逆風を感じて……
今までここに歩くまでの間たくさん問答してきていたが新しい話題を出すと、問答というよりは先生と生徒みたいな話具合になった。
「法律を破っておいてよく立場のある領主の家に戻ってこられましたね。」
「私の法律は鳳凰信仰法だけです。」
少しの間メイドはうつむき、今度は訝しげにアレンを眺めてきた。
………表情の豊かなメイドだなぁ。
「罰するのは私の役目ではないので聞かなかったことにしますが、くれぐれもお気をつけになりますように。」
「はい」
話が一区切りしたようだったから僕は気になっていたことを質問する。
「あの………鳳凰信仰法とかってなんの話をしているんですか?」
メイドは質問されたことに驚いた。
そして、訝しげに僕を見ながら聞いた。
「あなたは本当にドールなのですか?」
僕は僕がドールではないと言われたことに違和感と納得感を感じた。
僕はドールなのだから納得感があるのはおかしいだろうと思っていたが、その納得感の正体は以外とすぐに分かった。
「半分ドールで半分旧人類だと思いますよ。比率は半分かどうか分かりませんが。」
「……なるほど、理解しました。」
僕は会話を戻して質問の答えを聞こうとする。
「あの……、さっきの質問に加えて今の会話についても説明していただきたいんですが。」
それを聞いてメイドは少し考える素振りをしてから口を開いた。
「この世界ができる前には2体のドールと一つの大きなタワーがあったのです。
2体のドールは最初期のドールと言われて一人はカランと言い中央にいて、もう一人はアーニャと言いカラン様の統治の仕方に納得がいかずカラン様と戦って敗れて消えてしまったそうです。そして、アーニャの作った法律が鳳凰信仰法といいます。ちなみにカラン様の作った法律が帝国支配法といいます。それから………ドールにはこの話や法律などが前もって頭に入っているはずなんです。」
「大きなタワーは中央にあったあのタワーなのか?」
説明したことがかなり無視されて、かなり不満のようだが、一応メイドという立場のため質問に答えてくれた。
「ええ、あのタワーにはものすごい演算能力と遺体をドールにする能力があります。」
僕はまたもや、それを聞きながら前にある大きな扉を見ていた。
「すっごいでかいなぁ……。」
僕は扉とここにたどり着くまでに通ったものすごい長さの廊下に対して無意識に感嘆の言葉を漏らしていた。
◇◇◇◇◇
「お帰りなさい、アレン。」
とてもゆっくりした声が聞こえて少し視線をあげる。
すると、アレンのお父さんだと思える人が、真ん中にある大きな椅子に座ってこっちのことを見下ろしいていた。
アレンのお父さんは何故ここまで僕を連れてきたのかなどの疑問で目を細めていたようだったが、いきなり隣に現れた執事がアレンのお父さんに何かを囁いたことでより一層目を細めた。
「殺した」や「生き返った」などの言葉が聞こえることからさっきの出来事を話していたんじゃないだろうか。
そう考えた僕はさっきまでの経緯などを話そうと前に出ようとすると、さっきまで僕のお腹に刺さっていたあのナイフが足下に根元まで刺さっていた。
「今は親子で会話するべき時だ。お前ごときが邪魔して良い訳がない。」
そう言われて仕方がなくその場にとどまった。
「お父様、私は旅に出たいと思います。」
「何故だ。今まで十分に生活を送れるようにしたはずだったがそれでもまだ足りんのか。」
「いいえ、違いますよお父様。私にとっての十分とは、今、この世界で手に入れられるものではございません。私自身が新しい世界を見出ださねばならないのです。」
すると、アレンのお父さんは寂しげな顔をした……ように見えた。
「そうか…そうか…仕方がないな。少しの間だけ家で匿ってやろう。長い間は無理だろうから早く出て行くのだぞ。」
その言葉にアレンは乗り出すようにして食いついた。
「本当ですか!ぜひお願いします!」
その日の夜、中央の警察が僕達を捕らえに来た。




