騎馬戦3
「彰炎がやられた!」炎嘉が、叫びながら騎馬を走らせた。「維心が来る!思ったより残っておるぞ!」
維心一人でも手こずるものを。
炎嘉は、舌打ちした。出来たらここまでであちらを粗方倒して、維心と他誰か一人と、こちらの三人で対峙したかった。
それが、今は維心、高湊、紫翠、誓心がこちらへ向けて走って来るのが見える。
宇洲がまだ居るが、それはレオニートがあちらで食い止めていた。
思っていたより、レオニートは手練れだった。
「こちらは焔を含んだ三騎。レオニートがさっさと宇洲を片付けて合流してくれぬかの。維心相手にやる気の或る無しは勝敗に関わって来るぞ。」
後ろから追って来ている、焔が叫んだ。
「我とてやる気はあるわ!維心は炎嘉がやれ!我ら回りを片付ける!」
炎嘉は、二ッと笑った。
「分かってくれたようで嬉しいぞ、焔。とにかく、ここは取っておかねばならぬのよ。」
維心は、真っ直ぐにこちらを目指してやって来る。
急に広くなったような気がする戦場で、赤と青のジャージがぶつかり合った。
蒼は、本陣で立って見通しが利くようになったフィールド上を見渡した。
中央に炎嘉、両脇に焔と箔炎という状態でこちらから出撃して行った三人に向かって、あちらから維心が、わき目も振らずに炎嘉目掛けて走って来ていて、その両脇には高湊と紫翠、僅かに前に誓心が向かって来ていた。
紫翠は箔炎、高湊と誓心は焔の方へと流れて、維心は炎嘉目掛けてそのまま真っ直ぐに突進して激突した。
「うわ…!こわ…っ!!」
蒼は、その迫力に思わず言った。
いくら気が押さえられているからと、神である二人の本気の激突は衝撃的だった。
維心と炎嘉はお互いにガッツリと両手を組み合い、歯を食いしばって間近で睨み合いながら叫び合った。
「維心めー!簡単に彰炎を下しおって!」
維心は、唸った。
「志心を討ちおったのに見過ごせぬわ!」と、腕を振って手を放し、また手を伸ばした。「もらうぞ!」
炎嘉は、それを避けて脇へとすり抜けた。
「簡単には取らせぬわ!」
その無理な体勢から炎嘉は脇から手を伸ばし、頭を庇おうとした、維心の腕を掴んで引っ張った。
「ぐ…!」
維心は、踏ん張って何とか腕を振りほどいた。その動きを読んでいた、義心が上手く維心の重心を安定させる方向へと飛びのき、それを予測しながらじっと見ていた維斗と帝羽も合わせて同時に飛びのく。
お蔭で、維心は大きく体が振れたにも関わらず、危なげなく体勢を整えることが出来た。
その上、炎嘉から少し離れた位置まで移動出来たのだ。
「…!騎馬が優秀で命拾いしたの維心め…!」
炎嘉が、悔し気に言う。
「それも実力よ。」
維心は、再び炎嘉に向かった。すると、脇から箔炎が来た。
「維心!」
紫翠…?!
維心が思うと、紫翠は地面に立って茫然としていた。
やられたか…!
