軽音部
放課後、春休み明けに初めて俺は自分が入っている軽音部に顔を出した。
「うぃ~っす、相変わらずこのドアは微妙な色してるな~」
微妙な色の部室のドアを開けると既に皆揃っていて、いつもとは違う重い空気が流れていた。
「藤原。俺、もう部活辞めるわ」バンドのギター担当の佐藤拓海が言った。
「はぁ!?は、はぁ?まじか…よ。お前がやらなかったらギターは誰がやるんだよ!」
「他にも、この学校でギター出来るやつなんかいくらでもいんだろ。急に辞めることになってゴメン。先生にはもう話してある」
「なんでだよ、『べっ甲隊』はお前のギターありきだろ?ていうか、なんでお前がバンド辞めんだよ」
「俺、大学受験することになって、俺らもう高3だろ…。夢も大切だけど、現実も見ないとさ…」
バンドのメンバーは全員同級生で受験生だ。こんなこともあろうと思っていたが、佐藤の退部は吃驚だ。
「お前らは拓海が辞めても良いのか?」
「まぁ、拓海が決めた事だし、俺らが口出しても仕方ないだろ」
静まり返る部室。少しの沈黙が続く、それに耐え切れなくなったかのように佐藤が沈黙を破った。
「て、ことで今までありがとな。楽しかったよ。たまに顔出すからな、頑張れよ。じゃ」
佐藤は微妙な色のドアを開けて部室を出て行った。
軽音部なのに随分と無音な部活動になってしまった。
夢とは何か…、一生懸命にやっていた「所詮の部活」なのだから仕方が無い事…と言われてしまえばその程度なのだ。
部室の外からは、若い男女の所詮の部活動の声援や頑張っている音が聞こえていた。
「俺は本当に、本気で軽音部ながらに音楽が好きなんだよ…、バンドって形で素晴らしさを伝えたいって…思ってたっていうか…。
佐藤、アイツもバンドをやるって言った時点で本気だっただろう?…お前らは今も、本気なんだろ?」
俺は何を言っているのだろう。阿呆なキャラクターに生きていたのに少しばかりマジメに生きている人のような事を言っている気がする反面、自分がどれだけ今まで軽率な発言しかしていなかったように思えた。
リズム感はあるが直ぐバテてしまうドラムの中村が口を開いた。
「藤原さん、少なからず僕は本気です。この『べっ甲隊』は、僕にとっての生き甲斐です」
…ほう、有難う。中村…健司だったか。隣のベース担当の田口も頷いた。
「じゃあ、俺は一人でカラオケでヴォイストレーニングと筋トレしてくるわ!」
「おう、部屋汚すなよ!俺も島〇楽器店で新しい弦でも見てくるわ!」
やるじゃん、田口!
中村、お前もこれから一緒に筋肉トレーニングをしないか、と誘ったが「今日は何だか寝不足なので明日だったら…」と、明日も明後日のやる気も無い感じをの中村だが、ふと誰かを思い出させた。