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こんばんは!

本日2度目の更新です。

いつも評価、ブクマ、ご感想ありがとうございます。゜(゜^ω^゜)゜。

残弾つきましたが皆さまのおかげでモチベーション保てます…。

今回も、よろしくお願い致します。




あのご令嬢の襲来で予定していた仕事がすべて、まるっと2時間程遅れた。



というわけでもう日も落ちた夜中に城から戻ってきて夕食を摂るエドアルド様に今日伝えるか、それともお疲れだろうから明日にするかと迷っていたところ、「何か言いたいことがあるなら言え、俺は構わない」と先手を取られた。


表に出さないようにはしていたが、エドアルド様には気付かれていたのかもしれない。

なんという事だ、執事として主に余計な心配をかけるなどあってはならない。

……迷惑をかけてしまうくらいならスパッと言ってしまった方がいい。



そう思ったところでまた、心臓を捻られるような衝撃に眉を顰めて、それをやはり無視した。



「エドアルド様、ご心配をおかけして申し訳ございません。……お言葉に甘えて…夕食後、お部屋に伺ってもよろしいでしょうか」



いつも笑みを絶やさぬように気をつけている顔から緊張でばっさりとそれが剥がれ落ちているのには気がついていたが、気にして置けるほどの余裕はない。


私の言葉に、珍しく目を丸くしたエドアルド様は、これまた珍しくシルバーをカチャリと鳴らして私から目をそらす。


「…あ、ああ、構わない」


「有難う存じます」


深く頭を下げてそれからすぐに後ろへと下がった。


優雅に夕食を摂られる主を後ろから眺め、これが最後か、と思うとなんだか目頭が熱くなった。





ーーーーーーーーーー







「エドアルド様、ライリーでございます」


「……ああ、入れ」


「失礼いたします」



ノックの後入室の許可を得、扉を開く。

思えばこんな夜遅くに主の自室を訪ねるのは初めてのことである。


部屋に入り視線をあげると夜着に身を包んだエドアルド様がカウチにかけていた。


いつもは、きちんと整えてある黒の真っ直ぐの前髪が今は少し濡れていて無造作に額を隠していた。

こうしていると、いつもよりは少し幼く見えるし、無表情ももう少し柔らかい印象になるのだなとぼんやり思った。

その奥に潜む琥珀色の瞳をじっと見つめると、居心地が悪そうに逸らされる。



それになんだか寂しいような切ないような不思議な感覚を覚えた。


「それで?何か俺に言いたいことがあるのだろう」



どこかそわそわとした印象のエドアルド様が、チェストに置いてあるワインのせいか、どこかほんのりと色着いた目元でこちらを見てきた。

なんか隙だらけのその表情が可愛………いや、可愛くない。そうじゃない。



「はい、あの、」


「……な、なんだ」


「実は、私は……その」


どくどくと心臓が鳴る。

鳴るというかもう口から出てきそうである。

その上ズキズキとする胸の痛みに、もう考えが上手くまとまらない。

こう言う、こう、説明する、こう、謝罪する、と決めてきたはずなのに、その琥珀色の瞳にまっすぐ見つめられると、その全てが意味をなさない。


でも、こんな日にわざわざ時間をいただいて、言わない訳にはいかない。

それに約束の刻限はもうすぐそこだ。

これ以上この方を騙していくなんてできない。



「ライリー、言い難いことなのか……?」



どこか不安そうな瞳とかち合って、1度深呼吸をしてから私は口を開いた。



「エドアルド様、申し訳ございません。

私は今まで、貴方様にお伝えしていないことがあります。

その、私は実は女、なのです」



グッと拳を握って勢いに任せてなんとか言い切った末に彼を見るとエドアルド様は驚愕に瞳と口を開いたまま、固まり、それから例のごとく眉間に皺を寄せた。


「嘘を言うな、そんなわけがあるか!」


「嘘ではありません。男と思われていることは知っていました。私がこうして貴方様に仕えられてこれたのは、そう思われていたからです。私は浅ましくも、ここを離れるのが嫌で、分かっていながら釈明しませんでした。……申し訳ございません!」



