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赤組は、思っていた以上に満身創痍だった。

蒼は、戻って軍神達の体力が二時間で回復するのかと案じていた。何しろ、今は気が使えない状態で、治癒の神が治療はするのだが、体力の回復に自分の気を使えないので、代謝に任せるしかない。それが、とにかく時間が掛かるのだ。

しばらく赤組の様子を観察してから、蒼は本部席へと向かった。

そこには恒も居るが、杏奈も納弥も居るからだ。

本来なら、この宮の妃と皇子なのだから、貴賓席へ行くものなのだが、納弥が出たい出たいと無理を言い、それは無理なので、ならばせめて近くで見せてやろうということで、本部席に席を設えたのだ。

蒼が戻ると、納弥が嬉しそうに飛んで来た。

「父上!」

蒼は、疲れた様子で頷いた。

「納弥。ちょっと父は恒と話しがあるから、待っててくれ。」

納弥は、子供なのに神妙な顔で頷いた。

「はい、父上。」

そうして、杏奈の座る場所へと戻って行った。

蒼は、これからの文言の紙を確認している恒に、話しかけた。

「恒。ちょっといいか。」

恒は、顔を上げた。

「何?二時間じゃ無理そう?」

蒼は、息をついて傍の椅子に座りながら、言った。

「それはそうなんだけど、それ以上待たせられないし。」

恒は、プログラムを見ながら言った。

「まあ、こういうのを見越して競技の数を少なめにしてるから、あと三つだしね。別にちょっとぐらい大丈夫だとは思うけど。」

蒼は、プログラムを見つめた。

「そうだなあ…。もうちょっと時間が欲しいだけなんだよ。じゃあ、借り物競争を先に持って来たらどうだ?あれは時間が掛かるから、その間に少しはマシになるかも。」

恒は、うんうんと頷いた。

「そうだな。ヘタしたら小一時間ぐらいかかりそうだもんな。特に今回は、神名ばっかだから、探すのが大変だろうしね。」

蒼は、驚いた顔をした。

「え、神の名前?借りて来るのが神ってことか?」

恒は、顔をしかめながら頷く。

「だってさ、物だったりしたらすぐ見つかるんだよ。神と物だとあまりに格差があり過ぎて、平等じゃないって言われて、じゃあもう全部神の名前にしてしまえって思ったわけさ。役職名の時もあるよ。筆頭軍神、とか。」

蒼は、目を丸くした。

「筆頭軍神なら誰でも良いってことか?」と、フィールド上を見た。「…知ってる筆頭はみんな参加してるけどな。」

恒は、肩を竦めた。

「とにかく、めっちゃたくさんのカードを置くから、あくまでもそのうちの一つってこと。同じ物は一つもないんだ。敵の名前なんか引いたら大変だよ?逃げてくだろうし。」

参加者の名前まで含まれているのか。

蒼は、不安になった。またあの美しい王達が、観客席をその名前を叫びながら駆け回るのかと思うと、倒れる女神の対応が大変なのではと思えたのだ。

「…なんか心配だな。大混乱にならないか?維心様が筆頭重臣を探して観客席に行かれた時は、女神達があっちこっちでバッタバッタと倒れて大変だったんだぞ。」

恒は、笑って手を振った。

「大丈夫だよー、治癒の者達の数も揃えてあるし。問題ないって。」

そこまで数居ないって。

蒼は思ったが、いくら言っても仕方がない。もう、準備が出来てしまっているのだ。

「まあ…オレは借り物競争には出ない予定だし。じゃあ、順番の入れ替えは頼んだぞ。」

恒は、頷いた。

「任せて。軍神に両方の陣営に知らせに行くように言うよ。」

そうして、とりあえず時間は作った。

蒼は、もし次やることがあったら棒倒しはやめておこう、いや、大玉転がしをやめておこうと、強く思っていた。


維心は、その知らせをダッグアウト裏の控えの間で聞いた。

「…借り物競争が先か。」

隣りに座っている、志心が言った。

「時を稼ごうという事か。外の皇子達にも知らせて参れ。」

志心は、筆頭軍神の夕凪に言うと、夕凪は頭を下げて、そこを出て行った。

「それだけ消耗が激しいという事か。」維心は言った。「借り物競争は時が掛かるからの。とはいえ、これはこちらにも不利。騎馬戦で疲れ切ったところで、リレーで全力疾走しなければならなくなった。本来、騎馬戦の後借り物競争でひと息つくはずだったのだ。」

匡儀が、言った。

「我は全く疲れておらぬし、行けそうな気もするのだが、騎馬戦はそんなに消耗するか?」

維心は、匡儀をチラと睨んだ。

「練習とは訳が違うわ。皆本気で掛かって来るゆえ、こちらも本気で向かわねばならぬ。被っておる帽子を取られたら終わりなのだが、騎馬が崩れても終わりなのだ。あちこち走り回って消耗して参ったら気を付けねば落下するからの。ぶつかって来る事もあるゆえ、気を付けねば。」

志心がそれに頷いた。

「次々にやられて参るぞ。数が少なくなって来ると囲まれるし危なくなるのだ。何しろ手の上に足を乗せておるだけであって、その騎馬の役の者達の手が疲れて離れてしもうたら崩れてしまうからの。それも気遣って参らねばならぬ。主らが鍛錬といって、短時間ではないのか。」

匡儀は、誓心と宇洲を見た。二人は、顔を見合わせてから、答えた。

「…確かに、短時間であったな。」宇洲が言った。「普段から、気を使わずに何かを持ち上げたりせぬから。腕に負担がかかると、ほんの10分程度で騎馬を崩しておったのだが、それでは短いか?」

