朝倉家
戦国時代の朝倉家です。よろしくお願いします!
1548年
「朝倉か........。」
【確か、朝倉は織田信長に滅ぼされるはずだったか........。】
「景直様、何かなされましたか?」
身の回りの世話をする小太郎が朝倉景直に声をかけた。
朝倉景直は朝倉義景の双子の弟であるが、史実には存在しない人物だ。彼は前世の記憶を持つ転生者であった。生まれて15年経ってつい最近に前世の記憶を思い出し、織田信長に滅ぼされる越前の大国朝倉の行く末を心配しているのだ。
【朝倉が滅亡したなんて知らないし........。
兄が当主になったけどプライド高いが何もしなければ、問題ないから。
何か原因があるはずだ。】
「小太郎、勢力図を持ってきてくれ。」
「はっ!」
朝倉が滅亡した理由がはっきりとわからない為、勢力図から考えてみようとしているのだろう。
朝倉景直の父親が亡くなった事で実の兄で後の朝倉義景が当主となった1548年。戦国の風雲児達はまだまだ、弱小勢力若しくはそれ以下である。
織田家も尾張の一勢力にしか過ぎない。そして毛利、島津も強大勢力とは言い難い。戦国の風雲児達が動き出すのは、1560年以降であと12年も時間がある。準備の期間は十分であろう。
「そもそも、俺は歴史上に存在しないはずだ。」
【朝倉を見限るか........。しかし、信長が台頭していない今は危険だなぁ〜。まあ、あと10年くらいはここでのんびりするか。】
朝倉の治める越前は領内が比較的安定し、隣国へ侵攻出来る軍事力も保有している為、数年以内で滅びるとは考えにくい。だから、織田信長の台頭までは十分安全であると考えている。
「景直様、お持ちしました。」
「ああ、床に広げてくれ。」
【うん?北近江に浅井か!なるほど、浅井が原因か........】
北近江の戦国大名浅井。現在、浅井長政の父親浅井久政によって統治されているが南近江を治める室町幕府の忠実な大名の六角家の力を頼っている形である。
南近江の六角家は京に近く、琵琶湖の水上輸送の恩恵を受けて軍事力、経済力は強大で朝倉家と同等とも言えよう。
浅井家が信長を裏切って織田家に滅ぼされたことは戦国史の中でも有名な出来事であるから直義にもわかったのだろう。浅井家に巻き込まれる形で朝倉家が滅亡したと考える事が可能だ。
「浅井との同盟は却下だな。当家と浅井との関係はどうだ?」
「良くも悪くもないと言ったところでしょうか。そもそも国力の差が歴然とし浅井家単独で当家に侵攻する事は不可能です。」
僅か8歳の子供である小太郎がここまで明確な答えを持っていることは不思議であるのだが、直義は全く気にしていない様子であった。何処かで教育を施されたと疑うはずである。まあ、実際は朝倉家臣達に教育されたから問題ない。
平和な21世紀から転生したのだから仲の良い人物を疑うこと慣れていないのであろう。
「六角家との連合軍ならちと厄介か。やはり、国力を増強する事は急務か........。」
「それならば、若狭を奪う事は名案だと考えます。」
若狭には武田家がいる。若狭の武田家は然程脅威になるとは考え難い現状である。御家騒動や家臣の対立などで領内は荒れて民の他国への流出が大変激しい事で、石高減少や一揆に繋がり国力が1560年以降から急速に低下する。現状放置しても全く問題ないから朝倉家内でも若狭は弱小国としての認識であった。
1542年に現若狭当主武田信豊は河内国で三好長慶と戦ったが敗戦し多くの有力家臣を失っている。6年を得てある程度国力回復しているだろう。しかし、6年間で家中の引き締めは終えていない。
武田信豊の義兄が最近反旗を翻した三好に押されつつあるものの近畿の覇者という立場の細川晴元がいるから簡単に若狭へ侵攻する事が難しい。
「若狭武田信豊の義兄細川晴元がいるから。まあ、兄上は幕府の重鎮大名だと思っているから若狭の統治の援助をするだろうね〜。」
