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桜色の玉

十六夜は、戸惑いながら言った。

《なんだ、どうなった?全く何も見えねぇし聴こえねぇしで、どうなったのかも分からなかった。ただ真っ暗で、無で。死んで地獄へ落ちたのかと思った。》

維心が、顔をしかめて言った。

「一度死んで地獄と呼ばれる場所など無い事を知っておろうが。そんな単純なものではない。全くの無の場所へ送られるのは、凶悪でどうしようもない命だけぞ。そこで他に迷惑を掛けぬで己を省みるのが目的だが、ほとんどがそこで狂って結局、消される。改心出来た者は再び転生の準備入る。そういう形よ。」

十六夜の声は答えた。

《維心か?なんか、おかしな感じで。まだよく見えねぇんだ。目が動かせねぇっていうか。》

碧黎が、言った。

「それはそうであろうな。今、その玉に宿ったばかりであるから、まだその力を全て使えるわけでは無いし、そんなに大きな力ではない。高々三千年ほどの玉なのだ…話せるだけでも良いと思うがよい。」

三千年がその程度か。

維月は思った。考えても仕方がないので、とにかく維月は話し掛けた。

「十六夜、見える?」

維月が玉の前に顔を持って行って覗き込むと、十六夜は答えた。

《ああ、見える。月が使えねぇから広域は見えねぇだけで、人型のオレが見えるだけの範囲は見えてる。オレは今、何か小さいな。玉って何の玉だ?》

維月は答えた。

「昔、紫銀にもらったあの桜色の玉よ。こちらに元々居た神が遺したやつ。力を使える依り代は、月の宮にはこれしかなかったみたいなの。」

十六夜は、他人事のように言った。

《へぇ~あんな小さいのにか。心もとねぇな。》

維月は、腕を腰に当てた。

「あのね!心もとなくてもそれが今十六夜の本体なの!他人事みたいに言って。」

十六夜は、笑った。

《分かってらあ。ふざけてでもいねぇと心が追い付かねぇんだよ。》と、玉は光り輝いて、人型の十六夜がそこに立った。「何とか人型にはなれるみてぇだ。で?親父はオレに何を話したいんでぇ。もうオレはお役御免なんだろ?」

青銀だった髪がうっすらと桜色で、目は同じように桜色の十六夜が言う。

碧黎は、頷いた。

「月として不適格だと思うたから月から降ろしたのだ。主は己をどう思うのだ。」

十六夜は、視線を落とした。

「…あれは、さすがに悪かったと思った。オレと維月の問題なのに、結界内にそんな気を垂れ流してたなんて気付かなくてよ。迷惑掛けちまったって思ったよ。」

維月は、首を振った。

「私とあなたの問題じゃないわ。結局は、碧黎様と維心様とのお約束を、簡単に破ろうとしたのが問題なのよ。そういう考え方に、碧黎様は怒ったのだと思うわ。」

十六夜は維月を軽く睨んだ。

「今まで散々お前も親父との約束を破って来たじゃねぇか。霧で遊ぶなって言われても止めなかったし、オレが黙ってたからバレなかっただけだろうが。同じなんじゃねぇのか。」

維月がグッと黙ると、維心が言った。

「同じではないわ。十六夜、そんな子供の戯れ事ではないのよ。我らが立ち会って皆で取り決めたれっきとした約定であるぞ?それをものの数週間で破ろうとするなど、もう誰も主など信じぬではないか。」

碧黎も、頷いた。

「我が約定を守るのを主らは期待し、我は守って来た。それを主が破り、そうしてまた新たに約定を取り決めた。我はそれを守っておるし、維心もぞ。なのに主は、簡単に考えてまた破ろうした。もう主は信じられぬ。地上を任せる事も出来ぬと考えてもおかしくはあるまいが。」

十六夜は、言った。

「だからオレと維月は親父や維心より前から一緒だったんだぞ!それを…お前らが割り込んで来てオレが寛大なのを良いことに維月とよろしくやってたんじゃねぇのか。オレばっかりが責められてるが、オレだって受け入れられる相手が欲しい。維月しか愛した事ねぇし、今じゃ確かに兄妹かも知れねぇが、それでも維月以外とそんなことをする気にもならねぇし、でもたまにはしたくなるしよ。維心は毎日して来たんじゃねぇのか。親父だって節操無くしょっちゅう命を繋いでるんだろうが。なんだってオレだけダメなんでぇ!」

十六夜の言う事は、分かる。

だが、それはあの時話し合って決めたはずだった。

維月が、言った。

「あなたが言いたい事は分かるわ。でも、あの時決めたでしょう?決めた事に異議があるなら、もう一度話し合って決め直す必要があったの。それをしないで一方的に破ろうとしたから、その心根を責めてらっしゃるのだと思うの。仮に、十六夜が碧黎様の立場であっても、決めたのに破ろうとしやがってって怒ったんじゃない?そうよ、例えば前の状態で、碧黎様が私に手を出そうとしてたのを知ったらあなた、めっちゃ怒ったんじゃない?」

言われて、十六夜は黙り込んだ。維心が言った。

「維月の言う通りよ。主は一方的に約定を破ろうとしたのだ。主からしたら、維月が良いと言えば良いのかもしれないが、維月だってその約定の張本人であるし、弁えておるのだ。恐らく、維月一人のことなら、主がどうしてもと申すなら、それぐらい何でもないのかも知れぬが、これは我らとの約定を考えて留まったのだ。」

