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エドアルド視点


 光栄です? どう見てもそんなこと考えていはしない、翡翠の瞳が俺を見据える。こいつのこの敵意は一体何なんだ。というかライリーが怯えていた? ライリーは、良くも悪くも肝が据わった根性のあるやつだ。そんなところも俺は気に入っているが……いや、今そんなことはどうでもいい。

 とにかく何故、怯える? それほどに俺の態度はひどいものだったのか? 正直なところ、混乱しすぎて冷静ではなかったから覚えていない。

 けれど、あのライリーが怯えているとしたら相当ひどかったのだろう。


 胸が痛い。自然と眉間にしわが寄る。息がしづらい気がする。彼女の想像し難い怯えた顔を、漸く思い浮かべて、胸を裂くような痛みに貫かれた。


 「思い当たる節がおありの様で」


 「そんなことを言って、お前がかくまっているんだろう」


 どこか、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、けれど、好戦的に睨むのをやめないアシュレイ・ダールトンに、どうにかそう返した。この男がかくまっているのかどうかは、分からない。こいつが言うように、もうライリーは王都にさえいないのかもしれない。

 いないかもしれないが、こいつが何かを知っているのは事実で。


 「…………というか、アシュレイ・ダールトン。貴様はいったい何なんだ」


 オルガは、アシュレイ・ダールトンがライリーという少女を探していると言っていた。あの時は、ライリーが女だなんて思いもしなかったから、気にしてはいなかったが……あのライリーがこの男の探していた少女だったのだろう。

 だとするならば、こいつはなんなんだ。なぜライリーを知っている? ライリーの何なんだ。


 どこかもやっとした気持ちの悪い感覚に、さらに眉間のしわがひどくなった気がするが、まあどうでもいい。ついでに言えば、隣のユーリッヒが、ヒッと情けない声を上げたが、それも、どうでもいい。


 俺の問いに、アシュレイはため息をついた。少年のようなあどけなさの残る相貌が冷たいものにかわった。


 「……大切なひとですよ。僕にとってのライリーは」


 本当に心から大事そうに一言一言を紡ぐ。特にライリーとつぶやいた声音には、何かの情がありありとのっかていた。ああ、そうだ、この男もあいつが好きなのだ。

 だから、こんなにも敵意を丸出しにしているし、俺のことを警戒しているのだ。


 「そんなの……、俺だって、」


 「俺だって? なんです? 追い出したんでしょう? あんな小さな少女をあんな真夜中に一人きりで追い出すなんてどうかしてる」


 「違う!! 別に追い出してなどいない! 」


 「では、なぜ、ライリーはあの日あんなに傷ついた目をして、廃墟の前にうずくまって、真夜中に一人きりで、眠ろうとしていたのです? 」


 反論しようと口を開いた。けれど、なにも口にはできなかった。鋭い視線に思わず息をのむ。ライリーを傷つけた。……それはきっと事実なのだろう。俺は、俺は……自分の感情にまかせて、自分のことでいっぱいいっぱいすぎて、なんてことを……。


 言い出さなかったことを正当に罰して、しかし、こちらも勝手に勘違いしていたことを謝罪して、それでも、屋敷で働いてほしいと、そういえばよかっただけではないか。

 ライリーには拒絶されてしまったのかもしれないが、もしそうなら、ハインツ領での働き先を斡旋してやればよかった。彼女は、この五年間本当によくやってくれていた。俺を献身的に支えていてくれたし、屋敷はあいつの明るさで輝いて見えた。俺にとっても、オルガにとっても、屋敷の者にとっても家族同然だったのに……。



 「とにかく、ライリーはもう、王都にはいません。僕は居場所を知りませんし、あなたの弟君もご存知ないはずです。信じられないというなら、アルフレド・ハインツ様にお聞きになったらいいでしょう」



 「……そんな、だって、アルフレドに話を聞いたのは、昨日のことだぞ……?? 」


 呆然とする俺に、アシュレイが再び嘆息する。呆れたような、ひどく見くびった視線にさえ、なんの反応も返せない。


 「だから、貴方が探していると、そう聞いてすぐ、出て行ってしまったのです。貴方に見つけられるのを恐れて。

僕は、昔、貴方と同じ過ちを犯し、彼女を失いました。だから、今度は、彼女の望みをかなえてあげたいのです」





 ライリーのことを思うなら、そっとしてあげたらどうなんです。





 どこか痛みをこらえるようなかすれた声。翡翠の瞳をもつ騎士は一礼をして、そして、すっかり日の落ちた闇の中に歩いて行った。




 その後、アルフレドをどうにか見つけて、問いただしたが、あの嘘のつけない弟は、彼の言う通り何も知らなかった。


 ライリーは俺に見つかるのを恐れて、王都を去った。俺から逃れようとしている……。なんだ、女とか男とか、それ以前の問題なんじゃないか。俺は、あの天真爛漫で図太い、仕事の出来る専属執事に、嫌われていたのか。



 自嘲の笑みがあふれたが、ユーリッヒは何も言わなかったし、アルフレドも何も言わなかった。そのあとどうやって領地までかえったのか、よく覚えていない。








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