて関わり方が変わってたんだ。瀬利とのことだって、恐らく前世のオレなら絶対やらなかったと思うんだ。維月に悪いって思ってさ。それが、何とかなるだろって簡単に考えた。絶対離れないって甘えがあって。確かに離れないかも知れねぇが、夫ってなると信じられなくなるのは当然だよな。前世と同じようにしたければ、オレも前世と同じように行動しなきゃならなかった。維月にだけ前世と同じで居ろってのも、勝手な話だったよ。」

蒼は、あまり十六夜から悲壮感を感じないのも、恐らく十六夜自身が維月に対して、そこまで夫婦で居たいという執着が無いからだろうなと思った。前は、維月に見限られたとこの世の終わりのような顔をしていたのに、今は淡々としている。

つまりは十六夜も、別にそこまでこだわっていないのだ。ただ、寂しいから相手して欲しい、ぐらいの感情なのだろう。

何しろ月から降りて来ようとも、兄妹なのには変わりない。双子で生まれて育って来た記憶があるのだ。

蒼は、頷いた。

「とりあえず、碧黎様の事だな。」蒼は、額を押さえた。「十六夜を月に返してもらわないと…。」

十六夜は、苦笑した。

「お前じゃ大変だろ?倒れたとか聞いたが、もう具合はいいのか?」

蒼は、ハッとした。そうだ、十六夜は知らない。この玉では広域を見渡せないし、気取る事も出来ないのだ。

もう、夕刻になって来ている。維心なら、恐らく月の扱いに慣れて着ている頃だろう。

その証拠に、月の気が安定して地上を守っているのを感じるのだ。

「…話しておかないと。」蒼は、十六夜を見つめた。「維心様が、月に上がったんだ。維月が打ち上げた。碧黎様がそれを気取って矢のような勢いで龍の宮へ行ったと嘉韻が言っていたから、恐らく維月の一存だろうが、今は安定して地上を守ってる。金色の龍が、月から降りて来たって聞いた。」

十六夜は、ショックを受けた顔をした。

さすがにそんなことになっているとは、思いもしなかったのだろう。

「え…あいつが月に?!龍を捨てたのか?!」

蒼は、首を振った。

「ううん、龍のままだよ。月とも繋がりを作っただけ。維月が月と地を兼任してるみたいに、維心様もそうしたみたい。でも、治癒の対に居た時に、維月の目から見てたんだけど、維心様は一時的にって考えてるみたいだ。誰かが戻るまで、地上を守るために月になっただけ。あっちも大概迷惑してるみたいだし、早いとこ碧黎様を説得して十六夜が月に戻らなきゃ。」

十六夜は、呆然それを聞いていた。維心が月に…あいつなら、月の仕事だってやってのけるだろう。何しろあの、維心なのだ。

「…オレなんか、存在してるだけで役に立ってるってたかをくくっていたのによ。」十六夜は、言った。「あいつが月も出来るなら、別にオレなんかが戻る必要ねぇじゃねぇか。」

蒼は、驚いた顔をした。でも、じゃあ十六夜はどうするんだよ。

「維心様はただでさえやることが多いかたなのに、無理だよ!それでなくても金髪になっちゃって、めっちゃ派手な美神で臣下が卒倒しまくって、炎嘉様達でさえ対応に困るほどで、嫌がってらっしゃるのに!」

維心はそうなったのか。

十六夜は、苦笑した。

「これぞ月、って型になったんだろ。維心の事だ、意識が高いし姿に現れてそんなんなったんだよ。」と、息をついた。「ま、オレより適任だ。オレは玉で充分なんだろうよ。もう、戻る。」

蒼は、諦めたように言う十六夜に、慌てて言った。

「ちょっと十六夜!何あきらめてるんだよ!」

だが、十六夜はスーツと形を崩すと、桜色の玉の中へと吸い込まれて行った。

蒼は、当の十六夜がこれではいつまで経っても解決しない、と、慌てて言った。

「十六夜!待てって、話を聞け!」

だが、玉は何も答えない。

蒼は、このままではヤバいと必死に玉に語り続けたが、十六夜は全く出てくる事はなかったのだった。


維心と維月は、十六夜と蒼の会話を聞いて、ため息をついていた。

月は便利だが、いつまでも月で居ようとは、維心は思っていなかった。何しろ、力があちこちにあって、持て余す。今あるこの身で全てを使っているのではなくて、月の力を扱う時と、自分の力を使う時とで別々なのだが、まだ切り替えが面倒なのだ。

維心自身が月として存在することで、浄化の光が地上を照らすのは分かった。なので、別に意識して何かしなければ地上が立ちいかないとかないのだが、地上の穢れが必要以上に広範囲に見えて、放って置けない。

維心は十六夜とは違い、見えると放置することが出来ない性質(たち)なので、ちょっと濃いめになっている箇所があったら、スッと力を向けてそれを消す。

まさに地上が常に綺麗さっぱりしている感じだった。

ある程度濃くなって来てから、一気に消す十六夜とは、全く違う感じなのだった。

維月は、維心を見て言った。

「維心様、お気持ちは分かりますが、ある程度ならこれまでも常、存在しておったものなので、放置しても悪さはしないものですわ。ハッキリ見えるようになって来たらで良いのですわ。」

維月も同じ月なので、それが見えて感じるのでそう、言ってくれるのだが、維心はこれまでも、神世でおかしな種は尽く消して来た性格だ。

放置して、後に面倒が起こるのを嫌うからなのだ。

「分かっておるのだが、気が付いたら放って置けぬでの。」維心は、答えた。「今もチラと視界の端に濃い目の場所が見えたゆえ、気を放ってしもうたわ。」

維月は、維心の性格は分かっていたが、苦笑した。

「でも、あまりに綺麗過ぎても、問題が。皆が皆、まるで悟ったようになってしもうて、子も出来ぬような事態になってしまうのです。少し、無視なさることも覚えてくださらねばなりませぬわね。維心様も、このままでは気が休まる暇もないかと思いますし。何しろ、ちょっと喧嘩など起こると立ちどころに霧が発生致しますから。そして、集まって濃くなりますの。」

維心は、頷いた。

「分かっておる。まだ、月になった初日であるから。今しばらく様子を見てくれぬか。そのうちにどこまでなら大丈夫だと見極められると思うゆえ。」

維月は、頷いた。いきなりに月になどなって、その全てが完璧になど、いくら維心でも無理なのだ。

なので、言った。

「少しずつ慣れて行かれたら良いかと。十六夜があの様子では、まだまだ掛かりそうですし、その間に維心様ご自身から十六夜と話して、説得してくだされば、解放されるのですし。」

維心は、息をついて首を振った。

「それで済めば良いのだが…何より問題なのは、碧黎よ。そもそもが碧黎が十六夜を下ろしてこんなことに。主との事もあるし、我だけではならぬであろうの。主も、もう関わりたくないと今は思うておるのだろうが、会わぬと決めるにしても、しっかりと話してからでなければな。月の眷属が乱れておっては、地上も落ち着かぬからの。」

維月は、気が重かったが避けて生きて行ける事でも無かったので、渋々頷いた。

話し合わねばならない…だが、そもそもが自分の事を物ぐらいにしか思っていないあの二人が、話を聞いてくれるのだろうか。聞いてくれても、こちらが耳障りの良いような事ばかり言って、結局はあちらに良いようにしか決めぬのでは…。

維月は、ただ面倒だった。

もう、今の維月は維心しか信用出来なかったのだ。

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