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朝が来た。
最低だ。最低な目ざめ。
また、セレス様を怒らせてしまった。
どう考えても私が悪い。
心配してくださったセレス様に、せっかく、優しくしてくださった方の善意を踏みにじるような最低なことを言ってしまった。
しかも、理由はエドアルド様のことを考えていてなんか訳が分からなくなって浅慮になるという馬鹿げたものだ。
どう考えても私が悪い。
昨日のセレス様は私の知るセレス様とは別人みたいだった。
もっと可愛くてプライドの高い面倒なおぼっちゃまだったセレス様とは別人。
そりゃ大人になったんだからそうなんだけど、昨日改めて私は彼がもうあの時の子供ではないのだと思った。
だから、きっとあのセレス様が私を思ってくれているのは本当のことで、ずっと探していてくれたのも本当のことで、ついでにいえば結婚、とかいうのも真剣なんだ。
今まで、それを私は適当に受け流してセレス様は勘違いをしていらっしゃるとか、お優しいから、とか。
なんて不誠実だったんだろう。
あんなに深く私の事を考えてくださっていたのに。
「なんてダメなやつなんだ…」
私というやつは。
……いや、いかんいかん、それこそまさに、思ってくださっているセレス様に失礼というもの。
セレス様のお気持ちが本当なのだとして、だとするのならばその好意にいつまでも甘えて寝食を共にするのは悪だ。
彼の善意を食い物にするような行いだ。
………セレス様に謝ろう。
昨日のことと、これまでのこと。全て。
私はお気楽に生きすぎていた。
思い悩むのを放棄して楽をしすぎていた。
それから、真剣に、きちんと、向き合ってセレス様に私の気持ちを話そう。
セレス様は友だった。
私の唯一の友だった。
なんだかんだいって、セレス様との時間が好きだったのだ。彼との時間は鮮やかで、自分の身の上をすこし忘れられた。
身分は違えど、彼とあのときの私はどこかで対等になれていたと思う。
ただの友だちと話をするだけの子どもになれていた。
セレス様は私の大切な友で、拾ってくれた恩人で、住む場所を与えてくれた方で……。
この生活はまるで夢のように楽しいし、セレス様のおかげでマリアンヌさんとジェフさんにも会えた。
パン屋の仕事はやりがいがあって楽しいし、この服や伸びた髪も嬉しい。
女の子になれたみたいで。……いや元々そうなんだけれど。
セレス様が女の子扱いをしてくれるのも、かなり気恥しいが嬉しくもあるし、とにかく、私には勿体ないほどの素晴らしい毎日だ。
王都にだって、セレス様と再会しなければ来れなかったかもしれない。
噂にだけ聞いていた、この国の中心。
なんでもある都。こんなところに住むことが出来るなんて(居候だけれど)あの路地裏で泥まみれになっていた薄汚い子供は思いもしなかっただろう。
毎日が幸せで喜びに溢れていて、感謝でいっぱいだ。
だからこそ、終わりにしなければ。
セレス様にきちんと、伝えよう。
本気できっと私を思ってくださっているセレス様だからこそ、つつみ隠さずありのままを伝えよう。
この幸せな日々にずっと浸かっていても、セレス様に同じ気持ちを返すことはきっと出来ない。
とても素敵な人だからこそ、早くお別れするべきだ。
やはり、私なんかに囚われていていい人ではないのだから。
………こう言ったらまた怒られてしまうかな。
だって、私はもう気がついてしまったから。
私はエドアルド様が好きだ。
一生叶いっこない恋をしてしまった。
好きになってはいけない方に恋をしてしまっていた。
エドアルド様のことを考えると胸が痛い、嫌われるのが心底怖い。
傷つけてしまった事を涙が出るほど後悔している。
戻れるものなら、戻りたい。
エドアルド様のお傍へ。
あの忙しい日々に。
エドアルド様の傍にいれるのなら、本当に男であればよかったとすら思う。
そうだったら、彼を傷付けずに済んだのかもしれないし、私はきちんと彼の執事になれたのに。
たとえこの恋が叶わずとも、お傍にいれたのに。
だから、セレス様に全てを伝えよう。
伝えて、この家を出て、静かに暮らそう。
大丈夫、私は丈夫だし、どこでも生きていける気がする。
靴磨きに戻ってもいい。
マリアンヌさんの代わりを勤め上げたあとは、いろいろなパン屋さんを巡って旅をするのもいいかも。
そして、いつか、この思いを昇華できたらいいな。
素敵な人に恋をしてよかったとそう思える人に出会えただけで充分に幸せというものだ。
いつもありがとうございます!
このお話ももうすこしですね(*´-`*)
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。
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では、もう少しお付き合い下さい、よろしくお願いいたします。




