騎馬戦
騎馬を作るには、四人の神が必要だ。
各宮から四人ずつ連れて来ることが許されていたので、ひと宮で一つの騎馬が出来、合計12の騎馬が出来た。
それは、赤組も同じで、あちらでも12の騎馬が出来上がって、こちらを睨んでいる。
騎馬の上を務めるのは、こちらもあちらも王ばかりで、皆それぞれの組の色の帽子を被っている。
この騎馬戦では、その帽子を取り合って勝者を決める。取られたら騎馬を崩し、今居る陣へと戻らねばならない。
それは、自然に崩れてしまったとしても同じで、崩れた騎馬の帽子は敵側の数に入る事になる。
皆、自分の帽子を守りつつ、相手の帽子を取るために攻めて行かねばならないのだ。
維心が、言った。
「…では、手筈通りに。陣形を忘れるな。」
両脇に立つ、匡儀と志心が頷いた。
「では、位置について。」恒の声が言う。「用意。始め!」
その場にとどまる維心の両脇から、匡儀、志心が左右に広がって攻め込んで行く。そしてその後ろから誓心、ヴァルラムがさらに内側を左右に広がって行き、次に宇洲、駿がまたその内側を左右に広がって行く。
高湊、紫翠がほぼ維心の真ん前に、それを守るように並んで留まり、維心を最後方に斜めに広がる陣形、鶴翼という形になっていた。
予備の騎馬は、イゴール、アルファンス、サイラスの騎馬だった。
この三つは、維心の後ろに位置していて、どこかが崩れそうになった時、そちらへ援護に向かう騎馬だった。
対するあちらは、魚鱗という形の変形だった。
後ろに三騎、中央に炎嘉、左右に箔炎、焔と並び、前に二騎、公明、レオニートが居り、その前に、彰炎、その前に蒼、その前に頼煇と英鳳、そしてその前にマトヴェイ、フレデリク、エラストが並んで最前線で突っ込んで来る形だ。
志心と匡儀と真っ先に激突したのは、なので、その最前列の三つの騎馬だった。
「もらうぞ!」
志心が、持ち前の素早さでサッと手を振ると、エラストの頭上からは簡単に帽子が無くなって行った。
「ああ!」
エラストは、慌てて頭を抑えるが、時既に遅し。何しろ、皆動きが速いので一瞬の勝負なのだ。
匡儀と志心の間を抜けたフレデリクが、そのまま真っ直ぐに維心に向かおうとするものの、手前の誓心が出て来て行く手を阻む。
「く…!」
簡単には、奥まで行けぬか。
フレデリクが、仕方なく誓心の相手をしている中、後ろから来た頼煇と英鳳が驚くほどに息の合ったコンビネーションで、両側から襲って来た。
だが、ヴァルラムがそれを止めるように割り込んで、ガッツリと英鳳と宙で手を組んだ。
「…ドラゴンか…!」
英鳳が言うのに、ヴァルラムは二ッと笑った。
「そういう主は鷹か。案ずるな。」と、英鳳の手を振り払った。「すぐに楽にしてやるゆえ!」
「!!」
英鳳は、必死にヴァルラムの手を避けた。騎馬を支える軍神達の形がそれで崩れ、不安定になる。
その隙を狙って何度も腕を振るヴァルラムに、英鳳は身を翻して必死に避け続けた。
「英鳳!」
頼煇が、自分も駿に襲われながら、必死にこちらへと騎馬を寄せて来た。
その結果、英鳳とヴァルラム、頼煇と駿の形になって、お互いにお互いを庇いながら相手を襲うという形になっていた。
「…隙あり!」
駿が叫ぶ。頼煇がハッとした顔をしたかと思うと、駿の手には赤い帽子があった。
「…取られたか…!!」
頼煇は、規定通り騎馬を崩す。駿は、そのまま背後から英鳳を襲った。
「そっちももらうぞ!」
前後から襲われた英鳳は、もはやこれまでと必死に身を翻した。
「退け!一旦退くのだ!」
騎馬は、敵の間をすり抜けようとするが、それが出来ない。
「もらったぞ!」
気が付くと、ヴァルラムの声がした。
そうして、頭に触れると、そこにあった帽子が無くなっていた。
「くそ…!こんな簡単に…!」
ヴァルラムは、もうこちらに興味もないのか次へと向かっている。
駿は、チラとこちらを振り返ると、言った。
「…ちょっと胸がすいたわ。」
そうして、ヴァルラムを追って移動して行った。