「御当主様、自ら若狭まで軍を率いることは朝倉家の伝統から有り得ないと思います。総大将は景直様で副将に宗滴様となると考えられます。」
「俺が大将なら民の不安を煽ってくるよ。そして、10年後に事実上支配地とするさ。」
「朝倉家が更に大きくなります!」
ウンウンと嬉しそうに小太郎は頷いていた。小太郎は朝倉家が滅亡したら孤児となってしまう可能性が高い為、朝倉家の強大化を望んでいるのだ。
景直にも家中で重要な地位に就いて貰わなければ、自身の暮らしも向上しないと考えている。若狭を景直が支配する第一功労者であるれば、その地位は確立できるからだ。
小太郎が心配するのは景直の周りからの評価が影響している。家中では何にしてもやる気がない弟景直、やる気に満ちている兄延景と評価されている。そのため、景直を当主に担いで謀反を起こそうとしても、兄延景に景直自身が密告して面倒ごとから逃げるであろうと思われているから、御家騒動が発生しないと認識されている。
この時はまだ兄は義景でなく延景となっている。
当主となった延景も野心の欠片もない弟景直には感謝していた。老臣の補助で15歳の当主の地位にいるがこの若さで御家騒動を抑えられる自信がなかったからだ。
朝倉家の伝統から当主が戦地に赴く事は殆どない為、景直にも有力な武将になってほしいと考えていた。老臣の朝倉宗滴の地位を受け継いでほしいのだろう。
朝倉宗滴は朝倉家の繁栄期を築いた家臣である。延景、直義の父親朝倉四代目当主の補佐して大国に底上げした人物だ。宗滴がいるから少年の延景が当主となっても他国は越前朝倉家への介入が一切出来ない。それ程、宗滴の影響力は絶大なものである。家中で当主義景より影響力があるが、71歳と高齢のため義景が一人前なるまでの中継ぎとされていたからだ。事実、宗滴は78歳で1555年にこの世を去る。
宗滴は人を見る目に長けている。死ぬ直前に織田信長の行く末を見たかったと言うからだ。
だから、朝倉景直の才能にも気づいていた。家中で景直の顔、行動、人柄を知らぬ者はいない。景直が何をやっても、景直だからと納得されてしまうのだ。当主に相談し難い事を景直へ持ち掛けて、間接的に伝えてもらう。環境改善や政策の見直しなども行われたその為、朝倉家臣達の労働環境は至って良好であった。
朝倉家臣達の信頼を家臣達の知らぬ間に得ているからだ。家臣達は大きな恩を感じている為、景直が第一回の本格的な計画に家臣が同調するだろう。
それが成功すると景直の地位は不動のものになるはずだ。幸いにも兄弟関係が良好の為、御家騒動の発生はないだろう。
一応、宗滴が景直を無下に扱わないから家中での居場所もあるのだ。
「西は加賀の本願寺か.....最初に潰すべきだな。」
「本願寺は難しいです。現に加賀での本願寺の勢力が確立しておりますゆえ。」
「後5年で確立されるだろう。要は5年以内に奪えば問題ないだろう?」
景直は能登の見ていた。能登は畠山家が支配しているが先代当主畠山七代目が1545年に没した事で家臣達の権力闘争が激化、八代目畠山義続が抑えれない状態である。家臣遊佐続光、温井総貞の重臣が対立している。
しかし、対立していると言っても能登の国力は七代目時代から然程低下していない。他国へ侵攻できる軍事力は保有しているのだ。
「まさか、畠山家と朝倉家の同時侵攻ですか!負担は減らせますが、畠山家が同意するかどうかわかりません。」
「同意するさ。畠山家当主からすれば魅力的な提案のはずだ。」
加賀の一向一揆を潰せるかもしれない又とない機会であり、家中の不満の矛先を向けさせる事が出来るからだ。
挟撃すると敵対勢力は絶対に戦力分散させなければならない。朝倉、畠山の両軍は敵よりも多い兵力での戦闘が可能となるだろう。