維心は、手を伸ばして来る箔炎の腕を、思い切り横へと払いのけた。
その衝撃で、箔炎がよろめいて体勢を立て直そうとする間に、炎嘉がやって来て手を伸ばすが、まだ箔炎の脇から、レオニートが襲って来た。
残っておるのは誓心と高湊だけか。
維心は、思いながら義心が自分の僅かな体重移動を感じ取って、するりとそれに従って囲みを抜ける方向へと移動するのを見ていた。義心は、維心が指示をする前に、自分の手に乗っている維心の足の僅かな動きを読み取って、どちらへ行きたいのか、どうするつもりなのか判断して動いてくれる。
炎嘉が優秀な騎馬だと言うのも道理だったのだ。
「くそ…!動きが速い…!」
レオニートが、必死に素早く動く維心の騎馬を追って手を伸ばして来る。
維心は、それを見て足先を大きく前へと倒した。
「!!」
「待て、追うな!」
炎嘉の声がするが、維心の足の動きを気取って義心は大きくレオニート側へと足を踏み入れた。
いきなりに目の前に迫った維心に驚いてつんのめったレオニートの隙を見越していた維心が、ガッツリとその帽子を掴み、剥ぎ取った。
「…取った!」
あと三騎。
維心は体重移動をさせて、跳ねるように後ろへとポンポンと移動すると、一気に焔へと向かった。
「…まずい!」
炎嘉が、慌ててそちらへ向かうが、まるで本当の馬にでも乗っているように、ただの体重移動で騎馬を動かす維心に追いつけるはずがない。
「取った!」焔が、叫んだ。「後はお前ぞ!」
「焔!!」
炎嘉が叫んでいるが、高湊の帽子を取って一人倒し、残りの一人の誓心の方へと意識を向けようとしている焔には、その声が聴こえても振り向く余裕がなかった。
誓心は、維心が真側まで近づいているのを知っていて、そちらへ視線すら向けず焔に手を伸ばした。
「来い!」
焔は、ハッハと高笑いして今高湊から奪い取った帽子を投げ捨て、誓心とガッツリ腕を組み合った。
「主も倒してみせるわ!」
その時、頭を横から殴られたような衝撃があり、自分の帽子が無くなったのを感じた。
「油断したの。」
維心の声がする。
「…残念だったの!」
焔が、信じられずに頭に触れて確認しているのを後目に、誓心は嘲笑うようにそう言って、新たな敵へと向き直った。
焔は、そこでやっと、維心が炎嘉を巻いてこちらへ来ていた事実を知った。
残っているのは、我らだけか。
誓心は、こんな中で自分が生き残ったのを奇跡だと思った。
あれだけ大勢居た戦場が、今や炎嘉と箔炎、そして維心と誓心の、四つの騎馬しか残ってはいない。
恒の声が、言った。
「残り時間、10分です!」
その十分の間に、どうあっても二人共倒さねば。
炎嘉も維心も、お互いにそう思っていた。
自分が残っても、他の一騎が残るとは限らないのだ。
「…やりおったの、維心。その騎馬の機動力なら、あっさり背後に回り込むことも出来よう。口惜しいことよ。」
炎嘉が言うと、維心は言った。
「これで互角ぞ。」と、構えた。「時間までに全て狩りとって見せようぞ!」
炎嘉は、迎え撃つのに構えた。
誓心は、焔との戦いで大概疲弊していたが、それでも残っている者の務めだと、箔炎へと向かって行ったのだった。
騎馬の左後ろで、英心は息を上げていた。
父の体重を腕の力だけで支えている今、たった数十分の事なのに体が悲鳴を上げている。
騎馬の正面で両腕で支えている貴青は、恐らくもっとだろう。
それでも、段々に父の行きたい方向が読めるようになっていた。
維心の騎馬の義心他二人は、驚くほど素早く維心の行きたい方向を気取って動く。
あれを真似しようにも、付け焼き刃の騎馬ではいきなりに無理だった。
「行くぞ!貴青!」
誓心が、叫んで箔炎の方を見た。
あちらの正面は、佐紀という初老の軍神だ。
「思いきって参ります!」
貴青が叫ぶ。
と思うと、貴青は止まれるのかというほどのスピードで、箔炎の騎馬へと向かった。
「うお!」
箔炎の声が聴こえる。
衝撃と共に、貴青が思い切り佐紀にぶつかって行ったのだと知った。
「うおおお!」
誓心の声が聴こえる。
英心は、上の戦いより貴青が気になって言った。
「貴青!大丈夫か?!」
貴青は、しかし半分こちらを向いてニヤッと笑った。
「肩から参りましたので。」
英心が驚いて佐紀を見ると、佐紀は苦痛に顔を歪めていた。それでも、貴青も無傷ではないはず。
箔炎はバランスを崩しているが、それを立て直すために動く事も、騎馬が負傷していて無理そうだった。
「くそ…!これまでか!」
箔炎が叫んだ時、誓心は手を上げた。
「取った!」と、顔を維心の方へ向けた。「維心殿は…!」
もう、貴青もふらふらだった。
「本陣へ!」維心が叫ぶ。「生き残るのだ、行け!」
炎嘉と対峙しながら、こちらの様子も見ているのか。
英心が驚いていると、誓心はグッと口を引き結び、言った。
「…逃げるなど…!」
しかし、今は貴青もまともに戦えそうにない。
英心は、言った。
「父上、足手まといになり申す!本陣へ戻りましょう!」
誓心は葛藤しているようだったが、頷いた。
「…戻る!」
英心は貴青を気遣いながら、維心を置いて本陣へと足を向けた。




