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河東の乱  作者: 麻呂
三国
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 武田にとって駿河は喉から手が出るほど欲しいことは先に述べた。また、武田にとって福島正成という存在は忘れられぬことも述べた。

 信虎は馬上考えている。伝令によれば今川は福島正成を大将に据え、穴山衆を翻弄しているようである。

――大軍で迎え撃たないのは三河松平家が今川家を牽制しているためか

 だが、春先に送った三河への書状に返事は無いし、何より「あの」福島正成が大人しい戦をするということが不気味である。今川家は何故素早く防御態勢を整えられるほど準備ができておきながら、小競り合いしかしてこないのか。

 そしてもう一つの伝令。「北条に動きあり」ということが気になる。

――この時期の北条がわざわざ南部の増援にだけ来るか

「チッ」と舌打ちすると信虎は馬を停め、使い番に指示を出した。

「全軍急げ。我らは一刻も早く、駿河を抑える」



 今川家が何らかの事情で本隊を送り込めないのであれば、その隙に富士川周辺を叩き拠点を構え、即座に北条を叩くため郡内、又は河東に向かう。

 信虎の描いた青写真である。だが、そこには大きな穴があった。

「御師、信虎は掛かりましょうや?」

 善徳寺の回廊を進みながら、栴岳承芳は尋ねる。

「九分方、掛かるでしょうな」

 横を歩く太原雪斎(崇孚)はまるで天気の話をするかのように答えた。

 承芳は何の気なしに空を見ると、思いの外雲が出ている。戦の話をしていると分かっていながらも、九分方雨が降りそうな気がしてきた。

「何故」

 甲斐の為政者、いや、信虎は駿河に執着している。そして福島に執着している。その二つを解決できる機を逃すほど、信虎という男は愚かではない。

 そして、北条の出兵により信虎は選択を迫られる。駿河を攻めるか郡内を守るか。

「執着でしょうな」

 人は、と、僧の顔になり説教をする。人は欲を捨てられぬと。

 承芳は「また始まった」と、思いながらも最後まで聞いた。そして一通り聞き終わると、思い出したように聞いた。

「兄上は何と?」

「御館様は」

 信虎殿をご存じありませぬから、と、穏やかに言った。



 今川家は善徳寺周辺に兵を置いていた。その数4千。更に興国寺城に3千を控えさせている。指揮はそれぞれ太原雪斎と栴岳承芳が執る。

 武田の侵攻情報を把握した時点で、今川家は小部隊を分割して送り込んでいた。農繁期には多く出せないため、間者が見たところで特段気になる数ではない。

 また、福島正成は南部周辺の最前線を指揮し、各城に詰める兵とは別に子飼いの6千を準備している。

 今川家は本隊を送り込めないのではなく、十分な後詰があり、更に本隊を送る時期を見計らっていただけである。

 無論、武田も間者等を用いて今川兵の把握に努めていた。だが、興国寺は北条との国境沿いの城ということもあり日頃から警備が固く、また、善徳寺周辺は各坊や末寺に兵を分散させ、通常は装備を解いていたから、間者にとって兵数の把握が困難であった。

 間者にとって幸か不幸か、最大の目標である福島兵はその存在を堂々と示していたため、信虎への報告は自然と福島兵の情報が多くなっていった。

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