加賀占領すると西側を朝倉家、東側を畠山家が領有するであろう。新たな領地へ目障りな遊佐、温井を統治させれば、派閥争いもなくなる可能性がある。両派閥トップが本拠地七尾城からいなくなるからだ。
朝倉家が遊佐や温井の何方かとコンタクトを取っていれば、喜んで加賀侵攻提案を受け入れるに違いない。朝倉家の支援が得られる事で能登畠山家に変わる能登の支配者となれるからだ。
「畠山家に纏まった戦闘が可能でしょうか?畠山家にも加賀の奥まで侵攻して貰わなければ、我が軍の被害が増えてしまいます。」
「うむ。敵の指揮官達の引き抜きや暗殺が必要だな。全軍を率いる武将は生かしておく。」
「それでは意味がないと思います。戦いが発生してしまいます。」
「それでいいんだよ。圧倒的な武力でまずは屈服させる必要があるからね。」
全軍を率いる武将がいたとしても、構成する部隊の指揮官が素人では勝つ事は困難となる。陸軍将校、陸軍参謀、陸軍下士官、陸軍兵士がいてその軍団は初めて脅威的な武力を持つ。参謀と下士官がいなければ、前線部隊まで将校の命令が届かないし、烏合の衆となった単純な全軍突撃しか選択肢がなくなるだろう。
だから、前線指揮官になるであろう人物の排除を行うのだ。全軍司令官の武将がいれば、戦いを知らない坊主共からの期待や圧力で出撃してくるはずだ。そして、烏合の衆となった一向一揆に徹底攻撃を行い勝利する。
烏合の衆で西と東からの挟撃を止めるだけの力が5年以内に得られる事はないに等しい。ここまで弱体化させれば、仮に畠山家の侵攻を阻まれても朝倉家による侵攻だけでも加賀全土の支配が出来ると考えている。
「第一に俺直属の忍びが必要になるね。」
「しかし、同様に行うのですか?雇うことにには直義様であるから、と納得されるかもしれませんが、接触する手段がありません。」
「家臣達に納得される理由が悲しいけど.....。まあいい。うーん、手段はね.....。じいさん、聞いているんだろう?」
小太郎が瞬時に反応して部屋の障子を開けると目の前に背を向けて老臣朝倉宗滴が座っていた。
「なんじゃ、気づいておったのか?可愛げないのぉ。」
こちらにクルリと向きを変えて宗滴が口を開いた。
「ちっ。小太郎、茶を持って来てくれ。」
「はっ。」
小太郎が部屋から出て行ったのを見計らって宗滴は直義の前に座った。
「面白そうな話じゃった。胸が高鳴る策じゃ!」
「じいさん、忍びの伝手はあるか?」
「うむ!あるぞい。では、甲賀五十三家の一つをお主に紹介しよう。」
甲賀五十三家とは甲賀の忍びの家の数である。諜報員の忍びを配下におけば、得られる情報が増加すると共に引き抜きや暗殺も容易になり、加賀侵攻には欠かせない。
「はあ?ちげえよ。俺の部下にしてくれ。」
「中々強欲な申し出じゃ。」
「わかったよ。加賀侵攻の副将はじいさんにするからさ。」
じいさんこと、朝倉宗滴は年配の為、義景の補佐及び事務作業ばかり行っている。それには理由がある。戦場で死なれては他国に付け入る隙を与えてしまうから、医者が常にいる一乗谷からの外出が制限されていたのだ。
その点、宗滴は皆と一味違った考えの直義を聞くことが最近の楽しみになっていた。景直の部屋からの声が聞こえる位置でのんびりと座りながら盗み聞きしているのだ。
今日は、生まれて一度も話したことのない他国侵攻計画だった為、聞き漏らしたくない欲求に勝てず危険性が高い障子の前に移動してしまったのだ。
【バレバレの所で盗み聞きするなんて、朝倉の老臣の名が泣くよ。呆れた。】
「ぬはははは!!!楽しみが増えたわい!」
「元気過ぎだろ?兄上が心配するぜ。」
「朝倉家で越前の老臣朝倉宗滴に敬意を示さぬ奴は景直だけじゃ!」
宗滴に敬意を示さなくとも景直だから、仕方ないと周りは納得していた。
「どうでもいいけど忍びは頼んだよ。」
思いつきで書いているので話が結構飛んだりしますが、ご理解をお願いします。