表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河東の乱  作者: 麻呂
三国
9/52

勝沼

「また来おったか」

 信虎は万沢から真篠城に本陣を移し、身延から東へ針路を取る予定であった。だが、富士川を渡ろうにも雪斎や栴岳承芳が東から妨害し、時に北へ回り込んでは逃げ、その移動を妨害してくる。

 更に手薄になった万沢を氏輝や正成が伺い、信虎はにっちもさっちも行かない状況に追い込まれていた。

 互いに決定打を与えられるような大きな争いは無く、ただただ時間が過ぎていく状況に信虎は焦った。既に8月20日になり、北条の郡内攻めは時間の問題であろう。

「信友よ」

 信虎は郡内を守る弟のことを思い、願うように声を出す。

「信友よ、すまぬ。頼む。」

 甲斐の虎の悲痛な叫び声であった。



 富士五湖の一つ山中湖。甲斐国吉田(現在の富士吉田市)の南東に位置し、今日では御殿場と並ぶ富士山麓の避暑地として有名である。

 駿河から甲斐に侵攻するには富士川沿いに北上するか、富士山東部を北上することとなる。無論、その逆もまた然り。そしてこの富士山東部には三国山と呼ばれる山があり、また、甲斐、駿河、相模三国を行き来する道がある三国交通の要であった。


 天文4年8月21日、氏綱・氏康は親子は御厨を経て、要の一つ須走籠坂峠を越えて山中湖南岸に着陣した。奇しくも宗峰が通った道を逆になぞる様な進軍ルートで、その数2万4千。

 既に武田勢は吉田から山中に向けて進んでおり、勝沼信友 ―武田信虎の弟― を実質的な総大将として戦に備えていた。 



「殿は間に合わなんだか」

 手入れの行き届いた髭を摘まみながら信友は言う。既に敵が来ている以上、明日には戦わねばならない。だが、大きな問題があった。

「我らは2千か」

 自軍の兵力が少な過ぎる。が、信虎の本隊と合流できたとしても、2万に届くかどうかであろう。いずれにせよ、万全を期すのであれば籠城戦が望ましい。

 だが、収穫前のこの時期に敵の侵入を見過ごせば、乱捕りをされてしまうのは目に見えてるし、何より郡内が北条に寝返る可能性も捨てきれない。小山田氏は過去に武田とも戦い、北条とも戦っている。信友から見ると、今でこそ姉の夫として義理の兄弟となっているが、武田が守る意思を示さなければどうなるか。

「わしの首で郡内を縛れるのなら」

 安いであろう。小山田もここで家臣を少し失うこととなるが、弟を失う武田に比べれば負担は少ない。

「一族のため甲斐を走り、一族のため甲斐で死ぬ、か」

 悪く無い。

 元々信虎の一族は守護職にありながら力を失い、祖父信昌や、父信縄の代で権勢を回復したばかりであった。信虎は反発の残る甲斐一国を纏め上げるため東奔西走した、ある種偏執的なまでの努力家であったし、それを支えたのがこの信友であった。

――不惑を前に迷わぬとは、我もホトケに近付いたか

 何やら可笑しさが込み上げてきて、信友の口元は綻んでいる。これまで死地に赴いたことは何度もあるし、死を意識したのは初めてのことではない。だが、今回はまさに必死の状況にある。 

「誰ぞある、鏡を持て」

 突如陣幕の中に鏡を持ってこさせると、信友は自らの兜を降ろし、髷や髭の様子を丹念に確認した。

「・・・殿?」

 近くの侍大将が怪訝そうに声を掛けると、信友は「ん?」と言いながら目線を向けた。

「いえ、何をなされているのかと」

 血よ。とだけ答えると、信友は満足したのか兜を被り直し、緒を少しきつめに締めると「いや、己を見せたいのかな」と恥ずかしそうに言った。現代で言うのなら自己顕示欲であろう。

 甲斐武田家の一族として、敵に首を取られた時に恥ずかしい姿を晒す訳にはいかない。だが、それ以上に武田信友 ―今は勝沼姓だが― としての最後を飾りたいという気持ちが強かったか。

「心残りは歌を学ばなんだことか」

 勝沼信友。辞世の句は残っていない。

過日、静岡市長さんが今川義元復権宣言なるものをされたそうです。

歴史好きとしては大変嬉しいことで、これまで徳川家康一色だった静岡市が変わると嬉しいです。


とは言え、家康の顕彰事業の二番煎じでは魅力も半減しますから、多くの声を取り入れて、是非歴史ファンが集まる様な内容にして頂きたいですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