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騎馬戦2

「まずいの。」炎嘉が、言った。「公明!レオニート!彰炎を加勢に参れ!サイラス達が前に出て来るのを防ぐのだ!行け!」

公明達は、味方がやられるのを見ているだけなのにイライラしている状態だったので、すぐに頷いて、そちらへと向かった。

「劣勢ぞ。公明とレオニートがどこまでやるか…英鳳と頼煇がもっとやってくれるかと思うておったのに。」

背後で立ち並ぶ、英鳳達がバツの悪そうな顔をする。炎嘉は、首を振った。

「あやつらはかなりの手練れぞ。慣れぬ戦いでここまでやってくれたら良い方よ。それより彰炎は、大したものよな。さすがに王なだけあるわ。あやつの対応力には驚かされる。志心相手に…あそこまで踏ん張るとは。」

後ろの方で、誓心と善戦していたフレデリクとマトヴェイが、崩れるのが見えた。

出て来たアルファンス、イゴール、サイラスとの戦いで落とされたようだったが、その代わりにあちらのアルファンスとイゴールは崩したようだ。

それでも、これで残騎は赤が六騎、青が八騎であちらが有利なのは変わりなかった。

「このままの勢いで参れそうですな。」

高湊が言うのに、維心はそれでも険しい顔をした。

「…いや。大将を守っているのが、こちらは主と紫翠であるが、あちらは焔と箔炎ぞ。彰炎を見ても分かるように、一人で二人相手でもやってのけるぞ。志心が残っておるから、あれが何とかしてくれるかと期待しておるが、複数で掛かられたらまずい。案外に匡儀がやるゆえ、もしかしたらと思うておるが。」

すると、向こうから公明とレオニートが彰炎の加勢に出て来た。

公明は慣れないようで戸惑っているように見えるが、案外にレオニートが、これまでの穏やかな様から見た事が無いほど鋭い目をしたかと思うと、志心の背後に回り込み、彰炎と組み合っているその帽子を狙った。

