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雪ノ姫  作者: 岸野 遙
第二章 『三騎 駆け抜く』
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2

「燃えなっ!」


ぶぉうっ、と。激しい音を立てて魔物の巨体が炎に包まれた。なおもルーマに迫る燃え上

がる爪をかわしてかわして、がら空きの眉間にロックオン―――


「キャノンフレア!」

右腕のイフリートが火を噴き、一匹の魔物が一つのお宝と化した。


「そうれ、ずったずたなのよーっ!」

やたら嬉々として杖を振るうボーグの声が響き、辺りの木々ごと魔物の群を斬り裂く。刃

のような石の礫が魔物の肌を斬り裂きその足をとどめる。


「戒める力、大地の抱擁! 束縛!」

さらに地面と木々から延びる白い靄のようなものが魔物の身体に絡みつき、それをふりほ

どこうと魔物が身体をねじり―――


「斬!」

そのまま、巨大な剣に両断される魔物の胴と首。一太刀で二匹が、三匹が同時に物言わぬ

お宝と化していく。

 その緑の巨体に気づいた魔物が爪を高々と振るい―――

 がきぃぃん、と。機具の鳴き声よりも甲高い音を立て、魔物の爪がひしゃげて止まった。


「ぬんっ!」

自分の鎧に爪が立てられたことなど気にも止めず、リックの振るう剣が魔物を、魔物を、

辺りの木々までをも一刀で斬り裂く。


「上っ!」

突如響くルーマの凛とした声に巨体に似合わぬ俊敏さで飛び退くリック、数瞬の後に空を

貫くは幾本もの鋭い氷柱。そしてその後を、生まれた風に散らされ場違いに静かな雪が降

り過ぎていった。


「あらあら、増援かしら?

 んもぅ、嬉しくなっちゃうわぁ。」

「はいはい、ザコはかたしといてね。」

言いながらもイフリートで狙うが、魔物の撃ち出す氷と相殺され本体まで炎は届かない。

もっともそれは、魔物にしても同じことなのだろうが。


「リック、あれ止めて!」

「承知。」

束縛から抜けたザコをボーグに任せ、鎧の立てるわずかな金属音とそれ以上の鳴き声を上

げつつ走るリック。


 下から斬り上げて一太刀、撃ち出された氷柱を両断。

 斜めに斬り裂いて一太刀、再度撃ち出された氷柱も両断。

 眼前にて―――剣を手放し。三度撃ち出された氷柱を胴体でもろに受けつつ魔物の両腕

を掴むリック。

 そのままの勢いで一度背後の木に叩きつけ肩口から体当たりを叩きこむと、背後に回転

するように魔物の身体を真上に掲げて―――


「焔参式、火竜螺―――」


同時に駆け込んだルーマが飛び、イフリートにはめ込んだ焔を撃ち出して魔物を脳天から

一気に後ろの木へと串刺す!


「焔舞!」


そしてリックが手を離すと同時にイフリート起動、爆発が魔物とルーマを引き離し獄火が

木と魔物の遺体を包んだ。


「滅する力、大地の怒り! 穿牙!」


同時にボーグの声が響き、木々と大地の槍が魔物を貫き―――

 雪降る森に、仮初めの静寂が戻った。

 ルーマの焔とイフリートが鳴くのをやめる。拾われたリックのセイレーンは、相変わら

ず静かに鳴き続けていた。


「雪姫よ、我らの勝利を捧げます、っと。

 あたし達の大勝利だわね。」

「大勝利? こんなもんザコっしょ。この程度で勝ちって言葉を使わないで欲しいね。」

「そうだな。」


言い、リックは焼けこげた魔物の身体を両断する。途中がづっと音がし、やや大振りの詠

晶石が転がり出てきた。


「あぁっ、もう、あんま手荒に探るんじゃないよリック!

 傷つけたら承知しないからね。」

「そうね。面倒だし、さっさとまとめて焼いちゃいましょ。あたしさっきから寒くってし

ょうがないのよねぇ。」

「寒いのは運動量の足りない証拠じゃない?

 んー、いい汗かいた感じ!」

「オレも寒くはない。が、さっさと焼くのには賛成だ。」

「OK。そんじゃてきぱきやっとこーか。」

「はーい。」


辺りに散らばった魔物の遺体を一箇所に集める。


「そんじゃ、やばそうな詠晶石出して。火ぃつけるから。」


言われて、杖にはめ込まれていた詠晶石を全て外してルーマに放るボーグ。リックも腰の

袋からくすんだ詠晶石を数個取り出して放り投げた。


 詠晶石は全て使い捨てである。

 正確には、使い捨てではなく、使い切りである。晶力を使い切ると、なんらかの作用に

より破裂し粉々になって消えるのだ。

 はめ込み式の場合、詠晶石が砕けるまで晶力を使うと使用者自身に危険を及ぼす。砕け

る瞬間の詠晶石の破壊力にはかなりのものがあるからだ。


 だからこそ魔術師は杖を用い杖の先端に詠晶石をはめ込むし、機具を扱うものは力を加

減するか複数の詠晶石から均等に力を引き出すかしなければならない。破砕して自身が怪

我する危険が小さくなり、また機具自体も小型化、軽量化されるために外部晶力式の機具

が人気で高価なのだ。

 無論価格に見合うだけ、外部晶力式は作成や調整が難しいということなのだが、それは

さておき―――


 ボーグの杖の詠晶石、リックが腰に下げていた詠晶石。それにルーマの使っていた懐の

詠晶石を魔物の遺体の山のてっぺんとその下に配すると、ルーマは手で下がるように合図

した。

 二人が合図より前に下がってあることを確認し、自分も下がるとイフリートを構える。


「さぁ、最後の花火を見せてごらん! ファイアーっ!」


限界まで晶力を引き出された詠晶石が爆散し、覆い混まれた炎にあわせて魔物の遺体を包

む。二度、三度と爆発が起き、雪の森の中に大きなたき火が出来上がった。


「はぁ、あったかぁい……」

「おう、ひとまず終了だ。」

「では少し休憩としよう。」


三人は頷くと、たき火から少し離れた、戦闘の余波ですっかり雪も溶け乾いた地面に腰を

下ろした。たき火の熱で、この辺りには降る雪も舞い降りては来なかった。


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