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いつもありがとうございます!

お待たせしました。エドアルド様視点です。

よろしくお願い致します。




エドアルド視点





混乱していた。

ありえない事を言われた。

そんな訳が無い。

都合のいい夢でも見ているのかと、そう思った。








ライリーが近頃、何かを言おうとしているのは知っていた。

大方オルガが何か話したのだろう。奴は確かライリーの隠し事がどうの、言っていたし。


彼の奇行はピタリと止んだ、その代わりにソワソワしだした。たまに切なそうな黒の瞳とかち合う。

俺はひそかにその儚げな瞳にドキリとして目を逸らしていた。




そうして、数日、タイミング悪くあの厄介な女がやってきた。

どうやらクソだぬきに色目を使って、許可を得たらしい。だからなんだ。


クソだぬきの手紙には、いつもと変わらず金を要求する内容とオルティマン伯爵令嬢が家を訪れる旨が書かれていた。

それから、彼女を待たせるのは可愛そうだ。早く身を固めろとかいう意味のわからない内容も。


馬鹿じゃないのか。

どう見てもうちの財産狙いのあの女を迎え入れなどしたら無駄遣いでせっかく回復した財政は急降下だ。

金を稼ぐのはそんなに簡単じゃないと、あのクソだぬきはまだわからないのか。だから借金まみれになるんだ。


それに、見た目がよければ誰とでも寝るあの女を俺は生理的に受け付けない。

触れられるのですら虫唾が走る。

あの、女関係にだらしのないアルフレドですら嘲笑して敬遠する程の女である。

誰が嫁になどするものか。大人しく財産だけはたんまりとある好色ジジイの後妻にでも収まっていればいい。


ようやく諸々が片付き、食事をしているところでライリーに声をかけると、部屋に来るという。


俺は年甲斐もなく跳ねる心臓を抑えつつ、努めて冷静に返事をした。

夜にライリーが自室を訪れるなど初めてのことである。

オルガはたまにやってきて俺と晩酌をしたりもするが、ライリーは、ない。

そもそもあれは酒が飲めるのか?いやいや、そんなことはどうでもいい。


ライリーに他意は無いはずだ。そりゃそうだ。俺達は主と従者で、男同士で、それだけだ。

そう、あいつにとってはそれだけ。落ち着け俺。



どくどくと五月蝿い心臓を誤魔化すようにワインを煽り1本瓶を空にしたところでノックの音にドキリとした。


やはり努めて冷静に振る舞う俺にライリーはどこか萎縮した様子で顔色が悪かった。


なんだ、そんなに、言い難いことなのか。

不安になる心を抑えられない。

何を言うのだろう、この男は。



そう思って構えていた俺にやつが告げたのは本当に予想外のことで、俺は自分の耳を疑った。


………女?だと。

そんなはずがない。

だとしたら、俺のいままでの葛藤は一体なんだったのだ。


信じられない気持ちをそのまま口にすると、なんとライリーは服を脱いで証明するといった。


ガツンと殴られたような衝撃に思わず声をはりあげる。

馬鹿が、女、だとして、仮に女だったとして、俺はこいつにそこまで意識されていないのか。

躊躇なくそんなことが言えるほどに俺に価値はないのか。

……女ということを言い出させなかったのは分かる。

俺はこいつを拾った時、何も疑わず少年だと思った。

平民の孤児の男の働き手を都合がいいと思って雇った。そのあとの扱いも男に対するそれだったが、こいつはとても自然にそれに従った。


成長するにつれ、華奢な体と中性的な面立ちが目立っては来たが、別に特出して気になるほどではなかった。社交界で貴族に囲われる男達もこんななりをしていたし、いない訳では無い。

特にライリーは幼少期の度重なる栄養不足でもう、身体の男女の差が出るほどの成長が見込め無いのだろうと、そう思っていた。


そう、思っていたのに………まさか、女、だと?





だから、こいつが自分の居場所を守るために言い出せなかったことは分かる。

俺だって勘違いしていたのだ。非は自分にもある。



分かる、のだがそうまで、意識していないことを思い知らされると、むしろこいつは俺にわざと女であることを隠して俺と仕事以外で距離が近くなることを避けていたのではないかと、馬鹿な考えすら湧いてくる。



訳の分からない昇華しきれない気持ちがぐるぐると渦をまく。

女であることは喜ぶべきことだ。

だけど、だとして、どうなる?こいつはこんなにも俺に興味が無い。

拾われて働き口を与えられた恩のある、それだけのただの主だ。当たり前だ。

今まで、どんな思いで俺のそばにいたのだ。

女のこいつが女であるならば、尚更、どんな思いで俺の結婚を斡旋していた?

使用人を宛がおうとしていた?