がばりと頭を下げる。

謝罪の気持ちは溢れるほどある。もちろん罪悪感も。でもそれよりもなによりもエドアルド様の顔を、怒りに歪むであろうそれを、……傷ついた顔を見るのが怖かったのだ。




「……お前が、女………?」


「………はい、正真正銘。

なんならここで服を脱ぐことも厭いません」


「黙れ!」



「申し訳、ございません」


怒号にもう一度頭を下げて、ゆるゆると顔を上げる。



そこには、怒りに顔を赤くし、目元を釣りあげて眉間に深く皺を寄せたエドアルド様がいた。

その顔を見て私はまた胸の痛みを無視した。

彼を傷つけたのは私だ。

信頼してくれたことは分かっている。

それを私は裏切ったのだ。


「………俺を、騙していたのか」


「……はい」


「…………それ程までに…………お前は、俺の事が嫌いか」


いつかの少年がフラッシュバックした。あの傷ついたような怒りに燃える顔。


ハッとして目を見開く。

違うのです。エドアルド様、私は貴方を傷付けようとしたのでは無いのです。

騙して謀ろうとした訳でもありません。


そう言おうとしたのに、何も言葉にはならなかった。

苦しそうに歪むエドアルド様の顔を見たら。


「…いえ、そのようなことは断じて。私は心より貴方様を尊敬しております」


「………もういい、出ていけ。

お前の顔を見ていられそうにない。しばらく、一人にしてくれ」


はあ、と深いため息をついたエドアルド様が頭を抑えて掠れた声でそういった。

ズキズキとはち切れそうな程に胸が痛い。

傷つけてしまった。落胆させてしまった。

自分可愛さのあまりに……。



「はい、エドアルド様、本当に申し訳ございません。

………今まで、貴方様にお仕えできて光栄でした。ありがとう、ございました。」



頭をもう一度深く下げて部屋を辞した。

エドアルド様は何も答えなかったし、私はエドアルド様の顔を見れなかった。

ぱたん、と扉を閉めて足早に自室へと戻る。

戻って、部屋に入り閉めた扉伝いにずるずると居崩れた。


「申し訳…ございません…」


堪えきれず涙が伝う。

泣いたことなど幼い頃が最後だ。

泣いたところで誰も助けてはくれないし、なんにもならないし、それどころか時間は要するわ、体力を使うわ、出ていく水分はもったいないわ、いいことなどひとつも無い。

そもそもそんな暇などなかった。


……随分と甘やかされて弱くなってしまったらしい。


そんな自分に嫌になる。

自業自得なのだ。

これで良かった。エドアルド様はいつか私のことなど忘れてもっと良い従者を迎え入れ、幸せになれるだろう。

というか、こんなお屋敷に私のような平民が紛れ込んでいることがおかしかったのだ。

乱暴に涙を拭い頭を振ると隣の纏められた荷物が視界に写った。



「………でていかなくちゃ」


よろよろと立ち上がり、所持金の中の半分を分ける。

手紙をしたためて、こざっぱりと生活感のなくなった机に置き、分けたお金を半分その上に乗せた。


元々はエドアルド様にいただいた給金であるが、慰謝料として置いていこう。

そんなに多くはないが新しく迎えられるだろう従者の身辺を整える費用にでも回してくれればいい。

半分は申し訳ないがいただいていく。

でも、それでも次の仕事を見つけるまでくらいは十分生きていけるほどの金額である。



長年共に働いた執事服を脱いで畳んで置き、シャツとスラックスに着替えて外套を羽織る。

袋ひとつの少ない荷物を抱えてフードを深くかぶった。



「ありがとうございました」



部屋に礼をして、静かに外に出た。

誰にも会わないように細心の注意を払って屋敷を出た。

こんなに広い屋敷ではあるけれど、勝手知ったる、だ。


3年間忙しく駆けずり回った私にはそんなこと容易である。



屋敷の正門には門番がいるから行けないけれど、外からその荘厳な屋敷を眺めてもう一度、礼をした。






そうして、その日私は屋敷を去った。




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