武勇伝のサガ
一次ラウンドを通過した僕はほかのテーブルが終わるまで待機らしい。第二ラウンドでは全てのテーブルでの勝者が決定した後三つのテーブルに分ける、さらにけっしょうあはそれぞれテーブルでの上位二人の計六人でやるらしい。
カシューナッツとコーラに似た炭酸飲料をのどに流し込んでいると一人の青年が声をかけてくる、ジェームズという大工らしい、なんでも隣の六番テーブルの勝者で僕がロイヤルフラッシュを完成させるところを見ていたららしく、その話をしに来たらしい。
何でも彼は僕みたいな少年がどうやって参加費を稼いだかも気になるらしく、知り合いが出してくれたと言うと、たいそう驚いた。
「金貨五枚も出してもらったのかい?」
顔が青白くなる、やばい。金貨五枚…?五万ピコ…?やばいやばいやばい。
「え、え、ガリルはそんなこと高額だなんて一言も…。」
「へえ、そのガリルさんってのはもしかして銃士ガリルかい?」
「何で知ってるんですか!?」
「あの人はギャンブル好きで有名だからね、君の参加費を出すときに、勝ったら百倍にして返せようとか言われなかったかい?」
「倍にして返せと。」
「君は相当信頼されているようだね。」
確かにあったその日に自分の泊まっている宿まで紹介してくれたってのはそういうことなのか。信頼されているようだ。
「一次ラウンド勝者の皆様、第二ラウンドのテーブルで抽選いたしますので、お集まりください。」
おそらく全テーブルが終わった、若しくは予め定められていた制限時間に達したのだろう。その時は所持金の大小で決まる。
列を作りくじを引く
「トオル。何番だった?因みに俺は二番」
さきに引き終えていたジェームズに聞かれる、どうやら僕とは違うテーブルのようだ。
「一番だよ。」
「トオルー俺も一番だぞー」
後ろから声がかかる、ガリルだ。つまり僕ら二人ともが勝ち抜かないと決勝では当たれないと言うことだ。
「それより何で参加費のこと教えてくれなかったのさ!」
「ハハッ、気にすんなって決勝までいけば最低でも金貨50枚はもらえるんだからよ、その時は金貨十枚俺にくれよな?」
確か一位から順に金貨換算で500、100、70、後は50だったはず、それにして一位と二位の差が激しい。
「当たり前だよ、ガリル」
「それじゃあ、決勝で。」
そういうとジェームズは二番テーブルへ向かっていった。
「僕らも行こうか。」
「おうよ!」
ーーテーブルに集まる八人のプレイヤー、場に八枚の一から八までのカードをランダムに裏返しに並べそれぞれの引いた順に座っていく。実はポーカーでは手札よりも座る位置が重要だったりもする。
僕は七番を引いた。やけに今日は七に縁がある。良いことが起きると良いが…
明日からの生活を賭けた第二ラウンドが始まる……
ーーーーー第二、第三テーブルは早々に決着がついた。残るは第一テーブルのみ、残る三人のプレイヤーは僕とガリル、そしてシルクハットのご老人。拮抗した試合展開は簡単に決着がつきそうにもなかった。
ドカーーーーン
どこかで爆発音が鳴る、出入り口の方だ。そちらの方を振り向くと四人の武装した奴らが進入してくる。この大会のためにいつもより多めに配置されていた警備員が簡単に倒される、恐らくこの大会で集められる金を狙ってのことだろう、恐らく異能者たちだ。
この街、いや、国中で自衛以外の目的以外で他人に若しくは建造物その他に危害を加えることは禁止されている。
つまりこいつ等は悪人だ。よってその場に居る異能者たちが抵抗を試みる。
「くそったれっ!」
恐らく異能をもつ警備員だろう、拳に炎を纏って殴りかかる、属性系だ。
「フンッ雑魚が。」
先頭を歩くリーダー格の男が右の手に握った鎌を振り下ろす。
ーー飛び散る鮮血、分断される胴体と頭部、他の奴らよりも悲惨な殺し方をされた彼の周りに居た警備員は戦意を喪失、彼らに背を向け入り口から外に出る。
「にげんじゃ!ねーよっ!」
カマイタチと言うやつだろうかそんなのが再度振り下ろされた鎌から飛び出す。
そのまま歩を進める四人はついに動けず固まったプレイヤーたちの前まで来る。
「ケケケッ俺様たちは死の盗賊、命が惜しければ今すぐそこをどけ。」
プレイヤーたちは散り散りに出入り口に向かい走り出す、四人を除いては……
「なぁ、トオル、あとジェームズとかいったか、援軍が来るまで奴らをここに留めるぞ」
「え、また筋肉痛……でもお金欲しい…し…」
「銃士ガリルと戦えるなんて光栄です」
「あとご老人。あなたはすぐにここか……」
「なぁ〜にわしも戦おう、老い先短いこの命、どうと言うことはない。」
遮るようになぜか自信に満ちあふれ答える老人。
「ええぃ小童ども、儂の楽しみを奪った罪じゃ!」
そう言いながら高らかに突っ込んでいく。
「まさか…あなたは…」
