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友と

そうやって北西の神たちもそこを出て行き、残ったのは炎嘉と焔、志心、箔炎の四人だけだった。

維心は、自分の髪を呪った。なんだってこんな目立つ色になったのだ。

「…切るか。邪魔になるし。」

維心が髪を引っ張りながら言うと、焔が慌てて言った。

「何を言う、もったいない。まあ髪ぐらいいくらでも伸ばせるが、見ておったら慣れて来たゆえそのままで良い。とりあえず、嫌なら月であることに慣れてその気と姿を調節するようにせよ。碧黎とも仲違いしておるのなら、方法を教えてもらえぬのだし。」

維心は、息をついた。そうなのだ、こういう事は十六夜か碧黎なのだが、その二人と話しが出来ない今、維月に頼るしかない。だが、維月だってそこまで詳しいのではないのではないだろうか。碧黎の記憶を持っているのなら、少しは分かるのだろうか…。

考え込む維心を見つめて、炎嘉は、息をついた。

「…まあ、慣れて来たわ。最初はあまりに美しいゆえ戸惑ったが、中身がどこまでも主であるから。美しいからと違う主ではない。だがの、目のやり場に困るゆえ、早う何とかせよ。主はそれほどに美しいのだ。気の圧力も半端ないぞ?十六夜はそこまででは無かったのに。」

維心は、息をついて肘をついて顎をその上に乗せて不貞腐れた顔をした。

「美しい美しいと。うるさいわ、我だって好きでこんな姿になったのではないと言うに。会合までには何とか出来るように維月と話す。やり方があるはずなのだ。普通に姿を変えようと術を放っても、全く変わらないのだからの。維月だって、考えたら元は赤い目の金髪のはずであった。陰の月に完全に飲まれておった時、その姿の時があったゆえ。だが安定して黒髪であるし、しっかり聞いておくわ。」

焔が、頷いた。

「頼んだぞ。こちらも慣れて来ても思わず見つめてしまうのだ。何と言うか…見ておったら癒される心地がしての。つい鑑賞しようという気持ちになってしもうて。」

それには、箔炎がうんうんと頷いた。

「それは確かに。決して己のものにしたいなどとは思わぬのだが、手の届かぬものを愛でるような気持ちよ。そうよな、まさに月見の時に、月を愛でる心地と同じ。」

月だからの。

維心は思ったが、もううんざりして立ち上がった。

「維月に聞いて何とか出来ぬか励むわ。というか、今更に美しいと騒がれる女の気持ちが分かる心地ぞ。姿ひとつでこのように皆に言われるのかと思うと落ち着かぬ。綾も楓も恐らく鬱陶しいと思うておったろうなと思うわ。」

志心が、苦笑した。

「心地は分かる。そうよな、姿ばかりで騒がれてはの。だが、主の場合は気が伴っておるからの。我らもこれで帰るが、次に会うまでには何とかしておけ。会合の席にそれで出たら、それこそ皆が卒倒して大変であるぞ。」

維心は、フンと横を向いた。

「分かったわ。我だってもううんざりぞ。」と、じっと足元で待つ義心を見た。「戻る!」

そうして、維心が廊下へと出て行くのを見て、箔炎、炎嘉、焔、志心が立ち上がると、廊下から悲鳴が聴こえて来た。

「もう!いい加減にせよ!臣下のくせに、慣れぬなら宮の外へ放り出すぞ!」

維心は、あの美しい姿で激怒して回廊をずかずかと歩いて遠ざかって行くのが見える。

その進む方向に従って、出くわしてしまった侍女侍従はショックでバタバタと倒れては、義心がさっさと呼び集めた軍神達に拾われて、どこかへと連れて行かれていた。

宮の中であんなものが歩き回っていたら、臣下もたまらぬわな。

それを見送りながら、四人はそう思っていた。


維月は、前の姿も大概美しかった維心が、月が混じって信じられないほどに美しくなってしまっていて、そのせいで、宮の臣下達がバタバタと倒れてしまっている現状を知らされて頭を抱えていた。

維心に何とか気の調節の仕方を教えねばならないが、何分感覚の問題なのでどうやって教えようかと悩んでいたのだ。

だが、どうにかしないと慣れる前にみんな疲れ切ってしまうだろう。

どうしたものかと居間の椅子に座って考えていると、維心が勢い良く帰って来て真っ直ぐに維月に大股に寄って来ると、言った。

「維月!何とかせよ、我に調節の方法を教えよ!あちこちで皆がバタバタ倒れて鬱陶しいことこの上ないのだ!」

言葉は荒いのだが、実際表情は泣きそうだった。恐らくは、あまりに美しいので他の王達にもしこたま見られて来たのだろう。

今の維心は、黒かった髪も眉毛もまつ毛も全部金髪だ。色合いが全く違うのに、荘厳なうえ豪華で美しい様は、確かに月を思わせた。

十六夜がこの姿で無かったのが逆に不自然に思えるほどだった。

維月は、維心の手を取ってなだめるように言った。

「維心様、今どうやってお教えしようかと考えておったのですわ。私も、気を抜いたら陰の月が出てしまっておった頃、目がすぐに赤くなるし、完全に飲まれた時には金髪になっておりました。この姿はでも、何も考えずに月から降りて参ったらこうで、持って生まれたものらしいのです。ここから目が赤くなった時に、どうやって鳶色に戻しておるかと聞かれたら、その、月を抑えて己を取り戻した時、としかお教え出来なくて。詳しくは、心を繋いで私の感覚を読み取ってみてくださいませぬか。言葉ではどう言い表したら良いものか。」

