3
「そこそこ上物だね。久々の狩りは十分に楽しめそうだよ。」
炎を見ながらルーマが言った。
「純度も高い。無論傷もついていない。」
言いながらリックが先ほど拾った詠晶石をボーグに渡した。
「わお、いい感じねぇ。うっとりしちゃう。」
「うっとりはしないが、確かにいい感じだな。」
ルーマもボーグの手元の詠晶石を覗き込み、楽しそうににっと笑った。
ぱちぱちと炎の爆ぜる音が、リックの発する鳴き声とともに初冬の雪の森に響く。
「相変わらず、戦闘中は生き生きしているな。」
リックがどちらにともなく言う。あるいはその声音には苦笑が含まれていたのか。
「そうだな、ボーグったら髪振り乱して嬉しそうに叫んじゃって。
はぁ……魔術師って、どうしてこう気違いじみたのばっかなんだろーな?」
「なによぅ、ルーマちゃんこそすっごく楽しそうに戦うじゃないの。
もう全国の男の子がルーマちゃんの容姿にうっとりよぉ。」
「どーだか。」
笑いながら腰につるしてあった酒を一口啜るルーマ。
「それに、リックだって結構楽しそうだろ。
なんて言うか、鬱憤晴らしじゃないが、久しぶりに身体動かしてますー、みたいな?」
「そうよねぇ。あたしらと一緒にやってるんだもの、リックちゃんだって嫌いとは言わせ
てあげないわよ。」
「そうかもしれんな。
嫌いとは言わない、オレも。」
「んまっ、渋く決めちゃって。リックちゃんかっこいいんだから!」
「ありがとう。
―――オレも、オカマを恋愛対象にするつもりはないがな。」
一拍、炎と鳴き声。そして―――
「あっはは、珍しいじゃない、リックがそういうこと口にするなんて。
よっぽど気分いいみたいね?」
「―――そうだな。」
「言われたあたしは複雑なんだけどねー。
あぁ、儚い乙女のハートはうるうるうる。」
「はいはい、おっさんのハートはずたぼろだね。
さてっと。それじゃぁそろそろ料理の結果を見てみますか!」
「そうしよう。」
「お宝お宝。冒険者やってて良かった瞬間よね!」
ボーグの軽い言葉に、けれど少しだけ陰のある苦笑を浮かべるルーマ。
「やってて良かった、か……
あたしはあんま、やってて良かったって思うことはないけどね。」
「……
けれど、今この道を選び歩んでいるなら。」
「え?」
リックの静かな声に、二人が動きを止めてそちらを振り向く。
炎と鳴き声は依然響いていたが、その時その場所は確かに『静寂』と言える空間であっ
た。雪の森に立つ巨人を、振り返った二人が見つめる。
「ならば後ろ向きに考えても仕方あるまい。
やりたいことがあるなら、為せばいい。逢いたい者がいるなら逢えばいい。
それしか道がないなら、その道で納得できるだけのことをすればいい。」
「……」
「……」
「―――それだけのことのはずだ。」
それだけ呟くと、リックは炎の山を文字通り蹴散らした。
荒っぽく、苛立ちをぶつけるようでもあったが―――
「ふふ、いいこと言うじゃないの、リックちゃん。」
「……あ、あはは。
こりゃぁ一本取られたね、リックに。今日は冴えてるじゃないのさ!」
笑いながら、ルーマも走りよって山に跳び蹴りをかました。勢い良く蹴散らして山の反対
に着地すると、再び炎を散らすように蹴り上げた。
呆れたかのように、ボーグも控えめな蹴りを繰り出す。山を崩すには不十分な蹴りだっ
たが、あるいは子供が砂場で遊ぶかのように、仲間と何かしているという想いは十分に感
じられるものだった。
変わらず黙々と山を蹴散らすリック。
その姿は苛立ちをぶつけるようでもあったが―――
「……」
見ようによっては、照れているだけにも見えた。
「大漁大漁!
さー、今日は暴れて稼いで景気良く行くぞーっ!」
「今日は雪姫様がついてるわ、がんがん行っきましょーっ!」
「そうだな。」
三者三様の叫び。
魔物を狩る冒険者達の進撃は雪降る中で翌日の昼まで続き、翌晩は3人でささやかな祝
宴が催された。
無論と言うか、リックは仮面を取ることはなく一切何も口にしなかったが、仲間である
他の二人は別段それを気にも止めなかった。
当然三人とも、この時には何の疑いも抵抗も持たず口にした。ごく当然の、この国での
挨拶、乾杯の文句。
『雪姫の計らいに乾杯!』『雪姫の祝福に乾杯!』
神聖で祝福である、白い雪。
この国では守護神である雪姫そのものとされ、幸運と吉兆の現れであった。
―――そう、3人がささやかな祝宴を催した、この夜までは―――