ガリルだけはこの声に聞き覚えがあった……。今年の初めに行われた新年恒例ギルド対抗戦で開会式の時聞いた声だ……
「あ、あなたは!南部連合王国ギルド連盟盟主にして最強の身体系能力の持ち主、巨人のウイリアムス!!」
先ほどまでシルクハットにスーツだった老人は自らの身体を十メートルを優に超える大きさにし、リーダー格の男に"ただの"蹴りを加える。
「おいおい、どおした、その程度か?儂は全力の十分の一もだしとらんぞ?」
これは事実だ、つい二年前数十体のドラゴンが王都を襲撃する事件があった。王都襲撃とはいえ、正確な数が判明してない理由の一つに彼、ウィリアムスの活躍があった。
自らの身体を100メートル程まで強化した彼は手当たり次第に"ただ"殴ることによって殲滅していった。大半の個体はどこか遠くへ飛んでいきその多くは数キロ先の海へ落ちたという。その功績をたたえられ王から直々に感謝の言葉を述べられたすごい人物なのだ。
「うらあああああ!!!」
今度は"ただの"ローキックを食らわせ、残り二人、ここまで変身からニ秒。
残ったうちの一人が必死の抵抗を試みる、その彼と同じくらいの高さの氷柱をウィリアムスにぶつけようとする。いくら何でも死角からこれを食らえば被害は真逃れない
「させんぞ!」
空かさずガリルがホルスターから銃を抜く、空中に六発の弾丸、彼の銃に入る限界の数を作り出す。絶妙な位置にたくり出されたそれは右手に持つシリンダーを開けたリボルバーの弾倉に見事にはまる。
ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ
六発の射撃音が轟く、一発は術者の右手にに向かって、他の五発は氷柱に向かって等間隔で撃ち込まれる。
「っ!!!」
急なことにどうすることもできない相手は意識を失いながらも発動させた氷柱にをぶつけようとするが、しかし、それはすでに破損していた。
「サンキューじゃのう。銃士よ。」
そう言いながら残った一人を蹴り上げるその様はまさに武神のようだった。
「ふぅ疲れたわい。」
老人ことウィリアムスはそう呟きながら変身を解こうとする、その時……
一本のジャベリンウィリアムスをめがけて飛んでくる。
どうも奴らの内の一人がまだ意識があったようだ、。ウィリアムスは変身解除中のため動けない、ガリルの射撃音ではじき返せる方向からでもない。もちろんトオルはそんなまだ遠くまで異能を展開できない。
残るは…ひとり、ジェームズ…彼の異能は重力操作、ただしあんなに高速で動く者は操れない。
圧倒的絶望の中奇跡は起きた、一人のプレイヤー、正確には逃げるに逃げられなかったそこには第五の異能者がいた。
ーー彼女は今日の度重なる不幸、例えば宿屋で見知らぬ同い年くらいの少年に人違いされつつドアをぶつけられたり。最もそれが今日の不幸の九割方をしめていたが、それらを忘れるためカジノに遊びに来ていた。
彼女ポーカーの心得があり、ちょうどお金を余っていたので、鬱憤晴らしに大会に参加した。
すると今までの不幸が嘘だったかのように順当に勝ち続け、第一ラウンド、二十三番テーブルを制覇した。
宿とは違い、その長い地毛の茶髪が隠れるローブを羽織っており、トオルが気づくこともなかった。第二ラウンドのテーブルは三番だったため、彼らに気づくことも気づかれることもなかった。
当然のように第二ラウンドを勝利したその少女は近くに居たボーイに声をかける……
ーーーやったー決勝だーなんとか勝てたけど、疲れちゃった。
「ねえ、お兄さん、そこのテーブルが終わったらおこしてくれる?」
最後のテーブルが終わったら起こしてもらうよう、私はボーイのお兄さんに声をかける。
「畏まりました」
ふぁ〜おやすみ世界……
ーー地面のきしむ音で私は目が覚める、目の前には巨人と、男の人が三人…あ!こいつさっきの!ていうか、何が起きてるの?
「あ、あの…」
声をかけようとしたその時出入り口の辺りから一本の槍が飛んでくる、明らかにあの変身を解除中のおじいちゃんを狙ってるじゃない!
私は寝起きの身体を動かしながら右手で愛用のエストックを持ち走り出す、おじちゃんと槍の距離あと三メートル、絶対に間に合わない。
そう確信した私は自らの異能を使うことにする、私の〈空間圧縮〉は属性系の異能で空間属性。A地点に入口をB地点出口を作り出しそこを一気に移動する能力。
でも未熟でまだ私自身を移動させることのできる大きさのゲートを作れない。だから私のエストックがギリギリ入る大きさの入り口を作り、出口をおじちゃんの前に、そして一気に刺す。
勢いを相殺し槍がはじけ飛ぶ。私はこの時初めて…人を救った……
ーーかくしてトオルの表立った活躍がなく、ポーカー大会はお開きとなった。実は彼がこの少女をここに導いたことはその少女以外誰一人としてとして知るよしもなく……