龍の宮での準備
維心は、早速棒倒しの棒の太さ、長さを調べさせて、そっくり同じ物を作らせ、まずはやった事のないその競技の鍛練を始めた。
玉入れの籠は、前に作らせた物が倉に眠っていたので、それを持って来させたら事足りた。リレーのバトンもそこに置いてあったので、持って来させてあった。
棒倒しの方法は、維月が知っていたのでそれを聞き、軍神達に実際にやらせてみた。
何しろ気が使える状態なので、上へと登って行って倒そうとしても、それを倒れないように思わず気で押えてしまったりしてしまうので、簡単には行かない。
しかも気で支えている軍神を、敵役の軍神が同じく気でぐいぐい押してしまったりと、全く形にならなかった。
それでも、気を使うな!と口を酸っぱくして言ってなんとか、きちんと維月の知る棒倒しの形になり、無事に練習することが出来ていた。
それを見学に来ていた炎嘉や志心も、宮へと帰って同じように練習しているらしい。
駿や焔、高湊や紫翠も、龍の宮や鳥の宮へと出掛けて行っては、競技の方法を学んで、それを宮へと持ち帰って練習するという気の入れようだ。
どうやら匡儀とヴァルラムは、月の宮へと押し掛けて、実際にどうやるのか、月の宮の軍神達に実演してもらって覚えて帰ったということらしかった。
ヴァルラムの感想は簡単だ、ということらしかったが、維心はそれを聞いて、油断しておるな、と思っていた。
確かに神から見たら簡単な事なのだが、気を使えないでやるのは、本当に全く勝手が違う。
本来の筋力を鍛えていなければ、かなりつらい事になるのだ。
もし、同じ組になったなら教えよう、と維心は思った。まだ組み分けが送られて来ていないので、今教えてしまっては、ヴァルラムも選ぶ人員に体のしっかりとした軍神を入れるだろうと、敵に塩を送るような事はせずでおこうと思ったのだ。
今回、維心が連れて行く三人に選んだのは、もちろん義心と、そして維明には宮を守らせて維斗を連れて行こうと思っていた。
後の一人は、帝羽にするか明蓮にするか、二人を走らせてから決めようと思ってまだ保留にしていた。
二人とも、気の張る任務になるので出来たら行きたくないようだったが、手を抜いたりしたらそれこそ維心の逆鱗に触れてしまうので、真剣に競技の練習に参加していた。
その真っただ中に、鵬が急いで書状を手に訓練場へと走って来た。
「王!蒼様から書状でございまするぞ!」
維心は、すぐに振り返った。
「決まったか!」
そして、這う這うの体で駆け寄って来た鵬からその書状を引っ手繰るように手にすると、維心は急いで中を開いて見た。
「…我らは青組か。」
書状には、赤と青に分かれて戦うのだと書いてあった。
今回の組は、箱の中に宮の名前を書いた紙を入れて、複数の臣下軍神が代わる代わる引いたその紙を、交互に赤、青、と分けた結果決まった事で、それは高瑞、ヴェネジクトの立ち合いの元で厳正に行われたと最初に注意書きされてあった。
気になる中身は、こうだった。
《青組》
青龍の宮
白龍の宮
ドラゴン城
獅子の宮(島)
獅子の宮(北西)
白虎の宮(島)
白虎の宮(北西)
西の島南西の宮
高湊の宮
ベンガル城
アルファンスの城
ヴァンパイア城
《赤組》
鳥の宮(島)
鳥の宮(北西)
鷹の宮(島)
鷹の宮(北西)
鷲の宮(島)
鷲の宮(北西)
西の島中央の宮
コンドル城
マトヴェイの城
フレデリクの城
旧アマゾネス城
月の宮
それを見せられた義心は、首を傾げた。
「…クジとは思えない偏り方ですな。」
維心は、頷いた。
「だから蒼はわざわざ文頭にこれはクジで決めた、それなのにこうなったと知らせて来ておるのだろう。何しろ…鳥族が全て赤組に集中しておる。あやつらは素早いし強敵よな。まあ、こちらは白虎が居るから素早さは負けぬはず。」と、じっとそれを見つめた。「驚いたのは、サイラスも参加すると申しておるところよな。あやつ、引き籠っておったのではないのか。ヴェネジクトと言い合いになってから、公の場で顔を見ておらぬのに。」
言われてみたらそうだった。
義心は思って、維心を見上げた。
「調べて参りますか。」
維心は、少し考えたが、首を振った。
「どうせ月の宮で会うのだ。その時に話を聞けば良いわ。同じ組であるしな。それにしても、あやつは通常昼間は寝ておるのに、大丈夫なのか、駆けまわったりして。」
義心は、うーんと眉を寄せた。確かに夜しか行動しないヴァンパイアが、昼間に駆け回れるだけの体力があるのだろうか。
