最終種目
トラックの中へと集まって来たのは、赤組12人、青組12人の24人だった。
見た所、皇子が多い印象だ。
騎馬戦の時は騎馬をしていて目立たなかった皇子達も、ここでは一人ずつ走るので、力の見せ所だと思われた。
月の宮の軍神達に指示されて並んだ様子を見ると、青組は匡儀、維斗、高湊、騅、義心、維心の順に走る組と、イライアス、翔、紫翠、志夕、誓心、志心が走る組の二つのようだ。
対する赤組は、炎月、レオニート、烙、エラスト、箔炎、炎嘉の順に走る組と、祥煇、伯鳳、錬彰、英鳳、頼煇、彰炎で走る組の二つのようで、皆行儀よくきちんと並んでその時をじっと待っていた。
各組、先頭に立っている者に、軍神が端から順にバトンを渡して行く。
そうして、バトンを受け取った者から順に、トラック上のスタートラインへと全員を促して立たせた。
一週目は、輪の外へと行くほど斜めに前へとスタート位置がずれる形で並ばせられている。
一番外側の匡儀は案外平気な顔をしていたが、その隣りの頼煇の皇子の祥煇は、じっと固まって立っていた。
どうやら、父にかなり圧力を掛けられているようだった。
その隣りのイライアスは、ダッグアウトから物凄く手を振りまくる父親のサイラスの方が気になって、緊張どころではないらしい。一番内側の炎月は、じっとコースを見つめて、何を思っているのか分からないような様だった。
それぞれがそんな感じで立っている中、恒の声が言った。
「只今から、400メートルリレーを開始致します。位置について。」全員が、小学生低学年のスタートのように、足を後ろにしてじっと構える。「用意、スタート!」
四人は、一斉に走り出した。
最初のコーナーを回るぐらいには、匡儀も内側へと入って来て、イライアスを先頭に、匡儀、祥煇、炎月の順で固まって通過して行った。
「イライアス!行け!抜かれるな!」
二百メートルぐらいの時に、ちょうど青組のダッグアウト前を通過するので、サイラスの声がもろに聞こえる。
イライアスは、グングンと足を上げて、フォームも美しいまま三百メートルも通過して、トップのまま最終コーナーを回った。
「イライアス!」
宇洲の皇子の翔が、次の出走者だ。
「翔!行け!」
イライアスは、あと数メートルの所で叫んだ。
翔は、同時に飛び出して、手を後ろに回して走り出す。
イライアスは、完璧に追いついて、その手にバトンを渡した。
…素晴らしいバトンパスだわ。
上から見ている、維月はそう思っていた。
「只今、青組のイライアス様から翔様にバトンが渡りました!続いて祥煇様、匡儀様がほぼ同時にバトンパスを終え、少し遅れて炎月様からレオニート様へとバトンが渡りました!」
先頭は依然として青の翔だ。しかし、すぐ後ろに祥煇からバトンを渡された英鳳の皇子の伯鳳が追って来ていた。その後ろからは維斗が、グングンとスピードを上げて迫っていた。
「!」
伯鳳は、それに気付いてスピードを上げた。
先頭を走っていた翔は、すぐ後ろから二人が物凄い勢いで走って来たので驚いて、慌てて足を動かしていたが、加速が全く違った。
「…順位が入れ替わりました、只今トップ青組維斗様、二位赤組伯鳳様、三位青組翔様、四位赤組レオニート様です。」
恒のアナウンスが入る。
一口に順位と言っても、実際は二位と三位が結構開いており、一位と二位が競っている状態で、少し遅れて三位と四位が競っているような感じだった。
「…あれは翔が遅いというよりも、維斗と伯鳳が速すぎるのだ。」
維心が、順を待ってレースを見守りながら言う。
確かに、維斗はあり得ないほどスピードを維持して走っていた。恐らく、練習の時よりずっと速いのではないだろうか。
コーナーを回って歯を食いしばって走って来る維斗に、高湊が手を振った。
「維斗殿!行くぞ!」
高湊は、前を向いて走り出す。
維斗は、それを追って必死にバトンを手に渡した。
「なんだあの渡し方は。」彰炎が、イライラと言った。「炎嘉!教えてくれなんだではないか!」
炎嘉が、同じアンカーで隣同士の彰炎に言った。
「教えたわ!主らが面倒だと言うたのではないか。たかがバトンを渡すぐらいでとかなんとか。」
言われてみると、やはりバトンパスでもたつくので、あっさりと後ろから来た翔に抜かれて紫翠が走り去って行く。
伯鳳が錬彰に無事バトンを渡した時には、もう最後尾のレオニートと並ぶぐらいだった。
しかも、レオニートは真面目なので、炎嘉に言われるままに練習をしていたので、バトンパスが速い。
