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棒倒し

「ようやったの。」維心は、戻って来たもの達に言った。「サイラスは役に立つではないか。指示が誠に的確だった。」

サイラスは、ゼエゼエと肩で息をしながら答えた。

「走るだけでも結構な消耗であったわ。玉を転がしながらなど考えたくもない。よう皆平気であるな。我はもう無理ぞ。」

維心は、笑って頷いた。

「良いから騎馬戦まで休んでおれ。棒倒しは我ら、これに出なかった者24人が出る。あちらは消耗しておるから、恐らく有利ぞ。気が使えぬのにあやつらは甘く見ておるのだ。楽勝よな。」

サイラスは、椅子にそっくり返って座って手を振った。

「ああ、好きにすれば良いわ。我は休む。時を稼いでくれよ。体力が回復せぬから。」

月の宮の侍女達が、さっさと寄ってきて冷たい飲み物を側のテーブルの上に追加して行く。

イライアスが、そのグラスを手にしてサイラスに渡した。

「父上、お疲れ様でありました。これを飲んで、しばしお休みください。」

介護だな。

維心は思いながらそれを見た。

サイラスは、それを受け取ってイライアスを目を細めて見た。

「主は誠に出来た皇子よ。主が我に指示役をと言わねば今頃我は玉に轢かれておったやも知れぬ。」

イライアスの案か。

維心は、感心しながらイライアスを見た。

「若いのによう出来ておるな、主は。先が楽しみであるわ。」

すると、サイラスは誇らしげに胸を張った。

「であろう?誠にこれが居って我は良かったと思うわ。」

世話になりっぱなしであるものな。

維心は思ったが、何も言わなかった。

「父上、準備が整ったようでございます。」

維斗が言うのにフィールド上を見ると、円が復活して棒がそれぞれ一本置いてあるのが見えた。

「この競技は参加者24人、半分は守り、半分は攻撃ぞ。手筈通りに分かれる。あちらが何人を攻撃に使うのか分からぬゆえ、攻撃に10人、守りに14人で参るが、危ういとなれば攻撃からそちらへ向かわせるゆえ。維斗、守りの要を頼んだぞ。」

維斗は、目を鋭くして頷いた。

「は。こちらはご心配なく。父上があちらを倒されるまで、守りきって見せまする。」

恒の声が言った。

「では、棒倒しを始めます。出場者は、位置についてください。」

維心は、志心達に頷き掛けた。

「参る。」

まるで戦場に向かうようよな。

その背を見送りながら、サイラスは遊びと聞いていたのに、と顔をしかめていたのだった。


一方、炎嘉は膨れっ面で言った。

「誰が出るのだこちらは。決めておった焔が立てぬほど消耗しておるし、主ら棒を守り切れるのか。あちらは元気な奴らが参るぞ。維心などぴんぴんしておるのに。」

そういう炎嘉は元気そうだ。

炎月が、言った。

「我が。これには出ぬ予定でありましたし、焔殿の代わりに出場を。」と、息を上げている炎耀を見た。「炎耀も、大丈夫か?」

炎耀は、頷いて根性で立ち上がった。

「思うたより距離があったゆえ。何とかやる。」

蒼が、気を遣って言った。

「オレも出ない予定だったが、出ようか。オレはコツを知っておるからそれほど消耗していないんだ。」

炎嘉が言った。

「大丈夫か?この後騎馬戦であるぞ?騎馬戦は総出であるから出ぬ訳には行かぬし、主は狙われるからの。どう考えても弱いと判断されようし。」

蒼は、肩をすくめた。

「分かってます。でも、この状態で誰が棒倒しに出るんですか?」

言われて、炎嘉は皆を見回した。

幾分平気そうなのは若い箔炎、他皇子達ぐらいで、他は軒並みダウン状態だ。この中から24人選ばねばならない。

もう、事前の打ち合わせなどないようなものだった。

「…もう良い、戦えそうなもの達だけ24人立ってこちらへ。維心に襲われるわけであるから守りに多く人員を割こう。我こそはという者、こちらへ。」

思った通り当初決めていた王達はもうふらふらで、来たのは皇子ばかりと根性で立ち上がったその軍神くらいだった。

「…もう、これは捨てるつもりでやる。」炎嘉は、やけになって来て、言った。「主らも!これからは我の言う事を素直に聞け!こうなるのだからの!分かったな?!」

返す言葉もない焔達に背を向けて、炎嘉は歯ぎしりした。維心め…あちらは皆己に従うゆえ、安穏としておるのかと思うと腹が立つわ!


