女剣士フィル 1
ーーー翌朝。ソファーで寝ていたエルは部屋のカーテンの隙間から射し込む眩しい光で目を覚ます。その時すでにクロは目覚めており、鼻歌交じりにキッチンで朝食の準備をしていた。
「あ、おはよーエル。起きたんだね、今ボクが朝食作ってるからもう少し待っててね」
エルが起きた事に気づき、近づきながらそういう。そして再びクロはキッチンへと戻った。
それから数分が経ち、クロが朝から頑張って作った目玉焼きと、焼いただけのトーストが目の前へと置かれた。
「はい、おまたせー!ボク特製の朝食だよ!昨日の分の感謝を込めて!……まぁこの寮にあったあまり物だけど…」
運んできた目玉焼きとトーストをテーブルに置くと、クロがそう言った
「おぉ! ありがとなクロ! いっただきまぁーす」
トーストにかぶり付くエル、それを見ているクロ。なんともいい雰囲気の朝だった。
ーー場所と時間が変わり、朝の十時を回った頃、ここは王国都市学園街のエルの寮から三十分程歩いた所にある大きな学生寮。
玄関の扉前には大きく『第四女子学生寮』と書かれていた。
「うわぁー! 大きな寮だね」
クロが言う。この第四女子学生寮はエルの住む学生寮とは大きさが数倍近くの差がある。それもそのはずエルの通っている学園は女子生徒が半数以上を占めているからなのである。なので、男子寮は小さく三階建てで、エルの住む寮だけしかない。それに対して女子寮は第五女子学生寮までありその一つ一つが五階建てと数がある
「大きいだろ? ここが俺の友達の住む寮なんだ 」
エルについて行くようにクロがエルの後ろを歩く。エルはそのまま第四女子学生寮へと入って行った
エルの友達が住むのはこの寮の三階。とある一室だった
そこのドアの表札にはフィル・ファンタリアと書かれていた。
「フィル?この人がエルの友達?」
「,あぁそうだ! 強くて優しくてちょっとツンデレで時には怖い俺の友達! いつもお金を借りる時はフィルに頼むんだ!」
エルにとって、このフィルという女性は本当に信頼できる友達。だからこそお金の貸し借りまでしている。厳密に言うと借りているのみ。
エルは部屋のチャイムを鳴らす。先程から何度も何度も……しかしいっこうに返事はおろか、人がいる気配すら感じさせない
「居ないのかな?フィルの奴。なんでこんな朝早くから居ないんだよ」
少し怒った顔でブツブツと愚痴をいうエルを横目にクロはボソっと言う
「お金を借りようとしてる身でよくあんな事言えるよね…」
エル本人に聞こえたかどうかはさておき、二人は考えた。
その時、エルの耳元から少女の澄んだ声が聞こえた
「あ、あのぉー…… 」
「うわぁ!! 君いつからここにいたの!? 」
エルは突如聞こえた少女の声に驚き、その少女に質問した
黒い長髪に顔は小さく身長も小柄でおっとりしたような女の子だった。その少女は、エルの質問に素直に答えた
「……さっきから居ましたよ。それとさっきからずっと呼んでいたのですが全然気づいてくれなくて……」
影が薄いのか、声が小さいのか、その少女はエルがフィルの事を強くて優しくてちょっとツンデレでと言っている頃から横にずっといたという。
そして、少女は更に付けたして言う
「あのぉー…… もしかしてフィルさんに用ですか?もしそうだとすれば、今はもうこの部屋に居ませんよ?」
「えっ!? 君! それはどういう事? 確か俺一週間前もお金を借りに来たんだけどその時は居たぞ!? どういう事か詳しく教えてくれる?」
「は、はい。それと私はアリスと言います。えっと、ここ三日前くらいに外出したきり帰って来てないんですよ。フィルさんはこの第四女子学生寮のアイドル的存在。強くて優しくてちょっとツンデレな所がみんな大好きなんです! だからファンも多くてですね、ちなみに私もそのファンの一人でして……」
「……おおーい、アリス。お前だんだんと話の道がずれてるんだけど、大丈夫か?」
「ふにゃぁ!ご、ごごめんなさい! 私ついフィルさんの事で熱が入ってしまって……。 えっと戻しますね。外出したきり帰って来てなくて、この寮のフロントにはここの寮の生徒名簿があって外出時、帰宅時にチェックを書く用紙があるんですけど、未だにフィルさんの帰宅時にチェックがないんです」
ただお金を借りようとしただけなのに、なんだが面倒な事になっていた。
エル達三人は場所を第四女子学生寮フロントへと移した。そこでそのチェック用紙を確認した所、フィルのチェックが三日前から入ってなかった。
困ったエルにクロが言う
「ねぇエル。もしかしてフィル変な事件に巻き込まれてたりしないかな?ほら例えば昨日ニュースでやってた無能力者が相次いで失踪してる事件とか……フィルが能力者か無能力者かボクにはわからないけど」
クロの言うとおりフィルが無能力者であればその可能性もありえる
「そうだな。クロの言うとおり、フィルの失踪が三日前。無能力者が失踪する事件が頻繁に起きていた日付と一致する。 ……それにもう一つ、この二つの事件に共通する事がある。
………フィルは無能力者だ! 」