志心が、顔をしかめた。

「つまりは、10分で皆、あちらの騎馬を潰さねばならぬのだぞ。宮の数だけ騎馬があるゆえ、12の騎馬を10分でなど無理よ。不安が残るものよ。」

そんな話をしているところに、夕凪に呼ばれた維斗たちが戻って来た。

「父上。夕凪から聞きましたが、順が入れ替わると?」

維心は、維斗を振り返って言った。

「そうなのだ。主らには厳しいやもしれぬぞ。借りもの競争に出た後騎馬戦、そしてリレーぞ。借りもの競争をさっさと済ませて休んでおけばと思うておったのに、これではそれが出来ぬ。出来るか。」

維斗は、志夕、英心、翔、騅、紫翠、イライアスを振り返った。六人は、顔を見合わせていたが、紫翠が言った。

「…我ら、体力があるようで。恐らく大丈夫では無いかと思うのです。今も、トラックをバトンパスの練習だと走って来たのですが、特に疲れる様子もなく。」

維心は、立ち並ぶ七人を見つめた。

確かに、皆顔色も良く疲れた様子は全くない。

「そうか…やはり主らは若いのだな。体が資本と申すが、誠にそう。肉体の回復が速いのだ。気を使えぬ今の状況でもな。」と、志心を見た。「ならば、案じる必要はないか。主は借り物競争には出ぬ予定であるし、ゆっくりするが良い。」

志心は、頷く。

「では最初決めた通りで良いのだな?これは個人競技で、確か、参加は10人。」

維心は、頷いた。

「出場は決めておった通り、我と高湊、維斗、志夕、英心、翔、騅、紫翠、イライアス、アルファンス。若い者ばかりであるし、大丈夫だろう。」

アルファンスが言った。

「若いと申して我はもうすぐ三百であるし…やったことが無いことをするゆえ、不安もあるがの。」

志心がそれには首を振った。

「堅苦しく考えずで良いのよ。練習した通り、紙がフィールド上に散らばっておるゆえ、そのうちの一枚を選んで開き、書いてあるものを持ってゴールへ向かえば良いのだ。」

そこへ、あちこちに偵察に行っていた、義心が戻って来た。

「王。何やら入れ替えがあったと。」

維心は、頷いて義心を迎えた。

「そうなのだ。どうであった?何か情報は。」

義心は、答えた。

「は。どうやら蒼様が、あちらの軍神達の体力の回復のために、少しでも時を稼ごうとお決めになられた事のようでございます。嘉張と話して参りましたが、炎嘉様の御気色が殊の外お悪いようで。焔様はご自分が無理をおっしゃって事前の取り決めを無視したせいだと責任を感じられておるとか。あちらの空気はかなり悪いようですな。」

維心は、息をついた。

「何をしておるのかの、あやつらは。炎嘉の気持ちも分かるが、やってしもうたものは仕方がない。気を使わずに動くことに慣れておらぬのだし、そうなっても仕方のないことよ。こちらは待つのだし、少しはマシになろう。」

義心は、頷いた。

アルファンスが言った。

「して?紙の中身は分かったか。何を引くかとヒヤヒヤしておるのだが。」

義心は、アルファンスを見て答えた。

「は。それが、蒼様が恒殿と話しておるのを聞いておると、例年物や神名だったのですが、それでは不公平だと言われた事があったので、ならば全て神名に、と、此度は神を背負って皆、ゴールということになるようです。」

それには、維心が目を見開いた。

「神名だと?!皇女だったりしたら我はどうしたら良いのだ!女など背負ってゴールなど出来ぬ!」

義心が困った顔をする。

志心が言った。

「それなら潔く無理だと申して不戦敗で良いわ。久島がそうであったろうが。どうせ五位以下は点数が無いのだし、それで良い。こちらが有利なのだし、大丈夫よ。」

維心は、歯ぎしりした。紙の中身など気が使えたら簡単に透視出来るものを…。

アルファンスは、戸惑う顔をした。

「こちらの神の名など知らぬぞ。分からぬ時はどうしたら良い。」

義心は、頷いて言った。

「我がこちらに居りますので、戻って聞いてくださればよろしいです。それに、神名だけでなく役職名の時もあると。例えば、筆頭軍神とあれば我が参りますので。筆頭軍神なら誰でも良いのです。そんな風に。」

維心が唸った。

「前に筆頭重臣を引いてしもうて兆加を連れておらなんだのを後悔したことがあった。そういえば、炎嘉は維月を引いておったわ。」

龍王妃の名前まであるのか。

確かにここは維月の里なので、気軽に書いたのだろうが、それを背負ってゴールなど皇子達には荷が重かった。

維斗は、母親なので特に構える様子もなかった。

「母上までもお名があるならここに居る誰かの名ということもあり得るということですな。」

言われて、皆ハッとした。そうだ、なぜに気付かなかった。

「…ということは、もしそこに匡儀などと書いてあったら、我を狙って来るのか?」

匡儀がドン引きしながら言うと、維心は頷く。

「それが味方であったらすぐに一緒に参れば良いが、敵だったなら主、全力で逃げよ。何としても四位以内にゴールさせてはならぬぞ。」

そこに居る全員が、体を固くした。つまりは、気を使えぬ今、体一つで必死に追いかけて来る者から逃げなければならないのだ。

恒の声が、聴こえて来た。

「借り物競争の参加者のリストを、13時までに本部席までお持ちください。提出後の変更は認められません。」

…恐らく、参加者の名前は除外するのだろう。

維心は、それを聞いて思った。

「…維斗、恒にリストを持って参れ。」維斗は、頭を下げる。維心は宙を睨んだ。「覚悟せねばならぬ。我は例え皇女であろうとも、背負って何としても四位以内にゴールして見せる。」

維月には後で謝ろう。

維心は、そんな覚悟を持って維斗が出ていくのを見送った。

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