僕、生まれました。
20XX年地球場にはかつて栄えた人間はおらずドールという人造人間が新人類となっていた。
◇◇◇◇◇
コポコポコポ……周りから音が聴こえる。
少しずつ目を開いていき、完全に覚醒したときに周りにいた人たちが一斉に僕の方を向いた。
僕はその一瞬で、この人たちは怖い人たちだと本能的に考えて、声を出してしゃべらないようにしようと思った。
偉そうな人はその目を期待に輝かせこちらによって来た。
「さあ、腐っていなかった珍しい被検体だ。丁重に扱いなさい。」
セーラー服に白衣をはおり、見たこともない鉱石のようなものがつけられたカバンを肩に掛けた一番偉そう人がそう号令すると皆が一斉に動き始める。
そして偉そうな人は僕に優しい声でこういった。
「悪いようにはしないから私に付いてきなさい。」
◇◇◇◇◇
僕は何年間かこの建物で過ごした。
その時にはたくさん優しくしてもらい、人と話しているときが一番楽しかった。
歩く時には歩幅が僕の方が小さいため小走りになってしまうが、研究者達にカランと呼ばれていた彼女は時々後ろを振り向いて僕の様子を見てくれるから優しい人だと感じていた。
今、思い返せばそのときの自分がバカだったのだろう。
僕が十歳の誕生日を乗り越えた辺りで記憶を引っ張り出して能力を顕現させる儀式のようなものをすることになった。
僕は母親代わりのカランに付いていき、そうしてひとつの部屋の前で止まった。
「中に入りなさい。」
僕は中を覗いてみる。
「……っ!」
何故なら、そのドアの奥には数々の拷問器具があったからだった。
カランは化けの皮が剥がれてあらあらしくなった。
「本当ならこんな仕事はしたっぱに任せて私はしないんだけど……、お前は特別だよ。私がじきじきに記憶を引っ張ってやるよ。」
もうしゃべらないようにしても意味がなさそうだと僕は諦めてしゃべった。
しかし、拷問器具を見たときの恐怖が体を縛り、声もカタコトになってしまった。
「……ドウヤッテデスカ?」
「それはやっぱり瀕死にしてだろ。あとカタコトでしゃべるんじゃない。」
瀕死にするという言葉を聞いたとたんに僕は脱兎の如く素早く逃げ出した。
それを見てカランは余裕の表情で追い詰めるようにゆっくりと歩いてきた。
走っている最中に何度も呼び掛けられた。
「殺しはしない。だから戻ってこい。」
「嫌だ!」
そうして大体数十キロ程走った頃だろうか、カランは何かを察知したのかいきなり本気を出して走ってきた。
僕は吐く息に血の匂いがし、足がもつれていて走っているとは言いがたかったが、それでもなお脚に力を入れて一生懸命に走った。
あともうちょっとで捕まってしまうところまで来られてしまった。
もうだめだと思い、せめてどのように弁解すれば良いのかを考えながら最後の力をふりしぼって走っていた……そのとき!
カランは脚を止めて営業スマイルのような、さっきの表情とは比べ物にならないほど柔らかい表情をつくった。
僕は後ろを向いてそんなところを見ながら、走っていたため前にいる人に気付かずにぶつかってしまった。
「ちっ」
僕がぶつかった人には聞こえないようにカランが舌打ちをしていたのが僕は聞こえた。
カランが舌打ちしていたということはきっと僕にとって状況が好転したのだろう。
「こんにちはー、これ珍しいドールですね。」
そんなことを言いながら笑っていることに気付いたのはまもなくだった。