維心は、出て来た赤組の面々をチラと見た。

出て来ているのは炎嘉、公明、蒼、レオニート以外は、全て皇子と軍神だ。

頼煇の皇子の祥煇(しょうき)、英鳳の皇子の伯鳳(はくほう)、炎月、炎耀、そしてそれぞれの軍神達で何とか頭数を揃えた感じだった。

皇子達も、出て来た王達も疲れてはいなさそうだったが、立場的に出て来るしかなかっただろう軍神達は、かなり疲れ切った様子だ。

先ほどあらぬ方向へ転がって行く玉を必死に修正していたのは、軍神達だった。王達は、闇雲に玉を後ろから押したり突いたりするだけで、あれだけ消耗しているのだが、軍神達はそれ以上に疲れているはずだった。

それなのに、疲れて出て来れない王達の代わりに、仕方なく立ち上がって出て来ているだと思われた。

「…騎馬戦も危ういの。」

維心は、目の前で棒を立てて準備している敵を見つめながら言った。すると、炎耀が振り返った。

「騎馬戦までには皆回復する予定ぞ。」

維心は、首を振った。

「騎馬戦は総力戦ぞ。遊べる神など一人も居らぬ。それなのに、そちらの王のほとんどは疲弊している軍神達をこちらへ出して己は休んでおるのだろうが。あの競技は、騎馬が弱いと崩れて自滅になるのだ。主らの方は、王が騎馬に回るのか。」

言われて、炎耀は炎月と顔を見合わせた。言われてみたら、軍神達は騎馬で、上に乗る大将の役が王達だ。

王達は、普通に考えて次の騎馬戦で体力を使わない位置になるのだから、自分達が無理をしてでも出て来るべきだった。

そう、維心は言っているのだ。

青の棒の方が立ち上がるのを見守っている、炎嘉の方を見ると、こちらの話が聴こえているのかチラとこちらへ視線をやった。

維心は、その視線に気づいたが、そちらを見ずに息をついた。

「…甲斐の無い事よ。」

馬鹿にしているのではなく、本当に残念に思っているようだ。

戦うからには、お互いに万全の状態で戦いたいという事なのだろう。

「では、始めます。位置について。」恒の声がする。皆が構えて、維心の目も一瞬で鋭くなった。「用意、始め!」

維心は、先に走って行った義心の肩目掛けて飛び上がり、その肩を踏み台にして、一気に棒の上へと飛びついて行った。


棒倒しは、散々だった。

本来は三回戦するところを、二回を青に取られた赤が、自動的に負けが確定し、それでお開きになってしまったのだ。

それというのも、元気な維心達が次々に棒へと跳びついてよじ登り、その重さを支える事が出来なかった軍神達と炎耀、炎月が、下敷きになる形で一瞬で一回目は決した。

それではならないと、二回目は炎嘉が守りに回ったのだが、それでもきちんと話し合って連携が取れている青は、踏み台になる者、跳び付く者と役割がしっかりしていて、足を引っ張って引きずり降ろそうとしても、すぐに自分の担当の神の下へと回り込み、しっかりと踏み台になって上へと押し上げ、同時に棒を掴んで自分も体重をかけるという、正に神業を披露して競技にならなかったのだ。

炎嘉は、下敷きにはならなかったがそんな赤組の体たらくに、心底腹を立ててダッグアウトへと戻って行った。

下敷きになった軍神達は、皆怪我をした上に疲れ切っていて、とても騎馬を組めるような状態ではない。

月の宮の治癒の神たちがやって来て治療するが、体の疲れは簡単には取れなかった。

蒼は、攻撃側に回っていたので棒倒しで全く疲れる事は無かったが、赤組が満身創痍の状態になって来たので、どうしたものかと顔をしかめていた。

炎嘉が、言った。

「少しぐらい動けなくても、主らが出るべきだった。」炎嘉が、静かに怒りを滲ませながら言った。「軍神達は大玉転がしで疲れ切っておったのに、王が出ない上に皇子が出るのなら自分達が出ないわけにはいかずで無理して出て行って、こんなことに。騎馬戦をどうするのだ。騎馬の上でふんぞり返っておれば良い主らが元気でも、乗る騎馬が無いぞ。」

焔は、疲れ切った弦と烙を見て、言った。

「…ならば我が騎馬の前を。烙を上に乗せて、弦には左後ろ、それから矢代(やしろ)には右後ろを。もう回復したし、少しぐらい負担があっても大丈夫ぞ。」

矢代は次席軍神だ。腕をもろに棒の下敷きにされたので、腕を痛めて今、治療を受けている。

不安も残る状態だったが、矢代は言った。

「王を前にするわけには。我が前に参ります。腕は今、治療してもらっておるので大丈夫です。」

そうは言っても、軍神達の負担が多過ぎる。

対して青組は、皆無理なく出場しているようで、まだ皆余裕の顔をしている。

やはり大玉転がしに、全員で出てしまったのが失敗だったと誰の目から見ても明らかだった。

蒼が、息をついた。

「このままでは試合にならない。ここで一度、休憩を入れるように恒に言おう。騎馬戦の前に一時間休憩を入れて、体勢を整えて次に挑んだ方が、あちらも良いのでは。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「維心にそんなことを頼むのは無理ぞ。」

蒼は、首を振った。

「オレが頼みますから。こんなんじゃ、騎馬戦だって惨敗です。一度仕切り直さねば。」と、足を青組のダッグアウトの方へと向けた。「皆は、回復出来るように出来るだけ治癒の者達に薬湯をもらって飲んだり励んでくださいよ!」

そうして、青組の方へと走って行ったのだった。

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