男であるから仕方がないと思っていたが、それが女となるとその答えは、ただただ、どうでもいい、興味がないからじゃないのか。



気がつくと俺はライリーを部屋から追い出していた。

何か気休めを言われた気がしたが、どうでもいい。

とにかく、今、同じ空間にいることは憚られた。訳の分からない身勝手な感情をぶつけてしまいそうだ。

こいつの為にもきちんと考えて少し落ち着く必要がある。

まして、年頃の女性であるとなると尚更だ。




………そういえば、オルガはなにか含んだ言い方をしていたな。

まさか、あいつは、知っていたのか?……知っていたからあんなことを聞いてきたのではないか。



とりあえず、俺はオルガを呼んだ。







「……で、こんな夜更けに何の用ですか、エドアルド様」


「すまない」


「いいですけどね。で、何がありました。顔色が悪いですよ。飲み過ぎですか」


「そんなわけが無いだろう」



俺は酒が強い。こいつもそれを知っているはずだ。この程度で酔うはずもなし。


「はぁ、…………ライリーですね。聞いたんですか」



「やはり、お前は知っていたのだな」



頷くオルガを呼び寄せてソファにかけさせる。


「といっても、私も最近調べて知ったばかりです。具体的には、貴方様がライリーのことを好意的に思っているのでは、と思った辺りで。

貴方が彼……いえ、彼女ですか……と恋仲になるにしろ、愛人として迎え入れるにしろ。

きちんと、身辺や身元を調べる必要がありますので」


「何故、言わなかった」


「ライリーはもともとメスティーソン子爵家の末の娘でした。

子爵家は借金に首が回らなくなり、 爵位を手放して心中。プライドだけは高い典型的な貴族の末路です。平民に落ちることなど、許せなかったのでしょう。

ライリーはメスティーソン子爵の愛人の子で幼い頃より使用人として過ごしていたらしいですね。だから、難を逃れた……というか実の家族にすら忘れられていた。

嘲笑の的のメスティーソン子爵家の平民かぶれの娘など引き取り手もなく孤児に。それが12歳の頃です。それからの記録はありませんが、そんな子供が1人でどうして生き延びたかなんてだいたい想像も付きましょう」


街の掃き溜めのようなところで残飯を漁って飢えを凌ぐか、貴族に飼われるか、一日中働きどおしでやっと、端金を得るか、はたまた、盗みでもして生きるか………孤児の末路はそんなものだ。


俺が拾ったのが14 歳の頃。

2年間、彼…彼女がどうして過ごしたのか。考えると気分が悪い。一日の食料にも困るような、泥水をすするようなひどい生活をしていたのだろう。拾った時は酷い有様だった。


オルガは、だから彼女にも性別を隠す何か理由があるのだと思った。とそういった。



確かにそうだ。例えば女としてひどい目にあってしまっただとか、女だからこその嫌な思いをした、とか。そういう話はざらにある。

想像をしたら、怒りに吐きそうになった。


「それで?」


「彼女は1度、女だということで貴族を大変激怒させてしまい、知らない場所に捨てられたことがあると言っていました。だから言うのが怖かったのでしょうね。

でも、貴方に特別隠しておかなければいけない事情はないということでしたので、自分で打ち明けるよう指示しました」



それでか。

それで最近あいつはそわそわしていたのだ。

確かに俺は執事としてライリーを傍に置いていたが女だからといって捨てたりはしない。

その貴族が何故それ程までに怒る理由があったのかは謎だが。

俺は別に普通にメイドや使用人としてほかの仕事を与えてもよかった。



「…で?エドアルド様はライリーの話を聞いてなんと答えたのです?」


「…………」


俺はなんて返したのだったか?

そもそも冷静に話を聞いたか?


「まさか、追い出したのではないでしょうね」


「違う!ただ今は顔をみれないから一人にしてくれと言って自室にかえした」



そうは言ったがオルガの疑いの目は晴れない。

はぁ、とため息をついて冷静ではなかった、とぼそりと呟いた。


「あまりに驚いたんだ。信じられなかったし、というか今までの俺の葛藤はどうなる?

異性だとして可能性は多くなるはずなのに俺のことを毛ほどにも意識していないことに落胆して、嬉しいんだか悲しいんだかで、訳が分からなくなった。

果てにこいつはもしかしたら俺と異性としての関係になりたくなさすぎて性別を偽っていたのではないかとすら」


「はァ?そんなわけが無いでしょう!

私から見てもライリーは貴方を敬愛していますよ。たまに斜め上の行動に出ますが、それもすべてあなたを思ってのことです」


「分かっている、」



分かっているのだ。

あのまっすぐな従者がそんなことを考えるほど器用でないことくらい。

けれどそう疑ってしまうほどにあいつは俺をどうでもいいものと見ていたのだ。

こんなことは情けなさすぎてオルガには言えないが俺はそれがショックでたまらなかった。

ライリーからすればこの5年間、異性の1番身近な存在であったはずなのに。



「では、明日きちんとライリーに謝ってくださいね。

これからの事はその後決めましょう」



俺は頷いた。

確かに今日の俺は大人気なさすぎた。

きちんと明日謝ろう。







そう、心に誓ったが、次の日ライリーの姿は屋敷のどこにもなかった。


感謝と謝罪の手紙と多額の金を慰謝料代わりに置いて。








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