小旅行
あれから三時間がたった、それでも余りに広すぎるこの街の一角を回りきることすらちと、厳しい。小旅行にでも来ている気分だ、それに足が痛い
「おい、トオル大丈夫か?」
大丈夫な訳がない、ついさっきまで歩けなかった人間が平然と三時間歩き回るのには無理があることに気づけアホ。
「どっかで、ああ!そこにちょうどカフェが、あそこいこ、ガリル。疲れた、休憩!」
港町に調和するどこかモダンで暖かみのあるそのカフェ、「薄暮の茶屋」に入る、そこにはザマスターという感じの店主とかわいい感じの、娘さんだろうか、髪色の同じ接客係の少女が居た。
「アイスコーヒー下さい〜後チーズケーキー!」
「俺もアイスコーヒーを頼む。」
「はーい!おとーさーん!アイスコーヒー二つーとチーズケーキ!」
やはり娘か。
「あいよ。」
ーー「ところでよトオル、その靴、変えた方がいいんじゃねーか?」
コーヒーを、すすりながらガリルがそう聞いてくる、それもそのはず僕が履いていたのは靴、正確には国内で履くスリッパだった。僕はよくこれでここまで持ったと思う。買い換えたい。
「近くにいい店でもある?今金貨三枚とさっきの銀貨しかないから、できるだけ安くて長持ちするやつ。」
「ああ、それなら、ギルドの近くに「アルフレッドの靴屋」っていう個人でやってる店があってよ。俺の行きつけだ。」
幸い、ギルドの近くまで戻ってきていた僕にとってそれは好都合だった。
「じゃあ!この後つれてって!」
「応よ!」
この、チーズケーキおいしい。はまりそう。毎週来ちゃいそう!
数週間後には毎日来ることになることをトオルはまだ知らない……
ーー「そろそろ行くか?」
「うん、お姉さん!お会計お願いしますー」
「はーい。」
駆け寄ってくる僕と大差ない年齢に見える彼女の胸元の名札が目に入る。アンジェリカ、もう忘れないだろう。
「えーと。コーヒー二杯で60ピコとチーズケーキで40ピコ、計100ピコになります。」
「ああ、良いよ、僕が出す、案内のお礼。」
道中出店で買った、黒いワンショルダーから巾着袋を取り出し、銀貨一枚を払う。
「ありがとうございましたーまたのお越しを〜」
そのカフェから出ると僕らは「アルフレッドの靴屋」に向かう、すぐ近くのそこには二、三分でたどり着いた。
「おっす、アルじゃますんぞ。」
「邪魔するなら帰れ、ガリル」
軽口を交わし合う二人は昔からの知り合いなのだろうか、気になって聞いてみると、幼なじみだという。幼なじみと言えば異性だろ!そんな突っ込みを押さえながら置いてある靴を物色する。
この世界では革靴やブーツが主流でやはり中世くらいなのだろう。
一揃いのブーツに目を引かれる。
〈ウインドブーツ〉三万ピコ、金貨三枚…?高すぎる…僕のほぼ全財産じゃないか
「アルフレッドさん、これ何なんですか?」
「ああ、それか、それはマジックアイテムだ、俺が作った、この間素材をまとめて買ったときに一つ変なのが混じっててよ、試しに使ったら、そうなった。いっとくが一ピコたりともまけないぞ?」
「トオル、迷った時は楽しい方を選べっていうじゃないか」
悪魔が意味不明なことをささやく。
「そーだそートオル君、買ってくれた方が、俺としても売り上げが上がって、楽しい夜が過ごせる。」
もう一人の悪魔は自分が得するからかってくれという。
もしこれを買えば残る財産は銀貨十九枚。銀貨四枚で朝夜付きで宿に泊まれるらしいがその計算でいくと四日やそこらが、限界だ、それまでにギルドで仕事をしなければ。だるい、めんどい、だるい、めんどい。でもどうせ明日ガリルと仕事するし…そこで稼げば…。
「アルフレッドさん。」
そう呼びかけ金貨三枚を渡す。道中でガリルと同じ宿で部屋を取ったので残りが銀貨十五枚、もう贅沢はできない。
「毎度。」
「ガリルさんちょっと走ってきてもいいですか?」
「ああ、俺はこいつに二杯目のコーヒーでも頂いて待っているから存分に試してこい。」
「あ?誰がおまえなんかに…」
そう言いながら奥に消えていくアルフレッド、ツンデレかそうか、ツンデレなのか。
「ヒャホー!!!!」
スピードは言わずもがな、それに加えてある程度溜めるとかなりの高さ跳躍きでることがわかった。周りから見れば変人だろう。黒いズボンに白いシャツ、汚れた紫紺のブレザーを脇に抱えながら走り回っているのだから、せめてブレザーくらい、店に置いてくればよかったとは思う。
ーー「ガリルさん助けて。脚が…脚が…」
案の定筋肉痛になった。普段の比じゃない使い方をしたら誰だって初めはそうなる。
「アホか。いい加減学習しろ。」
コーヒーをすすりながらガリルはそう呟く。
「アル、ごちそうさん。ほらトオル肩貸してやるから宿まで行くぞ」
僕の今宵の旅籠「梟の止まり木」へとやってくる、五分くらい歩かされたせいで今にもどこかへ座り込みたく思う。
三階の三〇四号室まで送ってもらうと二時間後の夕食の時間に僕を迎えに来てから一緒に行く約束をして分かれる、ガリルは四階の四〇八らしい。
ベッドに横たわると濃縮された一日の疲れがどっと出る。
「ガリルがお…こし……てく…れ……」
僕は独り言を言い終わらない内に夢の小旅行へと旅立つ。