そんなわけで、さっさと追い抜かされてしまい、錬彰は烙の背を追う羽目になった。
「只今の順位、一位青組高湊様、二位青組紫翠様、三位赤組烙様、四位赤組錬彰様です。」
恒の声が、追い打ちをかける。
「…最下位など鳥の名折れぞ!」
錬彰は、物凄いスピードで追い上げ始めた。
「速い!」
思わず、皆が身を乗り出して見る。
錬彰は、その場に居る誰よりも速かった。恐らくは、維斗より速いのではないだろうか。
アッと言う間に外側から先頭の高湊に追いついて、それを抜き去ってトップに立った。
維心は、それを見て眉を寄せた。
「だから鳥族は嫌なのだ。どこまでも身軽でありよって。」
錬彰は、もう最終コーナーを回って来た。
「英鳳殿!」
英鳳は、構えてちょいちょいと足を進めながら、手を出した。
「ほれ!錬彰、来い!」
錬彰は、その手にバトンを渡した。
英鳳は、途端に走り出す。
その隣りで、騅が走り出した。
「高湊殿!」
高湊は、それを追って走った。
「騅!頼んだぞ!」
騅は、そのまま一目散に駆けて行った。
英鳳は速いが、渡すのに立ち止って待っている状態なので、ほぼ騅と同時に走り出した形になるので、バトンパスを終えた時点では少し後ろぐらいに追いついた状態だった。
すぐ後ろからは志夕が走って来る。
その後ろからは、エラストが走って来るのが分かった。
「一位英鳳様、二位騅様、三位志夕様、四位エラスト様で第四走者は出発しました!」
恒が説明する。
騅は頑張っているが、背後から来るエラストの足音が聞こえる気がして、わき目も振らず走っている感じだ。
だが、すぐ後ろは志夕で、味方のチームなのでそんなに怯えて逃げる必要はなかった。
結局、騅は実力が上の英鳳相手に、必死に食らいついて行き、順位はそのままで義心へとバトンを渡した。
「参ります!」
義心は、すぐ前を行く頼煇を追った。
「…!?」
頼煇は、途端に抜いて行かれるのを感じて、呆気にとられた。
「…義心?!くそ、またお前か!」
頼煇は、必死にそれを追った。
だが義心一人を相手にしている場合ではなかった。
「頼煇ー!待たぬかー!」
誓心か!
頼煇は、その素早さを知っていた。
白虎と鳥は、いつも空を掛ける速度を競っていたものだった。その中でも、誓心は特に速い部類の神だったのだ。
一方、最下位に甘んじていた赤組のもう一つの組も、箔炎にバトンが渡されていた。
「炎嘉に最下位では渡せぬ!」
箔炎も、猛スピードで追い上げを始めた。
これまで縦に広がっていた順位が、前の方へと寄って行き始め、少しずつひと塊になりつつあった。
もう、誰が最終コーナーを回った時に一位でも、驚かない状態になっていた。
「おお!」翠明が、声を上げて身を乗り出す。「これはおもしろい!次は最終走者ぞ!分からなくなって参った!」
椿が、落ちるのではないかと案じるほど身を乗り出して食い入るように見て言った。
「箔炎様…!最後尾でバトンを受け取られたのに、なんと励まれておることか…!」
確かに、箔炎は頑張っている。
だが、前を行く誓心もかなり速かった。
何より先頭の義心が走り慣れていて凄まじく速いので、それを追う皆の速さが目立たないのだ。
頼煇は、誓心に追い付かれた。
「くそ…!抜かせてなるものか!」
アウトコースから抜きに来る誓心を妨害しようとするが、何しろあの騎馬戦を生き抜いた素早さなので難なくかわし、義心を追った。
「義心…!速いの!」
義心は、そんな声にも振り返る事なく最終コーナーを回った。
義心にも、余裕など全くない。何しろ何としても、維心にトップでバトンを渡さねばならないのだ。
「王!」
義心は、前だけを見て叫んだ。維心は走り出した。
「来い、義心!」
頼煇がスタミナを切れさせ始め、箔炎が怒涛の追い上げで誓心と並んだ。
「炎嘉…!もう、もう我は無理ぞ!」
炎嘉は走り出しながら叫んだ。
「踏ん張れ箔炎!」
そうして、維心が義心からバトンを受け取って走り出したその時、炎嘉もその手にバトンを握りしめた。
まだ行ける!
炎嘉は、維心を追いながら叫んだ。
「ようやった箔炎!」
そうして、同時にバトンを受け取っていた志心も共に、コース上を凄まじいスピードで走り出した。
「すまぬ…。」
結局、青息吐息の頼煇からやっと彰炎がバトンを受け取った時には、もうかなりの差が開いていた。
「…いける!気にするな頼煇!」と、駆け出した。「こうでなければ面白うないわ!」
彰炎は、まるで足に羽が生えているかのように軽快に走った。
コース上では、アンカー達の熾烈な戦いが始まった。