「…まあ、何にしろあやつが出て来る心地になったのなら良かったことよ。この上はヴァルラムと対抗して余計に拗れる事だけ無ければ良いなと願うのみよ。」
皆、意地になるゆえなあ…。
義心は、そう思いながらそれを聞いていた。
とはいえ、戦った後はいつも皆カラッとしているので、恐らく大丈夫だろう。
維心は早速、鵬にヴァルラムに書状を送れと指示している。
恐らくは神選に体格と体力を考慮せよと忠告するつもりなのだろう。
そうして、龍の宮では立ち合いそっちのけで運動会の競技の練習に全力を傾けていた。
ヴァルラムは、月の宮から帰った後、早速島と何某かの関係がある城に打診し、催しに出るように言った。
皆戸惑いながらもここのところは退屈していたので、変わった催しなら出てみるかと軽い気持ちで承諾し、そうして全員に、一度集まって競技の内容を知らせておくことにした。
意外だったのはサイラスで、ヴァルラムが生まれ変わりだと知らないはずなのに、簡単に承諾してきた事だった。
ヴァルラムは、サイラスがヴェネジクトに怒って引きこもったのを知っていたので、丁寧にこれまでの非礼を詫び、そしてあの事件の全容を説明し、自分が新たな王として君臨すると、即位後すぐに書状を送ってはいた。
だが、それに対しての返事はただ、分かった、というだけで、許すとも連絡を感謝するとも書いてはおらず、サイラスの胸の内は全く分からないままだったのだ。
それでも、一度サイラスに会っておきたかったヴァルラムは、何度もいろいろな催しに誘っては、出て来る事を暗に促していた。
それにもなしのつぶてであったサイラスが、今回の誘いは受けたのはどういうことなのだろう。
ヴァルラムは思ったが、それでもサイラスに会えるのは素直に嬉しい事だった。
皆が集まって競技の説明をする場には、サイラスは来なかった。
イゴール達、極北の王達は来たし、旧アマゾネスの城のエラストもヴィランはドラゴン城に入れないので、軍神を連れて来ていた。
レオニートも軍神達に囲まれて来て、最初は緊張気味だったが、ヴァルラムが友好的なのですぐに打ち解けて、皆と仲良く聞いたこともない競技を習っていた。
それが終わって、皆が帰ってもまだ、サイラスは来なかった。
ヴァルラムは、さすがに明日にはあちらに押し掛けてでも教えておかねば、サイラスがまずいことになるなと、休む支度を整えながら、自分から行くかと決心していたところに、窓の方から声がした。
「こら。何を寝ようとしておるのだ。」
驚いて見ると、サイラスが軍神二人と共に、窓の外に浮いていた。
サイラスには、結界は関係ない。
地下道を通って来るので、いつもこんな感じだった。
「…サイラス!」ヴァルラムは、窓を開いた。「どういうことぞ、今頃来たのか。」
サイラスは、顔をしかめながら窓から入って来て着地した。
「主こそどういうことよ。我はこの時間からしか活動せぬ。誰も教えなかったのか。」
ヴァルラムは、確かにそうだが、と思いながら言った。
「それは知っておるが、月の宮の催しは昼間であるぞ?大丈夫なのか。」
サイラスは、腕を組んで膨れっ面になった。
「大丈夫ではないが、そんなものなのだろうが。これまで散々催しの誘いをしおってからに、我は昼間は寝ておるというのに。嫌みか?」
だから来なかったのか。
ヴァルラムは、それはそうだろうと今さらながらに思った。そういえばサイラスは、夜の宴なら出る事もあったが、昼間は来ない事の方が多かったのだ。
「それは…気付かなかった。ならば、月の宮の運動会は欠席ということに。」
今から言うて大丈夫だろうか。
ヴァルラムが思っていると、サイラスは呆れたように手を振った。
「まあ良い、前日の夜は仮眠するゆえ。さすがに此度は出ねばと思うたのよ。主が即位してから顔も見ておらなんだし、主のやり方は遠くから見てあった。愚かな王ではないようよ。」
だから来たのだな。
ヴァルラムは、思って背筋を伸ばした。
「我は愚かではない。コンドルや龍に下士官の頃から教えを乞うて、いろいろ学んだのだ。」
サイラスは、頷いた。
「だから来たのよ。」と、軍神達を振り返った。「何やら書状ではややこしい競技のように書いておったから、これらに学ばせねばと思うて連れて参った。今から教えてくれぬか。」
かなりの暴論だが、しかし夜番の軍神達が居たはず。
ヴァルラムは、頷いてサイラスを促した。
「訓練場へ。軍神達に教えさせる。」
そうして、ヴァルラムはサイラスとその軍神達を連れて、訓練場へと降りて行ったのだった。




