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「んー……良くて四六?」
小声で呟くルーマ。レグナも小声で、三七かなと返した。
「レグナ、必殺技とか最終奥義とかないの?」
「エル、何かの読み過ぎ……」
「わっ、わるかったわね! 友達いないからってそうぐちぐちぐちぐち言わなくてもいい
じゃないのよ、ふんっ!」
まくしたてるエルに苦笑しつつ―――
「3分。もつ?」
「いいわ、今すぐ行ってらっしゃい。」
レグナの言葉に、なんの問いも間も挟まず即答するエル。
レグナがもたせてくれと言うなら、もたせればいい。ただそれだけを思った。
「それじゃ、ここはまかせたよ。」
合図も何も抜きで、一気に駆け出すレグナ。そこに降る火球を同じ火球と氷塊が撃ち落と
す。すぐにレグナの姿は通路へと消え、少女二人とベレンが相対した。
「け、けひひ、護衛は逃げたのかえ?
諦めて、おじけづいたのかえ?」
「まさか、私の家来だもの。そんなわけないでしょ。」
「なら……どうした?」
ぎらりと睨み付けるベレンの視線をさらりと受け流すと、エルは軽く両手を振って答えた。
「パシリよ。
あたしのどかわいたから、ジュースでも買ってきてって頼んだの。」
平然と答え―――
翻るエルの手に習い、冷気が噴き上がるようにベレンを捕らえようと伸びる!
「キャノンフレア!」
そうして獄火が横手からベレンに迫り―――あっさりと打ち消される。
「ふんぬーっ!」
ベレンを捕らえた冷気もごく簡単に砕かれ、ベレンは瞬時に自由を取り戻す。
「……ふふ、ふふふふ。
ははは、あーっはっはっは!」
「? なにがおかしい!」
そんなベレンを見て、エルは楽しそうに―――いや、もはや哀れそうに笑った。
「知らないって、可愛らしいわね。
ベレン、さよなら。」
ふふん、と鼻で笑って。
エルは防護の術を解き、目一杯身体を伸ばした。
「な、なにを言っているんだ、きさま!
さよなら? お前だけはしなさん、おまえはオレのえじきなのだ!」
「へぇ……
そぉんななりで、何ができるのかしら?」
「なにが……なんでもできる!
オレにできぬことなどない、オレこそが真の王なのだぁっ!」
「王……ね。
あなたは王になって、何を為したいのかしら?」
後ろで手を組み、ベレンの方を向きながら、ゆっくり歩いて見せるエル。軽い足取りで、
ゆっくりと。談笑するかのように。
「財宝にまみれたい?
それとも楽がしたい、美味しいものが食べたい?
―――それとも、美女を端から捕らえて、ハーレムでも作る?」
「オレは王になるのだ、いやすでにおうなのだ!」
「……あっそ。
哀れだわ……王ってカタチに囚われて、その意味を知らないんだもの。」
「なにを言う、こむすめ!
お前など、おれのことばひとつでいつでも殺されるのだ、おそれふるえるがいい!」
「きゃっ、こわーい。ぶるぶる。
―――こんな感じでいいかしら?」
両腕を身体の前でそろえ、可愛らしく―――バカにするように身体を震わせて見せるエル。
「き、きさま……!」
「王なんて、つまんないもんよ。
はー、気楽―――と言うと失礼だけど、あたし国民が良かったなぁ……」
「それはきさまらがおろかだから、真のおうになれずに無駄などりょくとひびを重ねただ
けだ!
オレは、おれならば真に富め全てがただしい王となれる!」
「―――あんたにとって、ね。
あんたやっぱ、どっかで夢でも見てなさいよ。その方が幸せだわ。」
「な、んだ、と……?」
「バカに付ける薬もないし―――
バカを住ませてやるほど、あたしお人好しでも楽観的でもないの。だからこの国にあん
たの居場所はどこにもないわ。」
「おれの居場所のないオレの国など、存在せぬわーっ!」
ついにキレたか、ベレンの腕が振り下ろされ―――
「……エル、会話長いよ……」
「あんたこそ、入り口でばかみたいに突っ立ってないでさっさとあれ片付けちゃってよね。
ほんっと、とろくて役に立たないんだから……」
ベレンの腕を受け、斬り飛ばしたレグナは。
片手で抱きかかえたエルを下ろすと、両手でセイレーンを構えなおした。
「がぎ、きさ、きさまらあああああっ!」
そこら中から溶岩が吹き出す。レグナに抱かれたエルがそれをなんなく魔術で防ぎ。
「……そう言えばあんた、声戻ったわね?」
「うん。
レグナを、回収してきた。」
エルの言葉通り、さっきまではリックとしての声でしゃべっていたレグナが、今は鎧の中
からレグナ本来の声を発していた。
一応見回し―――ルーマがボーグを引っ張り、通路に一時下がるのを確認してから。
「じゃ、そろそろ片付けちゃって、レグナ。
あたし、ホントにのどかわいちゃったわ。」
「はいはい、仰せのままに。」
エルを下ろし、再度構え直して。
「これで五分五分。」
小さく呟くと、真っ向から突っ込んだ。
鳴き声を詠晶石の山にまかせ、ベレンは唸りのみをあげて迫るセイレーンを真っ向から
盾―――と言うか、斬り落とされた腕のさきにつけられた塊で受け止める。
「ひひゃーっ!」
真正面から叩きつけられる衝撃を、半ば身体で受けつつ強引に斬り払い、レグナはさらに
一歩前進し真っ直ぐにセイレーンを突き刺す!
「きっ、ぎおぉぉっ!」
深々とセイレーンがベレンの肉体に突き立ち―――
同時にレグナの巨体が、放たれた爆発的な力の前に軽々と弾き飛ばされる!
「かっ、はっ―――」
エルを飛び越え遙か後方まで跳ね飛ばされたレグナは、咳き込んで這いずるように起きあ
がった。