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雪ノ姫  作者: 岸野 遙
第一章 『日常 流るる』
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3

「今作ってるそれ、なんなの?」

十分か一時間か、しばらくして唐突にファリナが声をかけてきた。


「殺虫機だよ。普通じゃないけどね。」

手を止めず、振り向きもせずに答えるレグナ。そんな反応には慣れているし、特に怒るで

もなくファリナが側に来る。


「……普通じゃないの?」

「ぜんぜん普通じゃないね。」

言いながら集力部を覆うカバーをはめ、外してあった外装を全て元に戻すレグナ。


「よし、これでいいだろ。」

「……外見は、ごく普通ね?」

手で握り、トリガーに人差し指をかけそれを引くことで弱い雷撃を放ち虫を仕留める。ご

く一般的な銃型の殺虫機とレグナのそれは、外見的にはほぼ同じであった。


「ここに出力調節がついてる。あと、雷撃の絞りも。

 普通の殺虫機だと効果範囲は一定だけど、絞りを広げて広域拡散型にもできるよ。

……まぁ、水道のシャワーみたいなもんだね。」

「ふーん。」

「ん。ようするに、当てやすいってこと。」

右手で殺虫機を持ち、左手を軽く腰に当ててわかりやすく説明するレグナ。


「でもシャワーってことは、水の量が減るってこと?」

「お、冴えてるね。

 普通の殺虫機の範囲が一定で狭めなのは、それ以上絞ると命中させられないし、それ以

上広げると威力が落ちる、あるいは多量の詠晶石を必要とするからだよ。」

「……ってことは、レグナのそれは省エネでも広い範囲に効果を出せるってこと?」

「いや、違うよ。

 省エネを無視して考えてみた。」


一拍。

 あるいは、テーブルに運んであった冷えたお茶を、レグナが口元に運んで一口―――


「ダメじゃない、それじゃぁ。」

一口啜ったところで、容赦ないファリナの一言。


「あはは、確かに無駄だよね。

 まぁでも範囲を同じにすれば通常の殺虫機と同じくらいの晶力量だし、腕に自信がある

ならさらに範囲を絞ればいい。

 ようは使い方だよ。通常範囲で当てられない人や射撃の練習でも楽しみたい人向け。」

「ふーん……

 絞りはわかったけど、横の出力調節ってのは?」


ファリナがレグナの腕に抱きつきつつ言う。

 レグナも特に気にするでもなく、動かせる範囲で手を動かしつまみをいじって見せる。


「言葉の通り。範囲を広げるなら出力を上げる必要があるし、範囲を絞れば出力を下げた

方がいいんだよ。」

右手をまっすぐに伸ばし半身に構えて、撃つ真似。元が割合美形なだけにその姿はかなり

様になっていたが、当人は当然のごとくそんなことに気づいてはいなかった。


「ただ、殺虫機とは言え、リミッターが存在しないから。

 晶力量によっては、人や魔物だって余裕で倒せるよ。反動で機具自体が壊れたり爆発し

たりしそうだけど。」

「うわ……

 虫を殺す道具じゃなくて、それだと純粋に兵器ねぇ。」

「ま、たまにはこういうのもね。

 あとこの殺虫機は、外部晶力型だから。その分軽いし入れ替えの手間もない、かな?」

「ふぅん……なるほど。

 この殺虫機は、何で作ってみたの?」

「機工新聞に『子供用の紙飛行機で人が空を飛べるか?』って記事が載ってて。

 それが面白かったから、何かリミッターなしで作ってみたくなった。かな?」


笑いながら言うレグナ。

 レグナは普段笑わない。あまり感情の変化を見せず、わりと冷静で淡々としている。


「楽しそうね、機械いじくってる時は。」

そんなレグナを知っているからこそ、ファリナは左腕に抱きついたまま静かに囁いた。自

分と話すよりも、レグナは機具をいじっている時の方が楽しいのだろうか……?

「ん。

 まぁ、これくらいしか長所も打ち込めるものもないし。それに純粋に楽しいよ、機具い

じくって何か作ったりするのも。」

「私も少しだけ興味あるけどね。

―――こぉんな可愛い子がいるのに、誰かさんはその美少女を無視して年中機械とにらめ

っこしてるんだもの。

 そりゃぁさぞかし楽しいんでしょうねー。」

抱きついたままそっぽを向くファリナに内心で苦笑。

 確かに……言う通りなんだろう。どうすればいいかわからなくなるからこそ、あるいは

機具に逃げているのだから。


「まぁ……でも、今から習うなら、機工技術よりは魔術をお勧めするよ。

 ファリナ、魔術の素質高いんだし。機工技術はある程度以上の知識がないとゼロと一緒

だからね。」

「自分で勉強とかして憶える気はないわよ、さすがに。

 ただ、レグナに暇つぶし程度に手ほどきされるならいいかなー、とか。どう?」

「さて、一段落したし、お昼にしようか。

 作ってるから休んで待ってて。」


何事もなかったかのようにファリナをかわし、レグナが立ち上がる。

 少しふくれっ面で、けれどレグナの言った通りに椅子に腰掛けるファリナ。疲れている

のか、すぐに俯きぼんやりとする。


「今日のお昼は、何しようかなぁ……」

「―――あ、そうそう。

 お料理用機具とか使わないで、ちゃんとレグナのお手製にしてよね?」

むくっと起きあがるようにそれだけ念を押すと、返事も待たずテーブルに突っ伏すファリ

ナ。変わり身の速さと言うか律儀さと言うか、ともかくそんなファリナに微笑む。


「……ふぅ。

 しょうがない、ちゃんと作るか。」

言葉のわりに、多少―――付き合いの長いファリナなら、聞いていればわかるくらいに。

嬉しそうな声で。


 腕まくりなんぞしつつ、レグナはふと窓の外を見上げた。

 十一月。雪の国ゼルデアではそろそろ本格的な冬である。

 空気は冷たく凛としているが、空は明るく晴れ晴れとしている。

 雪は―――雪姫の加護は、どうやら今日は降りそうにないようだった。


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