「胸がすいたとは何ぞ。」
英鳳と頼煇は、騎馬から降りて陣へと戻りながら首を傾げた。
フィールド上は、まだわあわあと多くの騎馬が戦っていた。
「…陣形が崩れたの。」維心が言った。「まだ炎嘉までは遠いが、あちらの騎馬が減っておるから苦しいはずぞ。こちらにはまだ、三騎控えておるのにの。」
背後のサイラスがそれを見ながら言った。
「これで五分。攻撃に出たのはあちらが九騎、こちらが六騎であったのだから、最初に叩けねばあちらに勝機はない。主は三騎と言うたが、主らを合わせてこちらは六騎本陣に残っておるからな。あちらは大将とそれを守る三騎だけ。どう見ても不利よ。」
維心は、顔を険しくした。
「いや…見よ。」
大将の前を守っていた彰炎が駆け出した。
正確には、彰炎の乗っている騎馬のもの達が走って前に出て来たのだ。
そうして、頼煇達を倒して大将を目指す駿とヴァルラムに、まともにぶつかって行った。
「その首、もらう!」
彰炎は、叫んで駿の帽子に手を伸ばした。
「…させぬ!」
駿が、ぶつかってバランスを崩した騎馬の上で、必死にそれを避けた。
ヴァルラムが、それを加勢して脇から彰炎に襲い掛かった。
「させぬわ!」
彰炎は、振り向き様に腕を振った。
その手は、もろにヴァルラムの左頬を捉え、ヴァルラムはつんのめった。
「!!」
下を支えるゲラシムが衝撃でよろけ、正面のゴルジェイ一人にその重さが掛かった。
「もらった!」
背後から声がする。
そこには蒼が居て、その手には青い帽子が握られていた。
「くそ…!」
ヴァルラムは、悔しげに騎馬を崩す。
「ヴァルラム!」
駿が、それに気を取られた隙に、彰炎はその帽子を掴み、もぎ取った。
「倒したぞ!」
そうして、先へと足を進める。
サイラスは、あーあ、と息をついた。
「あやつは気迫が違うの。だが、志心と誓心を越えられるかの?」
維心は、言った。
「行け。あれらは疲弊してきておろうから先鋒の奴らだけでも始末せよ。」
サイラスは、面倒そうな顔をしたが、頷いた。
「行くか。」と、隣りに並ぶ、イゴールとアルファンスを見た。「北の神は、我ら北の神で引導を渡してやろうぞ。」
二人は緊張気味に頷いて、そうして三騎は前へと出て、手前まで迫って来て立ち往生している場所へと、出撃して行った。
匡儀が、言った。
「志心!彰炎ぞ!」
志心は頷いた。
「わかっておる!」
志心は、まともに彰炎と手を掴み合った。
ガッツリと組み合って何とかして頭の上に手を伸ばそうとするのに、匡儀も横から加勢した。
蒼は、実はこんな最前線は嫌だった。
だが、焔も箔炎も疲れている中、自分ぐらいしかこの位置に来れる者が居なかったのだ。
彰炎と志心が組み合い、匡儀が横から帽子を狙っているのを見て、蒼は言った。
「匡儀の所へ!」
嘉韻は、頷いた。
「は!」
蒼は、彰炎に気を取られている匡儀に横から手を伸ばした。
…これで取れたら…!ヴァルラムだってこれで…!
しかし、匡儀はハッとこちらに気付き、腕を振った。
蒼は、まともに腕を払われて騎馬の上で体勢を崩した。
「王!」
嘉韻が踏ん張るが、後ろの李心が振り回されて手が離れ、蒼は嘉韻一人におんぶされているような状態になってしまった。
「早く!」
反対側の後ろの嘉翔が必死に手を伸ばすが、落ちたら終わりなので嘉韻にしがみついている間に、匡儀は容赦なく蒼の帽子を奪った。
「…取った!」
やられた…。
蒼が地面へと足を下ろすと、サイラス達に襲われて成す術なく崩される、マトヴェイとフレデリクが見えた。
…まずい。
蒼は、残騎を確認した。
頼りの英鳳と頼煇が早々に崩されて、攻撃力が高いのは目の前に居る彰炎と、奥に居る炎嘉ぐらいしか居ないのではないか。
あちらには、まだ維心が居る。
炎嘉には、何としても維心と戦うために残ってもらわねばならないのだ。
ワアワアとぶつかり合う騎馬の間を抜けて歩きながら、蒼は敗戦が濃厚になって来たと諦め始めていた。




