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金色

月の宮から飛び立とうと炎嘉や焔たちが輿を浮かせて結界を出ようとすると、急に空に向かって、東の方角から光が打ち上がって行くのが見えた。

「うわ…!なんだ!?」

他の輿も、皆上空に留まって、地の結界から出ずにそれを見守る。

蒼は、見送りで出発口に立っていたが、空を見上げて驚いた。

あれは…月へ向かっている…?!

「…うわー!!」

蒼は、その光が月へと到達した時の衝撃に、一瞬気を失ってその場に倒れた。

びっくりした嘉韻や恒が慌てて蒼を支え、そうして出発口は、大騒ぎになった。

「治癒の者!王が!!」

そんな風に騒いでいる地上に炎嘉が気付いて、隣りに浮く焔の輿へ向かって叫んだ。

「蒼が倒れておる!」と、光が消えた先を見た。「いったい何が飛んで行ったのだ!」

わあわあと、王が倒れたと眼下ではわらわら神が集まって来て、上を下への騒ぎになっている。気になったが、そんな所に降りて行っては逆に邪魔になろうと去るに去れずに皆がそこに浮いていると、碧黎が慌てたように飛んで来た。

「勝手な事を!」

そうして、東の空に消えた。

「…だから何ぞ!」

炎嘉が言うと、匡儀の輿が寄って来て、言った。

「もう、後で報告してもらおう。分からぬのだから。我らでは誠に分からぬ。帰るぞ。」

匡儀の輿は、方向を北西へと向けて自分の宮へと飛び始める。

それを見た志心も、寄って来て、言った。

「匡儀が言うように、分からぬ。蒼が倒れたのは気になるが、後から知らせが来よう。我らは邪魔でしかないし、早う宮へ帰ろう。」

炎嘉は、気になったが、それでも確かにここに浮いていても何も出来る事がないので、連絡待ちをしようとそのまま、自分の宮の方角へと輿を向けて、飛び始めたのだった。


一方、維心は体が熱くなったかと思うと、ズルリと体から抜けて、驚くほど身軽になった状態で、何かの力に押し上げられて、グイグイと空へと打ち上がった。

驚いたのは、自分が常最高速度で飛ぶよりも、遥かに速かったことだ。

何の空気抵抗もなく、それは命なのだからそうなのだろうが、地上から離れると、月というのは地という玉からかなり離れた場所にあった。

真っ暗で星々が煌めくのが一瞬にして流れて行き、黄白色く光るばかりでそんな色だとばかり思っていた月が、実は岩石の塊であるのを知った。

…これが月か…!

維心が思って目を閉じた瞬間、維心は月へと衝突し、その中へと入り込んで行くのを感じた。

…ぐ…!!

維心は、初めて月へと昇ったので、その衝撃に気を失いそうだった。

だが、中は割り合いと暖かく明るく、穏やかな空間で、恐る恐る目を開くと、寝転がって大の字を書いたとしたら、二人ぐらいは余裕で眠れるぐらいの大きさの、柔らかい空間だった。

…いつも維月はここに居ったのか。

維心は、しみじみとそう思って回りを見回した。

《維心様。》

すると、維月の声が呼びかけた。維心が、それを見ようとすると、なんと結構な距離があると思っていた地の玉が、オートフォーカスのようにグーッと寄って見えて、維月が龍の宮の、庭に立って空を見上げているのが見えた。

《維月!》

維心が答えると、維月は頷いた。

《そこが月でありますわ。どこでも、地上を自由自在に見通すことが出来まする。試しに、月の宮をご覧になってくださいませ。》

維心は、言われるままに月の宮、と思うと、すぐに月の宮が見えた。

そして、炎嘉達が帰ろうとして輿であちこちへと飛んで去って行くのが鮮明に見え、どうしたわけか、出発口では月の宮の臣下軍神達が大騒ぎをしている。

《…蒼!維月、蒼が倒れておる!》

維月は、驚いた顔をした。

《え、維心様が月へと上がられたから?》

そこへ、碧黎の声が割り込んだ。

《維心のような力の強い命が月へと衝突したからその衝撃を蒼は受けたのだ!いつもは我が、そう言うものから守っておるからならなんだのに!》

維心は、碧黎が割り込んで来るのは想定内だったので、言った。

《だが、命に別状は無さそうぞ。問題ない。》

維心がそう言うと、碧黎は龍の宮の庭にパッと現れて、維月の近くに浮いた。

《維月!勝手な事を…いつ我が維心を月にして良いと申した!》

維月は、碧黎を睨んだ。

《地上を守っておるのは維心様も同じですわ!いちいちお父様にお伺いしなくとも、私にも出来ますゆえに!》

碧黎は、キッと維月を睨んだ。

《どういうつもりよ!維心を月にして…そうして、十六夜は?!》

維月は、首を振った。

《元よりお父様が月から下されたのでしょう。代わりが要るとおっしゃっておられたではありませぬか。それが決まるまでと、維心様は月へ上がってくださった。それだけですわ!》

碧黎は、手を上げた。

《勝手な事はさせぬ!》

…維月!