維心は、何度も頷いて維月の手を引っ張って奥へと足を向けた。

「では、奥へ!早う習得せねば、臣下を全て宮の外へ放り出さねばならぬ!」

維月は、慌てて一緒に入って来ていた義心を見た。

「維心様、義心が!義心が居りますのに!」

維心は、くるりと振り返ると、言った。

「主は鵬達が我の姿を周知するように手伝って参れ!それから、我を見て卒倒したものはしばらく宮へ入るなと申せ!」

義心は、慌てて頭を下げて、答えた。

「は!」

そうして、急いでそこを出て行った。

維心は、維月を引きずるようにして奥の間へと入って行き、悲壮な顔で言った。

「維月、皆が皆我を見て美しいとか申して、呆けておるのだ。目も合わさぬし、こちらが見たら見るなと横を向くし。まともに会話も出来ぬ!早うこの姿だけでも何とかしたいのだ!」

維月は、頷いて維心の頬に触れた。

「誠にお辛い思いをおさせし申して。さあ、こちらへ。私がお教えしまするゆえに。」

しかし、そう言う維月の目は薄っすらと赤かった。

これは陰の月が多い維月だ、と思ったが、いつものようにゾクとはしなかった。どうやら、自分の中の月が陰の月を恐れていない。どうにでも出来ると思っているようだった。

維心は、フッと笑うと維月を抱いて、寝台へと沈んだ。

「ならば教えてもらおうぞ。維月…さあ心も体も共に。我らは全てが対。夢に見た対の命ぞ。」

維月は、フフフと笑った。

「おいでなさいませ、維心様。私から記憶も全てを奪い取ってしもうてくださいませ。」

二人は、そのまま心を繋ぎ、その上で愛し合って時を過ごしたのだった。


次に目が覚めた時には、もう夕刻近くなっていた。

維心が目を開いて、ふと脇の維月を見ると、維月は維心の長い金髪の上に、すやすやと気持ちよさげに眠っていた。

まだ金髪である事実に、そこで気付いた維心は、維月の黒髪に指を通してから、維月の頭の中にあった感覚を思い浮かべて、自分の元の姿を思い浮かべた。

すると、スーッと長い金髪は艶やかな黒髪へと変化し、維月の髪と同じ色になった。

「おお。」維心は、思わず言って、維月を揺すった。「維月、我の髪が!姿が元へ戻ったのではないか?」

維月は、維心の弾む声にハッと目を開いて、そうして目を擦るとじっと維心を見つめた。

維心は、相変わらず髪は長かったが、それでも元の維心の姿へと戻っていた。

「まあ!」と、維心の眉もまつ毛も、黒く戻っているのを見て、頷いた。「本当ですわ、戻っておりますわ!長さは長いですけれど、しばらくはおかしなことにならぬように後ろで縛っておきましょう。」

維心は、また昔のように面倒だなと思ったが、下手に切ったりしておかしなことになってもまずいので、頷いた。

「分かった。」と、維月に襦袢を着せ掛けながら、言った。「何とか気も抑える術を覚えたぞ。癒しの気ばかりで皆を戸惑わせることももう無かろうと思う。案外に簡単であったが、コツを掴むまでが難しいのだな。」

維月は、頷いて維心の襦袢の腰ひもを結びながら答えた。

「そうなのですわ。昔からやっておる事ですので、何と説明したら良いのか分からずで…。でも、記憶を見たら分かりましたわね。さすが維心様ですわ。」

維心は、笑いながら維月の腰ひもを結んでやりながら、言った。

「それにしても、主も大層なことをしておるものよ。今は陰の月であるのに、地の結界は残しておれるのだの。どうやっておるのよ。」

維月は、フフフと笑った。

「力を複数に分けて置ける方法を、父の記憶から知りました。結界などは、常に力を使っておりますので、意識しておったらきりがないと。なので、地である時に固定してしまい、そうしておくと、例え私という意識が死んでしまっても、地が生きておる限りは続く結界が出来るのですわ。それを利用して、結界を張ってから月へ戻って陰の月になっておるのです。なので、私の陰の地の結界は、健在なのですわ。」

維心は、確かに自分も結界など意識して力を使っていた例はないが、しかし違う命の力を意識だけを入れ替えて使うなど、恐らく難しい。それを使ってから維持して、別の自分へと移行するなど、至難の業だと思われた。

だが、維月は碧黎の記憶を探ってその方法を知ったのだ。

「我の場合は…地上に居って龍でありながら月でもあるので、主のように入れ替わるわけではないから大丈夫そうよ。」と、空を見上げた。「十六夜は…。月の宮で、蒼と話しておるわ。どうやら、蒼があの玉を見つけたようで己の部屋へと移動させておるな。」

維月は、頷いて同じように空を見上げた。

「誠に…。維心様が月になられて、それすら気取ることも出来なかったでしょう。蒼は、話しておるのでしょうね。蒼には分かるはずですもの。」

維心は、頷いた。

「そうであろうな。」

二人は、そこから月の宮を見つめた。

維心は、同じ視界を維月と共有している事実に不思議な気持ちになりながらも、対の命というものは、これほどに心強いのかと今さらながらに幸福だと、身悶えするように感じていたのだった。

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