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会談

女性たちの茶会とは違い、こちらは男ばかりでさながら会合のような雰囲気だった。

維心の隣りには炎嘉が座り、その隣りに焔、志心、箔炎、高湊、駿、蒼、翠明、公明、黎貴と来て匡儀がぐるりと回って維心の横になる状態だ。

いつもの上位の者達の集まりで、他は恐らく、月見の宴の会場となる南の庭を向いている大広間で、皆で立ち話をしながら冷たい茶でもすすり、開場を待っている状態だろう。

炎嘉が、言った。

「本日は子も連れて来ておったな、高湊よ。」と、高湊を見た。「中身が高彰であるから高彰と名付けたらしいが、あれは記憶がありそうか。」

高湊は、首を振った。

「いいえ、普通の子供と変わりませぬ。庭で駆け回るのが好きで、よう軍神達に子守りをさせておりまする。」

維心が言った。

「蒼の子も来ておったな。我は月の宮で何度か見かけたが、主と雰囲気の似た回りの空気を読む皇子で。まだ10ぐらいにしかならぬよな、確か。」

蒼は、苦笑しながら頷く。

「はい。でも、オレに似なくて頭は良い方だと思います。碧黎様が子供好きなので、よく面倒を見てくれておるのですが、あれは賢しいとよく言っております。」

碧黎はあれで子供の世話が好きであるからな。

維心は思って頷いた。

志心が言った。

「それより、匡儀、主の孫よ。誓心から嫌ほど聞いておるが、やたらと賢いらしいではないか。まだ一年にしかならぬのに、結構な言葉を話してびっくりしたとか何とか。」

匡儀は、それには胸を張って頷いた。

「さすがは我の血筋と皆が申す。何しろ、あの歳でもうかなりの言葉を理解しておるのだ。我も驚いておるほどよ。」

黎貴が、隣りでそんな匡儀を恥ずかしそうに見て言った。

「父上、そのような。我らだけでなくこちらの龍の王族の血も混じっておるのですから、当然なのでありまする。」

維心は、クックと笑った。

「しかし顔立ちが華やかであったから、血の濃さから言うたらそちらかもしれぬぞ?我など炎嘉に散々不愛想だの冷たいなど言われるのだ。座っておるだけでもの。」

炎嘉が、隣りから言った。

「そういう雰囲気だからではないか。にこやかにしておったらそれほどでもないのに、いつなり笑いもせずむっつり黙っておるし。」

維心は、軽く炎嘉を睨んだ。

「うるさい。面白くなければ笑わぬし、面白かったら笑う。それだけぞ。」

炎嘉は、肩を竦めた。

「まあそれだけ面白い事がないと申しておるのだな。我らだって、何か目新しい事は無いかといつも探しておるわ。」

焔が、頷いた。

「誠にの。面倒はもう懲り懲りであるが、こんな催しに出ても主ら同じ面々と話すだけであるし。我は一度、下々の催しとやらに出てみたが、あちらは我を下にも置かぬ扱いで、こちらが気を遣ってしもうて話すにも相手は緊張しておるしで、邪魔をしておるような心地になった。」

箔炎が、笑って言った。

「ならば、主が何か考えてくれたら良いのよ。我らはそれを楽しませてもらうゆえ。」

焔は、顔をしかめて手を振った。

「出来たらとっくにやっておる。何も思い付かぬし、結局は宴であろう?同じではないか。」

蒼は、それを苦笑しながら聞いている。

志心がそれを見て、何かを思い出した顔をした。

「そうよ。蒼、主、昔よう運動会とやらを開いておったな。そら、人世でやっておったとかで、変わった競技を気を使わずにやるあれよ。最近やっておらぬではないか。久方ぶりにどうよ?」

それには、炎嘉がパンと手を打った。

「おお!あれか!良いな、(からす)の久島が死んでからやっておらなんだが、確かにの!どうよ、蒼?」

蒼は、すっかり忘れていたと答えた。

「運動会ですか?でも今宮を閉じているので、あまり人を呼べないですけど。上位の宮だけになりますけど、不公平じゃないですか。」

焔が言う。

「なんだ運動会とは?我もやってみたい。どんな競技なのだ?」

炎嘉が答えた。

「籠に玉を入れたり、騎馬を作ってそれに乗って戦ったり走ったりする。」焔は顔をしかめたが、炎嘉は構わず蒼に言った。「この際観覧する奴など要らぬし良いではないか。それともその時だけ宮を開いたら良いのだ。のう、やろうぞ。なんなら維心、主が開け。嫌になるほど大きな宮なのだから問題なかろうが。」

維心は、茶椀を口に持って行っていたが、ピタリと止めた。

「ここで?あのな、競技が分からぬわ。月の宮から誰か連れてきて指示させるのなら良いが、競技の道具から作らねばならぬのに。時が掛かるぞ。」

駿も高湊も初めて聞く事に困ったような顔をしている。

蒼は、すっかりやるつもりでいる炎嘉に、仕方なく頷いた。

「では、ここのところ何もしておらぬし、その日だけ宮を開いて運動会を開催します。申し訳ないけど下位の宮には観覧だけで。今年は多くなりそうですよね。なんたって北西も北もでしょう?」

言われて、炎嘉はハッと匡儀を見た。匡儀は、肩を竦めた。

「何のことやら分からぬが、面白い事なら参加したいぞ。此度だって、弓維が参るからとこの月見の宴へ参ったが、彰炎には文句を言われた。北西からは主だけか、とな。あやつらも暇なのだ。」

「あやつはしょっちゅう我の宮へ来るくせに。」炎嘉が言った。「とにかく、やるなら競技と内容をしっかり事前に知らせて参れよ。やったことのない事をさせられるのだからの。」

炎嘉は今から本気だ。

蒼は、頷いた。

「はい、それは確かに。」

維心が言う。

「組分けは慎重にな。能力の差が出てはまた文句が出るからの。」

蒼は、維心もやる気だ、と目を丸くした。志心が言った。

「確かに気の大きさがそのまま能力ではないからの。あれは正味身体能力の差なのだ。ちょっと宮へ帰って皆を走らせて速さを見ておかねばならぬ。」

志心もか!