「させぬ!」

匡儀が脇からレオニートを襲うが、レオニートはそれをすんなりと避け、逆に匡儀に手を伸ばした。

「!!」

まさか、回避しながら襲われると思わなかった。

匡儀は、咄嗟にその瞬発力を使って避けたが、体勢を崩して落ちそうになる。

それを見た騎馬先頭の明羽が、サッと身を翻して匡儀を乗せたまま背後へと素早く動いた。

追い縋られるかと思ったが、レオニートはもはやこちらには興味もないようで、志心を目指してひたすらに腕を伸ばしている。

さすがの志心も、前後から挟まれての攻撃には、苦戦していた。

「…危なかった。」

匡儀が言うと、堅貴が叫んだ。

「王!」

ハッと振り返ると、公明が匡儀の帽子に手を伸ばしているのが視界の端に見える。

「うわ!」

匡儀は、また身を翻した。

だが、その動きで騎馬が崩れ、明羽と後ろの二人の手が完全に離れてしまい、匡儀は地上へと尻から落下した。

「やられた…!」

匡儀が尻の痛みも忘れて悔し気に座り込むと、宇洲が、目の前をすさまじいスピードで通り過ぎた。

「ぐ…!!」

公明が、いきなり飛んで来たように見えた宇洲に対応する暇もなく、もろに宇洲の騎馬とぶつかった。

その衝撃で、公明の下の隼人が鼻を強打して血が噴き出したのが見える。

「隼人?!」

隼人は、それでも手を放さずに言った。

「王!我のことより、前!」

宇洲の手が、自分の帽子に伸びて来るのが見える。

「…させるか!」

公明は、腹が立って来て、目の前の宇洲とガッツリ組み合った。

脇から、声が聴こえる。

「…取った!」

レオニートの声だ。

その手には、志心の青い帽子が握られており、志心はあえなく騎馬を崩した。

「…志心がやられた。」維心が、本陣で険しい顔をした。「まずい。主らも、行け。彰炎を止めるのだ。」

高湊と紫翠は、顔を見合わせた。そして、一つ頷くと、言った。

「は!」

そうして、二人も戦場へと駆け出して行った。


その頃、維月も貴賓席へと戻って来ていた。

騎馬戦が始まる前に、一度宮の方へと戻って乱れたベールを新しい物に変えて来たので、途中から見る事になっていたのだ。

戦況は、最初は赤が劣勢で勝負あったかと思われたのだが、彰炎が驚く働きをして、今では互角になっている。

赤組に残っているのは炎嘉、焔、箔炎、公明、レオニート、彰炎の六騎、青組は維心、高湊、紫翠、誓心、宇洲、サイラスの六騎だ。

それに、互角といっても、残っている騎馬の内容を見てみると、青の方が分が悪いと思われた。

青には慣れた者が維心ぐらいしか残っておらず、赤の方には、炎嘉と箔炎、それに目覚ましい働きを見せる彰炎の三人が残っているのだ。

このままでは、炎嘉達が出て来たら、一気に情勢がひっくり返される恐れがあった。

「…厳しいこと。」維月は、思わず言った。「せめて志心様が残っておられたら良かったのに…彰炎様とレオニート様相手では、確かに大変でしたでしょう。」

翠明が、食い入るように見ながら言った。

「まさかこれほどに面白い物があったとは。まるで戦場であるが、しかし一つの命も散っておらぬ。確かに見ておって胸が騒ぐわ。我も闘神であったのかの。」

維月は、苦笑した。

「皆、そのように仰いますわ。気の大きさが関係ないので、普段なら敵わない神とも互角に戦えるので、楽しいのだとか。この後の事もございますし、ですがここではあまり、体力を使い過ぎない方がよろしいのですけれどね。」

まだ、リレーがある。

維月は、これを落とした時の事をもう考えていた。いくら何でも、気の大きさが関係ないこの試合では、維心一人では倒し切るのは難しい。

見ると、維心が前へと動き出した。

いよいよ危ないと考えて、出て行く決心をしたらしい。

維月は、固唾を飲んでそれを見守った。


「維心が出て来た!」炎嘉が、言った。「彰炎がやられるぞ!我らも行く!」

炎嘉が前へと進み出すのを見て、焔が言った。

「あやつはそんなにすばしこいか?彰炎は見事な働きではないか。あれに任せておったら良いのよ。」

炎嘉は、焔を睨んだ。

「あやつは、気が使えずともまずいのだ!騎馬の質が違う。下に維斗、義心、帝羽が居るのだぞ!そこで高みの見物でもしておるなら、それで良い。我は行く!」

箔炎も、進み出した。

「我は行くぞ。焔、もう炎嘉の言う事に異論は挟むのではなかったか。維心を侮るな。誠にあやつはヤバいのだぞ。」

そうして、二つの騎馬は前線に向けて駆け出して行った。

焔は、このままここで呆けていたら、何を言われるか分からないと、慌てて弦に命じた。

「行け!我だって敵の首を取って見せるわ!」

そうして、赤、青、どちらの陣営からも大将が出て行った。

倒された者達は、その陣営の中で手に汗を握り締めてじっと戦況を見守った。


「義心。とにかく彰炎をやる。」

義心は、下の正面で頷く。

「は。では、脇から回り込みまする。」

公明と宇洲が組み合うその方向へと彰炎とレオニートが行くのを見て、サイラスと誓心が阻止しようとその前に立ちはだかった。

彰炎には誓心が、その前に飛び出して手を上げた。

「よくも志心をやりおったな!」

彰炎は、フッと不敵に笑った。

「主も同じところへ送ってやろうぞ!」

背後から、紫翠と高湊が来たのが見えたが、混みあった場所で誓心と彰炎が組み合っているので、邪魔をしてはと思ったのか、公明の方へと向かった。

それをチラと確認してから、彰炎はまずは誓心だと力を込めた。

「…まとめて倒してやるわ!」

だが、フッと何かの気配が脇からした。

かと思うと、自分の頭を目掛けて手が来るのが分かり、咄嗟に誓心を突き飛ばし、腕を振った。

その腕は、何かを捉えることは無く、脇に居たはずの騎馬は、もう背後に回っていた。

「…もらったわ。」

龍王の声。

彰炎は、あっさりと頭の上が軽くなるのを感じて、自分が帽子を取られた事実を知った。

…維心殿か…!!

彰炎は、騎馬を崩しながら見た。

維心は、だがもうこちらは見ておらず、誓心に言った。

「行け!誓心、炎嘉が来るぞ!宇洲、公明などさっさと倒せ!紫翠、高湊、来い!」

維心の騎馬は、素早く動いて先に走り出していた誓心の騎馬を軽々と追い越し、こちらへと出て来る炎嘉、箔炎、遅れて焔の方へと向かって行く。

それを見送りながら、彰炎は思った。

騎馬の機動力が違う…なんだあの動きは!

座り込む彰炎の横で、サイラスがレオニートに下されてあえなく地上へと降りた。

「…取ったぞ!」

宇洲が叫ぶ。

…公明もやられた。

目の前で、宇洲とレオニートがまた、ぶつかり合うのを、彰炎は公明と共に歩いて避けて行きながら見ていた。

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