英雄はどこに……
この小説の中で「英雄」という言葉が数多く出てきますが、僕からのお願いとして「英雄」は「ヒーロー」と読んでください。それでは「私達の英雄」をお楽しみ下さい。
2007年夏……
人々は今日も必死で生きている。
外回り中のサラリーマンはセミの鳴き声に苛立ちながらも汗だくで歩を進めている。
OL達は会社での愚痴を交えながらのランチタイムを過ごしている。しかし私達はどうだろう……
この混沌と腐敗の雰囲気で満たされた密室の中で一体何を求めているのだろう。
金?それとも女?それとも快楽?
私達が求めているのはそんなありきたりのものじゃない……。
私達が求めているのは………
英雄だ。私達は私立K高校の生徒だ。
私達のクラスは高2B組。
ここで私達、高2B組の人間達を紹介しよう。B組の人間は大きく分けて3グループに分けられる。
まず一つは大学受験のために青春の
「せ」の字もないような高校生活を送っている奴ら。家に帰ればすぐ勉強。時間を見つけては単語帳とにらめっこ。
こいつら、はっきりいって馬鹿。
2つめは私立に通ってるくせに就職の道に走っている奴ら。
こいつらはこいつらでたちが悪い。頭悪いくせに俺達が勝ち組と言わんばかりの顔で教室を闊歩している。最後の一つが私も所属している夢も希望もない無気力な奴らのグループ。
はっきりいってこのグループが一番クズだと思う。
やることと言ったらゲーセンか煙草か酒か性交。
存在価値が何一つない
この世の中に英雄はいるのだろうか…。
偽善者ではなく私達を哀れに思い救いの手をさしのべてくれる英雄は。
きっと英雄なんてそういるものじゃないんだろう。
でもこのままでは私達は腐ってしまう。
そんな英雄の事を考えていたら私の名前が呼ばれた。
「二宮!」
数学の後藤の声だ。
「何です?」
ガンを飛ばしつつ言う。
「この問題の答えを言ってみろ!」
「答えですか……答えは佐藤君です。」
「真面目に答えろ!」
「私はいたって真面目ですよ。答えを聞くならガリ勉佐藤君に聞くのが一番ですから。」
「ふざけるな!お前は減点だ!」
「どーも毎度減点ありがとうございます。」
見渡せば堂々と塾の問題集をやっている奴や彼女とメールしてる奴寝てる奴昼飯を食ってる奴…。
後藤の授業なんて誰も聞いちゃいない。
後藤は英雄にはなれない私はそう思った。
今日もまた中央線に揺られながら家に帰る。
となりには浅野 優衣がいる中学からのダチだ。
優衣は私と違って就職志望の人間だ。
でも優衣は他の就職志望の奴らとは違う
中学のころから優衣はイイ奴だった。
でも最近は少し悪になった気がする。
「さっきからなんで黙ってんの?」
優衣が聞く。
「別に学校つまんねぇと思ってさ。」
「そんなの今始まったことじゃないじゃん(笑)」
「今日家くる?」
「なんで?今日?」「うん…。今日。」
「いいけど…。」
そして私と優衣は一緒の駅でおりた。
駅からは徒歩10分ここらじゃなの知れたマンションの5階に
「二宮」の表札がある。
「何か洋子ん家来たの久しぶりだわぁ〜。」早速優衣は私の部屋の物色し始める。昔からの悪い癖だ。
「洋子って洋楽聴くんだー。……あっこれアイツのアルバムじゃん!あ〜誰だっけぇ〜。思い出せない〜。」
「優衣。これ見て…。」
「何これ…ミスチル?HERO…あ!これ知ってる!」私はだまってHEROをかける。
優衣は目をつぶって聞いている。
私は精神統一をしている。息を吸って吐いていったいなんど深呼吸をしただろう。
HEROが全て流れ終わった…。
「いい曲だね!」
優衣が言う。
「私達ってヒーローが必要だと思わない?」
声が震えているのが分かる。
「えっ?何言ってるの?」
優衣は現状を良く理解出来ていない。
「うん。別に大した事じゃないんだけど。私達このまま行けば腐っていく気がするんだよ。何の面白みもない教室に40人も押し込められて…男は下ネタと、どうでもいい武勇伝しか言ってないし、女だってくだらない話ししかしてないし、まして先公なんてあんなの死んだほうがいいし……。」
「とにかく私はあんなところでいつまでもあんな学校生活をするのはやなの!」
一気に言った……。
全てをぶちまけた私の目からは大粒の涙が溢れていた。
「何言ってるの?」
私は何も言えないただただ泣くだけ。
「私もう帰るね。」
優衣は何も言わずに足早に去って行ってしまった。
私は大の字になって寝転んだ。
「私何やってるんだろう。」
涙はまだおさまらない。
「居るんなら助けてよ………私達の英雄さん。」
この小説を書こうと思ったのは本当の英雄ってなんだろうという何とも素朴な疑問から生まれたものです。
皆さんは英雄はいると思いますか?
答えがもしこの小説の中で発見できたとしたら幸いです。