蒼は、何やら皆が皆、やる気になっていて運動会の話を真剣にし始めるのを聞きながら、これはまた荒れる、と思っていたのだった。


席を庭へと移すのに回廊を歩いている中でも、まだ皆運動会の話を続けていた。

炎嘉が何も知らない駿や高湊、公明、翠明、焔や匡儀に説明していたので、それがやったこともない面白そうなことなのだと理解している。

ならばもっと聞きたいと、どんな事をこれまでやって来たのか経験者による皆で話していたのだ。

「気を使わぬで早く移動するとか、やった事が無いゆえ思わず飛んでしまいそうで不安よな。何しろ飛んだ方が速いゆえ。」

匡儀が言うと、駿も高湊もうんうんと頷いている。

しかし、炎嘉が言った。

「何を言うておるのだ。気を使って飛んだら維心が一番速いに決まっておるではないか。それでは面白うないであろう。十六夜が我らの気を奪ってその間、使えぬようにするのよ。だから、使いたくても使えぬのだ。分からぬようにちょっと使うなんて姑息な事をする輩が居ったら勝敗が分からぬからの。普段から完全無欠の維心に勝てる可能性があるからこそ面白いのではないか。」

維心は、ムッとした顔をした。

「それでも我に勝ったことが無い癖に。龍族が入っておる組が毎回勝利しておるのだぞ?気など無くとも主らに負けぬわ。」

炎嘉が、同じようにムッとした顔をした。

「主だけの事ではないではないか。いつなり優秀な軍神を使いおってからに。此度も義心が居るのが気になるが、こっちにだって嘉張も居るし…皇子も確か参加出来たよな、蒼?」

蒼は、いきなり話を振られて驚いたが、頷いた。

「宮で何人、という参加申し込み受付なので、別に内訳は誰でも良いですよ。王は観覧して皇子と軍神に任せるのでも大丈夫です。」

焔が、ブンブンと首を振った。

「何を言うておるのかの蒼は。我らが出ぬでどうやって勝つのだ。戦いには王は率先して出て参らねばならぬのだぞ?」

蒼は、言われて苦笑した。戦いって。

維心が言った。

「此度は一宮何人の参加にするつもりか?」

蒼は、困ったように言った。

「まだ幾つの宮の参加になるのか分からないので、何とも。」

しかし、それには志心が言った。

「ここで決めよ。招待して来ぬ宮など無いから。そうよな、匡儀も参加するならあちらの宮の主の友は全部来るの?」

匡儀は、頷く。

「聞くまでもなく皆参加であろうな。何しろ、最近暇にしておるからの。だが、彰炎は強敵になるぞ。あやつには、鷹と鷲の王である英鳳と頼煇が居るからの。あやつだけ王が三人という不公平な事態に。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「それは不公平よな。だが、宮対抗ではないからの。例えば、維心と志心が同じ組という事もあるのだ。そんなに多くの組みで戦うのではない。幾つかの宮で組むのよ。」

蒼は、顔をしかめた。

「ちょっと待ってください、かなりの人数ですよね。あんまり多くなりそうなら、競技に時間が掛かるので何なら王と筆頭軍神だけとかになるかもしれませんよ。だって、まだ北の大陸もあるんですから。」

そんなにたくさんの神たちが戦うなんてめんどくさそうだし。

蒼が思ってそう言うと、焔が言った。

「人数が多い方が面白いのではないのか?能力もバラけるしの。」

そこまで話した時、会場である庭の特設桟敷へと到着した。

回りには、正方形の桟敷があちこちに設置されてあって、もう下位の宮々の王と王族たちが座って上位の宮々の王を待っている状態だった。

一段高い場所、中央の上座の桟敷へと一同は移動しながら、さすがに皆が見ているので黙った。

上座の桟敷には、もう連れて来た妃や皇女達が、頭を下げて待っている。

皇子達は、維明に世話を任せたので、今は維明がどこかに皇子を集めて交流しているのだろう。

子供は乳母に任せて、蒼の妃の杏奈、高湊の妃の燈子、そして維月と、駿の皇女の桜、柚、楓が居た。どうやら、椿はここには来なかったようだった。

維心は、維月を目指して足を進めた。

桟敷の三段ほどの階段を上がって維月の側へと行くと、維月は座ったまま頭を下げていた。維心は、その斜め前の席へと座ると言った。

「待たせたの、維月。本日は軽めの着物をと指示したが、少しは楽か。」

維月は、顔を上げてベールの中で微笑んだ。

「はい、維心様。お気遣いに感謝致しますわ。」

次々に上がって来た王達が、皆己の妃や皇子皇女が居る場所へと進んで座って行く。

維心は、皆が場所へと収まったのを見てから、言った。

「本日は我が宮の月見の宴によう参った。皆、寛いでもらえたら良いと思う。」

上位の桟敷以外の客達が、一斉に頭を下げる。

そうして、侍女達が酒を運び始めて、月見の宴は始まった。

月は、夕刻の薄暗くなった空に現れたばかりだった。

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