碧黎は、息をついた。

「とにかく、主の考えは分かった。全く反省しておらぬし、これからも同じ事をするだろう。ならば力を持たせるわけにはいかぬし、月に返すわけにはいかぬ。」

十六夜は、驚いて顔を上げた。

「オレを返すつもりだったのか。」

碧黎は、渋い顔をした。

「主の考え次第ではの。だが、一日岩に籠めたぐらいでは主は変わらぬな。やはり代わりの月を作るしかないか。」

維月は、慌てて言った。

「約定を破らないように言って聞かせるのではならぬのでしょうか。元々体なんて関係ない生まれなのですもの、そういう考えを抑える術があるのでは。」

しかし、碧黎は首を振った。

「我に出来ぬ事はないゆえ、これから主との記憶を抜いて消し去ればそれは可能であるが、それはもはや十六夜ではない。瀬利も大氣も、面倒なのだからこやつの記憶から、瀬利とのことだけ勝手に消し去れば良いのにそれをしないのは、命の侵害だと思うておるからぞ。あれらは我より身の内へ入り込むのが上手いゆえ、簡単な事のはずだがな。」

言われてみたらそうだ。

維心は思った。何度も結界外へ来る十六夜を、わざわざ大氣が追い払っていたのは、十六夜のためを思ってのことなのだ。

ストーカーのようなものなのだから、記憶を消せばそれも無くなるのにそれをしなかったのだ。

十六夜は、言った。

「…いっそ、そうしてくれたら良いのに。」十六夜は、下を向いたまま言った。「受け入れられる感覚は、忘れることが出来ねぇ。親父だってそうだろう。今、維月と命を繋ぐなって言われたら、つらいだろうが。それを約定だなんだって禁じられたら、恨まねぇか。オレは瀬利との感覚が忘れられなくて、でも維月と体だけでも安心してた記憶があるから、だったらそれで良いかって思っただけなんでぇ。ほんとは維月と命をちゃんと繋ぎてぇ。体は無しでもいい。でも、ダメなんだろ?」

碧黎は、険しい顔をして黙り込んだ。

維心としては、別に十六夜が維月と命を繋いでも良かった。確かに興味深い感覚だったが、維心の価値観は変わらないからだ。

そもそも、十六夜と長い間維月を共有して来たのだから、今さらなのだ。

だが、碧黎が嫌なのだろう。

維月の価値観も、恐らく自分と同じだろうと思われたので、別に十六夜と命を繋ぐぐらい良いのではないかと思われた。

長い沈黙があって、碧黎は言った。

「…瀬利とのこと、忘れたいか。そしてこれまで通りに主と維心が体、我が命と取り決めて生きるのだ。」

十六夜は驚いた顔をした。維月は、慌てて言った。

「碧黎様、そんなことをしても私は十六夜がしたことを覚えておりますし、瀬利の記憶にあるのも知っております。私が何事もなかったようには、過ごせないのですわ。確かに十六夜は楽になるのでしょうが…そんな状態で、今まで通り十六夜を受け入れて過ごす事は出来ません。まして、十六夜はその記憶がないのに…私がなぜ、心から受け入れないのか分からず、別の事で苦しむ事になるのですわ。私は、もう夫として愛していない存在とはそういう事をしないと決めておるのです。嫌だと思いながら応じるのは、もう二度と。まして、今十六夜は私との体の関係を、それでもいいか、と言いましたの。そんな軽い気持ちの行為を、無理をしてまで受け入れるつもりはありませぬ。」

維心は、それを聞いて驚いた。維月は、十六夜とのその関係をもう、嫌だと思うのか。受け入れるのが、無理だと。

碧黎も少し驚いた顔をしたが、十六夜はショックを受けた顔をした。

「それは…お前が、瀬利との事をまだ許してないってことか。」

維月は、首を振った。

「あの時も言ったでしょう?瀬利との事はもういいの。怒ってなんていないし、そんな感情は湧かなかったわ。それで気付いたんだけど、あなたとはもう兄妹なのよ。前からそうだったけど、慣れ合い過ぎてお互い我がまま過ぎてたでしょう?私は維心様と暮らしてそれなりに自分を律することも覚えたけど、あなたはそのままだったわ。アレだって自分がしたい時だけササッと済ませるだけの、ただの欲求の解消だったでしょ?それが嫌だったって言ったわよね?でも、分かってないわよね。今だって、私との行為をそれでもいいかって言ったわよね。そういう扱いが嫌だって言ってるじゃないの!なんで分からないのよ、そんなの愛じゃないわ!私は道具じゃない、私はそんなあなたを愛してない、だからあんなことももうしないの!それだけは、あなた達がどんな取り決めを交わしても絶対に変わらないわ!何なら、もう誰とも命も体も繋がず、一生どこかに籠って生きる!」と碧黎を見た。「お父様も!私の気持ちも聞かずに、十六夜に何を聞いていらっしゃるの?!私は前の関係には戻りませんから!お父様の言う通りにして参りましたのに、何も分かっていらっしゃらない!維心様が私に今、何かを強要しようとなさいましたか?!どうしてみんな勝手に決めようとするの?!私は、私は物ではないのに!」

維月は、そう叫ぶように言い放つと、サッとその場から飛んで宮の方へと行った。

「維月!そうではないのだ!」

碧黎が声を上げたが、維月はもう何も聞いてはおらず、小さくなって行く。

維心が、慌ててそれを追った。

「維月!」

そうして維心がすぐに追いついて、宙で後ろから維月を抱きしめると、維月が維心に抱き着いて、おいおい泣いているのが遠く聴こえて来た。

維心は困ってこちらをチラと見たが、そのまま維月を抱いて、宮の方へと飛んで行った。

十六夜も碧黎も、ただ茫然とそれを見送っているしか出来なかった。

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