維心は、自分の中にある維月の陰の月としての記憶を使い、地上へ下りたいと願った。

すると、来た時と同じようにするりと体は光となって地上へと、まるで落ちるような、しかし速さはそれよりもっとある状態で、大気圏へと一瞬のうちに入って行った。

《…維月に手を振れるでないぞ!》

維心の声が、空から低く地響きをさせて聞こえた。

見上げると、そこには金色の大きな龍が、こちらへ向かって降りて来ようとしているところだった。


「…おお?!」

炎嘉が、帰りの輿の中から維心の大きな声を聞いて、身を乗り出した。

そこには、金色に光り輝く龍が、間違いなく友の龍身と全く同じ形で龍の宮の方角へと、降りて行っていた。

「維心?!どうなっておる、何ぞあの姿は!」と、嘉張に言った。「龍の宮へ向かえ!あれは維心ぞ!早う!」

全員が茫然とそれを見ていたのだが、炎嘉に命じられて慌てた嘉張達軍神は、急いで龍の宮へと向きを変えた。

それは、向こう側を自分の宮へと戻って行っていた他の輿も同じようで、皆が皆、進路を変えて龍の宮へと向けて飛んで行くのが見える。

炎嘉は、いったい維心に何があったのだと、気ばかりが逸って仕方がなかった。


碧黎は、金色の龍身で真上に浮く維心を、苦々しい顔で見上げた。

「…やはりそうなったか。」

維心は、言われて下の池に映る、自分の姿を見て仰天した。

《おお?!何だこの色はっ?!》

維月は、慌てて言った。

「維心様、お体はこちらでありますから。それはエネルギー体でしかありませぬ。月の身になってから実体化すると、そうなるのですわ。こちらへ戻られたら、元通りでありますので問題ありませぬ。」

維心は、ホッと胸を撫で下した。

《そうか、良かった。もう一生こんな派手な様なのかと。目立って仕方がないわ。》と、碧黎を見た。《主、我に龍であることを捨てねば月にはなれぬと申したが、我は龍のまま月になった。維月がやり方を知っておると申して。十六夜か、他の者が月となるまでの繋ぎのつもりぞ。だが、なぜに我に身を捨てねば月にはならぬと申したのだ。偽りではないか。》

碧黎は、維心を睨んで答えた。

「偽りではない。月は片手間に出来るものではないゆえ、主の退路を断って月に専念させようとあの時はそう申した。だが、主ならばどちらもこなす事が出来、恐らくそうなるだろうと思うては居た。」

維月は、言った。

「私は維心様を月の片割れとしばらく頼って参ります。十六夜が月から降りてしまっておる今、月が不在では面倒な事が起こる可能性があるからですわ。他に誰かを上げようと思われるのなら、その時は仰ってくださいませ。維心様をお降ろしして、そちらへ場をお譲り致しますから。」と、維心を見上げた。「維心様、ではこちらへ。お体にお戻りくださいませ。」

維心は頷いて、光になってまるで吸い込まれるように体へと向かう。

碧黎が、それを阻止しようと手を翳した。

「させぬ!」

だが、維月が手を上げた。

「私の結界の中で、いくらお父様でもお好きには出来ませぬ!」

碧黎は、グイと自分の人型が、外へと放り出されるのを感じた。

「維月!」

碧黎は、龍の宮の結界外に浮いて、中へと叫ぶ。

だが維月は叫び返した。

「私を思うようにしようとするかたは誰であっても、もう側へは寄せ付けませぬゆえ!」

いくら我でも、陰の地には力が相殺されて思うようにはならぬ。

碧黎は歯ぎしりしたが、しかし今は何を言っても無駄でしかない。

ふと見ると、月の宮から帰ろうとしていた神達が、皆が皆龍の宮の結界外に浮いて、それを戸惑いがちに距離を置いてこちらを見ていた。

「く…!」

碧黎は、やむなくその場を離れてパッと消えた。

外に浮いていた神達は、気取って出て来た龍の軍神達に順に中へと案内され、龍の宮へと降りて行ったのだった。

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