謎の少女 4
マシンガンによる弾痕が店内に無数に残り、窓ガラスが砕け、照明も割れ、無惨な店内となったレストラン。他の客や従業員達は、頭を抑えしゃがみ込み、この一瞬の出来事を理解する者はいない。
「……ふぅ。ったく、無駄に疲れた。よっしゃ!クロ帰ろーぜ!」
エルは深く息を付き、振り返り、クロに向かって言う
「あは、あははは…やっぱり凄いや鬼の能力って。……ん?ってどこに帰るのさ!ボクは帰るとこないんだよ?」
今のクロに帰る場所はない。それなのにエルは、笑いながら帰ろうと言っていた
「はぁ?何言ってんだよ、クロ。お前の住む所なら俺の寮だろ?ほら、行くぞ」
何食わぬ顔でサラッと口に出すエル。この時エルは全く気づく事はなかった。クロの両目から頬に伝う涙が零れた事を。
「うんっ!」
フード越しに笑うと、クロはエルの後ろを歩いて行った。
ーーー場所は変わり、エルの寮室。
「ここが、俺の部屋であり、これからお前の住む場所でもある。まぁこれからよろしくなクロ!」
エルの寮室は1LDKでできており、男子学生が一人暮らしするには十分すぎる部屋になっている。
「でも良かったの?ボクみたいに正体も隠してるような人を泊めても」
「あぁ、問題ないさ。今からその顔見せてもらうから。あ、嫌だっつっても無理矢理そのフード引っぺがしてでも見るからな!」
「うわぁっ!と、とんでもない寮に来ちゃったよボク!?ごめん、ボクここから出るね?」
そーっと廊下を歩き寮を抜け出そうとするクロに向かってエルはいう
「ほぅ、まさか飯の仮を返さないつもりなのか〜?」
「うわぁー!!エ、エル!騙したなぁ!ボクは一緒に来るか?って言われたから来ただけなのに!そんな酷い奴だったとは!」
クロは失望した。不良に絡まれていた所を助けてもらい、更には強盗犯も撃退してくれたエルが、そんなに卑劣な考えの持ち主だったことに
だが、エルはそのクロの言葉を聞いて、クスっと笑った
「ほんとリアクションが一々面白いよなクロは。俺が友達の嫌がる事をすると?クロが嫌なら別に正体分からなくてもいいよ」
「その方が酷い!ボクを騙すなんて!もういいよっ!お風呂借りるからね」
クロはエルにからかわれた事に恥ずかしさからイラ立ち、お風呂場に向かって歩いて行った。
「なんだあいつ?やっぱおもしれェな」
エルはもう一度笑い、自分のベッドへと潜り込む。
風呂場からはクロの鼻歌とシャワーの水音が床を弾く音が混ざり聞こえてくる。
「あ、そういやクロのやつ着替えとかあるのかな、まぁ最悪俺の服でもいいだろ」
エルは、クロでも着れるだろと選んだ服を手に取り、風呂場の脱衣所まで行く。
脱衣所には綺麗に畳まれたフードマントが置かれており、エルはその横に持ってきた着替えをそっと置いた。
その時にふと。フードマントの下に畳まれていた縞々の生地に目が行く。
「……まさか、いやいや、そんなわけないよな、うん。ないない……でも、気になる……」
エルは何度も何度も頭の中で否定し続けたが、遂にその生地を手に取り出した
先程まで頭の中で否定していたものが全て砕け散った。頭の中で否定し続けていたものが、そこにあったからだ。
「じょ、女性物の下着!?」
エルが手に取り出したのは確かに女性物のパンツ。ボーダの入った物だった
その時、運悪くも風呂場からクロが出てきた。湯気に包まれたクロ、さっきまで隠していた顔も全て露わにした姿でエルの前に現れた
「………」
「………」
エルとクロの目が合い、沈黙する事その間約5秒。
みるみる顔を赤らめて、真っ赤になった頃、クロはこれまでない程の声で叫ぶ
「きゃあああぁぁぁぁああーーーっ!!!」
「ち、ちちち違うんだ!クロ!これには深い訳があってだな」
「言い訳なんていらないからぁ!まずこっちを見るなぁ!そしてそれ返せぇ!バカエルぅ!!!」
エルが手にしていた縞々を奪い取り、そしてエルに向かって強烈なビンタを左頬に浴びせた
ーーーーそれから10分後。
エルは床に頭を付けてクロに謝罪しまくっていた。すなわち土下座
「ほんっとにごめん!まさかクロが女の子だったなんて知らなくて、着替えを起きに行った時にふと目にはいった縞々が気になって」
エルは土下座をしながら謝り、少し顔をクロに向けた
「もういいよ!まったく信じらんない!顔も見られたし……。ちゃっと謝ってくれたから許すけど、本来なら死刑なんだからねっ!」
クロが優しい女の子で、土下座で済んだエルは、先程クロが言った言葉を思い出す。
それはーー「顔も見られたし」の部分である
さっきまで謝る事に必死で顔などジロジロ見てる時間がなく、はっきり見ていなかったエルはもう一度顔を確認した。
白髪のショートカットに、左眼には綺麗な真紅の瞳で右眼には宝石の様に輝く金色の瞳。小さな顔立ちで可愛らしい少女にも見えるし、まだ幼い少年にも見える中性的な顔。だが、正式な女の子である。
「綺麗な眼だな…」
「んなっ!?か、勝手にボクの顔を見るなぁ!ボクはこの眼の所為でフードを外したくなかったんだ…他とは違う変な眼だから…」
「変じゃないさ、オッドアイ。かっこいいと思うぜ?」
「ボクは女の子!かっこいいなんて求めてないんだけど?」
むすっといた顔でエルに言うと、エルは直様言い直す
「ごめん!可愛いと思うよ」
「う、うるさい!バカエル!」